「こちらの書類にサインを…」支払い延滞の常習犯だった取引先の態度がみるみる変わった敏腕営業マンの秘策
プレジデントオンライン / 2024年11月5日 9時15分
※本稿は、生駒正明『なぜかうまくいく交渉術』(秀和システム)の一部を再編集したものです。
■取引先がなかなか売掛金を払ってくれない
「取引先が売掛金を払ってくれない」「なかなか期日を守ってくれない」といった経験がある方も多いのではないでしょうか?
私が若い頃は、きちんと納品しているにも関わらず、取引先に約束通り払ってもらえず、売掛金の支払いが滞るケースが多々ありました。営業の仕事は売掛金を回収するまでだと指導され、根気よく回収の交渉を続けたのでした。
しかし、当時私が若かったこともあり、相手に真剣に対応してもらえないことも少なくありませんでした。
前任者から引き継いだ取引先は、毎月、滞留売掛金リストに挙がる問題のある会社でした。そこで、私は問題になっている点を洗い出し、時間をかけてでも一つひとつ解決していくことにしました。
まずは、納品書を再確認し、相手の受領印があることを確かめました。
私は、相手に支払いをさせるために、私の上司への報告書という形にして、相手にサインを求めることを思いつき、実行しました。
その書類には「商品を確かに受領しているので、契約どおり支払いを行う」と明記しておきました。
相手には、「上司に叱られるので、これにサインをしてください」とていねいに依頼し、サインをもらうことに成功しました。
それでも支払いは行われません。そこで私は、その書類を持って再度訪問し、「過去のことはさておき、私はこの案件を引き継いだ者です。この書類はあなたがサインしたものです。ここに書かれている通り、支払いをしてください」と言いました。
さらに、「これはあなたの正式なサインがある書類ですので、社内法務部への報告に使用させていただきます」と伝え、プレッシャーをかけました。本当は法務部への報告などはないのですが。
その後も、支払いが行われない場合、再度訪問し、「先月の支払いがまだ行われていません。このままでは大きな問題になります」「今月の支払いも同様に遅れることがあれば、さらに深刻な事態となります」と強調しました。
すると、次第に相手もプレッシャーを感じ、最終的には支払いが行われたのでした。
■一気に解決しようとせず一歩ずつ進める
この経験で功を奏したのが、一気に問題を解決しようとせず、一歩ずつ進めるという作戦です。
まずは、書類にサインをさせる。
次に、相手に責任を感じさせる。
そして、大問題になるとプレッシャーをかける。
こうして、諦めずに何度も足繁く通い続け、相手にプレッシャーを与えることで、滞留売掛金の回収に成功したのでした。
粘り強さと戦略的なアプローチが、どのような困難な状況でも、突破口を開く鍵となることを学びました。
・いきなり支払いを迫るのではなく、サイン取得から始め、一歩ずつ進めて回収に成功。
・時間をかけて粘り強く問題を解決していくための戦略が必要。
■起こしてしまったクレームの金額を最小限に抑えたい
ビジネスではどんなに気を付けていても、ミスが起きてしまうこともあるものです。
そんなとき、クレーム対応に追われた経験のある人も多いでしょう。ミスの影響を最小限に抑えるにはどのような対応が必要になるのでしょうか?
私のクレーム対応でのエピソードをもとにポイントをお伝えします。
あるとき、取引先への製品納期が遅れてしまう問題を起こしてしまいました。クレームになる可能性が高く、このままでは大きな損失が出るかもしれないと感じました。
翌朝、私は始業前に相手の会社の前に立ち、直接謝罪しようと決意しました。
早朝の冷たい空気の中、相手の担当者が出社してくるのを待ちました。担当者が到着すると、私はすぐに駆け寄り、深々と頭を下げて謝罪しました。
担当者は困惑しながらも、私の真摯な態度を受け入れてくれました。「本当に申し訳ありません。まずは、今からできることすべてを行い、後れを最小限に留めます」と約束しました。
そして、「今後このようなことが起きないように致します」と伝えました。
相手からは叱責を受けましたが、私の誠意ある謝罪に対して、少しだけ態度を和らげてくれました。
その場で、私は今からできる最善の方法、すなわち、納品を最短で行うための具体的な提案をしました。
残業体制を敷く、仕上げや検品作業を協力企業で行う、納品は特急便を使うなど、製品の品質を保証した上で、今できる可能な限りの対応を迅速に手配しました。
そして、納期遅れを最小限に抑えるこれらの方法を説明したのです。「これ以上ご迷惑をおかけしないよう、最善を尽くします」と再度誓いました。
■クレーム対応には迅速で誠実な対応が不可欠
「何とかしなければ大クレームになってしまう」と最初こそ、クレーム金額を抑えなければという気持ちがありましたが、いつの間にか、それは消えていました。
それよりも、「とにかく、取引先にこれ以上迷惑はかけられない」「できる限りのことをして挽回したい」という気持ちだけで動いていました。
結果的に、この対応を取引先が評価してくれて、お咎めなしになりました。
この経験から学んだことは、クレーム対応には迅速かつ誠実な対応が不可欠であるということです。問題が発生した際に、逃げるのではなく、全力で向き合い、相手の立場に立って行動することが大切です。
この失敗から得られた、クレームを起こしたときの対応のポイントは以下のとおりです。
迅速な対応 問題が発生したときには、すぐに行動を起こすこと、できるかぎりのことを行うことが重要です。時間が経つほど、相手の不満は大きくなります。
誠意を持った謝罪 問題を真摯に受け止め、直接会って謝罪することが必要です。電話やメールでは伝わらない誠意が、対面では伝わります。
具体的な解決策の提示 謝罪だけではなく、具体的な解決策を提案することで、挽回を図ります。どのように問題を解決するのか、具体的な手段を示すことが重要です。解決に向けての本気度は相手に伝わります。
相手の立場に立つ 相手が被る不利益を最小限にするために、全力を尽くす姿勢を見せることが大切です。相手の話をよく聞き、今からできるすべてのことを行うのです。信頼関係を取り戻す努力をするのです。
クレームが発生してしまうことは避けられない場合もありますが、その後の対応次第で、損失を最小限に抑えることができます。常に相手の立場に立ち、誠意を持って対応することが大切です。
・クレームを起こしたときのポイントは、「迅速な対応」「謝罪」「解決策」「相手の立場」。
・最も大切なことは「本気で、できる限りのことをすべて行うこと」によるリカバリー。
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ビジネス交渉コンサルタント
ビジネス交渉戦略研究所代表取締役。慶応義塾大学商学部卒業後、丸紅に入社。国内外1万件の交渉に携わった33年間を経て独立。総合商社の現場で培った交渉ノウハウを「交渉準備の7ステップ」に体系化し、交渉力強化により企業の売上や利益を劇的に向上させる”ビジネス交渉コンサルタント”。商社時代にプロライセンスを取得した元プロボクサー。著書に『ビジネス交渉力の鍛え方』、『なぜかうまくいく交渉術』がある。
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(ビジネス交渉コンサルタント 生駒 正明)
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