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こんなに「大人が集まるディズニーランド」は日本だけ…子ども向けだった「雑貨」を日本人女性が夢中で買うワケ

プレジデントオンライン / 2024年10月31日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marvin Samuel Tolentino Pineda

ウォルト・ディズニー・ジャパンは映画作品だけでなく、キャラクターを使用したグッズの開発・販売も手がけている。2008年に同社に入社したKUREYON代表の中澤一雄さんは「私が担当したライセンス部門は当時、業績が下降していた。V字回復させるために3つの戦略を立てたが、そのうち日本人に特化した『おとなディズニー』がヒットした」という――。

※本稿は、中澤一雄『ディズニーとマクドナルドに学んだ最強のマネジメント』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■ディズニー・ジャパンで実施した3つの秘策

私はディズニーストアで働いた後に退職し、日本KFCへ転職しましたが、そこが思いのほか日本的な経営をする企業だったことに疑問を感じ、ウォルト・ディズニー・ジャパンの社長に就任することになったポール・キャンドランドに誘われ、2008年に同社に入社することになりました。

2008年、私が戻った時のコンシューマープロダクツ部門(キャラクターの使用権をライセンシーに許諾し、商品を開発してもらうライセンス部門)は、業績が下降しているところでした。私の見たところでは、同社がやや日本的な経営のやり方に染まろうとしていたので、それを外資的な経営のやり方に戻さなければならないと大改革を行うことにしました。

それによって同社の業績を回復させることができたのですが、ここではその時に私が行った3つの施策、「V字回復のための3つの秘策」について一つひとつ紹介していきたいと思います。

このV字回復のための3つの秘策は、私がマクドナルド時代から数十年にわたる外資での経験からたどり着いたもので、現在、苦境に陥っている多くの日本企業においても通用すると確信しています。

業績不振に陥っていたウォルト・ディズニー・ジャパンを立て直すために私が実行したV字回復のための3つの秘策とは、以下の方法でした。

① 新機軸(ホワイトスペース)を見つける(おとなディズニー)
② 完全成果主義をメインにした人事評価制度
③ 勝ち組企業と組む

■新たなビジネスモデルの模索

第一の秘策、「新機軸(ホワイトスペース)を見つける」とはどういうことか。

皆さんは、ホワイトスペースという言葉をご存知でしょうか。ホワイトスペースとは、スーパーマーケットの棚を見た際、商品が売り切れている場合、棚の後ろに白い壁が見えることから来ています。ビジネス的には、新たなビジネスモデルでなければ成功することができない事業領域を指す言葉です。

もっとわかりやすく言えば、それまで自社が得意としてきた領域以外の領域で、既存のビジネスモデルによってはリーチできない顧客がいて、なおかつその領域には競合がおらず新たな顧客との接点を生みだしていくことができる領域、といったところでしょうか。

つまり、ウォルト・ディズニー・ジャパンがそれまでやっていなかったビジネスモデルによって、新たな顧客との接点を生みだすことのできる領域に進んでいくということです。私は、この会社にとってのホワイトスペースは何だろうかと考え、ある結論にたどり着きました。

■「おとな」がホワイトスペースだった

それが、「おとなディズニー」の導入だったのです。

それまでのディズニーのライセンス商品といえば、アメリカ本社の方針からメイン客層はキッズとファミリーで、それ以外の顧客層にはフォーカスしていませんでした。つまり、キッズとファミリー以外の大人はディズニーにとってのホワイトスペースだったわけです。

そのホワイトスペースに対してリーチできれば、ディズニーはほとんどすべての世代をターゲットにすることができるようになります。

このおとなディズニーという施策は、ホワイトスペースを見事に突くことができたため、日本に多数存在する大人のマーケットを押さえ、同社の売上を大幅に伸ばす原動力になりました。

なぜ、おとなディズニーが同社にとって正しい戦略だったのでしょうか。それは「日本独自の客層」のおかげでした。東京ディズニーランドがオープンしたのは、1983年4月。その当時、ディズニーランドに初めて来園したという子どもが、例えば6歳だった場合、その人は今頃40代後半になっています。

当然、そのあとの世代も子ども時代からディズニーに親しんでいますから、20代から50代くらいまでの日本の大人たちは、大多数が子ども時代にディズニーと接点を持っており、そのほとんどがディズニーに対して少なからず親近感や好印象を抱いているはずです。

