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「ここまで上がるとは思わなかった」市場も驚き…東京メトロ上場"絶好調のスタート"に潜む「2つの不安」

プレジデントオンライン / 2024年10月29日 16時15分

東証プライム市場に上場し、セレモニーで鐘を鳴らす東京メトロの山村明義社長=2024年10月23日午後、東京・日本橋兜町 - 写真提供=共同通信社

■株式公開としては成功だった

東京都内を中心に地下鉄9路線を運営する「東京メトロ」が10月23日、東京証券取引所に上場した。

証券会社を通じて抽選などで一般に分譲された際の「売り出し価格」は1株1200円だったが、当日の東証では朝から買い物を集めて呼び値を切り上げ、寄り付きでは1630円の初値を付けた。6年ぶりの大型上場で、市場が売り出し株をすんなり吸収できるか懸念する向きもあったが、株式公開(IPO)としては成功だった。この日の終値は1739円で、5億8100万株の発行済み株式数をかけた時価総額は1兆円を超えた。

新NISAなどによる株式人気の高まりもあり、新規上場にも追い風が吹いた。割安と見られた株は買われる傾向を鮮明に示した。もっとも、市場では「ここまで上がるとは思わなかった」といった声が聞かれた。専門家の多くが指摘していたのは、将来にわたる「成長性」への疑問。東京も今後、人口減少が本格化してくると見られ、地下鉄利用者が大幅に伸びる見込みは薄い。また、一部路線の延伸計画はあるものの、新路線の建設といった事業拡大の可能性も低い。「成熟した会社」という見方が強いのだ。このため、会社側が見込んだ1株1100円から1200円という水準から、これほど大きく上振れするとは思われなかったというわけだ。

■成熟企業となると「保有メリット」が焦点になる

成熟企業となると、配当など保有メリットがどれだけ大きくなるかが焦点になる。購入価格に対する配当額を計算する「配当利回り」が注目されるが、東京メトロは1株40円配当を予定している。売り出し価格の1200円で計算すると年間利回り3.3%、初値の1600円だと2.5%、終値の1739円だと2.3%になる。

電鉄会社などのインフラ企業は配当性向で評価されるケースが多い。成長性は乏しくても、インフラ企業なので倒産リスクはまずないうえ、毎期の配当や株主還元による保有メリットが重視される。一定株数を保有すると無料切符や定期券がもらえる株主優待も根強い人気がある。

配当利回りで見ると、まだ東京メトロに優位性があると見ることもできる。既に上場している首都圏の電鉄会社の配当利回りは、東武鉄道が2.08%、小田急電鉄が1.92%、京王電鉄とJR東日本が1.58%、京浜急行電鉄で1.28%といったところで、京成電鉄や東急電鉄、JR東海などは1%を下回っている。仮に東京メトロが配当利回りで京王電鉄やJR東日本並みの1.58%の水準まで買われるとすると、株価は2500円まで買われても良いということになる。

■成長性は武器にできず、株主優待も切り札になりそうにない

だが、そこまで配当利回りが下がっても株が買われるということは、一定の成長性が必要になる。利用者の増加で売り上げが増えるか、より儲かるビジネスへの転換余力があるかどうかがポイントになる。

東京メトロ側も成長性を武器にできないことは分かっている。新線建設などによる大幅な売り上げ増は期待できないし、民間鉄道会社のように路線周辺の不動産開発などに力を発揮できるわけでもないからだ。会社側は、今後も利益の4割は配当に回す意向を示しており、利益が増えれば、年間40円の配当がさらに積み増されていく可能性はある。

売り物の配当だけでなく、株主優待などにも力を入れる。1万株保有した場合、全線乗り放題の定期がもらえる。電鉄会社の株主優待では全線パスは人気アイテムだが、東京メトロの場合、営業距離が決して長くなく、無料利用するメリットが大きいとは言えない。JRや航空会社の株主割引は人気だが、これも移動距離が長距離で、割引効果が大きいことが要因だ。東京メトロの無料乗車券は、もっとも遠い28キロ以遠の利用でも得するのは330円だ。なかなか株主優待も切り札にはなりそうにない。

