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「もっと値段を下げさせろ」取引先の理不尽な要求を突っぱねるために若手営業が使った"奥の手"

プレジデントオンライン / 2024年11月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

一度は合意した条件に対し、相手から無理な交渉を迫られた場合は、どのように対応すればいいのか。ビジネス交渉コンサルタントの生駒正明さんは「『これ以上は対応できない』というラインを定め、確固たる意志で対応することが重要。その説得力を増すためには、交渉相手と自分だけではなく、関係者など外部にも影響が及ぶことを説明することも必要だ」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、生駒正明『なぜかうまくいく交渉術』(秀和システム)の一部を再編集したものです。 

■受けられない無理な値引きを要求された

ときには「相手先から無理な交渉を迫られた」ということもあるでしょう。こちらとしては受け入れられないが、相手も強気で聞く耳を持ってもらえない……そんなこときはどう対応すればよいのでしょうか?

私がアパレル会社との取引時に経験したエピソードから対応のポイントを紹介します。

私は当時、生地を素材メーカーから仕入れ、それを縫製工場で製品にし、アパレル会社に納めるという仕事をしていました。そのアパレル会社は、生地価格を下げさせれば、製品の単価も下がるだろうと、私に圧力をかけてきたのです。

アパレル会社で打ち合わせをしていたとき、先方から、「縫製工場の工賃がこれ以上下がらないなら、素材の価格をもっと下げさせろ」と厳しい要求をされました。

さらに、「できないなら、私が直接素材メーカーと話をする」とまで言われました。

この無理な要求に対して、私は強く断る決意をしました。

一度決めた生地価格に対して、理不尽な値下げを受け入れるわけにはいかないと考えたからです。これは、素材メーカーを守るためでもありました。

その担当者が直接電話をしないように、目の前で、私が素材メーカーの担当者に電話をかけたのです。

「今、アパレル会社で打ち合わせをしています。納期については問題ないですか?」「価格についてですが、もうこれ以上は無理ですか?」「わかりました。できないということですね、了解しました」と小芝居のような会話を一人で続けたのです。

電話先の素材メーカーの担当者はすぐに状況を飲み込んでくれたようでした。

私の電話を聞いていたアパレル会社の担当者は、私と素材メーカーの関係性やギリギリで進んでいる納期の状況を理解したようでした。

■毅然とした態度で対応する

電話を切ったあと、私は毅然とした態度でアパレル会社の担当者に言いました。

「これ以上の値引き要求は、納期に影響を及ぼす可能性が出てきます。私たちはすでに決めた価格で進めているので、さすがに無理があります。これ以上の生地価格の値下げ要求はどうかと思います」と説明しました。

担当者は少し言いすぎたと思ったのか、反省の表情を見せ、事なきを得ました。

この経験から学んだのは、「これ以上は対応できない」というラインを定めて確固たる意志で対応することの重要性です。また、説得力を増すためには、交渉相手と自分だけではなく、関係者など外部にも影響が及ぶことを説明することも有効です。

ただし、相手とのそれまでの関係性の中で、ここまでなら大丈夫という読みを瞬時に行い、実行しなければなりませんので、注意が必要です。交渉は正当性を主張すればいいというものでもないので、難しいところです。

信念を貫きながらも、実利を追求しましょう。それが交渉です。

POINT
・無理難題には確固たる対応で臨むことも必要だが、やりすぎには注意。実利が大事。
・相手がなかなか受け入れてくれない場合は、関係者など外部への影響も説明。
スマートフォンで話しているビジネスマン
写真=iStock.com/Prostock-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Prostock-Studio

■どうしても納期を短縮しなければならない

価格交渉だけではなく、納期の問題に悩まされるという人も多いでしょう。特に製造から販売までのプロセスの多い仕事では、一つのプロセスでのトラブルが他にも影響を及ぼすため、常に納期に気を配っておかなくてはいけません。

私も商社でアパレル関係の仕事をしていたときは、納期に関わる交渉をすることがよくありました。特に、初めからギリギリの納期が設定されるケースが多いため、少しの遅れが大きな問題を引き起こすこともありました。