■日本独自の施策が功を奏す

子ども時代にディズニーに夢中になったことがあってそのまま大人になった人々、そして、思春期にいったんディズニーから離れたけれども結婚し、子どもが生まれ、再び子どもと一緒にディズニーに戻ってきた人々など、日本にはさまざまな「ディズニーに親近感を抱いている人」が存在しているのです。

おとなディズニーという施策は、少子化と相まって日本独自の客層に訴求することができ、その結果、売上を大幅に伸ばすことが可能になったというわけです。

もちろん、日本の特に大人の女性をターゲットにしたこの施策は、海外のディズニーでは採用されていない日本独自の施策でした。いわば、私流のローカライゼーションの一つだったと言えましょう。

このおとなディズニーという施策によって、ウォルト・ディズニー・ジャパンはホワイトスペースを見つけ、「日本の大人(特に女性)」という適切なターゲットを定めました。さらに、親が子どもに買い与えるディズニーベビーと合わせることで、全年齢のディズニーとのタッチポイント(接点)を増やすことに成功し、「三つ子の魂百まで」ディズニーと親しんでもらえるような環境を生みだしました。

大人にディズニーと親しんでもらえれば、当然、その子どもたちにも親しんでもらえるようになります。そうすれば、ディズニーは末永く愛される企業になることができます。

■ガイドブックのデザインや商品展開を工夫

おとなディズニーという施策のために、私たちが具体的にとったアクションは、「各カテゴリーのデザインガイドブックを子どもやファミリー向けのかわいいデザインから、大人用の洗練されたデザインに変更した」ことと、「商品展開を大きく変えた」ことでした。

大人の特に「F1層(20~34歳の女性)」と「F2層(35~49歳の女性)」に訴求するような商品を多数用意して、展開することにしました。特に強く展開したのは雑貨です。雑貨とは、化粧雑貨、ホーム雑貨、ファッション雑貨、ステーショナリー雑貨の総称です。日本のビジネス界では雑貨というカテゴリーは一般的ですが、外国ではあまり知られていません。

ラスベガスのディズニーストア
写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

ちなみに、もともと日本のディズニーランドの来園者は大人の比率が非常に高くなっていました。海外のディズニーランドは、今も半分以上が子ども、つまりファミリーが来園しているのに対し、日本のディズニーランドは、大人たちが多くやってくるという非常に珍しいテーマパークになっているため、このおとなディズニー施策が功を奏したのです。

■ディズニー本社や海外の支社にも影響

ライセンスビジネスの「おとなディズニー」という施策は、完全に日本独自のものであり、ディズニー本社ですら気づかなかった新機軸(ホワイトスペース)を開拓することに成功した施策でした。

私がディズニーにいた頃に行った施策のうち、最も成果が上がったものはと聞かれたら、真っ先に「おとなディズニー」と答えます。実際のところ、このおとなディズニーという日本独自のローカライゼーションは、ディズニー本社や海外の支社でも勉強されるようになりました。

コンシューマープロダクツ部門は、さまざまな国にありますので、そこからほぼ毎月誰かが日本に研修に来たり、私もロサンゼルス本社やロンドンのヨーロッパメインオフィス、シンガポールオフィス(東南アジア)、上海などに赴いたりして、おとなディズニーのローカライゼーションについてプレゼンしました。その結果、アメリカ本社では「おとなディズニー」と「ザッカ」が共通語になりました。

■人事評価制度を「完全成果主義」に

私がウォルト・ディズニー・ジャパンをV字回復させるためにとった第二の秘策は「完全成果主義をメインにした人事評価制度」です。

私の前任者のアメリカ人は評価が甘く、社員の50%以上がAの評価でした。つまり、ジョブ型の「完全成果主義」が上手く運用されてなかったのです。完全成果主義の人事制度は、業績連動が必須です。業績によって昇進、降格や年収が決まります。

部下がいくら上司にゴマをすろうが、媚びを売ろうが、昇進できるかどうか、そのポジションを維持できるかどうかには関係がなく、ただただ成果を上げたかどうかだけで決まります。

こういった組織のほうが組織全体で成果を上げやすくなるのは、外資流の経営を経験したことがある人なら当たり前なのですが、まだまだビジネスの現場でも情緒にすがろうとする日本人には馴染みがなく、それが日本経済衰退の一因だと私は考えます。

