反対意見への反応で即バレる…医師・和田秀樹「頭が悪い人の典型的な反応、知性と品格感じさせる人の物言い」
プレジデントオンライン / 2024年10月26日 10時15分
※本稿は、和田秀樹『脳と心が一瞬で整うシンプル習慣 60歳から頭はどんどんよくなる!』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■「そういう考え方もあるね」と言える人には、知性と品格がある
物事を自分なりに解釈したり、反論を展開したりするのは大切なこと。ただそのときに大切にしていただきたいのが、「自分の意見が絶対に正しい」という決めつけは持たないということです。
物事の本質をとらえようとするとき、たった一つの答えを追い求め、ほかの考え方は「不正解」として取り除こうとする方は多いと思います。私にもそういった時期はもちろんありましたが、50歳くらいからその考えを手放すようになりました。
どちらが正しいのかなんて、本当のところはわからないのです。だからこそ、さまざまな可能性があるのだと受容することが大切なのであって、そのように多面的に物事を見ることができる人は、知性と品格を感じさせます。
いろいろな選択肢を踏まえたり、多彩な解釈を展開できたりする人は、人間としての幅が広く見えるのです。
たとえば私は精神科医ということもあって、大きな事件が起きたときなど、メディアからその犯人の人物像の分析を依頼されることがあります。
マスコミとしては、「この人はこういう人で、だからこの事件につながった」という単純明快な答えを期待しているのだと思いますが、私は最低でも10個くらいの可能性を挙げ、多角的に意見を述べるようにしています。
医師として、「この人はこうです」と、人のパーソナリティを決めつけて断言するのは、非常に乱暴なことだと思っているからです。
クリニックで患者さんのカウンセリングをするときも、相手の話を聞きながら、少なくとも10通りほどの可能性を想定し、診療を進めるにつれて、可能性をしぼっていくようにしています。そうすることで、より適切な診療を施すことが可能になるのです。
世の中には自分の知らない、さまざまな可能性が溢れているものです。たとえば「売れっ子になる」「ヒットメーカーになる」ということ一つとっても、その方法は多様に考えられます。
■成功者に求められる素養も時代とともにどんどん変わる
世界で最も影響力のあるワイン評論家とされる、アメリカ出身のロバート・パーカーという人がいます。
もともと彼の本業は弁護士で、ソムリエでもなんでもありませんでした。パーカーの斬新だったところは、それまでプロの間で美味しいとされていた高級ワイン、たとえばシャトー・マルゴーなどではなく、アメリカの一般大衆に受けそうなテイストのワインを高く評価したことです。
そういったジャッジが大勢の人に受けたからこそ、彼は大評論家となったのであり、今ではこの人にちなんだ「パーカーポイント」なる評価方法でワインが採点されています。
仮に彼が、とても舌の肥えた、繊細な味を好む嗜好の持ち主だったのだとしたら、これほど影響力のある人物にはならなかったでしょう。
私たちは、突出した才能のある人こそ世間を変えるヒットメーカーになれるのだと考えるようなところがありますが、実は天才であることが邪魔になる場合だってあるかもしれないということです。
尖った感覚よりも、ごく一般的な大衆の気持ちにシンクロできるような平凡な感覚が生きる場合だって、大いにあるのです。
作品や商品に対する世間の評価も、成功者に求められる素養も、時代とともにどんどん変わっていくものです。
直木賞作家・九段理恵さんの例のように、AIを駆使して執筆するなど、ひと昔前では考えられないことでしたが、これからはどれだけデジタルツールを使いこなせるかが、作家に必要とされる能力の一つとなってくるのかもしれません。
そしてさらにそのなかでも、図抜けた文章をAIに書かせた人がヒットを飛ばすのか、もしくは、ごく一般的な人たちの心をつかむような内容を目指した人が一時代を築くのか、といったさまざまな可能性が考えられるわけで、正解はわからないのです。
あるいは日本は英語教育に非常に熱心で、自分の発する英語で海外の人とコミュニケーションがとれることに絶対的な価値を見出していますが、これも私からすれば疑問に感じます。
