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なぜ「セブン-イレブン離れ」が起きているのか…お荷物の「イトーヨーカ堂」を捨てられないセブン&アイの苦悩

プレジデントオンライン / 2024年10月28日 9時15分

記者会見するセブン&アイ・ホールディングス(HD)の井阪隆一社長=2024年4月10日、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

■グループ再編計画発表の裏に「買収提案」

10月、セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイ)は、2024年度第2四半期(中間期)決算を発表しましたが、この説明会において注目されたのは、紛れもなくグループ再編計画でした。

このタイミングでグループ再編計画を発表したのは、セブン&アイが構造改革を進めて企業価値を向上しなければならない状況に追い込まれたからで、その状況を作り出したのは、他でもないカナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール社(ACT)による買収提案です。

ACTが8月に提案した買収金額は390億ドル(約5兆8000億円)でしたが、セブン&アイはこの買収金額は「当社の価値を著しく過小評価している」などとして提案を受け入れられないとの回答を書簡で送ったことから、その後、買収金額が7兆円規模にまで引き上げられています。

このACTによる買収提案がセブン&アイの構造改革を促進する契機となり、今回のグループ再編計画の発表へとつながることになるわけですが、ACTによる買収提案との関係で、セブン&アイが示したグループ再編計画はどのような意味といかなる意義を持つのでしょうか。

■赤字のイトーヨーカ堂を切れない本当の理由

今回示されたグループ再編計画は、セブン&アイの事業構造を再構築し主力のコンビニ事業に注力していくという戦略の下、経営資源をコンビニ事業に集中させて企業価値向上を図ることが狙いです。

そのための方策が、祖業スーパーであるイトーヨーカ堂(ヨーカ堂)などコンビニ以外の事業の分離で、具体的には、ヨーカ堂をはじめ、ヨークベニマル、ファミリーレストラン「デニーズ」を運営するセブン&アイ・フードシステムズ、生活雑貨のロフトなどコンビニ以外の小売り・外食など計31社を、新たに設立する中間持ち株会社「ヨーク・ホールディングス(ヨークHD)」の傘下に置くというものです。

ヨークHDの株式は基本的にはセブン&アイが保有しますが、株式の一部を外部のパートナーとなる企業に売却し、そうした企業の協力を得ながら、2023年度まで4期連続で赤字が続くヨーカ堂の事業立て直しを図る意向です。

このように、コンビニ事業への選択と集中を高める姿勢を明確に打ち出して企業価値の向上を急ぐのであれば、赤字続きのスーパーをはじめとする非中核事業を完全に売却することがより有効な打ち手として考えられますが、セブン&アイはなぜそのようにしないのでしょうか。

■スーパー側がセブンの商品力を支えている

それは、「金のハンバーグ」や「金のボロネーゼ」などセブンプレミアムの商品開発を担っているのが、ヨーカ堂やヨークベニマルといったスーパー側の開発部門だからです。

セブンプレミアムの開発体制の人数は、加工食品の分野では、ヨーカ堂などスーパー側所属の開発者が19人で全体の半分以上を占めており、生鮮食品の分野ではその数が39人で全体の約4分の3を占めており、スーパー側が食に強みを持つセブン‐イレブンの商品力を支えているのです。

このような足枷を伴う今回のグループ再編計画は、非中核事業をひとくくりにしただけで構造改革が前進したとは言えず、祖業との出資関係を断ち切る覚悟が足りないという見方もできます。グループ構造最適化に向けたビジョンとそれを進めるためのマイルストーンが企業価値の向上とセットで示されていないのも懸念されるところです。

今回の中間決算(2024年3月~8月期)では、グループ全体の売上高9兆2870億円(前年比6.8増)に対して、営業利益は1869億円(22.4%減)となり増収減益となっています。営業利益の内訳を見ると、国内コンビニ事業が1277億円(7.8%減)、海外コンビニ事業が733億円(35%減)となっており、コンビニ事業が業績の足を引っ張る形となっています。

■なぜ国内外で「セブン離れ」が起きているのか

海外コンビニ事業はグループ全体の売り上げの約7割を占めており、その中心となっているのが北米市場です。

米国では恒常的に物価が高騰しており、これがセブン‐イレブンのターゲット顧客である中低所得者層を直撃し、2023年9月から2024年8月までの米国国内既存店の売り上げは12カ月連続で前年を下回っています。

セブン‐イレブンの店舗
写真=iStock.com/Prapat Aowsakorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Prapat Aowsakorn

