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社会保障をアテにする移民はもう許さない…イタリア女性首相の「移民ストップ計画」に支持が集まるワケ

プレジデントオンライン / 2024年10月30日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrey Danilovich

■移民だけで2万人以上の新生児が誕生

昨年2023年、ドイツで提出された難民申請が35万1915件。うち初回申請分は前年比51.1%増で、32万9120件。残りは2度目以上のものだ。なお、初回申請のうち2万2603件は、その年に生まれた子供のものだった(BANF=移民・難民に関する連邦局)。イスラム教徒は出産率が高く、出産年齢も早いので、ドイツ人がようやく初孫を見る頃には、たいていひ孫が数人いる。

ドイツの施政者はかねてより、地球の温度は人間の力で下げることができると主張しているが、他国の人間が国境を突破して侵入してくるのは、人間の力では防げないとする。だから、ドイツに来たい人は全員受け入れて難民申請を提出させ、それを審査する。とはいえ処理能力には限りがあるため、昨年の申請分は9万314件が未処理だそうだ。それ以前からの累積ではどれだけ溜まっているのか、見当もつかない。

■外務省に「法律違反」の疑いも

それどころか23年2月にはCicero誌が、ドイツ外務省が人権派NGOと一緒になって、パキスタンに逃げているアフガニスタン人の青年にドイツへの入国ビザを出すようにと、現地の大使館に圧力をかけた様子を報じた(外務省は緑の党の管轄)。

ちなみにそのアフガニスタン人は偽造パスポートを所持し、病身であるとか、未成年であるという話は信憑性に欠け、また、ドイツにいる“兄”は肉親でない可能性が高く、それどころか、本人が本当にアフガニスタン人であるかどうかも疑わしかったという。

Cicero誌は今年の7月、再度その問題を取り上げ、外務省のビザ交付の破綻ぶりをさらに詳細に報じた。

この件に関しては、ドイツの治安を脅かすだけでなく、法律違反の疑いも濃厚であり、検察が捜査を開始したという。

ただ、緑の党や現政権の不祥事について、主要メディアがほとんど取り上げないのは毎度のことで、今回も梨の礫(つぶて)のため、多くのドイツ人は、外地の大使館で何が起こっているかを知らないままだ。もし、このスキャンダルがCDU政権でのことなら、どんなに大騒ぎになっていたことか。

なお、寛大に入れた難民志願者は、その後も寛大に扱われる。難民として認められる確率はほぼ半々だが、前述の通り審査が滞っているため、すぐに追い返される心配はないし、審査中でも衣食住はもちろん、お金まで支給される(それが国外に送金されていることが問題になっている)。これらが、難民がドイツを好む主な理由だ。

■アフリカに一番近いイタリアの島に難民が流れ込む

しかも、難民として認められなくても仮の滞在ビザが発行され、そのまま残れるケースも多い。母国送還がなされない理由はさまざまで、例えば、難民の母国を特定できないとか、犯罪者の場合は母国が引き取りを拒否するとか(犯罪者はどこの国でもお荷物)。

しかし、真の理由は、政府が母国送還などしたくないからだろう。特に緑の党は、婦女暴行犯や殺人犯でさえ、母国で公正な扱いを受けられないかもしれないとして、特に死刑のある国へは送還しない方針を貫く。法治国家ドイツはそんなところに人を送り返してはいけないというのが、彼らの“正論”だ。

また、社民党は社民党で、23年の党大会で、地中海での難民救助の支援を続けることを確認。地中海ではここ10年以上、難民から大金を毟(むし)り取り、ボートに乗せて地中海に送り出す犯罪グループと、漂流している難民を大型船で“救助”してイタリアに運ぶNGOとの連携プレーが、密航幇助として大きな問題になっている。そして、そのNGO船の船籍の一番多いのがドイツで、しかもドイツ政府がそれを資金援助しているため、当然、イタリア政府は怒った。昨年、イタリアには陸海合わせて16万人近くの難民が侵入している。

■首相が決断した難民の「捕獲・移送計画」

そのイタリアのメローニ首相が、1年も前から着手していたのが、難民審査をEUの国境外で行うという計画。メローニ首相は地中海の向かいのアルバニアに話を持ちかけ、単独でこれを進めた。その結果、アルバニア政府は、審査の間に限り、難民志願者を受け入れることに同意。こうして、北部のジャデルという寒村に、難民審査センターが建設された。収容可能人数は3000人。このプロジェクトにEUから6億7000万ユーロの補助が出ている。

具体的には、イタリアの国境警察、あるいは海軍が、イタリアに向かっている難民を海上で捕獲し、同センターに移送する。対象者は、安全と認定されている国(例えばアルジェリア、モロッコ、エジプト、パキスタンなど)の出身者で、成人男子のみ。つまり、申請が通らないと思われるグループ。

