1人2000万円、年間16億円が「使途不明」で自由に使える…泉房穂が問う「ますます巧妙さを増す政治とカネの闇」
プレジデントオンライン / 2024年10月31日 16時15分
※本稿は、泉房穂『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
■政治と宗教の癒着は「票が欲しいから」
【泉房穂(以下、泉)】紀藤弁護士は統一教会問題で有名だけど、全国で弁護団をいくつも立ち上げられて、事務所を挙げて、膨大な資料を集めてこつこつやっていますよね。報道されているのは一部だけで、紀藤弁護士がやっている仕事って、みんなの知らないような、こつこつする仕事がベースですから。
【紀藤正樹(以下、紀藤)】泉さんとは、国会議員のときに一緒に、探偵業法を作ろうとして、当時探偵が非常に問題になったんですよね。探偵詐欺みたいなのが横行していた。泉さんが国会議員に落選した後の2007年に、探偵業法ができました。現在、それが有用に機能しているわけですけど、やはり「法律にないものを、形に変えて、今の制度設計にする」という作業は実はとても重要で、それがまさに国の形なわけですよ。
だから、統一教会の問題が起きたときに、なぜ統一教会と国会議員が癒着してしまうのか。あえて与党と言いませんが、癒着してしまうのは、やはりそこは「票が欲しいから」でしょう。票が欲しいからという理由は、「運動員が欲しいから」なんですよね。運動員というのは、逆に言うと、お金と同様な価値がある。政治家にとっては、人を雇わなくても来てくれるボランティアが多いほうがいいわけです。そうすると、ボランティアというものも、とくに組織ボランティアについては、その是非を問うべきではないかという気がするんですよね。
■石井紘基さんが暴こうとした「私たちが納めたお金はどこに?」
【泉】金と宗教と選挙の問題ですね。政治家からすると、金、つまり人件費で釣るか、宗教を味方につけるか。宗教だと、タダでやってくれるんですよ。実際政治家からすると、選挙対策として、金だとリスクが高いけど、宗教だとリスクは少ない。しかもかなり組織的にやってくれるから、国会議員の一部がやたら宗教と組みたがるのはリアリティーがあります。金を出さなくても動いてくれるし、なにかあったときに口も堅いし。組織防衛に走りますからね。
だから、政治と宗教がからんでくる理由は、選挙も大きいでしょうね。本当はそこを厳密にルール化しないといけないと思いますけど、放置されたまま来てしまっています。
これは「たられば」の話ですが、石井(紘基)さんが命を絶たれずに、闇を暴いていれば、お金の問題とか宗教の問題も、もうすこしルール化されていた可能性は高かった。その後、石井さんのような政治家がいなくなってしまって、私も反省しているんですよ。
石井さんが暴こうとした、特別会計のブラックボックス。「私たちのお金がどこに消えているか?」とか、政治と宗教との問題にしても、今も結局不透明なままなので、もう一回問いかけないといけないですね。
【紀藤】政治家のパーティーもそうだけど、政党助成金を作ったときに、どうして企業・団体献金を完全に禁止しなかったのか、まったく理解できないですね。石井紘基さんの言っていたことのいいとこ取りをして、「やってる感」を見せた上で結局、裏金が作れる構造になってしまっている。
■企業献金は官房機密費のような闇
【泉】本来は企業・団体献金の代わりに、「国民ひとりあたりコーヒー一杯分、二五〇円の負担」で政党助成金を作ったのに、企業献金を残してしまって。おまけに裏金ですからね。
【紀藤】一挙両得ですよね。
【泉】そう、焼け太りです。
【紀藤】本当にそんな感じなんですよ。だから、政党助成金を作って、本当はなくすはずのものが残ってしまうわけだから、両方あって得になってしまう上に、「寄附されたものは報告義務がない」となると、それは裏金になるというか、闇のお金になるだけなので。官房機密費のようなものじゃないですか。
【泉】そう、官房機密費と一緒ですね。
【紀藤】官房機密費と同じような図式のものが個々の議員にできてしまうというのは、とても闇が大きい。だって裏金が二〇〇〇万円とかですよ。
【泉】闇が膨らんでいってる感じですね。
【紀藤】二〇〇〇万ものお金が自由に使えて報告すらしないって、びっくりしてしまうんですけど。
■報告義務のない二次法人の悪用
【泉】政策活動費も、各党の総計で年間一六億円(二〇二二年)ですからね。一年間に一〇億もの金を自由に使って、なにに使っても「使途不明」ですから。本当にルール化がなされていなくて、ブラックボックスがブラックボックスのまま、かえって巧妙になって、見えづらくなっている。