さて、「完全成果主義」を正しく運用するべく、私がウォルト・ディズニー・ジャパンで導入した評価制度は、5段階の相対評価でした。5段階評価といっても、日本的な5段階評価ではありません。日本企業での5段階評価では、最も高い評価がSで、A、B、C、Dの5段階評価だとすると、Bをもらう人が最も多くなり、あまり業績が良くない人でも相手を傷つけないために最低でもC程度でお茶を濁すことがよくあります。

■目標を100%達成するのは当たり前という風潮

そのせいで、Sがつけづらくなり、なぜか社員の多くがB評価をもらい、CやDなどをつけられる社員は事実上ほとんどいないといった状況に陥ってしまいます。

このような評価方法に、意味があるとは思えません。ほとんどの人がBをもらうことができ、悪くてもCで済まされるなら、社員は「向上しよう」というモチベーションも、「向上しなければまずい」という危機感も抱きにくくなります。

ですから、私は完全成果主義に基づく5段階評価を導入する際に、あるルールを設けました。そのルールは以下の通りです。

① ただ目標を100%達成しただけならB評価

② 目標の達成度がかなり良ければA評価

③ その上で会社にとってさらに意味のある価値を提供できればS評価

④ C・D評価はボーナスを0にし、その分をS・A評価の社員に回す

つまり、目標未達成の場合は、CかDの評価を容赦なくつけることにしました。これによって、目標を100%達成するのは「当たり前」という風潮を生み、かつ達成できなければ遠慮なしにC・D評価を受けるという緊張感をも生み、また、会社にとって意味のある価値を生みだせばS評価という最上級の評価を得られるのだという完全成果主義の考えを社員に浸透させることができました。

■「ディズニーに頼る企業」とは組まない

次に、私がウォルト・ディズニー・ジャパンをV字回復させるためにとった第三の秘策は、「勝ち組企業と組む」ということでした。

これは特に、BtoB(Business to Business)、つまり企業間取引をする場合に、私が気をつけていたことでした。企業間取引とは、主に企業と企業が行う「コラボレーション」を指します。

ウォルト・ディズニー・カンパニーのようなコンテンツのライセンスを握っている企業とは、多くの企業がコラボレーションをしたいと考えています。そのため、さまざまな企業からコラボレーションのお話をいただくのですが、同社に入社して私が行ったのが「コラボする相手は勝ち組企業にする」ことでした。

私が入社した当初は、450社ものライセンシー(ディズニーの許諾を得て、そのライセンスを利用したビジネスをする企業)がありました。ところが、そのうち上場企業はたったの10%しかいませんでした。

残りの90%は、売上が30億円未満の中小企業で、自社のブランドを持っておらず、ディズニーのライセンスに頼って商売しようとする企業でした。

そうした状況を改善しなければならないと決意した私たちは、思い切ってそういった中小企業との契約をやめることにしました。そして、勝ち組企業とだけ組むことにしたのです。

■マスマーケットでも「トップ企業」と組む

具体的にどうしたかといえば、まず、ホーム、ファッション、雑貨、食品、トイ(おもちゃ)、文具、書籍などのジャンルに分けて、その中でトップの売上を上げているプレーヤーをリストアップすることから始めました。

そして、まずラグジュアリーなどでハイブランドとコラボしました。有名な例ですと、メルセデスベンツともコラボしています。次にミッドエンドとコラボし、最後はマスマーケットですべてのニーズを刈り取りました。ここでマスマーケットをメインとしてしまうと、ディズニーのブランドイメージが下がってしまいます(図表1参照)。

ブランドのカスケードダウン
出所=『ディズニーとマクドナルドに学んだ最強のマネジメント』

特に100円ショップは各社キャップ(上限枠)を設けてコントロールしていました。つまり、まずはユニクロ、コーセー、バンダイ、キリンビバレッジ、アサヒ飲料、ヤクルトなど、それぞれのジャンルのトッププレーヤーの企業にアプローチしたのです。

私はほぼ毎日トップ営業をしていました。当時の私の秘書が非常に優秀だったこともあり、だいたいどの企業も社長室に電話をしたら社長が面会に応じてくれました。そのため、上場企業社長300名以上の名刺が私の手元にあります。

ちなみに、ウォルト・ディズニー・ジャパンには30名ほどの優秀な営業とクリエイティブがいましたので、例えばその時に公開予定のディズニー映画のキャラクターをデザインに落とし込んだ案を事前に作ってもらい、それを持って私たちが提案しに行きました。「美女と野獣」であれば、交渉先の企業が興味を持つような商品に、あらかじめ「美女と野獣」のデザインを落とし込んだ試作品を作り、それを持っていって提案させていただくわけです。

