新聞10紙を読んでも、得られるものが少ない…若き日の小泉進次郎氏がメディアと距離を取り始めた"苦い経験"
プレジデントオンライン / 2024年10月30日 9時15分
■若い頃は「メディア嫌い」、では今は?
ワシントンD.C.で若き日の進次郎は「メディアは嫌い」という言葉を発した。
しかし、進次郎というスターを生み出したのはメディアであり、善きにつけあしきにつけ、進次郎とメディアは切っても切れない関係だ。では、進次郎は今、メディアをどう見ているのか?
2018年1月3日。横須賀市の少年サッカーチームの初蹴りに参加した進次郎は、地元でお正月を迎えたせいか記者の囲み取材にも、いつになくリラックスしたムードだった。ふだん進次郎の行く先には大勢の記者が詰めかけるのだが、この日は三が日ということもあってフジテレビを含め数人のこぢんまりとした取材になった。
取材は秋に予定される総裁選から、年末年始の過ごし方、今年の抱負など、お正月らしい質問が続き、進次郎は「今年は自分の時間の使い方を、変えないといけない。脱皮をしないと」などと話していた。
■新聞より好きな本のほうが読む価値が高い
そして、塩野七生さんの著作を読んだことに話が及ぶと、進次郎は「最近、新聞を読まなくなった」と語り始めた。
「最近は新聞を前ほど読まなくなったんですね、正直言って。どこどこ新聞だから読むということはもうないですね。署名記事でこの人だったらお金を出してでも読みたい、そういうのはありますけど。塩野さんの本は3000円なんですよ。読み終わった後に、もっと払いたいと思いましたね」
そう語りながら、進次郎は持論である新聞への消費税の軽減税率適用反対をあらためて力説した。
「これが本当の価値ある活字文化だと思いましたよ。軽減税率なんて関係ないね。消費税上がったって読む人は読みますよ」
初蹴りイベントで出された豚汁を食べ始めると、体が温まったのか、さらに舌鋒鋭くテレビや新聞に対する日頃の思いを語り始めた。政治家がメディアを相手にメディアについて言及するのは、ふだんはあまり見られない光景だ。
■「マスコミの世界も忖度がすごい」
「よく思うけど、マスコミの世界も忖度がすごいよね、本当にね。なんでそういうことは言わないのかね。すごくしがらみが多いじゃない。それを言わないで、政治の世界の忖度だけ悪く言うのって、視聴者ってそれを見透かしているからね。だから最近、既存のメディアが崩れかかってきているのは、そういうところもあるんじゃないかな」
「絶対、(新聞の軽減税率適用反対発言は)生放送の中で報じてくれないよ。メディアが忖度しているから。メディアがメディアを忖度しているから。こういう収録現場で言ってもね、まず流さないよね。現場の皆さんが報じたいと思っても、上は流さない」
進次郎は、自身を巡るメディアの狂騒とは距離を置いている。メディアに対して、冷めているのだ。
それは初選挙のときに世襲批判で大バッシングを受け、その後、手のひら返しをされた実体験があるからだ。
■好意的な報道は「バッシング」の前兆
「あのとき(2009年の衆議院選挙)、世襲批判でクソミソですよ。いいときに祭り上げられる映像は、将来叩き落とされるために使われるんです。それを痛感したのが、10年ぐらい前でした。だから一喜一憂しなくなりますよ。良く報じてもらえるときは、叩きつぶされるスタートだなと思います」
「メディアに関わる人たちは、メディア自体が権力だということを自覚していない人が多いんじゃないかなと思います。よくメディアの仕事は権力に対する監視とチェックだと言うけど、じゃあ、そのメディアは権力じゃないんですか。メディアってすごい権力ですよ。つぶせますよ、人を。誤解を恐れずに言わせてもらえば、人を殺せますよ、メディアは。社会的に、政治的に。
そのことを、自覚していないのか、自覚をしていないふりをしているほうが都合いいからそうしているのか。どちらかは皆さんしかわからないですけど、メディアっていうのは恐ろしい生き物ですよ、本当に。一度、空気がつくられたら、嵐が過ぎ去るのを待つしかないぐらいね、あの空気のつくり方はすごい。怖いですよ。その恐れがないとね、生きていけない、政治では。だって、できますもん、『コイツをつぶそう』って、つぶせますから」
「人気もつくれますし、メディアが。だからそういった意味でね、ある意味すごく冷めていますよ。あれだけ世襲批判で叩かれた後に、週刊誌の特集が『世襲こそは革新を呼ぶ』。そういう特集やられたときはね、まあ、椅子から転げ落ちそうになりましたよ。今ではいいネタをもらったなと思ってます(笑)」
■新聞10紙から得られる学びはあまりに少ない
前述のように、進次郎は最近、テレビを観たり新聞も読んだりしなくなったという。
「(テレビは)本当に観なくなった。お兄(孝太郎氏)とムロ(ツヨシ)さん(※俳優。小泉家と家族ぐるみの付き合い)の出ているのは観るかな(笑)。人によって『観る、観ない』を決めていますね。
実はね、新聞10紙を読むのもやめたんですよ。時間の使い方を変えようと思って。読み終わった後に、残っているものがあまりにも少ないということに気づきましたね。だったら、塩野(七生)さんの本を読んだほうが、時間の使い方としてよっぽど学びがある。本当に考えているんです。何のために時間を使うべきか使わざるべきか。何をやるべきかやらざるべきか。運動は健康のためにやるべきですね(笑)」
さらに記者の取材手法についても、進次郎は冷静に見ている。
