ダメな親ほど「子供に失敗をさせたくない」と言う…東大生に聞いてわかった"頭のいい子が育つ家庭"の共通点
プレジデントオンライン / 2024年11月1日 16時15分
■親たちが子供の“失敗”を恐れている
「とにかく子供に、失敗させたくないんです」
全国各地の学校で講演したり、小中学生や高校生への学習指導のお手伝いをしたりするなかで、最近親御さんから、お子さんの教育に関して、冒頭のようになご相談をいただくことがあります。
「何かに躓(つまず)いたり失敗してしまうと、子供が悲しんだり苦しんだりしてしまうので、なるべく失敗させないような指導をしてほしい。受験も合格圏内の安全な学校(=不合格にならない学校)を目指させたい」とお考えの親御さんが増えてきている印象があります。
小中学生の親御さんだと「受験は安全に合格できる学校だけを受験させたいので、模試でA判定の学校以外は受験させたくありません」とおっしゃったり、高校生の親御さんでも「親元を離れて生活するのはまだ難しいと思うので、東京近辺の大学以外は受験させたくありません」とおっしゃったり。
また大学受験だと、「一般入試ではなく、年内入試で極力終わらせたい」という家庭は年々かなり増加していると感じます。ペーパーテスト一発勝負ではなく、指定校推薦で失敗することなくすんなり合格してほしい、と。
受験だけに限った話ではなく、資格試験も同様で、「絶対に合格できるなら英検を受験してもいいけれど、合格できないのであれば受験してはダメ」という方針の家庭も少なからず存在しています。
■「失敗させない指導」は大失敗を招く
こうした親御さんのお気持ちは、理解できます。お子さんには、なるべく苦しい思いはさせたくないですよね。勉強や学校・受験がつらいと感じさせたくないという親心は、こちらにもよく伝わってきます。
でも、「失敗をさせない指導」は、長期間続けていると大失敗を招いてしまうことがあるのです。実際、東大生の親御さんにお話を聞くと、その多くが勉強でもそれ以外のことでも、小さい時に「子供にわざと失敗させる」指導をしていることに驚かされます。
そもそも、「失敗をさせない指導」というのはどういうものでしょうか。
仮に、「定期テストで20番以内になりたい」という挑戦をしようとしている生徒Aがいたとします。Aさんにとって、「定期テストの順位が16位だった」という結果は「成功」だと感じられると思います。
でも、「定期テストで10番以内になりたい」という挑戦をしようとしている生徒Bがいたら、Bさんにとっては「16位」という順位は「失敗」と感じられるでしょう。「10位以内になりたかったのに、16位だった!」と。ここまででおわかりいただけると思いますが、成功の場合も失敗の場合も、「16位」という結果は変わっていません。それなのに、目標の立て方によって、「成功」なのか「失敗」なのかが変わっているわけです。
■目標が高ければ“努力の質”が変わる
「失敗をさせない指導」をすることは実はかなり簡単で、目標を下げればいいのです。目標が低ければ失敗することもありません。つまり、「失敗させたくない」というのは、「目標を低くさせたい」ということと同義なのです。
しかし、そんな指導で本当にいいんでしょうか? 「定期テストで10番以内になりたい」という生徒に、「10番以内はきついだろうから、君の成績だったら20番くらいにしておいたら?」と言い続けることは、はたして本当に生徒のためになるのでしょうか?
