「柳井さんのカリスマによるトップダウンとは真逆のところにある」元執行役員が明かすユニクロ"最大の強み"
プレジデントオンライン / 2024年11月3日 7時15分
※本稿は、宇佐美潤祐『ユニクロの仕組み化』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■ユニクロは企業価値創出力が半端ではない
「ユニクロ」は、みなさんにとってどんな存在でしょうか?
「LifeWear(究極の普段着)」を標榜しているユニクロは、みなさんの生活の一部になっているのではないでしょうか?
柳井正という創業経営者が率いて、日本だけでなく海外にもたくさん出店し、成長を続けている会社。服のリサイクルを積極的に行い、難民にリサイクルした服を届けている会社。ユニクロの名前を知らない人はほとんどいないと思います。
こうやってみなさんによく知られ親しまれているユニクロですが、ユニクロの本当のすごさを理解している人は少ないのではないでしょうか? ユニクロの何がすごいのか?
企業価値創出力が半端ではないのです。図表1は、日本の時価総額トップ10企業の時価総額とPBR、ROE、PER(それぞれ解説は後述)を比較したものですが、ユニクロを展開するファーストリテイリング(以後、FR。なお、本書ではわかりやすくするため特別の場合を除きFR=ユニクロとします。FRの子会社である事業会社のユニクロを示す場合は「事業会社ユニクロ」とします)は時価総額14.5兆円で第7位となっています(2024年8月23日時点)。
■30年前の売上の約100倍に到達目前
1984年に広島でユニクロの1号店を出して今年でちょうど40年ですが、地方の新興アパレル企業に過ぎなかったユニクロが、今やトヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループ、キーエンス、ソニーグループ、日立製作所、リクルートホールディングス、NTT、三井住友フィナンシャルグループ、信越化学工業といった日本を代表する企業と伍しているのは、本当に、素晴らしいことです。時価総額を比較していただければわかる通り、トヨタは圧倒的規模を背景に頭抜けていますが、2位以下は接戦で、さらに上位をうかがえる可能性もあります。
ここで留意いただきたいのが、企業価値・時価総額はユニクロにとって結果指標でしかないということです。後ほど詳しく述べますが、ユニクロは誰のためにあるかというと、お客さまのためにあるということが社員ひとりひとりに浸透しています。
お客さまの期待を超えることを懸命に追求し続けた結果、売上高は2023年8月期決算で約2.7兆円となり、3兆円を完全に射程にとらえています。これは同社の30年前の売上高の約400倍と、驚異的な成長を示しています。実際、日本の上場企業の売上高上位100社のうち、30年前と比較可能な企業の中で最も高い伸び率となっています。
■株式市場での将来の成長期待を示す指標「PBR」
時価総額で第7位ということだけでもすごいのですが、企業価値創出を因数分解して見てみると、ユニクロのすごさがもっとわかります。みなさんはPBRという言葉をご存じかとは思いますが、念のため説明しておきます。
PBRとは「Price Book-value Ratio」の略で株価純資産倍率です。時価総額÷純資産額で算出され、株価が一株当たり純資産の何倍まで買われているかを見る投資尺度です。
現在の株価が企業の資産価値(解散価値)に対して割高か割安かを判断する目安として利用されます。つまり、PBRが1倍を切っていると、今会社を解散する方が株主にとってはメリットがあるということになります。近年政財界でもPBR1倍を超すことの重要性がいわれています。
このPBRは、ROE×PERに因数分解できます。ROEは言うまでもなく自己資本利益率で、当期純利益÷純資産額で算出され、足元の収益性・資本効率の指標です。2014年に出された「伊藤レポート」で日本企業はROE8%を目指すべきという提言がなされ、その功罪についてはいろいろな意見がありますが、注目されてきた指標です。PERは株価収益率で時価総額÷当期純利益で算出され、当該会社の株式市場での将来の成長期待を示した指標です。
■リクルート、キーエンスを上回るPBR
ユニクロをこのPBR=ROE×PERの因数分解で日本の時価総額トップ10の企業と比べてみると(図表1参照)、PBRは6.56倍でリクルート、キーエンスを上回り1位、ROEは17.51%でリクルートについで2位、PERではキーエンスを上回り1位となっています。つまりユニクロは足元の経営効率が高いのみならず、将来の成長期待でも高い評価を受けているということです。
キーエンス、リクルートも似たような評価を市場からは受けていますが、他のトップ10に入っている企業は、ROEはそこそこ高いのですが、PER(将来の成長期待)が低く、ユニクロ、キーエンス、リクルートに比してPBRで大きく劣後していることがわかります。