ここで30日以内に審査を終え、難民と認められた人だけがイタリアに送られ、それ以外は母国送還というシナリオだ。目的は、難民の出航モチベーションを減退させ、その結果、違法入国者を減らすこと。現在は、違法に入国し、難民資格を得られなくても、その8割以上がEUを去らないため(ドイツの場合は9割以上)、本を絶とうというわけだ。

■初日は16人を移送、ところが…

そうするうちに、長らくこのメローニ氏のプロジェクトに反対していたEUの欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長も、ようやく理解を示したかのように見えた。しかし、すぐに、実はそうではなかったことがわかる。というのも、氏が各国に宛てた書簡には、「どの国が安全であるかは、EUの全加盟国で決めなければならない」という文言があり(これまでは各国が独自に、どこが安全な国かを決めていた)、それがまもなくメローニ首相を憤慨させることになるのである。

ちなみに、現在のEUでは、フォン・デア・ライエン委員長に対する批判は日に日に増しており、メローニ首相もその先鋒に立つ一人だ。一方、メローニ政権はこれまで、難民の数を減らすという公約を着実に実行に移しており、国民の大半が氏を支持しているという直近のアンケートも出ている。自ずとこの2人は仲が良くない。

さて、10月15日はいわばアルバニアの審査センターの杮(こけら)落としで、早朝に16人の難民志望者が到着。そのうち2人は未成年という理由で、もう2人は健康上の理由でイタリアに送られたが、残りの12人が収容された。ところが、4日後の19日、その12人(エジプト人とバングラデシュ人)もイタリア海軍がイタリアに移送し、新しい審査センターは、再び空っぽになってしまった。

2024年10月18日、レバノン・ベイルートの政府宮殿で行われたレバノン暫定首相との会談後、記者会見に臨むイタリアのジョルジャ・メローニ首相。
写真=EPA/時事通信フォト
2024年10月18日、レバノン・ベイルートの政府宮殿で行われたレバノン暫定首相との会談後、記者会見に臨むイタリアのジョルジャ・メローニ首相。 - 写真=EPA/時事通信フォト

■ドイツの負担はすでに4兆円規模に拡大

理由は、ローマの裁判所が「エジプトとバングラデシュは安全な国とは言えない」と判断したこと。だから、審査はEU域内(この場合イタリア)で行われなければならないそうだ。イタリア政府はこれを、左翼の裁判所による政治的判決だとし、最高裁まで行っても争う構えだ。ちなみに、エジプトとバングラデシュは、ドイツでも「安全な国」と位置付けられている。

なお、イタリア政府が裁判所を左翼だというのは、まるで根拠のないことでもない。例えば現副首相のサルヴィーニ氏は、内相だった時代に難民を何百人も積んだNGO船の入港を拒んだことで訴えられており、場合によっては6年の懲役になる可能性もあるという。判決はクリスマス前に出る予定だ。

一方のドイツ。イタリアに上陸した難民の多くは、当然、ザルのようなドイツ国境を目指すため、ドイツが抱えている問題はすでに多い。治安の悪化はもちろん、膨大な経済的負担。統計データ会社Statistaの資料によれば、23年、移民・難民にかかったコストは297億ユーロ(現行レートで約4.6兆円)。

また、ドイツ政府は、難民と認められた人には家族の呼び寄せも許可しているため、これからは、2015年、16年に入った難民の家族がどんどんやってくる。そして、彼らはまず社会保障にぶら下がるため、当面、ドイツの納税者の負担が減る見通しはない。

■経済低迷に多数の倒産…どうするつもりなのか

政府は、難民を無制限に入れ続ける理由の一つとして労働力確保を挙げているが、難民は言葉の問題もあり、まだドイツ企業が欲しがっている労働力にはなっていない。15年、16年に入ってきた難民でさえ、未だに半分は社会保障で暮らしている。

ところが、現在、緑の党の外相が、地中海で難民を“救助”するNGOに、新たに190万ユーロを与えることを決めていたことが明らかになり(すでに130万ユーロは支払われたらしい)、大問題となっている。

NGOとは、そもそもNon-governmental Organization(非政府組織)のはずだが、それを政府は国民の血税で支援し、違法難民をイタリアに運ばせ、一方では、ドイツの国境警備を堅固にすると、まったく矛盾したことをやっているわけだ。国民が憤慨するのも無理はない。

ドイツは去年も今年もマイナス成長で、急速に不況に向かっている。今年9月の破産申請件数は、前年同月比で13.7%増。今年の6月を除けば、昨年6月よりすべての月の破産件数は、前年比で2桁の伸びとなっている(連邦統計庁)。このままだと、まもなく税収が劇的に減り、難民のためのお金も捻出できなくなるだろう。その時は、どうするつもりなのか?

現在、緑の党と社民党の支持率が地に落ちているのは、当然の帰結である。

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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)
作家
日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)、『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何が起こっているか』(ビジネス社)がある。

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(作家 川口 マーン 惠美)

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