これだけ翻訳ツールが発達している今、それらに頼ることなく、自身で外国人と話をすることに躍起になるのは、まったくもって非合理的だと思うのです。英語力を身につけることに時間を割くのであれば、翻訳ツールにかける前の内容を充実させたほうが、よほど賢くなるのではないかと感じます。
母国語以外の言語を学ぶこと自体が脳に役立っている可能性もないとは言い切れませんが、国民の98%が英語しか話せないアメリカ人のなかから、あれだけノーベル賞受賞者が輩出されていることを考えると、個人的には効果はないと思っています。
これだけ世の中が変わるスピードが速く、昨日の正解が今日の正解とは限らないなかで、一つの答えに固執することは、おそらくもう時代に合っておらず、ナンセンスと言えるのではないでしょうか。
人生とは理屈通りにいかないことだらけですし、自分のなかの常識や理論が覆されることだって大いにあるものです。そのことを理解しているシニアは、余裕と風格を漂わせます。酸いも甘いも噛み分けた、知性のある人だと周囲の人の目に映るでしょう。
逆に言えば、「自分が絶対に正しい」「異論は認めない」と強硬に主張する人は、時代の流れに逆行するので、自身も生きづらくなりますし、頭がよいとも思われにくいということです。
■物事を多面的に考えられる人は、賢くて優しい
一つの答えに固執することの危険性についてお話をしましたが、人や物事に、さまざまな要素や側面があるのだと理解することは、知性を高めるだけでなく、メンタルの面にも非常によい影響をもたらします。
私は精神科医として、長年「決めつけはうつ病のもと」と言っています。人は、「絶対にこうあるべきだ」という信念や思いが強すぎると、それが思い通りにならなかったときに、落ち込んだり、心が不安定になったりしやすいのです。
正しさで自分を縛るほどに、不機嫌さやストレスが生じ、生きづらくなっていきます。ですから、物事はなるべく多面的に考えるようにしたいものです。一つの答えで決着をつける必要などありません。自分の優位性にこだわる人ほど、この「うやむや」な状態を嫌うものです。けれど、「それもそうかもしれないね」「まあ、どっちでもいいよね」と柔軟にとらえ、時には受け流せるようなスタンスをとることは、結局のところ、自分が心地よく生きるための術(すべ)であり、賢い知恵なのです。
それは人間関係においても同じです。相手に対して思い込みや偏見を一方的に持つほどに、対人面におけるストレスは肥大化していきます。
どのような人にも、素敵な面とダメな面があります。両方を持っているのが人間で、どちらかだけの人はいません。ですから、相手の素晴らしい面だけを見て過剰に称賛するのも、反対に、ダメな面だけに焦点を当てて非難するのも、どちらも決して頭のよい行動とは言えないと思います。
たとえば芸能人の不倫が報道されると、みなこぞって袋叩きにするでしょう。でもそこで、あえて世間の風潮に逆行し、その人のよい面を見つけてみたりする。そういった寛容さを持つことも、頭のよさの一つだと思います。
認知心理学の世界に、「メタ認知」という言葉があります。これは、自分が認知していることを、俯瞰の視点から認知するということです。
つまり、自分が何らかの考えを抱いたときは、その内容を客観視しながら、他の考え方はないかな? とか、自分の思いこみに縛られていないかな? などというふうに、自問自答する習慣をつけることが大切なのだと思います。
一つの見方に固執せず、いくつかの見方ができる人、つまり「認知的複雑性」が高い人は、考え方の違う相手のことも理解し、総合的な判断をすることができます。
さまざまな角度から物事をとらえ、「あの人にもこういう、いいところがある」「もしかしたら、こういう事情があったのかもしれない」という寛容さを持てる人は、人としてとても成熟していて優しく、知的だと思いませんか?
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精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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