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ファストフードの高校生バイト時給より低い…作家の"夢の印税"はショボショボでTV出演料5000円という残酷

プレジデントオンライン / 2024年10月30日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zevei-wenhui

国内で出版される書籍は年約7万点弱。1日あたりおよそ200点。ヒット作を出すのが容易ではない中、著者はどのように収入を得ているのか。作家の本田健さんは「夢の印税生活に憧れる人は多いでしょうが、現実はそんなに甘くはありません。ベストセラー本を出す作家や書き手もいますが、残念ながら、本はそんなに売れるものではありません」という――。

※本稿は、本田健『作家とお金』(きずな出版)の一部を再編集したものです。

■文豪、夏目漱石のぼやき、川端康成の願い

「文豪」と呼ばれる人たちがいます。作家にとっては、その頂点にいるような人たちですが、そんな頂点に立つ人たちでも、お金に困った時期があったのは、驚きです。

というより、逆の言い方をするなら、お金に困ったことがない作家などいないのではないかと思うほどです。

文豪といえば、その筆頭に誰もが思い浮かべるのが、夏目漱石ではないでしょうか。

その文豪、夏目漱石が、自分の生活についてぼやく一文を遺(のこ)しています。

「私が巨万の富を蓄(たくわ)えたとか、立派な家を建てたとか、土地家屋を売買して金を儲(もう)けて居(い)るとか、種々(しゅしゅ)な噂(うわさ)が世間にあるようだが、皆嘘(うそ)だ。巨万の富を蓄えたなら、第一こんな穢(きたな)い家に入って居はしない。土地家屋などはどんな手続きで買うものか、それさえ知らない。此(この)家だって自分の家では無い。借家である。月々家賃を払って居るのである。世間の噂と云(い)うものは無責任なものだと思う。」(夏目漱石「文士の生活」、左右社編集部編『お金本』左右社刊)

夏目漱石が「文士の生活」として書いたものですが、それには、こんなことも書かれていました。

「私はもっと明るい家が好きだ。もっと奇麗な家にも住みたい。私の書斎の壁は落ちてるし、天井は雨洩(も)りのシミがあって、随分穢いが、別に天井を見て行って呉(く)れる人もないから、此儘(まま)にして置く。何しろ畳の無い板(いた)敷(じ)きである。板の間から風が吹き込んで冬などは堪(たま)らぬ。光線の工合(ぐあい)も悪い。此上に坐って読んだり書いたりするのは辛(つら)いが、気にし出すと切りが無いから、関(かま)わずに置く。此間或(あ)る人が来て、天井を張る紙を上げましょうと云って呉れたが、御免(ごめん)を蒙(こうむ)った。別に私がこんな家が好きで、こんな暗い、穢い家に住んで居るのではない。余儀(よぎ)なくされて居るまでである。」

この文章は、下積み時代ではなく、すでに『吾輩は猫である』も出版されてベストセラーとなり、その印税が入った後に書かれています。「文豪」のイメージとは程遠い生活が想像できますが、それだけに親近感も湧いてきますね。

余儀なく「穢い家」に住んでいても、それを恨(うら)んだりしているわけでもない。「文士」として、余儀なく、というのは、つまり選んで生きていると私には思えます。作家たちのお金にまつわる文章を集めた左右社編集部編の『お金本』は、作家という人たちの暮らし、現実を知るうえで興味深い本ですが、そこには、もう一人の文豪、川端康成が、「私の生活」として、10の「希望」をあげています。

その7番目の希望として、「原稿料ではなく、印税で暮せるやうになりたいと思ひます。せめて月末には困らないやうに――」とあります。これが書かれたのは昭和4(1929)年11月、『伊豆の踊子』が出版されたのは1926年、「東京朝日新聞」の連載がスタートしたのは1929年12月です。作家としては、まだまだ経済的に安定するというまでになっていません。