つまり企業価値創出効率の劣後を規模で補い、絶対額としての時価総額を捻出しているということです。企業価値創出の効率性でいえば日本で時価総額トップ10企業の中でNo.1となっているのがユニクロなのです(もちろんスタートアップでもっと高いPBRの企業もありますが、時価総額トップ10という大企業のトップ・オブ・ザ・トップの企業の中で見ると、紛れもなくNo.1です)。
■日経平均を最も動かす銘柄になっている
このユニクロの企業価値創出力No.1を物語るエピソードとして、ユニクロは日経平均を最も動かす(寄与度が最も高い)銘柄になっているということがあります。図表2は2024年3月に日経平均が4万円を突破した直後の日経平均寄与度トップ5企業を示したものですが、ユニクロが10%強で1位になっています。今はAI(人工知能)ブームもあり、半導体関連の銘柄が全体を動かす傾向にありますが、そうした中でもユニクロの寄与度がAI関連銘柄を抑えてトップになっています。「日経平均はユニクロ平均」ともいわれるほどです。
ちなみにユニクロのPBR6倍超(7倍を超すことも最近はあります)は、日本企業においてトップクラスであるだけでなく、図表3に示したGAFAM(Google, Apple, Facebook, Amazon, Microsoft)と比しても、Appleの50倍超は別格としても、Googleを上回り、Facebook(現Meta)やAmazonとは遜色ないPBRであり、企業価値創出力は世界で見てもトップクラスにあります。
■強みの根源は「柳井さんの強烈なカリスマ」とは真逆のところにある
では、なぜ、ユニクロはこのような企業価値創出力No.1の経営が実現できているのでしょうか。おそらく、「創業者の柳井正さんがすごい」「柳井さんのカリスマ性によるものでは」と感じている人が多いのではないでしょうか。確かに柳井さんは、日本の産業史に名前を残す人でしょう。実家の山口県の小さな洋服店をグローバルレベルのSPA(製造小売業)に育て上げることは、柳井さんでなければできなかったはずです。
ユニクロの登場以前は商品の企画・生産・流通在庫に一気通貫で責任を持つ企業は日本には存在しませんでした。日本のアパレル業界はユニクロ以前と以後に明確に分かれます。
ただ、同社で柳井さんに直接仕えていた(そして怒られまくった)私からすると、ユニクロの強さは、柳井さんの強烈なカリスマによるトップダウンによるもののみではありません。むしろその真逆のところにあります。
■「特定の人に頼らない仕組みをつくる」最大の強み
特定の人に頼らない仕組みをつくって、事業を回す。それがユニクロの最大の強みであり、柳井さんが長年かけて取り組んできたことなのです。
側に仕えてしみじみ思うのは、柳井さんは本当に天才的な創業経営者で、右脳・直感・商売人としての嗅覚に優れた人だということです。ある日突然「バングラとニューヨークはつながっているんです!」と言われて面食らい、その後、真意・本質を聞いてなるほどと納得したような経験はたくさんあります。
その卓越した閃き・ビジョンを言語化・形式知化し、経営としての実行に移し、成果を出していくためには、組織としての仕組みがMUSTでその必要性を誰よりも認識されていたのが柳井さんなのです。
後ほど詳しい話をしますが、経営者として若いころから経営理念や経営の原理原則を自らの手で多く書き溜め、自らそれを教えることをやってこられた柳井さんの経営姿勢そのものが、ユニクロにとっての仕組み化の重要性を物語っています。
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UNLOCK POTENTIAL代表取締役CEO
東京大学経済学部卒業。ハーバード大学ケネディ大学院修了(政策学修士)。アーサー・D・リトル経営大学院修了(経営学修士、首席)。 1985年に東京海上に入社。米国留学を経て、戦略コンサルティング業界へ。ボストン コンサルティング グループ(BCG)ではパートナー、組織プラクティスの日本の責任者を務め、Organization Practice Awardを受賞。その後、シグマクシスを経て、2012年から2016年の間、ファーストリテイリングの経営者育成機関FRMIC担当役員を務めた。その後アクセンチュアの人材組織変革プラクティスのジャパン全体の責任者を経て、リード・ザ・ジブンを起点にした人材組織変革を手掛けるUNLOCK POTENTIAL(「人と組織の可能性を解き放つ」の意味)を設立。デジタルトランスフォーメーションにともなう人材組織変革、経営者人材育成、経営チーム変革、組織風土変革、新規事業創出等のコンサルティングおよび研修・講演を行なっている。
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(UNLOCK POTENTIAL代表取締役CEO 宇佐美 潤祐)
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