自分の反省も込めて言うと、石井さんの死をもって、当時石井さんと一緒にやっていた国会Gメンにしても追及の形は変わってしまった。石井さんは、公益法人の問題も追及していたんですけど、亡くなった後は、ほとんどやる人がいなくなってしまった。
【紀藤】特殊法人や公益法人は、予算の報告義務があるわけです。だけどその傘下の二次法人になると、もう報告義務がないものが多数出てくる。だから今、地方自治体でも二次法人が非常に多いじゃないですか。むしろ石井さんが闇を暴いたことで、「二次法人に報告義務はない」ということを知った人たちが……。
【泉】ああ、逆に。
【紀藤】特殊法人や公益法人の下に、いっぱい二次法人を作っている。港湾事業とか道路事業とか、大きなお金が動くところで、みんな上から下にどんどん落としているわけです。そのせいで以前より、お金の流れが見えにくくなっている。
■個人情報保護法で増えた「資料は出せません」
【泉】国民のお金がどう使われているか、わからないですね。あと最近は、あえて言いますけど、人材派遣会社のパソナなんかにも、地方自治体の場合もそうだけど、驚くほどの金を出すんですよ。だから、パソナが間に入っただけで、「パソナに出しました、以上」で、パソナに出した金額しかわからなくて、その後のお金の流れは一切わからない。
実際、中抜きがあったりします。過剰請求ですから、本来とまったく違う請求額を、自治体は払っているんですね。どこかの業者を間に噛ませて、その先のお金の流れをわからなくする。手口はかえって巧妙化していますね。
【紀藤】国政調査権についても、状況は変わりましたね。石井さんが国政調査権を行使して、各省庁から資料を入手していた時代は、個々の議員の特権として配慮されていました。だから、個々の議員が官僚を呼ぶと、比較的よく来てくれたんです。「資料を出せ」と言ったら出していた時代なんですよ。あのころはまだ牧歌的でした。
ところが、個人情報保護法ができたころ、だから二〇〇〇年以降ぐらいから、個人情報を理由に官僚も資料を出さなくなってきたのです。現在は国会議員でもなかなか資料を手に入れるのが難しくなってきています。「情報公開法と個人情報」はワンセットで、資料を出さない理由として使われています。「これは個々の企業から集めてきた情報なので出せません」とか、「市民のプライバシーがあるから出せません」「個人情報が含まれているから出せません」といった対応が、二〇〇〇年以降非常に増えてきたように感じます。いわゆる「不開示規定」ですね。
■ささいな情報すら公表しない役人の発想
【泉】情報「公開法」とは名ばかりのもので、行政が資料を出さない根拠にしている法律ですから、逆にブラックボックス化が進んでいますね。明石市長をしていたときも、私はさんざん資料を提出させましたが、ちょっとした理由で、すぐ黒塗りで真っ黒にしてしまう。なんの利害もないような、ささいな情報すら出しません。それはやはり役人の発想です。市長なのに「資料を黒塗りするな!」と言ったのは、私ぐらいですよ。
【紀藤】だからアメリカのような情報自由化法は絶対必要なんですよ。個人のプライバシーに配慮する個人情報保護法と、後世に情報を保存する情報自由化法はワンセットでしょう。
【泉】情報の公開も、時間をずらすとか要件化するのはありですよね。情報のすべてをオープンにすると不都合な場合は、五〇年後に公開するとか、後日検証できる状況にするだけでも違ってきます。今はもう完全にもみ消せる状況ですからね。
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前明石市長
1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、犯罪被害者等基本法や高齢者虐待防止法などの立法化を担当。2011年に明石市長に就任。特に少子化対策に力を入れた街づくりを行う。2023年4月、任期満了に伴い退任。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)ほか。
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弁護士
1960年、山口県生まれ。大阪大学大学院法学研究科博士前期課程修了。リンク総合法律事務所長。消費者問題や人権問題に積極的に取り組む。著書に『決定版 マインド・コントロール』(アスコム)、『カルト宗教』(共著、アスコム)など多数。
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(前明石市長 泉 房穂、弁護士 紀藤 正樹)
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