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「農家の嫁」になって本当に良かった…「ぎょうざの満洲」社長が「中華なのに健康第一」を掲げて成功するまで

プレジデントオンライン / 2024年10月29日 9時15分

「ぎょうざの満洲」池野谷ひろみ社長 - 撮影=島崎信一

埼玉県を中心に直営103店を展開する中華チェーン「ぎょうざの満洲」は、ここ数年で戦略を大きく変えた。最重要項目は健康。だから、人気メニューの餃子、チャーハン、ラーメンの素材を変えた。なぜ健康なのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。(前編/全2回)

■埼玉県民に愛される「ぎょうざの満洲」の特徴

「どこかで外食したい」時の店選びは、その時々の気分や心理的予算にも左右される。特に1人や少人数では、手頃な価格で楽しめる中華チェーンを選ぶ人も多いのではないか。

この業態で近年、地道に店舗拡大をしているのが「ぎょうざの満洲」(本社:埼玉県川越市)だ。最新の売上高は96億円(2024年6月期)、従業員は約2400人となり、コロナ前2019年比で約115%に伸びた。

現在の店舗数は103店(2024年9月末時点)ですべて直営。本拠地の埼玉県(51店)以外に東京都(35店)、群馬県(6店)、神奈川県(1店)にも増え、関西(大阪府8店、兵庫県2店)にも進出している。

食材は自社農場や国内取引先から調達し、安心・安全にも配慮。価格の安さもあるだろう。1人飲みやソロ飯、競合チェーンとの食べ比べを動画サイトに投稿する人も目立つ。

外食店の競争が激しい中、なぜ支持を広げているのか。池野谷ひろみ社長に聞いた。

■きっかけは父の病だった

「父(現・相談役の金子梅吉氏)が創業した会社を継いで、私が社長になったのが1998年。その時から安くておいしい食事を安心して食べられる店をめざしてきました」

池野谷ひろみ社長はこう振り返る(以下、発言は同氏)。

「現在のスローガンは『おいしい餃子で人々を健康で幸せに』。実は“健康で”の部分を入れたのは後年で、創業者の大病がきっかけです」

10年ほど前、現在は元気な金子氏が心筋梗塞で倒れて入院したのだという。

「入院中に主治医の先生から、父の普段の食生活を聞かれました。『試食も兼ねて毎日ラーメンと餃子を食べています』と答えると、『毎日は食べ過ぎ。あなたも同じ食生活をしているのなら動物性脂質の取り過ぎで動脈硬化の原因になりかねない』と指摘されたのです」

確かにその当時、池野谷社長自身は健康診断で高血圧を指摘されていた。医師の言葉は中華チェーン店の経営者として耳が痛い話ではあった。無事、父は退院したが、池野谷社長が考えたのは、「おいしさをそのままに、お客さまが毎日召し上がっても安心できるレシピに切り替えるべきではないか」ということだった。

■大反対された健康餃子が大成功

その思いがメニューに結実したのが2018年から。

調理に使う油をラードから植物油に変え、「玄米」を取り扱い始め、店名にもなっている餃子は餡を見直した。

「それまでの餃子は食べると肉汁が溢れ出るものでした。それは主に豚の脂身によるものです。食べる方の健康を考えた時になるべく脂身を減らしたいと思いました。

調整と試食を重ねて、脂身を3割減らし、その分赤身を増やすことで、おいしさとのバランスを取ることに成功しました。それだけではなく、これまで以上においしい餃子が出来たという自負がありました。

しかし、従業員からは『餃子は看板商品。焼餃子だけじゃなく、生餃子を家で調理しているお客さまも多くいる。肉汁が溢れ出ることがなくなったらお客さまが離れてしまうのではないか』と大反対されました」

看板商品の餃子。豚の脂身を3割減らしその分赤身を加えた
撮影=島崎信一
看板商品の餃子。豚の脂身を3割減らしその分赤身を加えた - 撮影=島崎信一

それでもくじけず、「意外にさっぱりしておいしい。不評だったら戻せばいいから、とりあえずやってみようよ」と説得して始めたという。すると翌月、餃子の販売数が3割ほど伸びた。

玄米も大半の店長が『中華に健康を求めていない』と反対する中、「ウチはやってもいい」と話す一部の店だけで試験的に導入した。

すると、「あの店は玄米があるのにこの店はないの?」と話すお客さんも現れて導入店が拡大していったという。

現在は、ぎょうざの満洲の「チャーハン」(税込み550円、以下同)では白米と玄米を半々に使用。「ダブル餃子定食」(800円)や「焼餃子とライス」(550円)など定食は、白米か玄米を選ぶことができるようにした。

■売り上げの35%がテイクアウト

ぎょうざの満洲は、筆者の生活圏にも複数の店があり利用してきた。生餃子の特売日には、のぼりや立て看板が店の前に置かれる。店に入ると巨大な冷蔵・冷凍庫が目につく。

「あれは『リーチインケース』という開閉トビラのあるショーケースで、冷蔵と冷凍の生餃子をそれぞれ入れて販売することができます。コンビニではおなじみですが、飲食チェーンでは約30年前に当社が最初に導入しました」

荻窪南店のリーチインケース
撮影=島崎信一
荻窪南店のリーチインケース - 撮影=島崎信一

冷蔵庫の中にはラーメン用「生麺」(70円)や国産豚肉のチャーシュー(100gあたり360円)などもあった。店内飲食していても持ち帰り品が目当てで来店するお客さんも多い。