それにしても、後にノーベル文学賞を受賞することになる人も、「夢の印税生活」を夢見ていたのかと思うと、人の運命というのは面白いものですね。

■作家の収入の内訳

この本を手にとったみなさんが、興味あるのは、作家がお金とどうつき合っているかではないでしょうか。作家の印税は、ほとんどの場合、出来高払いです。通常は、本の定価の5%から10%の間で支払われます。

昔は、刷った部数分だけ支払われていましたが、最近の出版不況に伴って、実売部数だけ支払う出版社も増えてきました。

たいていが、本が出版されてから、翌月から数カ月以内に払われます。小さな出版社だと、売上の支払サイトが長くなるために、作家への支払いも、出版してから半年後、1年後というところもあります。

経済的に困窮している作家は、前借りをするということになるわけです。出版されて、たちまちベストセラーになるというのはごく稀で、初版は数千部からスタートして、じわじわ売れていきます。テレビで取り上げられたり、映画化されたりして、そこから一気に大ブレイクしたりします。

【作家の主な収入源とは?】
① 原稿料

雑誌や新聞、機関誌などで原稿を依頼された場合に、支払われるのが原稿料です。昔は原稿用紙一枚いくらと依頼時に提示されていました。いまは原稿用紙で原稿を書く人はごく少数派ですから、ページ単位、あるいは一本いくらというふうに設定されています。あるいは謝礼金として一定の金額で支払われます。

② 印税

原稿を一冊の本として出版されるときに交わされるのが出版契約で、印税についての取り決めもそこに明示されています。

定価1600円の本で、5000部売れたとして、印税率が10%の場合、およそ80万円の収入となります。原稿を書くのに、もしも4カ月を費やしたとしたら、ファストフードでアルバイトしている高校生の時給のほうが高いかもしれません。

③ 講演

著名な人ならともかく、普通の作家の講演料は10万円から、多くても30万円程度です。地元の商工会議所、公共団体が主催の場合には、もっと低く5万円以下で依頼されることもあります。

④ テレビ、ラジオ出演

本が売れてきて、ある程度認知されるようになったら、テレビやラジオのコメンテーターとして招かれることもあります。でも、そんなにお金はもらえません。

出演料は、作家は「文化人」の枠になります。「芸能人」とは違い、ギャラは3万円ぐらいが相場ですが、低予算の番組などでは5000円というところもあります。ただ、マスコミで取り上げられたり、テレビにちょくちょく出たりすると、本のPRにもなります。また、それによって知名度が上がると、講演料が高くなるというメリットもあります。

⑤ テレビドラマの原作、作品の映像化

作家というと、作品がテレビでドラマになったり、映画の原作となって大もうけしている印象があるかもしれません。演劇でも扱われたりすると、もう笑いが止まらないぐらい印税が入ってくる印象があると思います。

本田健『作家とお金』(きずな出版)
本田健『作家とお金』(きずな出版)

ですが、映画の原作の場合、上限が1000万円となっていて、それも出版社と分け合うようになっています。

映画がヒットしても、作家に原作使用料として支払われるのは、せいぜい数百万円ぐらいということも、よくあるのです。その金額だけを見たら大金ですが、それが毎年あるわけではないのが普通です。作家には退職金もないので、その意味では、それほどの金額ではないということです。

ハリウッドだと、何億円も払われるのかもしれませんが、日本でドラマ化、映画化されても、それによる本の売上げ増加以外の収入は、あまり期待できなさそうです。それに、映画化されるような作品を書いて、大ヒットを飛ばし続けられる作家は、日本でもそんなにいません。

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本田 健(ほんだ・けん)
作家
神戸生まれ。2002年、作家としてデビュー。代表作『ユダヤ人大富豪の教え』『20代にしておきたい17のこと』など、累計発行部数は800万部を突破している。2019年、初の英語での書き下ろしの著作『happy money』を米国、英国、豪州で同時刊行。これまでに32言語50カ国以上の国で発売されている。現在は世界を舞台に、英語で講演、執筆活動を行っている。

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(作家 本田 健)

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