「GAFAMだから何でも売れる」は大間違い…この20年に生み出してきた「記憶から消したい失敗作」の数々
プレジデントオンライン / 2024年10月31日 8時15分
■グーグルが「王者」ヤフーに勝つと思っていた人はいなかった
現在のハイテク大企業――グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト(GAFAM)は、考えてみればすさまじい新興企業ばかりだ。
2001年にスウェーデン語版の『グローバル資本主義擁護論』(未邦訳)を書いたとき、グーグルは創業3年目の新参者で、IPOを果たすのはさらに3年先で、ヤフー、アルタビスタ、MSN検索といった検索エンジン大手と戦っていた。
1998年3月には『フォーチュン』誌に「検索エンジン戦争の勝者ヤフー」という記事が出ている。この記事によれば、多くの人はヤフーが次のアメリカ・オンライン(AOL)にすらなれるかもしれないと考えているとのことだ(はて、それってどなたでしたっけ?)。
実は、そこには類似性が確かにある。ヤフーとAOLはどちらも後に電話会社ベライゾンに買収され、同社はその後、大量の損失を出してから、最近になって両社を50億ドルで売却したのだ。
■リーマンブラザーズ「アマゾンは1年以内に倒産する」
当時、アマゾンは利益を出せない新興のオンライン書店だった。そのたった1年前、有力な投資銀行リーマンブラザースは、アマゾンは無能で、赤字を垂れ流し、1年以内に倒産すると警告していた(その8年後にリーマンブラザースのほうが倒産するのだが)。
2001年の時点でマーク・ザッカーバーグはまだハーバード大学を退学してフェイスブックを創業していなかった――まだハーバード大学にすら入っていなかったからだ。
当時支配的だったソーシャルネットワークは、シックスディグリーズ、AIM、フレンドスター、そして何よりも重要なマイスペースだ。マイスペースはあまりにホットで、グーグルは2006年に同社と3年の広告契約を結べたのがブレークスルーだと考えたほどだ。
この契約は、カリフォルニア州の有名リゾート地ペブルビーチの華やかなパーティーで調印され、ボノや当時のイギリス首相トニー・ブレアといったゲストが招待された。やっとグーグルも大物とつるめるようになったか、というわけだ。
■iPod誕生前のアップルは悲惨だった
一方でアップルは、パーソナルコンピュータ時代の古参だが、その後はずっと危機ばかりだったので、初期に支配的な地位を得ても、急変する市場では大した意味を持たないという事実を象徴する存在だと思われてきた。だがスティーブ・ジョブズが会社に復帰し、2001年末にiPodを発表してアップルにも新たな希望が生まれた。
2003年にアップルはやっと、わずかばかりの年次利益を計上できた。インフレ調整されたその年次利益は、現在のアップルなら14時間で稼ぐ金額だ。だがそれは、同社が携帯電話に革命を起こしたことで初めて可能になったものだ。
当時の携帯電話市場はノキアに支配されていた。「顧客10億人。携帯電話の王者にだれが追いつけるだろうか?」と『フォーブス』誌は2007年10月に問うている。「そんな携帯電話会社も、ノキア以上に人々の電話利用法について知ることはできない」から「ノキアはウェブと同義語になる歴史的な機会を持っている」。
もちろんマイクロソフトもずいぶん昔からいたが、もたついてモバイルインターネットへの移行に乗り遅れてしまった。そして、パーソナルコンピュータのオペレーティングシステム(OS)から、アップルやアンドロイド製品でも動くクラウドベースのサービスにビジネスモデルを完全に切り替えて、やっとカムバックを果たした。
著書『ハイテクパニック』(未邦訳)でアメリカのジャーナリストのロビー・ソアヴェはこう書く。「未来からの訪問者が2006年の私――高校を卒業したばかりの年だ――に、もう数年もすればマイスペース、AOLインスタントメッセンジャー、MSN ホットメールのアドレスもいらなくなるよと言ったら、ああオレは突発事故で死ぬのか、と思っただろう」
■GAFAMが忘れたい「黒歴史プロダクト」
新しい巨人たちが、先人たちよりもその地位に安住できると信じるべき理由もない。代替物よりも優れた、安くておもしろい製品やサービスを提供し続ける限り、利用者は獲得できる――だが利用者は無料の新サービスを得られるが、それを提供する企業のほうは、そのための費用を全額自分で負担するしかないのだ。
