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精液のついたティッシュを見ると安心する…「3浪ニートの息子」を探偵に監視させる母親の"異常な執着心"

プレジデントオンライン / 2024年10月30日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

事件の加害者になった人や家族は、その後どのような人生を送っているのか。2008年から加害者家族の支援を行っているNPO法人代表の阿部恭子さんが、小学6年の女児に性行為を強要した男性と母親のその後をリポートする――。

■息子に人生を捧げた母親

犯罪の中でも、性犯罪者に対する世間の目は厳しい。怖れられるだけでなく、嘲笑の的になり、性犯罪者の家族もまた、屈辱的な思いをしている。筆者は、特定非営利活動法人World Open Heartにおいて、加害者家族の支援に従事しており、性犯罪者の家族からも多数、相談を受けている。

本稿では、子どもを性犯罪者にしたくないという思いから異常な行動を取るようになってしまった母親の事例を紹介する。なお、本文では個人が特定されないよう若干の修正を加え、登場人物はすべて仮名とする。

青木さえ(60代)は、大学教員の夫(60代)との間に息子(20代)がひとりおり、三人で生活している。夫とは大学時代からの付き合いだったが、夫が研究職に就いたのは30歳も半ばで、それまでは、さえの給料で家計を支えてきた。

息子の幸也が産まれてからは、夫との関係は完全に冷え切っており、さえにとっては「息子命」の人生だった。

「夫は大学教員ではありますが、大した大学は出ていないし、エリートとはかけ離れた経歴です。職場でも見下されているようで、家に帰って来ても愚痴ばかり。息子には、そんな惨めな人生を歩んでほしくなくて、とにかくいい大学に入ってほしいと思っていました」

幸也は幼い頃から遊んでばかりで、勉強嫌いの子どもだった。さえは、そんな息子のモチベーションをあげるために、金銭や彼の望むものを与え続け、なんとか高校受験では、そこそこのレベルの学校に進学することができた。

ところが、大学受験期には完全に燃え尽きており、最初の受験で合格した大学は一校もなかった。幸也は、働くよりは勉強の方がマシだと有名大学を受験し続けたが、3浪しても合格できないまま、いつの間にか受験すらしなくなり、ニート生活を送るようになっていた。

幸也が仕事もせず、自宅にいるまま年を重ねていく状況に、さえは焦ったが、夫は全く無関心だった。

■小学6年の女児に性行為を強要、300万円で示談に

ある日、さえが仕事から帰ってくると、近所に住む小学生の保護者と名乗る夫婦が自宅を訪ねてきた。

彼らの話によれば、小学6年生の娘が幸也に身体を触られ、性行為を強要されたと訴えているという。さえは身体から血の気が引いて行くのを感じた。

幸也に事実を確認すると、全く悪びれた様子もなく、

「向こうがやりたいっていうから相手してやっただけ!」

と開き直るのだった。被害者は、近所に住む小学生の女の子で、近所をフラフラしている幸也によく話しかけていた少女だった。暇を持て余している幸也は、少女にジュースやお菓子を買ってとせがまれれば買い与え、さえが留守の間、自宅に少女を連れ込んだことも認めた。

部屋の隅に頭を抱えて座り込んでいる男性
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

さえは何とか警察沙汰にならないよう保護者との示談交渉を弁護士に依頼し、300万円の支払いと、息子が少女に二度と近づかないよう母親が監視することを条件に示談が成立した。さえは、胸を撫で下ろしていた。

「性犯罪って一番、世間体が悪いじゃないですか…。そんなことになったら、私たち家族も恥ずかしくて生きていけません…」

幸也は絶望的になる母の様子に改悛の情が芽生えたらしく、再び大学を受験する気になったのだという。さえは性犯罪者になりかけている息子を立ち直らせるため、息子の行動を監視せねばと長年勤務した会社を退職することにした。

さえが毎日自宅にいるようになれば、幸也は家に女性を連れ込むことはできない。幸也は明け方まで起きていることが多かったことから、さえも幸也が寝るまで就寝することはなく、幸也が出かける時は、密かに尾行するようになった。

■息子が信じられず、探偵を使って監視

幸也は、電車でよく若者が買い物をするような百貨店やゲームソフトの専門店などに足を運んでいた。夕飯の頃には自宅に戻っており、夜は静かに部屋で過ごしていた。

さえが尾行を始めてから半年後、煙草を買いに行くという幸也をいつものようにつけていくと、幸也は小学校の方に向かっていた。ちょうど夏休みでプールが開放されているらしく、子どもたちのはしゃぐこえが聞こえてくる。プールの帰りなのか、大きなビニール袋をぶら下げた、髪の毛が濡れている少女たちの集団が現れた。

さえは鼓動が早くなるのを感じた。幸也の部屋には、少女の水着の写真が沢山あるのを知っていた。事件を起こした相手も小学生の少女だった。幸也は少女を物色しているのではないか……。

そんな想像が頭をよぎると、さえは走り出し、息子の側に駆けつけ腕を掴んだ。

「なんだよ!」

幸也はさえの腕を振り切ると、さえは腰を強く打ち、立ち上がれなくなった。通学路での騒ぎに、パトカーが駆け付け、さえは救急車で運ばれる大惨事となってしまった。この日、幸也は、図書館に向かっていたというが、さえは信じることができなかった。しばらく自由に歩くことができなくなったさえは、ついに息子の尾行を私立探偵に依頼することになった。