■ブランド×ブランドの爆発力

中でも印象深かったのは、私が直接交渉させていただいたキリンの「午後の紅茶」とのコラボ案件です。年間売上で軽く数億本を超える人気商品です。

その午後の紅茶のボトルに、ディズニーの絵柄を載せてもらうというキャンペーンでした。私たちが施した工夫は、絵柄の数を10~15種類に増やすことでした。そうすることによって、ディズニーファンは1本だけでなく全部の絵柄が欲しくなり、10~15本全部を購入してもらえると考えたのです。こうすることで、本来は売れなかったかもしれない1本が売れるようになるわけです。

このやり方は、ヤクルトとコラボした際にも使い、効果を上げました。このように、大きなライセンシーと組むことによって、Win-Winの関係を構築することができるようになりました。ディズニーも儲かり、ライセンシーも儲かるわけです。

ディズニーにもブランドがあり、ライセンシーになっていただくトップ企業も独自のブランドを持っていますから、ブランド×ブランドでかなりの爆発力を持って消費者に訴求できるようになるため、この勝ち組企業と組むという施策は大当たりしたのです。

■7年間で売上が2.5倍に

実際のところ、どれだけの効果があったかというと、トッププレーヤーをメインに契約してライセンシーになってもらった結果、他の施策も功を奏し、売上が7年間でなんと2.5倍にまで伸びました。また、ディズニーライセンス商品の上代売上が初めて5000億円を超えました。

中澤一雄『ディズニーとマクドナルドに学んだ最強のマネジメント』(宝島社)
中澤一雄『ディズニーとマクドナルドに学んだ最強のマネジメント』(宝島社)

勝ち組企業と組んでコラボレーションをし、パートナーシップを組むことを推進する施策のメリットは、まず、第1にディズニーのブランドイメージを守ることができるということでしょう。

自社ブランドを安売りせず、同じく強いブランドを持った勝ち組企業とコラボすることで、ブランド価値を損ねるリスクが減り、むしろ多くの商品が市場に並び、コラボ商品のTVCMも流してもらえるので、消費者とのタッチポイントが増え、ブランド認知も上がります。

第2に、ディズニーと組んでくださる大手ライセンシーにとっても売上がアップする、Win-Winの関係になれることもメリットです。ディズニーが大手とだけ組んでいれば、ディズニーのブランド価値は守られ、同時にライセンシーのブランド価値も守られます。仮に、ディズニーがどんなライセンシーともコラボしていたら、大手のライセンシーが作るディズニー関連商品には特別感がなくなってしまいます。

強いブランドを持つ大手と組むことで、ディズニーもライセンシーもともに勝ち続ける構造を築くことができたのです。

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中澤 一雄(なかざわ・かずお)
KUREYON代表
1950年、奈良県生まれ。同志社大学工学部電子工学科卒業後、1973年4月、日本マクドナルド(株)に入社。オペレーション部門のディレクターやマーケティング部門のシニア・ディレクターを歴任。米国マクドナルド社本社に3年間勤務。POSや「メイド・フォー・ユー」システムの開発に関わる。1999年、ディズニーストア・ジャパン(株)にストア・オペレーションのディレクターならびにマーケティング、セールス・プロモーションのディレクターとして入社。3年間で事業規模を2倍にするなど経営再建に手腕を振るい、総責任者として活躍。2004年、日本ケンタッキー・フライド・チキン(株)取締役執行役員常務に就任。2008年4月、ウォルト・ディズニー・ジャパン(株)のライセンス部門・コンシューマープロダクツ日本代表に就任。「おとなディズニー」の導入による消費者ターゲットの拡大などにより、7年連続で部門の増収増益を達成。2015年10月、ウォルト・ディズニー・コリアのマネージング・ディレクターに就任。2016年8月より、ウォルト・ディズニー・ジャパン(株)の各事業部門の統括責任者として、シニアゼネラルマネージャー/シニアバイスプレジデントに就任。2018年1月より、ウォルト・ディズニー・ジャパン(株)の相談役に就任。2018年6月、大幸薬品(株)の社外取締役に就任。2019年9月、常勤監査役に就任。2020年6月、専務取締役に就任。2022年3月に退任し、2024年現在、複数の上場企業の顧問を務める。また、コンサルティング会社(株)KUREYONを立ち上げ、代表取締役に就任。著書に『外資の流儀 生き残る会社の秘密』(講談社現代新書)がある。

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(KUREYON代表 中澤 一雄)

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