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「御社の課題は何ですか」はまるでダメ…ビジネスの提案がうまい人が"あえて相手にぶつける質問"

プレジデントオンライン / 2024年11月7日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

新規プロジェクトやクライアント開拓など、ビジネスで「提案」をする場面は多い。提案が得意な人はどんな話し方をしているのか。コピーライターの藤田卓也さんは「質問ほど、伝え方で大きく変わるものはない。うまく問いかけることができれば、相手の思考が一気に動き出し、感情も変わりうる」という――。

※本稿は、藤田卓也『伝え方で損する人 得する人』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■提案という名の「押し付け」に要注意

提案は、ビジネスの始まりです。新規プロジェクト、クライアント開拓、パートナー企業との新しいチャレンジ。社内・社外問わず、あらゆるビジネス活動は誰かの提案から始まっていると言えます。

しかし、提案がうまくいかないこともしばしばです。その原因の一つが、提案ではなく押し付けになっていることです。

世の中には、さまざまな太鼓判があります。「絶対に成功する方法はこれだ」「この分野は必ず成長する」「SNSで話題」「売上ナンバーワン」などなど、どれだけ優れているかのアピールばかりが盛んです。こうした自己アピールが溢れかえっている中で美辞麗句によって提案しても、人はその通り受け取ってはくれないのです。

例えば、あるIT企業が新しいソフトウェアの導入をクライアントに提案するとします。よくあるミスは、「このソフトウェアは絶対に御社を成功に導きます」と押し付ける形の提案です。

しかし、これでは逆にクライアントの疑念を招いてしまいます。あなたの自信が伝われば伝わるほど、本当にそうなのだろうか? と、検証ポイントを相手に増やしているだけなのです。

■意思決定は精神を消耗させる

社会心理学者のロイ・F・バウマイスターによれば、「アイスをチョコにするかバニラにするか」という意思決定でさえ精神を消耗させるのだそう。これが「決断疲れ」です。

決断に必要な意思は筋肉のようなもので、使えば使うほどに疲れ、消耗していきます。しかも決断し続けていると、我慢できる時間も短くなっていくという恐ろしい話まで。それほどに、何かを選び決断するというのは負荷の大きい作業なのです。

例として、スティーブ・ジョブズのファッションスタイルも理にかなっています。「今日何を身に着けるかという選択に頭を使いたくなかったからだ」とインタビューでも答えていた通り、毎朝服を選ぶ決断さえ省けるよう、イッセイミヤケの黒のタートルネックとリーバイス501で揃えていたのですから。

あなたが提案の際に添える情報は、吟味に吟味を重ねるべきです。オーバーな表現で提案を立派に見せることではなく、相手の決断をサポートするために言葉を使いましょう。要素をどんどん盛り込んでいくのではなく、提案のアプローチを変え、分かりやすさと共感しやすさを大切にする。そんな心構えが重要です。

■小さな決断を積み重ねてゴールに近づく

もう一つ大事なポイントがあります。大きな決断の手前に、そこに続く小さな決断を積み重ねていくことです。提案を受ける側は、決断という大きな負担を抱えています。スムーズに進めるには、一貫した小さな決断を積み重ね、ゴールへと近づいていくことです。

『影響力の武器』の著者であるロバート・B・チャルディーニは、人が説得されやすくなるための原則を示しました。その中でも特に「一貫性の原則」は、よりよい提案のために一読の価値があります。

人には、一度決定したことに対して自らの行動を一貫させようとする心理が働きます。「現状の課題は何ですか」と聞かれて「施策の費用対効果が低い」と答えたとします。すると、その場で費用対効果に優れたプランを提案されると、その案の長所が一層際立って見えてくるのです。

いきなり提案に対して決断を仰ぐのではなく、その手前で小さなハードルを越えていく。提案の全体まるごと決めてもらおうとせず、気に入った部分を選んでもらったり、もし実施するとなったら心配になる部分をピックアップしてもらったりする。一見すると手間を増やしているだけのようなこのプロセスが、実はゴールへの近道なのです。

ビジネスパートナーとの握手
写真=iStock.com/Wasan Tita
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wasan Tita

■「絶対」「100%」「ベスト」「最高の」はNG

【損】この企画は絶対に成功します→【得】我々はこんな未来を思い描いています

押し付けは、たいてい反発を招きます。押さえ付けたボールが大きく跳ねるようなものです。「この企画は絶対に成功します」という伝え方では、「絶対」という言葉が、まず間違いない! というあなたの主観の押し付けになっています。他には「100%」「ベスト」「最高の」「この案以外ない」などもそうです。これらを大袈裟ワードと呼んでいます。そもそも、成功を保証することは非常に難しいものです。

「絶対は絶対にない」という言葉を遺したのは織田信長ですが、リーダーならどこかの場面で断定的な大袈裟ワードを用い、メンバーを鼓舞する必要があるかもしれません。ですが今は提案です。相手が本当に大切な決断に集中できるよう、こちらはアシストする立場です。そこで、「我々はこんな未来を思い描いています」と未来像を共有することで、聞き手と共通のビジョンを築くことができます。

