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なぜ今「昭和の町中華」が若者に人気なのか…「ミシュラン掲載ラーメン店」増加のウラで起きている意外な動き

プレジデントオンライン / 2024年10月30日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DK Media

今はどんなラーメンが人気なのか。ラーメンライターの井手隊長は「ミシュランに選出されるような『きれいなラーメン』が注目されている。ただ、現在はその揺り戻しともいえる現象が起きている」という。『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)を書いた高井尚之さんが聞いた――。

■ラーメンのスープから見る嗜好の変化

外食の一番人気を聞くと「ラーメン」と答える人が多い。さまざまな調査結果でも同様だ。1人で気軽に行ける点も支持されるのだろう。

ただ、好みについては意見が分かれる。

先日タクシーに乗車した際、中年の運転手さんは、「よく『おススメのラーメン店はどこですか?』と聞かれますが答えにくいです。私が好きな味とお客さんの好きな味は違うことが多いので」と話していた。

とはいえ、人気店の傾向はある。そこで今回はさまざまな店を食べ歩き、ラーメンライターとして活躍する井手隊長に、外食チェーン店とスープを中心に解説してもらった。ラーメン通向けではなく一般向けの内容で紹介したい。

■すでに一般化した「二郎系」

10月10日、東海三県を中心にチェーン展開する「スガキヤ」から二郎系ラーメン「スガ・ジロー」が発売された。期間限定での販売(予定数がなくなり次第終了)で、単品では780円(税込み、以下同)、チャーシュー3枚がのった「肉マシ」が980円だった。

「1968年創業の『ラーメン二郎 三田本店』(東京都港区)や系列店で修業したわけではなく、二郎にインスパイアされたラーメンを提供しているお店を総称して”二郎系”と呼びます。二郎系のスープは豚骨ベースのこってり醤油味。

今回の『スガ・ジロー』は愛知県岡崎市の人気店・キブサチが監修したそうで、かえし(たれ)と背脂を加え、より濃厚な味わいに仕上げているようです」(井手隊長、以下発言は同氏)

「スガ・ジロー」
画像提供=スガキコシステムズ
「スガ・ジロー」 - 画像提供=スガキコシステムズ

ニュースで報道されたのでご存じの人もいるだろうが、「スガ・ジロー」は発売直後から注文が殺到して多くの店舗で品切れ。10月14日には運営会社のスガキコシステムズが公式サイトで「商品販売見合わせのお知らせとお詫び」を発表。その後販売を再開したものの、予定数に達し、現在は販売を終了している。

もともとスガキヤには「ラーメン」(430円)がある。豚骨と魚介のWスープで、あっさり豚骨系。麺類全体に占める構成比は約4割という看板商品だ。今回の限定販売は、「スガキヤラーメンの可能性」を試した商品だろう。

■濃い味を好む消費者

ラーメンの○○系と聞いて、二郎系の他に、濃厚なラーメンの家系を思い浮かぶ人も多いだろう。両者はSNSで話題になることも多く、ラーメン界の二大勢力といえる。

「その横顔は異なります。ラーメン二郎と系列店は全国で40店程度ですが、味をリスペクトして展開する二郎系は全国にたくさんあります。

一方の家系は、1974年創業の吉村家(本店:神奈川県横浜市)を源流とし、「吉村家」の流れをくむ弟子や孫弟子の店が神奈川県を中心に広がっていったラーメンです。近年は大手企業によって運営されているチェーン店が多く、店舗数がうなぎ上りに増えています。

たとえば横浜家系ラーメンの町田商店(本社:東京都町田市)は全国に156店を展開する有力チェーンとなりました。店舗数では家系は二郎系よりもはるかに多いですが、ともに味に常習性がありリピーターに支持されています」

吉村家のラーメン
吉村家のラーメン(写真=Totti/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

ラーメンの中身について、井手隊長はこう説明する。

「二郎系のスープは前述したように豚骨ベースのこってり醤油味。見た目マシマシ、野菜はもやし中心などビジュアルがわかりやすいのが特徴です。

家系のスープは豚骨中心の濃厚な味で鶏油(チーユ=鶏から抽出した油)が浮かんでいるのが特徴。盛り付けはほうれん草、チャーシュー、のり3枚が基本です」

■福岡でも進む「豚骨離れ」

醤油・豚骨・味噌・塩系スープの主流やトレンドについても聞いた。

「一番多いのは醤油。スープのバリエーションも多く、新店も増えています。豚骨はコアなファンが多いのですが、さまざまな理由で新規オープンする個人店は少ない」

独特の香りを好む客はいるが、繁華街もちろん住宅街では敬遠されがちだ。ニオイの強さはもちろん、豚骨を超時間煮るガス代や、原材料費の高騰もあり、最近は豚骨のメッカ、福岡でも増えづらい傾向にある。