もちろん、短期的にはそっちの方が成功体験をつむことができるのでプラスになる場合もあるでしょうが、それを繰り返し続けると、「成長」するチャンスを奪ってしまうことになります。
「20番でいいや」と考えると、20番くらいになるための努力しかしません。でも、「10番になりたい」と考えると、10番になるための努力をすることになります。成長という観点で言えば、「成功しそうな20番」という目標より、「失敗しそうな10番」という目標の方が、努力量も努力の質も変わってくるのです。
受験に関しても同じことが言えます。例えば、受験業界でよく言われることとして、「現役生は、大学入試真っ最中が一番成績が上がる」という言説があります。
いろんな大学を受験して、うまく行ったり失敗したりして、合格したり不合格になったりする中でこそ、一番成績が上がりやすいという話です。実際東大生でも、私大が全滅なのに最後の東大入試だけ合格した、という人だっています。第二志望以下の大学に不合格になったことを糧にして、第一志望の合格を手にしたというわけです。
■東大生の親は積極的に“失敗”させている
このように、人間は挑戦している時が一番「伸びる」のです。
東大生の親は、この違いをよく理解していることが多いです。東大生に「親からどのような育て方をされたのか」についてアンケートを採ると、以下のような声がありました。
・「勉強以外のことも含めて、勝負事には勝てと言われて育った。受験が近づいてきて、部活に身が入らなくなっていた時も、『もっと真剣に部活もやれ、次の大会も頑張れ』と言われたのを覚えている」(理2 1年)
・「『1番を目指せ』というのはよく言われていた。まだそんなに勉強ができなくて、いい順位じゃない時にも、『1番を目指せ』と言われ続けていた。プレッシャーを与えられたわけじゃないけれど、『やるからにはなんでも、1番を目指すといいよ』と言われて育った。」(理1 2年)
低い目標で満足させるのではなく、むしろ「失敗してもいいから高い目標を持たせるような育て方をされていた東大生」が多いことがわかるでしょうか。
この他の東大生に聞いても、「テストのたびに目標点数を書いていた」とか「運動会とかでかなり本気で応援された」とか、些細なことでも挑戦を意識させるような指導をされていたという場合が多いです。
「失敗させない指導」ではなく、むしろ勉強以外の面も含めて「積極的に失敗させる指導」をされて育っていることが多いわけです。そしてその延長線上で、「東大を受験しよう」という気持ちが湧いているのだと思います。多くの人にとって、東大というのは決して「行ける大学」ではありません。「行けるなら行きたいとは思うけれど、リスクが高い大学」だと考える人が多いでしょう。「不合格になるかもしれない大学」なわけです。
■子供時代の失敗経験が少ないと受験に弱い
それでも、そのリスクを取ってでも「東大を受験しよう」と考える人は、どういう人なのか。それは、「挑戦すること自体に価値があり、失敗したとしても無駄になるわけではなく、自分が成長するチャンスになる」ということを理解している人なのだと思います。
そういう人は、果敢に挑戦することができ、のびのび勉強できて、かつ「不合格になったらどうしよう」と考えて緊張してしまうことも少ないです。模試で点数が悪くても「この失敗から学ばなければ」と考えてしっかりダメだったポイントを分析できます。
このように、「失敗にも意味がある」と思える人の方が、努力して成長を続けることができるのです。
逆に、大学受験に弱い受験生の特徴は、「子供の頃の失敗経験が少ない人」です。小さい頃に失敗した経験が少ないと、ちょっとした失敗を許容できず、簡単に「もうダメだ」と考えてしまうことが多いです。
例えば模試の点数が思った以上に低かった時に、その失敗となかなか向き合えず、ショックを受けて勉強が手に付かなくなってしまったり、その結果を直視できずに「どこがダメだったのか」の分析をおろそかにしてしまいます。
多少の失敗は、「小さな失敗」です。ちょっとテストが目標点数に足りていなかったとか、模試の順位が低かったとか、そんなことは些細な問題でしかないのです。
■「成功の数」より「挑戦の数」
本当に恐ろしいのは、「小さな失敗」を恐れすぎるあまり、挑戦せず、低い目標のままでずっと推移してしまうことです。挑戦をしないことの方がよっぽど、「大きな失敗」だと言えるのではないでしょうか。
「自然に育った農作物は病気に強いが、無菌室で育った農作物は病気に極度に弱い」と言います。挑戦から遠ざけられ続けた子供は、挑戦にどんどん弱くなっていってしまうわけです。
重要なのは、失敗してもいいから、子供の時から何度も「挑戦」をさせることです。それも、「成功しそうな挑戦」ではなく、「失敗するかもしれない挑戦」に果敢にチャレンジしてもらうことです。
どんなことでも1位を目指させたり、ちょっとした勝負事でも本気になるように言ったり、手を抜いているなと思ったらそれを指摘したりする。「成功」の数ではなく「挑戦」の数が多くなるような指導をしていくのです。
そうすると、子供はどんどん成長の機会を得ることができ、他の生徒よりも強く逞(たくま)しくなっていきます。そしてそういう生徒は、大人になってからも、大学受験以外の場でも、スポーツでも資格試験でも、就職でもビジネスでも、頑張ろうという気持ちが湧いてくることになると思います。ぜひ、参考にしてみてください。
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現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。
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(現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)
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