ときには、彼らが何をやっても成功する、お金を刷るに等しい会社だと思ってしまうが、それは今日の彼らのトップセラーしか見ていないからだ。
だがみなさんはアマゾンのファイアフォンやグーグルグラスやマイクロソフトのZuneミュージックプレーヤーをご記憶だろうか? GAFAMの発表する製品の多くは鳴かず飛ばずだった。というのも、それが提供したものはつまらないか、すでにあるか、ややこしすぎるか、醜すぎるか、高価すぎるか、ひたすらお寒い代物だったりしたからだ。
マイクロソフトは、音楽サービスのグルーヴミュージック、スピーカーのインヴォーク、フィットネスブレスレットのマイクロソフトバンドやiPadクローンのサーフェスRTでまったく成功しなかった。「ビングる」は「ググる」ほどは一般化していない。
マイクロソフトの携帯電話キンは大失敗で、代わりに出てきたウィンドウズフォンもダメだった。失地回復のため、マイクロソフトはノキアの携帯電話部門を2013年に買収した。だがマイクロソフトの携帯電話は復活しなかった。ノキアの携帯電話が潰れただけだった。
■1カ月で99セントに値下げした携帯電話アプリ
フェイスブックはおそらく、2013年にフェイスブック・ホームという独自アプリでモバイル市場に参入しようとしたのを忘れたいと思っているはずだ。これは特別な携帯電話アプリだったのだが、1カ月で値段を99ドルから99セントに引き下げねばならなかった。
おそらく同社は、検索エンジンのグラフサーチ、写真共有アプリのフェイスブックポークやその後継スリングショットもなかったことにしたいだろうし、さらにフェイスブッククレジット、フェイスブックディール、フェイスブックオファーも忘れたいだろうし、フェイスブック通貨のリブラについても同様だ。
アマゾンもまた、市場に受け入れられずに投げ捨てるしかなかったプロジェクトを大量に擁している。たとえば独自のファイアフォン、写真サービスのスパーク、ゲームのクルーシブル、アマゾンウォレット、ファッションや赤ん坊製品を販売していた子会社、さらにオークションサイト、食品配達、チケット販売、旅行代理店、ポップアップ店舗などがあった。
■グーグルグラスは「あの人は今?」状態
グーグルの新規分野参入能力は、ソーシャルネットワークには通用しないようだ。同社はオーカット、グーグルバズ、グーグル+をつくっては潰した。同社のパクリ版ツイッターであるジャイク、位置情報サービスのドッジボール、百科事典ノル、ゲームのグーグルライヴリーと最近のグーグルステイディア、ワークツールのグーグルウェーブ、メディアプレーヤーのネクサスQ、デジタルディスカウントブックレットのグーグルオファーも同じ運命に見舞われた。そしてあれほど話題になったグーグルグラスはいまや「あの人は今?」フォルダにぶちこまれている。
アップルは、スティーブ・ジョブズが復帰するまではほとんど消えかかった企業だったが、彼の配下ですら同社はいくつかヘマをしでかした。たとえばソーシャルネットワークのピング、ステレオスピーカーのiPodハイファイ、スマートスピーカーのホームポッドや、接続用のファイアワイヤー(確かにUSBよりも能力は高いが値段が高すぎる)などだ。
最も恥ずかしいのは、おそらくアップルの地図アプリ発表で、その第1世代はあまりにバグが多くて不完全だったため、CEOティム・クックが謝罪して、怒った利用者たちに競合製品を使うよう推奨しなければならなかったことだろう。
■成功する企業は新しい実験を絶えず行う
これらを含め、確立した企業がやらかしてきた実に多数の失敗については、何もおかしなことはない。失敗とはもっと賢い方法でやり直す手法であり、新しい教訓を学べるのだ。最も成功する企業は絶えず新しい実験を開始して、何がうまくいき何がダメかを理解しようとする。
そしてそれが重要なのだ。新製品や新サービスで成功するのは、その企業が大きいからではない――マーケティングに何百万ドルかけても、ちょっとダメな製品を発表したら、全方位的にバカにされる。
反対に、彼らがここまで大きくなったのは他の代替物よりも優れた製品やサービスをたくさん出して感謝されたからだ。マイスペースと比べて、フェイスブックは高速で広告も少なく、絶えず利用者たちのニーズに適応し続けた。グーグルがサービスを開始したとき、既存の3大検索エンジンは当の「ヤフー」や「アルタビスタ」を検索してもそれが自分の検索に引っかからなかった。