具体的なビジョンを示すことができれば、提案する人とされる人が同じ未来を共有することができます。同じ方向を目指す仲間となるのです。悩みを共有する手もあります。「ここが何よりの課題ですよね」という危機感もまた、チームを仲間にする強力な絆となるのです。

■「何でも屋」と思われてはならない

【損】弊社なら御社の課題を解決できます→【得】○○のことなら、お任せください

「記憶に残る幕の内弁当はない」。作詞家でヒットプロデューサーでもある秋元康さんの言葉です。幕の内弁当は、いろんなおかずが入っていて、見た目も華やかで、幅広い世代に愛されています。でも、これだという目玉がなく、違いが印象に残らず、結果、記憶にも残りにくい。

仕事では、何でも屋と思われるべきではありません。提案は、仕事の始まりです。何でもやります、どんな課題にも対応します。これを言えるのは実績をコツコツと積み重ねた匠のような存在だけの特権です。特に初めてのクライアントへの提案などでは、まだ実績がありませんから、いまいち信頼されなくなってしまいます。特定の分野や手法、業界などにフォーカスすることで専門性をしっかりと伝えましょう。

ただし、特化すれば何でもいい、というわけではありません。相手の課題に対して、実現に必要なスキルと、こちらの武器がしっかり一致する部分を具体的に提示します。例えば、「弊社はデータ分析に強みを持っていますので、御社のマーケティング戦略の最適化に貢献できます」といった具合です。もし相手の課題を絞れない場合は、(企業相手に限定されますが)プレスリリースを調べることです。直近にどういった領域にどう取り組んでいるのかが端的に分かるからです。

会議
写真=iStock.com/ArLawKa AungTun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ArLawKa AungTun

■うまい質問で相手の思考が一気に動き出す

【損】御社の課題は何ですか?→【得】今期注力するのはやはり成長領域への投資ですか?

質問ほど、伝え方で大きく変わるものはありません。安斎勇樹さん・塩瀬隆之さんの著書『問いのデザイン』によれば、問いは、「思考と感情を刺激する」という性質を持ちます。うまく問いかけることができれば、相手の思考が一気に動き出し、感情もガラッと変わりうるのです。

こんな事例が紹介されています。動物園での子ども向けワークショップで、彼らが動物を積極的に観察したくなるような問いかけをあれこれ検討していたときのことです。その中でも明らかに参加した親子の対話が劇的に変わったのが、「ゾウの鼻くそはどこに溜まるの?」でした。

損する伝え方には、質問ではあるものの、一から十まで教えてもらおうという受け身の姿勢が強く出ています。そうではなく、仮説をぶつけることで相手の思考を刺激してこそ良い問いかけです。

漠然と問うのではなく「昨今の物価高でコスト削減は重要かと思いますが、特に気掛かりなコストは何でしょうか?」など、仮説をぶつけてみましょう。正しくても間違っていても、相手の返答がニーズや課題を的確に把握する手助けとなってくれますから。

■マイナスの未来もきちんと提示する

【損】今すぐ着手すべきです→【得】遅れるとこれだけコストが増加します

マイナスの未来をきちんと提示する。一見、提案の場では逆効果に見えます。ですが、提案をジャッジするためには利点と欠点の両方を見ることが不可欠なはず。

どうしても提案の場では、良い面ばかりを強調しがちです。ですが、必要な情報を提供するという意味でも、損を伝えることで提案のメリットを強調することができます。

藤田卓也『伝え方で損する人 得する人』(SBクリエイティブ)
藤田卓也『伝え方で損する人 得する人』(SBクリエイティブ)

人は得をすることよりも損を避けたいという「損失回避性」があります。ノーベル経済学賞を受賞した心理学者のカーネマン氏とトべルスキー氏は、同じ額の利得を得るときの喜びに比べて、損失を被る悲しみは2倍であると述べています。失うことへの恐怖は、それほど大きいのです。

例えば、「今月中に導入すれば、年間コストを20%削減できますが、遅れると来月からの繁忙期に間に合いません」といった未来を知ると、早期の行動の重要性がより強く伝わります。

導入の価値だけでなく、導入しないときに失われる価値も訴える。スイッチを切り替えるように、プラスとマイナスの切り口を自由に伝えられるように意識してみましょう。

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藤田 卓也(ふじた・たくや)
コピーライター
1987年生まれ。広島県出身。京都大学、東京大学大学院を修了。大学時代には京都学生祭典の実行委員長を務め、京大総長賞を受賞。2012年に電通入社。理系で言葉を扱うことが苦手だったものの、新卒でコピーライターに配属。主な仕事にIndeed「仕事さがしはIndeed」シリーズや史上初のワンピース実写化となった「麦わらの一味」シリーズ、日本コカ・コーラ「チーム コカ・コーラ」、スタディサプリ「18の問い」、漁師がつくったモーニングコールサービス「FISHERMAN CALL」など。国内外で20以上のアワードを受賞。最近の仕事に、ファミリーマート「コンビニエンスウェア」ブランドローンチおよびコンセプト、京都髙島屋 S.C. 専門店ゾーン「T8(ティーエイト)」ネーミング。現在はLINEヤフー社に所属。

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(コピーライター 藤田 卓也)

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