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だから小泉進次郎氏は首相になれない…橋下徹「僕が幹部面接でひたすらこだわる『思考プロセス』の見極め方」

プレジデントオンライン / 2024年10月25日 9時15分

1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最近の著作に『政権変容論』(講談社)、『情報強者のイロハ』(徳間書店)などがある。 - 撮影=的野弘路

元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「リーダー選びのポイント」です──。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2024年11月15日号)の掲載記事を再編集したものです。

■Question

総裁選の候補者たちに“独特の質問”をぶつけた理由

先日の自民党総裁選で9人の候補者とテレビ討論を行った際、橋下さんは「政策そのものよりも『思考プロセス』を見させてほしい」と、独特のスタンスで質問をぶつけました。この手法をとった狙いや効果は?

■Answer

正解のない世界で「どう行動するか」を確かめるため

自民党の総裁選は実質的な首相選びです。国のリーダーに名乗りを上げるのですから、石破茂さんをはじめ9人の候補者たちは全員がそれなりの政策パッケージを用意していました。しかし、それを番組内で披露してもらうだけでは、リーダーとしての個性や資質がわかりません。そこで活用したのが「思考プロセスを見る」というやり方です。

首相や自民党総裁に限らず、組織を率いるリーダーを選ぶには、具体的な政策・方針を吟味することも大事ですが、もっと大事なのはそこへ至るまでのプロセスを知ることです。漠然とした抽象論に、あえて個別具体的な「もし」をぶつけていく。それにどう反応するか。その言動に政治家としての地金が透けて見えます。

たとえば台湾有事に際して、中国本土に近い台湾・金門島を中国軍が海上封鎖したとします。当然、日本政府は現地の日本人を救出しようと試みるでしょう。そのとき問題となるのが邦人救出の法的根拠です。自衛隊法には「相手国の同意が必要」と明記されていますが、この場合の「相手国」とは台湾なのか、それとも中国なのか。その問いをぶつけてみると、小泉進次郎さんは「起こらないための努力や詳細なシミュレーションが必要」と、質問には真正面から答えませんでした。僕は海上封鎖が行われた場合を聞いたのに、小泉さんは起こらないようにすると言う。これに対し、閣僚経験の長い候補者たちは多くが「その場合は台湾」と回答しました。

台湾・金門島から中国本土のアモイ市を望む
写真=時事通信フォト
台湾・金門島から中国本土のアモイ市を望む。海岸には中国軍の侵攻を防ぐための障害物が設置されている。 - 写真=時事通信フォト

もっとも、そうすると次に浮上するのが、台湾を「国」として扱うべきかということです。日米をはじめ国連加盟国の大半は、公式には中国が主張する「一つの中国」を認識し、台湾を国家として承認していません。国ではない相手に同意を求めるとなれば、その矛盾をどう考えればいいか。

ここで踏み込んだ見解を披露したのが林芳正さんです。「有事の際は超法規的に総理判断で邦人を救出し、その後ただちに政治責任を取って辞任する」という意思表明です。その選択については賛否が分かれるでしょうが、考え方として筋が通っており、視聴者は林さんの政治姿勢を知ることができたと思います。

このように僕の質問に真正面から答えていただくと議論も深まり、その人の思考プロセスが見えてきます。残念ながら小泉さんの答えでは議論が深まりませんし、答えられない問題については逃げるという思考プロセスが見えてしまいました。

自分がわからない問題にぶち当たったときには、問題点を指摘し、その点は勉強し直すと答えればいいのです。問題点さえ認識していれば、あとはブレーンに複数の最適解を作らせて、自分が選択すればいい。まさにAIのプロンプト指示と同様です。問題点を認識できなければ適切なプロンプトを立てることができません。

台湾と中国のどちらを相手国と見るべきか。一つの中国論が絡んでくることまでがわかれば、最後の結論まで出なくても十分ですし、逆にそこすらわかっていなければ残念ながら一国の首相としてはまだ不適格。

まさに思考プロセスが見えるのです。このようにその人の思考プロセスを理解すれば、他のあらゆる場面でも「この人はこういう行動をとりうる」と予測することが可能になります。