■自宅の玄関で感じた“息子の殺気”

外出の記録はすべて、探偵事務所から資料が届くようになった。幸也には、買い物の記録が判るようにクレジットカードを渡していた。さえは、幸也が出かけている隙に部屋に入り、わいせつな雑誌や画像などをチェックしていた。さらに、さえは息子の部屋のゴミをひとつひとつ確認し、精液のついたティッシュペーパーを見つけると、マスターベーションしていれば性行為はしないだろうと安心していたという。

探偵事務所からの調査報告によれば、幸也は時折、マッチングアプリで若い女性と会っており、未成年者の場合、条例違反になるので気を付けるようにと言われていた。

車の中から写真を撮っている男
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

費用がかさみ、探偵事務所への依頼は数カ月しか続かなかった。さらに強力な再犯防止策はないかと、さえは、引きこもりの若者たちを更生させる団体など、全国の支援者に片っ端から連絡を入れ、自宅に招いていた。当団体もそのひとつだった。

さえから連絡を受けた私は、幸也のいる自宅を訪ねることにした。玄関を開けた途端、誰かがいる気配を感じた。家庭内暴力が起きている家庭は、玄関を入った途端、殺気のようなものを感じることがある。絵画で隠している壁には大きな穴が開いており、幸也が暴れた跡だった。

■「学歴のない人を人間だと思っていないんです」

幸也がいる二階に上がろうとした瞬間、ガッシャ―ンと大きなものが目の前に落ちてきた。幸也の部屋にあったギターだ。

「また宗教かよ、帰れよ!」

部屋から顔を出し、殺気立つ幸也に、私はなんとか少し話がしたいと申し出た。

「僕は静かに生活したいだけなんですけど……。この前は、ヤクザみたいな男の人が急に部屋に入って来て、いきなり殴られたんです……」

さえが依頼した引きこもり支援団体の職員だという。幸也は私が女性であることがわかると、緊張が解けた様子で、これまでのいきさつを話してくれた。

「母は、学歴のない人を人間だと思っていないんです。だから、僕に対しても何をしても構わないと思ってるんでしょう」

さえは、幸也が家で暴れたり、さえに暴力を振るうと訴えており、確かにさえの腕には痣が残っていた。私たちは二階からギターを投げつけられ、もし、直撃していたら大怪我をしたはずだ。

「ごめんなさい……。また、暴力を振るわれるのではないかと、怖かったんです」

幸也は、引きこもり支援と称するいわゆる「引き出し業者」だけでなく、宗教家にも部屋から出ろと腕を引っ張られ、顔面に平手打ちを受けたこともあったという。

「僕から暴力を振るうことなんてありません。母が突然、部屋に入って来て僕の大切なものを壊したり、『クズ』『出来損ない』とか暴言を吐くので、止めてほしくて抵抗しただけです」
 

■交友関係も管理され、精神的に追い詰められていた

幸也が小学校の高学年になるまでは、さえは仕事が忙しく、父親の方が家にいることが多かった。さえは、幸也の成績が芳しくないのは、父親が教育したせいだと主張する。父親がようやく定職に就くと、さえは仕事をパートに切り替えて、幸也の教育に力を入れるようになる。

「成績が悪いと、母からよく叩かれました。『父親にそっくりなクズ』とか、暴言も吐かれました。進路はすべて、母が決めるんです……。父は母の言いなりで、いつも見て見ぬふりです」

さえは、幸也の交友関係も厳しく管理しており、中学時代、さえは同級生の間で「うるさい母親」として有名だったという。幸也は、非行にすら走れないほど母親に雁字搦(がんじがら)めにされていたのだ。

「息子さんの引きこもりを解決してあげましょう」と、さえの下にはさまざまな団体が寄ってきて、多額の費用を請求されていた。しかし完全に資金が底をつくと、手のひらを返したように皆、さえから離れて行ってしまった。孤独になればなるほど、さえの行動はエスカレートし、息子を追い詰めていた。

「もう、疲れました……」

息子が引きこもってから5年を超える監視生活に、もはやさえの精神状態も限界に達しようとしていた。

■異常行動の背景にある“過剰な家族バッシング”

私は父親を交え、家族で話をする機会を作った。さえの行動は確かに異常だが、父親の様子があまりに他人事であることに正直、呆れてしまった。さえは家庭で孤立しており、仕事を辞めてからは他人と接する機会もなく、自分の行動の異常性を認識することができなくなっていた。

幸也はしばらく、父親の海外勤務に同行することになり、帰国後、外国人が集うバーで働き始め、そこで知り合った女性と結婚した。

暴力やプライバシーの侵害など、他人に対して行えば犯罪になるようなことを子どもにしている親が、子どもに罪を犯してはならないと説いても全く説得力がない。異常な行動に出るまで親が追いつめられる背景には、世間からの誹謗中傷といった加害者家族に対する社会的制裁がある。ネット上に残る性犯罪者とその家族に向かられる罵詈雑言や屈辱的な表現は、たとえ直接自分に向けられることがなかったとしても、加害者家族を精神的に追い詰めている。

過剰なバッシングは家族にとって耐え難いプレッシャーとなっており、再犯抑止どころか犯罪を助長する悪循環となっていることにも理解が必要である。

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阿部 恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長
東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。2008年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)、『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)、『高学歴難民』(講談社現代新書)がある。

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(NPO法人World Open Heart理事長 阿部 恭子)

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