■企業の「失速」はあっという間
問題は、こうした企業がいつまで革新を続け、競合に負けずにいられるかということだ。
ほとんどの人が思うよりも急速に失速する可能性はあると思う。理由は簡単で、AOL、DEC、アルタビスタ、パーム、ブラックベリー、ノキア、ネットスケープ、ヤフー、マイスペース、コンパック、コダックが、どれもしばらくは最先端の地位を維持しつつ、技術パラダイムの次の変化に生き残れなかったのを見てきたからだ。ハッと気がつくと、他のでかい立派な企業がこの一覧に名を連ねることになるだろう。
残念ながら、そうした巨人たちの時代が終わってもその地位を安泰にしておく方法はある。パラドックスめいているが、その企業を抑える手法だとみんなが思っている「規制」である。
複雑な規制は、確立した企業ならば専門家の部門により対処できる固定費をつくり出す。だが従業員が少なくて資本も少ないスタートアップにとって、そうした規制は直接的な参入障壁となる。アメリカ経済についての研究では、市場集中が進むのは、規制が最も急増する産業部門だとされる。
■フェイスブックが競合他社を排除する「古臭い手口」
フェイスブックが、連邦通信品位法の第230条を廃止するのに再び関心を持つようになっているのは、この文脈で理解すべきだ。この条項のおかげで、アメリカのプラットフォームはコンテンツのモデレーションを行っても、他人が自分たちのサイトで公開するものについて、訴訟の心配をせずにすむのだ。
これがないと、プラットフォームはきわめて厳しいモデレーションを行うリソースを用意して、何ひとつうっかり表に出たりしないようにできない限り、ヘイトスピーチやハラスメントに対してすら対処できなくなる。
マーク・ザッカーバーグがこの条項廃止に前向きなのを見て、一部の人は彼が、フェイスブックはもっとしっかり監視されるべきだとようやく学んだのだと思った。実は、これは競合他社にとっての費用を上げるという古くさい手口の最新版というだけの話だ。
人々が投稿するすべてをほぼリアルタイムで読み、検討し、モデレーションするのは、巨大なインフラすべてと従業員6万人を擁するフェイスブックにとってすらきわめて高くつく。だがザッカーバーグにとってそれ以上に重要なのは、小規模のライバルたちにはまったく対応不能になるということなのだ。
マイスペースがこんな規制を導入するのに成功していたら、いまも君臨し続けており、ボノやトニー・ブレアはいまも同社のビーチパーティーに参加し続けていたかもしれない。
1つ私が恐れているのは、政府と大企業があまりに密着しすぎて、政府は企業にますます保護を与え、かわりに企業はそのときの与党政治家たちが好むように運営や行動を適応させるようになることだ。
社会のちがう領域の間には、ある程度の健全な敵対関係があるべきで、それぞれがオープンで分散化されたシステムの中で釣り合いを取るようにしなくてはならない。大きな政府と大企業が手を組んだら、小規模プレーヤーたちはひとたまりもない。
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米ワシントンDC拠点のシンクタンク、ケイトー研究所シニアフェロー。1973年スウェーデン・ストックホルム生まれ。ストックホルム大学にて歴史学の修士号を取得。著作は25カ国語に翻訳され、『進歩:人類の未来が明るい10の理由』(晶文社)は各国で絶賛をあびた。歴史学、経済学、統計学、進化生物学など幅広い領域の最新知見をもとに楽観的な未来を構想する、現代を代表するビッグ・シンカーの1人。前著『OPEN:「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る』(NewsPicksパブリッシング)で、『進歩』に続いて『エコノミスト』誌ブック・オブ・ザ・イヤー賞を連続受賞した。
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(歴史学者 ヨハン・ノルベリ)
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