「そんな中では、大手チェーン店の『博多一風堂』『一蘭』が一定のファン層を広げています」

博多一風堂は昔ながらの豚骨ラーメン店のイメージを変え、女性1人でも入りやすくしたブランドとして知られている。

博多一風堂・上野広小路店
博多一風堂・上野広小路店(写真=多摩に暇人/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

「味噌ラーメンは主原料である味噌の風味が強く、どこにもない味にするのが難しい一面があります。『すみれ系』が強く、都心では『花道系』も人気です」

すみれ系は、1964年に札幌で創業したラーメン店「純連」をルーツとし、その家族が開いた「すみれ」とともにこの両店から派生したラーメン店の総称。花道系は、東京都中野区野方にある「味噌麺処 花道」から派生したお店の総称を指す。

「塩ラーメンは、味噌とは逆に素材の塩自体が主張しないのでスープで勝負。ただ、新店はあまり増えていない傾向です」

■きれいなラーメンからの反動

学生時代から「ラーメン道」に目覚めて20年超。最近、井手隊長が感じているのが、ラーメンがどんどんきれいで派手になったことへの反動だ。

「2014年発行の『ミシュランガイド2015』にラーメン部門が新設されて以降、創作ラーメンも増えました。たとえば当初から評価が高かったのが、鶏の分厚い旨味が特徴の清湯系(澄んだスープ)の醤油ラーメン。麺線も含めて“きれいなラーメン”が評価されてきました。その一方で、昔ながらのラーメンが近年再注目されています」

どんな動きが出てきたのか。井手隊長が続ける。

「ミシュラン系に触発されて、新しさを追うラーメンが増えてきましたが、ここにきて昔ながらの“中華そば”はやっぱり美味しいよね、と原点に立ち返り始めています。作り手側のお店の人も、毎月のように原材料費や光熱費が上がり、そして人件費高騰もあり、立ち止まって考えるようになりました」

すべての店舗ではないが、ミシュランに掲載されるお店のラーメンはこだわりの一品という感じで、味もさることながら値段もほかの店舗とは異なる。こうしたきれいなラーメンに対し消費者はどう感じているのだろう。

「このところ若い世代で町中華人気も高まっています。おしゃれではありませんが、ラーメンを中心にいろんなメニューがあり、気軽に利用できるご近所感がいいのでしょう。

その趣向を組み入れた『ネオノス系』(ネオノスタルジック=昭和の顔をした令和版)ラーメンもあり支持されています」

飲食店のカウンター席に置かれた調味料とつまようじ
写真=iStock.com/Tony Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tony Studio

■スガキヤの超然

冒頭で紹介したスガキヤは9月19日、看板商品のあっさり豚骨系ラーメンの麺とスープを約14年ぶりにリニューアルした。井手隊長も名古屋出張の際、新しくなったスガキヤのラーメンを試食した。

「ライトな豚骨に魚介の味も感じられました。最初にスガキヤのラーメンを食べたのは学生時代ですが、以前の記憶に比べて魚介が効いていたように思います。スガキヤのラーメンは独特のポジションで、オーソドックスでわかりやすい味わいではないものの、『あの味がいい』という固定ファンが多いのも特徴です」

高井尚之『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)
高井尚之『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)

もともとスガキヤの店は、日常生活で使う中型スーパー(1階が食品系売場、上階が日用品や衣料品・雑貨系売場)の一角に多かった。

「関東圏でいえばイトーヨーカドー店内にある『ポッポ』のような存在でしょう。ポッポもスガキヤも、ラーメンもあればソフトクリームもある。買い物したついでにふらりと入れて価格も手頃。その気取らなさがいいのだと思います」

スガキヤの定番ラーメンは1948年の発売以来、ほとんど製法が変わらないという。時代が大きく変わり、消費者の嗜好が変わったことでラーメンのスープにも流行りや廃りがある。しかし、そこからは超然とし、同じ味を続けることで伝統の味として支持を集めるチェーンも確かに存在する。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)、2024年9月26日に最新刊『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)を発売。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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