■正解主義とは違う! 旧司法試験の考え方

実はこうした思考プロセスを問うやり方は、旧司法試験における論述試験の特徴でした。結論を問うのではなくそこへ至るまでの思考の筋道を見るのです。仮に受験者が99%の法律家が支持する多数説ではなく1%の少数説を解答に持ってきたとします。

この場合司法試験では多数説ではないから不正解、とはなりません。解答がしっかりした法的根拠に基づき論理的に書かれていれば、1%の少数説だっていいのです。こうした試験思想は、ひたすら「正解」を暗記すればよかった学校教育とは根本から異なるもので、かつての僕は大いに驚愕したものです。

しかし、考えてみれば現実社会とは予測不能なことばかりが起きるもの。正解がわかるケースのほうが少ないでしょう。その際、リーダーが「正解がわからないので判断停止」では困ります。だからリーダーを選ぶときこそ、正解主義ではなく思考プロセスを見ることが重要になるのです。

疑問符の虫眼鏡の周りに立っている人々のベクトル
写真=iStock.com/Feodora Chiosea
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Feodora Chiosea

僕は大阪府知事・大阪市長時代に幹部職員の年功序列制をやめて、内外公募制度を導入しました。僕も参加する最終試験の面談では、そこに残った職員に対して、ひたすら思考プロセスを見る口頭質問を繰り返しました。自民党総裁選の候補者討論番組においても、そのときを思い出しながら候補者に質問をしていました。

実は小泉さんが掲げていた政策には僕は賛同する部分が多かった。「解雇規制の見直し」や「選択的夫婦別姓」「ライドシェアの全面解禁」などはすべて大賛成です。

野党は解雇規制の見直しをこぞって批判しましたが、その本質は被雇用者の権利をOECD加盟国水準まで引き上げながら、人材の入れ替えをより円滑にすることにありました。このことによって正規雇用・非正規雇用の区分けを完全になくし、定年制も廃止できるのです。今は正規社員の人材の入れ替えが円滑にできないので、非正規雇用や定年制がその調整弁に使われているのです。そして日本の解雇ルールで一番足りないのが退職金や金銭補償制度、加えて解雇の手続き整備です。ここをOECD加盟国並みに整備する代わりに、人材の入れ替えを円滑化する。これが解雇規制の見直しの核心的思考プロセスです。

ところが小泉さんは強烈な批判を受けたがゆえに、人材入れ替えの円滑化という核心的部分から逃げてしまい、労働者のリスキリングという主張に変えてしまった。

選択的夫婦別姓にしても「個人の選択肢を広げる世の中にしたい」というビジョンには僕も大賛成。ただ、それを推し進めると、最終的に日本の皇位継承問題に必ずぶち当たる。自民党が主張し続ける「男系男子の皇位継承」という個人の選択を狭める思想との齟齬をどう解決するか、そこの思考プロセスをしっかり聞きたかったけど、小泉さんは自民党の報告書の通りという回答で終わらせてしまった。

もちろん簡単に答えが出る問題ではありません。「一般国民に認められている選択の自由や人権は皇族には適用されない」という思考もあるでしょう。

そこは皇位継承者を男系男子に限定することが、皇族の方々の生身の人間としての自由や人権を害することになるという核心的問題点の認識さえあれば、最終結論はブレーンたちに複数作らせることができる。皇室「制度」を重視して、皇族の「生身の人間」の部分に目をつむるか、それともやはり生身の人間の部分を重視するか。

僕は小泉さんのこの点の思考プロセスを聞きたかった。この思考プロセスがわかれば、皇位継承を含む皇室をめぐる様々な課題について小泉さんがどのように対応するかがわかるからです。

何が正解かがわからない時代には、結論ではなく、結論に至る思考プロセスが重要です。僕自身、いまだ紙の新聞の社説や識者のオピニオンを読みこみ、そこに書いてあることを知識として覚えるのではなく、「自分ならこう考える」という思考訓練を繰り返しています。

今後世界はますます複雑化し、教科書的な「正解」だけでは解けない問題だらけになるはずです。次世代のリーダーには、知識や情報を漁って物知りになるのではなく、どんな批判を受けてでも持論を展開できる思考プロセスを確立してもらいたいものです。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『政権変容論』(講談社)。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美)

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