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他人に大金を費やす「推し活」は間違っている…死の淵に立ったブッダが説いた「正しい推し活」のあり方

プレジデントオンライン / 2024年11月9日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kiramogilenskikh

アイドルや歌手、キャラクターなど自分の「推し」を応援する人が増えている。福厳寺住職でYouTuberの大愚元勝さんは「推し活がエスカレートして他人に依存しすぎてしまうのは危険だ。金銭的にも精神的にも疲弊してしまっている人に、お釈迦さまの言葉を届けたい」という――。

■「推し活」の広まりに嫌な予感…

初めて「推し活」という言葉を知ったのは、相談者の手紙からだった。

私は10年ほど前から、YouTubeで「大愚和尚の一問一答」という悩み相談番組を配信している。そこに寄せられた15歳の女子高生からの相談の中に、「私には誰も{推し}がいないのですが、こんな私はおかしいのでしょうか」というものがあったのだ。

「新型プリウス」を意識した瞬間に、やたらあちこちで新型プリウスを見るように、何かを認識した途端に自然とその情報が目につくようになる現象を「バーダー・マインホフ現象」と呼ぶそうだが、まさにその通り。

「推し活」という言葉を知ってからというもの、手にとって眺めた新聞や雑誌などの記事文中に、やたらと「推し活」という言葉が目につくようになった。また、「一問一答」にも、先の15歳女子高生からの相談と類似した相談が次々と届くため、「推し活」なる言葉の定義や、それが使われるようになった歴史をネットで調べてみることにした。

そして、「推し活」について何となく感じていた、嫌な予感が的中していることを知った。

■もともとはアイドルオタク界隈の俗語

ネット上で調べていくうちに、株式会社ニッセイ基礎研究所、生活研究部研究員の廣瀬涼氏が書いた「推し活を知る」と題する記事を見つけた。

廣瀬氏によれば、推しとは「ほかの人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物」だという。

「推し」は、1980年代ごろからアイドルオタク界隈で発祥した俗語とされており、「推し活」は「推し」から派生した言葉だそうだ。1995年に産経新聞で「就活」という言葉が使われ、2000年版の『現代用語の基礎知識』(自由国民社)に採用されて以降、「婚活」、「朝活」など、○○活という言葉が世の中に定着してゆく。

■お金や時間をどんどん費やしてしまう心理

その後、2012年にアニメ『アイカツ!』が始まると、アイドルとオタクの親和性から、ライブに行ったりグッズを買ったりするなどの活動が「オタ活」として知られるようになり、自分が推すアイドルをさまざまなかたちで応援する「推し活」が浸透。2021年には「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるようになったという。

そこにAKB48が登場。「会いに行けるアイドル」としてオタクと直接交流をする機会が増えると、オタクがメンバーを「推し」、アイドルが「推される」という相互関係が注目されるようになった。2012年以降、彼女たちの序列を決める総選挙がゴールデンタイムにのテレビ中継されるようになり、「推し」が広く一般に知られるようになった。

さらにその推し活に「オタ活」的要素が加わってゆく。従来の「ファン」という側面に加えて、「どれだけ“推し”にお金や時間をたくさん費やしたか」という、マニアやコレクターとしての意味合いが加わっていったのだ。

お金が多い写真
写真=iStock.com/shirosuna-m
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shirosuna-m

■「推しのために生きる」までエスカレート

どんなことでも、過ぎたれば必ず問題を引き起こす。

たとえそれが本人の生活や人生に支障を来たすほどの「推し活」であったとしても、学校や会社、仕事に対する優先順位やモチベーションが低い人、未来への夢や希望を見いだせない人にとっては、目の前の「推し」に消費を積み重ねていくことがご褒美となり、日々の活力や安寧感にもつながるという。

それは真の活力でも安寧感でもなく、一時的な高揚感と幻想でしかないのだが、「推し活をしている間はツライ日常を忘れることができる」「推し活のためにしたくない仕事を続けられる」というように、推しへの消費そのものが自身を励ますことや甘やかすことにつながるため、「推しのために生きる」という者まで出現するようになった。

■親のクレカで700万円を費やした女子高生

さらにテクノロジーの進化が、「推し活」を悪き方向へエスカレートさせてゆく。

配信機能の充実や配信アプリの普及により、ライブ配信やSNSなどでファンが推しに対して送金する「投げ銭」と呼ばれる「推し活」が流行し始めたのだ。

投げ銭は、推しであるアーティストにもほかのファンにも認識されるオープンな場所で行われるため、特別感を味わうことができる。自分が投げ銭をすることで推しから名前を呼んでもらえる、感謝の言葉をもらえる、優先的に質問に答えてもらえるなど、推しが自分に注目してくれることで、エゴが強烈に満たされるのだ。

また、高額であればあるほど推しが注目してくれるために、投げ銭額は当然のごとくエスカレートしてゆく。かくして消費生活センターに寄せられた相談のなかには、親のクレジットカードを使って700万円もの投げ銭をした女子高校生もいたという。

廣瀬氏はこの記事の締めくくりとして「推し活は、他人の人生に自身の生きがいを見いだす行為でもあります。現実社会がつらいから推しを消費するというマインドが強くなるほど、依存性が増し、その対象を「消費」をすることそのものが自身への救済につながるという感覚も強くなってしまうのです」と、エスカレートした推し活に警鐘を鳴らしている。

■行き着く先は「法で裁けないカルト」

「推し活」の対象は何もアイドル、アーティストに限らない。俳優や韓流スター、アニメやホストやホステス、政治家や宗教に至るまで、本人の経済力に見合わない推し活は、「推す者」の生活や人生に支障をきたす。

さらには、「推される者」をもカルト化させてしまう可能性を秘めている。「推し活」がビジネスとして莫大な富を産むなら尚更だ。

人々は大きな輝く円を見る
写真=iStock.com/NiseriN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NiseriN

決して違法なことを行なっているわけでもなく、メディアでも憧れとして注目を集めるインフルエンサーの中にも、カルト的な推しが散見される。

カルト化したインフルエンサーは対象者をマインドコントロールし、その行動や思想、考えることを停止させ、操り人形化する。推している側も、推されている側も、「これはおかしい」「行き過ぎだ」と、反省する思考を停止させてしまうのがカルトなのだ。

■推すべき対象は、他人ではなく自分自身

最後に、本当に推すべき対象を教えてくれる、ある賢者の教えを紹介したい。

それはお釈迦さまが晩年、長年付き人として連れ添った弟子、アーナンダに語った言葉だ。

病を患い、自らの命が永くないことを悟ったお釈迦さまは、「お釈迦さま亡き後、誰を拠り所にすればいいのか」と言うアーナンダの問いに、こうお答えになった。

「私を拠り所にするな。自分自身を拠り所とせよ」と。

そう、お釈迦さまは弟子たちが自分に依存することを厳しく戒めたのだ。

いつまでも「お釈迦さま推し」を辞めない愛弟子に、本当に推すべき対象は、自分自身であることを諭されたのだ。

私たちの心には、いつも不安感や孤独感がある。誰かを推すことで、そんな不安や孤独が紛れることも確かだろう。しかし「推し活」に疲れた時は、思い出してほしい。

あなたが本当に推すべき対象は、他の誰でもない、あなた自身であることを。

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大愚 元勝(たいぐ・げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数57万人、1.3億回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『思いを手放すことば』(KADOKAWA)、『自分という壁』(アスコム)などがある。

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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)

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