「もともとシナリオができていて、そこに合ったコメントだけを拾いたくて。質問する方々も、『テストの穴埋め問題』みたいに、もう既にできあがっていて、その穴埋めに入るコメントだけが欲しいと。そういう聞かれ方って、わかるじゃないですか。そういうのだと、なかなか伝わらないものってありますね」
■「オン・オフ」がない大変な世界
「予想しない角度からの質問が、あまりないですよね。たぶん、皆さんもわかっているんだろうけど、恒例行事だから聞くか、ぐらい。さっきの自民党総裁選についての質問もそうでしょう。恒例行事だから、まあ。それをお互いわかっている、腹芸をやっている。正直言って、そういう感覚にも冷めている部分というのはありますよ」
進次郎は2018年3月25日に行われた自民党大会でも、記者の取材方法に言及している。
「基本的に僕は全部オンだと思っているんですからね。最近は怖いですよ。(記者が)こうやって『ありがとうございました』と言ってエレベーターの中まで来て、その中でも(レコーダー)回っていたりするからね。しかもそれがメモで出回るしね。さらに大手メディアから週刊誌に回ったりするからね。もうオフレコなんてないと思わなきゃ。じゃないとこの世界は生きられない、と思って話しているだけなんで、あまりオン・オフという感じじゃないです。大変な世界だね」
■オフレコなしでメディアと渡り合った父
「オン(レコ)」というのは政治家や記者がよく使う言葉で、オン・ザ・レコードの略だ。記者会見などで、記録・報道されることを前提に話すことをオン、記録や公表しないことを前提に話すのは「オフレコ」という。
記者はオフレコと約束して取材している際も、自身の備忘録のためにメモを取ったりレコーダーを回したりするケースがある。さらにその音声データや記録メモが外部に漏れることもある。
進次郎のこうした姿勢は、メディアの特性を熟知していた父・純一郎氏の姿を思い起こさせる。純一郎氏は、「小泉純一郎にオフレコなし」を当選1回のときから貫いたと言われている。つまり、「話したことは何でも書いていい、書かれたくないことは話さない」というスタンスだ。
その後、総理になった純一郎氏は、当時では画期的だったメールマガジン「らいおんはーと」や一日2回のぶら下がり取材などで、継続的に国民に向けて「オン」で情報発信した。進次郎は、父・純一郎氏と同じ「オフレコなし」のスタンスで、メディアと渡り合っていのだ。
■小間使いのような総理の番記者に苦言
進次郎は2018年4月11日に行われた新経済連盟(※主にIT企業などが参加する経済団体)が主催するイベントで、総理の番記者のあり方についても持論を披露した。
「新入社員を総理の番記者にするのをやめたほうがいい。世界のどこで新人がその国の最高権力者の番記者をやりますか。アメリカの大統領のプレスコンファレンス(記者会見)で質問する人は限られているんです。
あの重鎮の(記者の)方が手を挙げたということに、政治家側も敬意を持ちながら、『さあ、どんなことを突かれるか』と。そういう健全な緊張感のある関係があるべき姿だと思います。僕ら政治家だって総理に話を聞く機会は限られます。記者は権力者に一番近い。
なのに、質問するチャンスがあっても、聞く内容はデスクとかから、『これを聞いてこい』と言われていることを聞く。これだったら意味ないじゃないですか。だから私は報道機関の方と会うたびに、『一番変えてもらいたいのは、総理の番記者を経験のある政治の知識を持っている方にやってもらえないですか』と言います。
しかし(報道機関の方は)、『いやあ、総理についていくのは大変だからね』と言ったんですよ。総理、何歳ですか? 60歳超えているんですよ。こう考えたときに今の(番記者の)あり方というのは、もう一回考え直すことが必要だと思いますね。圧倒的に大事なことです」
至極、正論である。
進次郎は今、政治だけでなく、メディアのあり方にも一石を投じている。
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ジャーナリスト・フジテレビ解説委員
北海道函館市生まれ。神奈川県立小田原高校、早稲田大学政治経済学部卒。農林中央金庫を経て、1992年フジテレビに入社。政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現在解説委員。教育、人権問題をライフワークとして取材。FNNプライムオンライン、教育新聞、東洋経済オンライン他で執筆中。2022年、第4回ソーシャルジャーナリスト賞受賞。著書に『小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉』(扶桑社新書)、『日本のパラリンピックを創った男 中村裕』(講談社)、『日経電子版の読みかた』(プレジデント社)、共著『世界標準の英語の学び方』(学陽書房)、編書『日本人なら知っておきたい 2020教育改革のキモ』(扶桑社)。大学でメディアリテラシー、ジャーナリズムの講義を行う。映倫の次世代への映画推薦委員。はこだて観光大使。趣味はマラソン。2017年にサハラ砂漠マラソン(全長250キロ)を走破。2020年早稲田大学院修了。
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(ジャーナリスト・フジテレビ解説委員 鈴木 款)
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