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マックの「バリューセット」が刺さるのは日本人だけ…「210円は高いが、200円なら買う」を見抜いたV字回復の秘策

プレジデントオンライン / 2024年10月29日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Popartic

2023年に過去最高の売上を更新した日本マクドナルドだが、1991年から1994年の5年間は業績が低迷していた。その危機をどう乗り切ったのか。KUREYON代表の中澤一雄さんは「1994年に2152億円だった売上は1999年に3944億円となった。V字回復させるために行った3つの秘策がある」という――。

※本稿は、中澤一雄『ディズニーとマクドナルドに学んだ最強のマネジメント』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■業績を改善させた3つの施策

1994年、私はマーケティング本部にシニアディレクターとして異動になりました。売上高と経常利益(図表1)を見てもらえればわかるように、1991年から1994年は業績が低迷しており、業績の改善が急務となっていました。そのため、私たちは次の3つの戦略を立てました。

① 価格戦略(バリューセットなど)
② 期間限定の新商品開発
③ サテライト戦略(PMO)
売上高と経常利益
出所=『ディズニーとマクドナルドに学んだ最強のマネジメント』

まずは①の価格戦略について説明しましょう。私たちは初めに「ハンバーガー妥協価格累計グラフ」というものを作成しました。妥協価格とは、お客様が「これくらいの値段なら買ってもいい」と思うラインの価格を意味しています。

それによると、1994年当時はハンバーガーが210円の場合、その値段なら買ってもいいと答えた人がわずか20%しかいませんでした。ちなみに、2024年現在のマクドナルドのハンバーガー価格は、単品で170円となっています。それが、私がマーケティングに異動した時、210円だったのです。

この210円というかつてのハンバーガーの価格は、満足度調査を行った上で決めたのではありません。

私たちは、「そもそも210円という価格は適正な値付けなのだろうか?」「このままの価格で売上を最大化できるのだろうか?」と疑問に思い、お客様にアンケートをとり価格満足度調査を行うことにしました。

ハンバーガーは朝の10時から閉店時間まで販売しており、だいたいお昼の12時から1時に売上全体の30%くらいを売り上げていました。

■お客様満足度100%は目指さない方がいい

ハンバーガーの売上、時間帯、購入者の人数などを把握し、例えば午前10時から11時の間にハンバーガーを購入するのは5人ということがわかったら、同じ時間帯に路上を歩いている同じ人数の人に声をかけてアンケートをとったのです。

つまり、店舗に近いところで実際のハンバーガーを食べていただいて、「このハンバーガーをいくらだったら買いますか?」と質問するわけです。この時、「マクドナルドのハンバーガーであることを伝えた場合」と「伝えなかった場合」の両方のデータをとるようにしました。

結果的に、当時210円だったハンバーガーをその値段で買ってもいいと答えた人は、20%しかいませんでした。80%が「買わない」と答えたのです。それでは、100%が「これくらいなら買う」と答えた価格はいくらだったかというと、100円でした。

よくお客様満足度100%などという言葉を耳にすることがありますが、私に言わせれば満足度100%を追求していたら、その企業は早晩潰れてしまいます。当時、お客様満足度100%を追求して、100円でハンバーガーを売っていたら困ったことになっていたはずです。

そこで私たちは、現実的なところで、80%以上のお客様が「これなら買う」と判断できるラインを突くべきだと考えました。

■主力商品を80円値下げ

アンケートの結果、ハンバーガーが130円なら約80%もの人が「買ってもいい」と判断したため、そのあたりの価格が最も良い結果をもたらすのではないかと考えた私たちは、1995年、210円から130円に値下げすることにしたのです。また、ハンバーガーだけでなく、チーズバーガー(240円→160円)とダブルチーズバーガー(350円→270円)も妥協価格に従って値下げを敢行しました。

210円から130円に値下げするということは、80円も値下げすることになります。もちろん、マクドナルドとしては大変ですが、いったん下げてしまえば、あとはその価格で売れるよう努力をするしかなくなります。そのためには、材料の仕入れ価格をできるだけ下げる必要があります。