私の通常の仕事はこのような流れで行っていました。

まず生地を発注し染色加工を行います。その染色が終わった生地を縫製工場へ投入します。刺繍やプリントがある場合は、縫製の途中でその加工を行います。

このように、多くのプロセスがあるため、どこかで遅れが生じると全体に影響が出てしまうのです。

あるとき、生地の納期が遅れるという問題が発生しました。生地を染める過程で、不良が見つかり、再加工が必要になったのです。

再加工には時間がかかるため、このままでは製品の納期が間に合わなくなります。

そこで、私は素材メーカーとの交渉にあたり、東京事務所ではなく、現場である地方の染工所に直接交渉をしに行ったのです。

■ミスは責めずに丁寧にお願いする

染工所に到着すると、担当者に遅れられない事情を説明し、あえて相手の加工ミスは責めずに、再加工の納期を短縮してもらえるようにていねいにお願いしました。

1日かけて現場で粘り強く交渉した結果、納期を短縮することに成功したのです。

これは、私が現場に出向き、直接交渉したからこそ得られた結果です。電話やメールでは、このような結果にはならなかったでしょう。

現場での真剣な姿勢と緊迫感が、担当者に伝わったのです。

「予測できないトラブルが起きるのはしかたないが、納期を詰めてもらわないと帰れない」という強い覚悟で臨んだ結果、相手も動いてくれました。

問題が起きたときには、柔軟な発想と迅速な行動が求められます。どんなに困難な状況でも、諦めずに最善を尽くす姿勢が相手を動かすのです。

POINT
・トラブルはつきものだと覚悟を決めて、臨機応変に対応することが重要。
・難航しそうな場合には、現場での直接交渉で誠意を伝えることも効果的。

■厳しい案件でも引き受けてしまう取引先

これまで取引先や交渉相手へのアプローチ方法についてお伝えしてきましたが、視点を変えて、「この人の依頼であれば受け入れてしまう」「この人となら一緒に仕事がしたい」と思えるのはどんな人かについて考えてみたいと思います。

相手先からこのように思ってもらえるようになることは、交渉上手になるためのヒントになるはずです。私が若い頃にとてもお世話になった取引先の方とのエピソードをもとに考えてみましょう。

その方は、いつも訪れるたびに面白い話や役に立つ話をしてくれる人生の先輩のような存在でした。自分の仕事に関わる人たちすべてに、心から感謝している人でした。

誰に対しても謙虚な姿勢で接し、「私は一人では何もできない」が口癖でした。しかし、仕事に対してはとても厳しく、無理難題ではないものの、価格的にも納期的にもギリギリのところを要求されることが多かったのです。

■周りから応援される力も「交渉力」

あるとき、とても納期が厳しい案件を依頼されました。この仕事は、自社だけでなく、デザイナー、素材メーカー、縫製工場の協力を仰ぎながら全力を尽くしてやっと間に合う価格的にも厳しい仕事でした。

生駒正明『なぜかうまくいく交渉術』(秀和システム)
生駒正明『なぜかうまくいく交渉術』(秀和システム)

それでも、その方から頼まれると不思議と断りたいとは思えないのです。

その方は、周りを巻き込む力を持っていました。同時に、周りが応援したくなる魅力も持っていたのです。

結果として、私はこの案件を引き受け、関係者全員の協力もあり無事に成功させることができました。

相手によって、自分の気持ちや仕事に対するやりがいも変わってきます。やはり、信頼関係のあるパートナーと一緒に仕事をすることは楽しいのだと実感しました。

このように、周りから応援される力も交渉力と言えるのではないかと考えています。周りから応援され、一緒に仕事をしたいと思える人は、普段から人から信用される行動、振舞いを自然に行っているものです。このエピソードは、仕事をする上で何よりも大切なのは「信頼関係」であることを教えてくれました。

POINT
・信頼関係のあるパートナーとの仕事は厳しくても不思議と引き受けたいと思えるもの。
・周りから応援される力は、一種の交渉力と言える。

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生駒 正明(いこま・まさあき)
ビジネス交渉コンサルタント
ビジネス交渉戦略研究所代表取締役。慶応義塾大学商学部卒業後、丸紅に入社。国内外1万件の交渉に携わった33年間を経て独立。総合商社の現場で培った交渉ノウハウを「交渉準備の7ステップ」に体系化し、交渉力強化により企業の売上や利益を劇的に向上させる”ビジネス交渉コンサルタント”。商社時代にプロライセンスを取得した元プロボクサー。著書に『ビジネス交渉力の鍛え方』、『なぜかうまくいく交渉術』がある。

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(ビジネス交渉コンサルタント 生駒 正明)

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