「特売日の『生餃子』は通常の日の2~3倍売れます。さまざまな商品を揃えた結果、売り上げの35%をテイクアウトが占めるようになりました」

■長年親しまれたスープを大改革

2020年にはラーメンのスープを全面的にリニューアル。それまで使っていた豚骨や豚足の使用をやめて、鶏系(国産の丸鶏や鶏がら)を増量、魚介(昆布や鰹節など)、野菜(ねぎや玉ねぎなど)を合わせたトリプルスープに変えた。

玄米の導入や餃子の変更はうまくいったが、ラーメンのスープを変えるのが一番怖かったという。

「ぎょうざの満洲は、父が27歳の時に埼玉県所沢市の住宅街で始めた中華料理店『満洲里』からスタートしています。その時からずっと豚骨を使用したスープだったので、長年親しまれてきた味を変えることに大きな不安があったのです」

中華料理店にとってスープは生命線だ。ラーメンや定食のスープだけでなく、チャーハンやその他の中華メニューの味つけにも使われる。

スープも健康的な満洲ラーメン
撮影=島崎信一
スープも健康的な満洲しょうゆラーメン - 撮影=島崎信一

筆者は「ぎょうざの満洲がチェーン展開を果たせたのも、スープの味を安定させられたから」と、先代社長が語った記事も読んだ。反対はなかったのか。

「父は決して頑固一徹ではなく、時代の変化に合わせた新しい取り組みに対しては柔軟性があり、合理化への思いも持っています。スープの改良に関しては相談しながら進めていきました」

幸い、このリニューアルもうまくいった。「鶏の旨味を感じるスープがおいしい」という利用客が増えたのだ。2020年の変更なので近年の業績も評価を裏付けるだろう。

■「農家の嫁」になって気がついたこと

ラーメン業界では「背脂チャッチャ系」(豚の背脂をスープに浮かべたコクのあるラーメン)も人気だが、スープを飲んでも健康的な味を追求した結果、利用客の支持を得た。

「その後のコロナ禍で消費者の方の健康意識が高まった。結果としてですが、そうした世間の流れにうまく乗ることができました」

そんな池野谷社長は、昔から食材への意識が高かったわけではない。

「社長就任を機に、夫の実家の隣に自宅を建てたんです。夫の実家が兼業農家だったので、私は『農家の嫁』になった。これが大きな変化です。毎日採れたての旬の野菜を食すうちに、一見同じように見える野菜の味の違いがわかるようになったのです」

夫の池野谷高志氏(取締役副社長)は仕入れ部門を管理するが、前職は銀行員。妻の社長就任を機に銀行を退職して、ぎょうざの満洲に入社したという。

「当時、経営者として自分だけでやるのは不安で、夫に『一緒にやってくれない?』と相談したら『いいよ』と言ってくれた。一人っ子だった夫を家業に招いた代わりに、私が義父母のそばに住み、休日には農作業を手伝うようになったのです」

こんなおいしい野菜を一人で味わっているのはもったいないと、ぎょうざの満洲でも出したいと考え始めた。

創業者の大病、自身の健康診断結果とともに、農業経験も「健康メニュー」に結実したのだ。

季節限定のなすのみそ炒め。こうした旬の野菜を使ったメニューも増えた
撮影=島崎信一
季節限定のなすのみそ炒め。こうした旬の野菜を使ったメニューも増えた - 撮影=島崎信一

■飲食チェーンであり食品製造業でもある

もともとぎょうざの満洲は、生産者との交流に熱心な会社だ。農作物の委託生産は1998年頃から始めており、秋田県の米作農家とも意見交換をしてきた。現在、コメは秋田、岩手、山形、埼玉の農家から仕入れ、豚肉は青森県産「美保野ポーク」を使っている。

2014年には埼玉県鶴ヶ島市の農地を借り受け、株式会社満洲ファームを設立。本格的な農業生産に乗り出した。社員2名が長野県の農場で修行した上で開園し、キャベツの生産をスタート(農場責任者は高志氏)。10年たった現在、順調に稼働している。

「今は鶴ヶ島と坂戸で9町歩(ちょうぶ)(1町歩は約9917.36m2)、東京ドーム約2個分の畑に拡大しました。餃子で使うキャベツの約3割は満洲ファームでつくっています」

ぎょうざの満洲は飲食チェーンと食品製造業の二面性を持つのだ。

■「3割」の意味

ぎょうざの満洲の活動と向き合うと、「3割」という数字がよく出てくる。多くの人が突っ込みたくなるのが、「3割うまい‼」のフレーズだろう。

マスコットキャラクターの「ランちゃん」が語る「3割うまい‼」は何を指しているのか。

「もともと〈うまい、安い、元気〉が合言葉で、そうすれば『おいしさ3割増』という意識で営業してきました。ほかにも、3割には、原材料費、人件費、その他経費が3割ずつ、残りの1割が利益になることを目指すという意味もあります。お客さまに長くご利用いただけるように、利益を高品質な商品の提供に還元し、バランスのとれた経営をするという意味を込めています」

ぎょうざの満洲は、飲食業なのに1日8時間で週休2日ということでも知られている。売り上げをむやみに増やすことよりも、まずは従業員と味を守ることに強い意識が見える。そうした経営を続けるのは、池野谷社長の強い思いがある。

話を伺うに、社長にとって、会社は家族、もちろん従業員も家族、さらに言えば、そこに集まってくるお客も家族なのだろう。だから、従業員の働き方に気を配るし、お客の健康も気遣う。

2019年に稼働した本社工場(川越市)の敷地内には今年、創業者の金子梅吉氏の立像が建立された。その像の手も誇らしげに「3」を示していた。後編ではその父からバトンを受け継いだ池野谷社長の取り組みを深掘りしていく。(後編に続く)

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)、2024年9月26日に最新刊『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)を発売。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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