マクドナルドは、世界規模の大企業ですので、材料の調達場所をどこか1カ所に限定せず、全世界の調達先から仕入れることができています。これは、マクドナルドが全世界で店舗展開しているがゆえのメリットと言えるでしょう。とはいえ、全世界から安い肉を仕入れていると聞くと、「品質は無視しているのか」と思われるかもしれません。しかし、そんなことはありません。100%ビーフなど多くの素材には厳格な品質基準が設けられ、それらは一元管理されています。

仕入れ値の安さを優先するあまり、品質にばらつきがある仕入れをするようなことは決してないということです。

■日本人は「丸め」るのが好き

マクドナルドは、仕入れルートを全世界的に整備し、その構造を徹底的にシステム化しています。

それだけでなく、全世界で店舗展開をしていることのメリットを生かし、世界で今一番安い材料はどこにあるか、旬の素材はどこにあるかといった情報をつかむことによって、その時一番安い材料を調達することが可能になっているのです。

これは同じく世界的大企業のコカ・コーラなどもやっています。全世界で展開している企業は、最も安い原材料を仕入れることができるため、提供価格を低く抑えられるわけです。ちなみに、1990年代に円高が進んでいた頃には、それまで国内調達していた材料を、海外から調達するように切り替えて、コストを大幅に抑えることができました。

結果的に、この値下げはマクドナルド全体の努力で上手くいきます。ところで、価格という点に関して言うと、日本人には興味深い特徴があります。210円なら買ってもいいと言った人は20%ですが、200円なら買ってもいいと言った人はなんと50%を超えたのです。たったの10円で30%以上も増えています。これは、日本人が「丸め」るのが好きだからだと思います。つまり、キリのいい価格です。

200円と190円だとそれほどの差はないのに、210円と200円との間には大きな差がある。このことは、日本の国内市場でモノを売る時には、念頭に置いたほうがいいかもしれません。

■日本人の特性を突いた「バリューセット」

日本人は「丸め」るのが好きというこの特性を突いた戦略が、皆さんの中にもご存知の方が多いであろう「バリューセット」でした。

1990年代半ばといえば、バブルが崩壊したあとの時代です。それまでの嘘のような好景気は一転、日本国内には厳しい不景気の波が襲いかかってきていました。

1990年から売上が低迷していた日本マクドナルドは、そうした状況で「デフレ社会が来る」と予測を立て、1994年に新しい価格戦略「バリューセット」を打ち出したのです。それまでは、各種ハンバーガー、マックフライポテト、ドリンクのセットを490円、590円、690円といった価格で販売していました。

それらを400円(ハンバーガー・チーズバーガー)、500円(フィレオフィッシュ、てりやきマックバーガー)、600円(ビッグマック)というお得感を感じられる3つの価格帯で販売することにしたのです。しかも、これを期間限定のキャンペーンではなく、恒久的に続けるキャンペーンとして打ち出しました。

マクドナルドのビッグマック
写真=iStock.com/spflaum1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/spflaum1

これは、バブル崩壊後に懐事情が厳しくなった日本人に広く受け入れられ、絶大な反響がありました。不景気の時代に企業が商品の価格を下げてくれたら、誰だって嬉しいものです。

バリューセットという戦略は、先のハンバーガーの値下げと相まって、日本での売上を飛躍的に伸ばす原動力となったのです。

■原価率の高いものと低いものをセットに

実は、それまでのマクドナルドでは、「ハンバーガーを単品で買う客」が多いという事情がありました。ハンバーガーが210円で、それにマックフライとドリンクも付けてセットにすると高くなってしまうので、お客様の中には単品でハンバーガーを食べて満足するという人がそれなりの割合で存在していました。

ドリンクとマックフライは比較的原価率の低い商品であり、逆にハンバーガーは原価率が高い商品でした。ということは、多くのお客様にハンバーガーだけを注文されると、原価率が高い商品しか売れないことになり、マクドナルドの利益は縮小してしまいます。

そこで、ハンバーガー、ドリンク、マックフライのセット価格を思い切って下げることで、単品のハンバーガーを買おうとしている人にもセットで買ってもらえるようになるのではないかと考えたのです。これは結果的に大当たりで、バリューセットをリリースする前のテストでは、実に70%もの人が単品ではなくバリューセットを買うという結果が出ていました。