一方、日本国内のコンビニ事業でも既存店の売り上げが、2024年6月から8月にかけて3カ月平均で前年比0.4%減となっています。これは、2023年3月から2024年2月までコロナ明けで増収が続いたことから一時的な調整局面に入っているとの見方もできます。

なぜなら、PB(プライベートブランド)のセブンプレミアムをNB(ナショナルブランド)よりやや高めの価格に設定し、独自開発の惣菜を販売し攻勢をかけるという高付加価値戦略は継続されているからです。

このことから、今回の業績悪化の最大の理由は、北米市場の低迷にあることがわかります。こうした状況にもかかわらず、北米市場では、物価高などの外部要因に対して効果的な対策が打てていないというのが実態です。それゆえ、来期までに不採算の約440店舗を閉鎖する意向を固めるに至っています。

■今後の成長戦略は不透明なまま

今回の決算発表会でセブン&アイの井阪隆一社長は、「今回は環境変化への対応が遅れ業績面で大変なご迷惑をおかけしました」と言及したうえで、今後セブン‐イレブン事業において何にどのくらいの規模で投資して価値を高めるかについては、「セブン‐イレブンは生活に密着した、顧客の地域に密着した存在として価値をこれからますます発揮できるのではないか。投資のチャンスがあれば、新地域への投資ということも考えられる」と述べるにとどまっています。

このように、井阪社長は、コンビニ事業において新たな国に投資する可能性には触れたものの、具体的に何に投資するのかについての言及がなかったことから、中核のコンビニ事業における今後の成長戦略は不透明のままであると言えます。

セブン&アイは、ACTの買収提案に対する対抗措置として構造改革を急ぎ、企業価値を上げるとの方針を打ち出していますが、今回の決算発表会では、グループ再編計画による構造改革のフレームワークは示せたものの、最も重要な中核のコンビニ事業の成長戦略が打ち出せていないことから、決算発表会翌日の2024年10月11日の株価は一時前日比で5%減少、終値が1%安となり株式市場の評価は得られませんでした。

■買収調査の間にどのような策を打つのか

ACTの買収事案については、FTC(米国連邦取引委員会)がすでに調査を開始していますが、その調査には1年半ほどかかると言われています。

セブン&アイでは、社外取締役や外部識者などで構成される特別委員会(委員長は取締役会議長のスティーブン・ヘイズ・デイカス氏)を設置して対応の検討が進められており、この委員会がどのような判断を下すのかが今後の展開を考えるうえで重要な位置付けとなります。

ACTが現在提案している約7兆円という買収金額は、現在の時価総額の2割増し程の金額でありますが、この金額がセブン&アイの企業価値を適切に評価したものか、あるいは長期的な成長につながるものかといった議論の検討により、将来の企業業績を見越して株主にとって最適な選択が何であるかが問われることになります。

■低価格の商品で巻き返しを図るが…

特別委員会が、セブン&アイによる現在の事業計画とACTの提案とを比較考慮して検討した結果が注目されるところですが、ACTの買収提案に対抗するなら自力成長により企業価値を高め株価を上げることが必要となります。

そのため、直近では巻き返し策も打ち始めています。国内では2024年9月に低価格の食品など関連商品を270品目に増やしていますし、海外では日本で培った惣菜などの食品を拡充することでアジアや欧州で新規店舗を増やし2030年には10万店まで拡大する意向です。

セブン&アイとしては今後、非中核事業という贅肉の切り落としによるグループ構造最適化に向けたマイルストーンと、本業のコンビニ事業で業績を上げるための成長戦略を明確にしてそれらを完遂することで、ACTが提案する株価水準を上回るような潜在価値が自社にあることを証明することが問われることになります。

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雨宮 寛二(あめみや・かんじ)
淑徳大学経営学部教授
淑徳大学経営学部教授。ハーバード大学留学時代に情報通信の技術革新に刺激を受けたことから、長年、イノベーションやICTビジネスの競争戦略に関わる研究に携わり、企業のイノベーション研修や講演、記事連載、TVコメンテーターなどを務める。日本電信電話株式会社に入社後、中曽根康弘世界平和研究所などを経て現職。単著に『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮社)、『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』『サブスクリプション』(いずれもKADOKAWA)など多数。新著に『経営戦略論 戦略マネジメントの要諦』(勁草書房)がある。

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(淑徳大学経営学部教授 雨宮 寛二)

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