東京メトロの入り口案内
写真=iStock.com/Sergio Delle Vedove
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sergio Delle Vedove

■「経営の独自性」に問題がある

配当利回りが株価を支えている場合、利用者減で業績が悪化すれば、配当を下げざるをえなくなり、その分、株価も大きく下落するという懸念がある。成長性の乏しさを配当で賄おうとしても、長期的には業績が維持できずに配当利回りも下がっていく懸念があるわけだ。それだけ、株価の上昇には、企業の成長性が大きな意味を持つ。

東京メトロの将来にわたるもうひとつの懸念点は、経営の独自性に問題がある点だ。今回、上場にあたって売り出された株式は、もともと株主だった国と東京都が半分ずつ出したもの。上場によって9500億円が入ったのは国と東京都で、東京メトロには一銭も入っていない。本来、上場に際しては会社が新株発行も行い、その会社に上場資金が入る。上場で得た資金を設備投資などに回して、会社が成長するための原資にするのだ。これが上場の最大の目的と言える。ところが、今回は上場の資金メリットは国と東京都にはあっても、東京メトロにはない。

■国と東京都が「発行済み株式の半分」を持ち続ける

さらに問題は、上場後も国と東京都が発行済み株式の半分を持ち続けることだ。国も東京都も大株主として経営に口を出せるわけだ。会社が重要事項を決めようとする場合、国の許認可を得なければいけない。民営化とは名ばかりで、経営の自由度は乏しい。

東京都庁
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

国や東京都はなぜ、株式を持ち続けるのか。路線延伸計画をきちんと実行させるためなど、もっともらしい理由は付けるが、要は支配権を握って、さまざまなメリットを享受するためだ。その典型が天下りであることは言うまでもない。

東京メトロには株式会社となった2004年以来、国土交通省や旧運輸省のOBが社長や会長に就任してきた。そんな東京メトロの会長が昨年、話題になった。元国土交通省の事務次官だった本田勝氏が東京メトロ会長を退任に追い込まれたのだ。本田氏は空港施設という会社の副社長だったやはり国交省OBの山口勝弘氏を社長にするよう同社に働きかけていたというもので、国交省が天下り先を斡旋する役割を担っていたのではないかと見られた。さすがに国交省は本田氏の後任を送り込むことができず、今は会長には、副知事までのぼりつめた東京都の元官僚が就いた。

結局、こうした天下りもあって、株式を握られている間は、民間企業であって民間企業ではない半官半民のような株式会社であり続けるわけだ。

■日本郵政とJR九州の明暗を分けたもの

国が株を握り続けている上場企業の典型は、日本郵政だろう。2015年に上場したが、いまだに国が34%あまりの株式を握っている。株主総会による特別決議で重要な決定をする場合、3分の2の賛成を得る必要があるが、それを国によって封じられている。もちろん、グループ会社含めて、多数の官僚OBが天下っている。

そんな日本郵政の株価はどうなったか。上場した2015年に付けた1999円が上場来高値で、それ以降、株価はそれを上回っていない。今も1300円台だ。日本郵政が株式を持ち、国が間接支配しているゆうちょ銀行も2015年の上場来高値1823円を更新できず、今もやはり1300円台で推移している。

一方で、2016年に上場したJR九州の売り出し価格は2600円だったが、その後も株価は好調で、今年も上場来高値を更新、3900円台で推移している。このJR九州は、国は株式を保有していない。もともと国は国鉄を分割民営化する際、九州は北海道や四国と並んで、独り立ちするのは難しいと見ていた。まさか上場に漕ぎ着けるとも思っていなかったのだ。完全民営化したJR九州は独自の経営戦略で業績を伸ばし、成長を実現してみせた。国くびきから脱し経営自由度を手に入れたことが成功に結びついたのは間違いない。

国も東京都も、東京メトロの株式を手離す予定はないという。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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