原価率の高いものを単品で買われるよりも、その商品を原価率の低い商品とセットで買ってもらうほうが、客単価が上がり、利益率も上がり、売上がアップします。

そのメリットはもちろんお客様のほうにもあります。それまでは価格のことを考えて、ハンバーガー単品で我慢していたお客様が、低価格でドリンクも一緒に注文できるようになるわけですから、特にお持ち帰りのお客様などにはたいへん喜ばれていました。

マクドナルドにとっても、お客様にとっても、Win-Winの戦略、それがバリューセットだったのです。

■2~3カ月に1度、月間限定商品を展開

次に②の期間限定の新商品開発について説明します。

中澤一雄『ディズニーとマクドナルドに学んだ最強のマネジメント』(宝島社)
中澤一雄『ディズニーとマクドナルドに学んだ最強のマネジメント』(宝島社)

私たちは月見バーガー、ベーコンレタスバーガー、グラタンコロッケバーガー、てりたまバーガー、グリルビーフバーガー、かるびマック、クラブハウスマック、ベーコンフレッシュバーガー、レタス&ペッパーバーガー、トリプルマックなどなど、10種類以上の期間限定商品を開発し、2~3カ月に一度のペースで月間限定商品(バーガーオブザマンス)プロモーションを展開しました。

これらの中には30年経過した現在でもプロモーションが展開されているものもあり、私たち開発者にとっては実に嬉しい限りです。

月間限定商品は1カ月限定なので、一度食べてみておいしいと思ってもらえれば、自然と来店頻度が増え、来店客数も大幅に増えるため、売上の増加につながります。

■5年間で約2000店舗増加

最後が③のサテライト戦略(PMO)です。PMOとはProfitable Market Optimizationと呼ばれる出店戦略です(図表2参照)。これは、立地の良い小型の駅前店や、ショッピングセンターにおけるフードコートなどのサテライト店の出店を進めることで、マーケットにおける売上と収益を最大化するビジネスモデルで、店舗数は1994年から1999年の5年間に約2000店舗増加しました。

PMO戦略の事例
出所=『ディズニーとマクドナルドに学んだ最強のマネジメント』

これら3つの戦略によって日本マクドナルドはV字回復を果たします。業績は大きく上がり、1994年に2152億円だった売上は1999年には3944億円となりました。

売上はほぼ倍になり、経常利益は300億円超えとなったことで、どちらも過去最高を記録したのです。

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中澤 一雄(なかざわ・かずお)
KUREYON代表
1950年、奈良県生まれ。同志社大学工学部電子工学科卒業後、1973年4月、日本マクドナルド(株)に入社。オペレーション部門のディレクターやマーケティング部門のシニア・ディレクターを歴任。米国マクドナルド社本社に3年間勤務。POSや「メイド・フォー・ユー」システムの開発に関わる。1999年、ディズニーストア・ジャパン(株)にストア・オペレーションのディレクターならびにマーケティング、セールス・プロモーションのディレクターとして入社。3年間で事業規模を2倍にするなど経営再建に手腕を振るい、総責任者として活躍。2004年、日本ケンタッキー・フライド・チキン(株)取締役執行役員常務に就任。2008年4月、ウォルト・ディズニー・ジャパン(株)のライセンス部門・コンシューマープロダクツ日本代表に就任。「おとなディズニー」の導入による消費者ターゲットの拡大などにより、7年連続で部門の増収増益を達成。2015年10月、ウォルト・ディズニー・コリアのマネージング・ディレクターに就任。2016年8月より、ウォルト・ディズニー・ジャパン(株)の各事業部門の統括責任者として、シニアゼネラルマネージャー/シニアバイスプレジデントに就任。2018年1月より、ウォルト・ディズニー・ジャパン(株)の相談役に就任。2018年6月、大幸薬品(株)の社外取締役に就任。2019年9月、常勤監査役に就任。2020年6月、専務取締役に就任。2022年3月に退任し、2024年現在、複数の上場企業の顧問を務める。また、コンサルティング会社(株)KUREYONを立ち上げ、代表取締役に就任。著書に『外資の流儀 生き残る会社の秘密』(講談社現代新書)がある。

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(KUREYON代表 中澤 一雄)

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