アベノミクスで日本は復活するか【2】大和総研チーフエコノミスト 熊谷亮丸氏
プレジデントオンライン / 2013年3月5日 10時45分
12年12月に新首相に就任した安倍晋三氏が、日本経済の再生プランとして提示したのが「アベノミクス」と呼ばれる経済政策だ。日本再生は国民が期待するところだが、アベノミクスで可能なのか、識者に聞いてみた。
【熊谷亮丸】「アベノミクス」が評価できる点は、第1に、経済成長重視の政策であることだ。経済政策を大別すると、経済の「供給サイド」の政策と「需要サイド」の政策、内需と外需の4つの象限に分けられる。民主党政権はその中で「需要サイド」や「内需」に大きなウエートを置き、円高、EPA(経済連携協定)などへの対応の遅れ、労働規制、高い法人税を放置し、財界からは「アンチビジネス(反企業)」的と指摘されてきた。対してアベノミクスは、「プロビジネス(企業寄り)」的なスタンスを鮮明にしている。
第2には、日銀にさらなる金融緩和を求め、インフレ目標政策の導入も決めたこと。これまで日銀は「物価安定の目途」を1%としていたが、これを「目標」に変えて達成を明確にし、目指す数値も国際標準では低い1%から2%に引き上げた。日銀の金融政策を経済財政諮問会議で検証することも決まり、日銀の「本気」を投資家に確信させ、市場は活性化していく。
第3は、政策が体系的であること。民主党の政策は、政権を取るため自民党へのアンチテーゼを並べるだけのパッチワーク的な政策だった。それを安倍総理は総論や理念から各論にまで降ろし、体系的な政策にしようとしている。国全体のマクロの運営をする重要な機関である経済財政諮問会議を復活させ、13年6月には骨太の方針をつくる。この会議が休眠状態だったことが、日銀総裁と首相のコミュニケーションを悪化させ、日銀の政策迷走を生む大きな原因になった。
また、日本経済再生本部を立ち上げ、その下に産業競争力会議を設けた。民主党政権は経済界とコミュニケーションが悪かったが、今回、経済財政諮問会議に現役の経営者が2人入った。ミクロの産業競争力会議には財界の重鎮もいれば、楽天の三木谷浩史会長兼社長のような若く、現場でビジネスをしている経営者など、多士済々で、肌感覚の提案が政府に入る。そのミクロとマクロを安倍首相や甘利明経済再生担当相がうまく連携させ、体系的な政策がつくれるかがポイントになる。
■賃上げ減税で雇用増はかる
衆院の解散から、為替は11円以上円安になっている。株は1100円以上も上がった。例えば為替が11円の円安だと日本の国内総生産(GDP)は約3兆円、0.6%くらい上がる。株が上がれば人々のマインドが変わって消費も増え、経営者がデフレ脱却と考えれば設備投資に動く。日銀は、金融緩和がすぐに貸し出し増に結びつくかどうかという間接金融重視の考え方だが、株高や円安で市場の期待を変えることが大事で、最終的に実体経済にプラスになる。
当面は「3本の矢」のうち、金融政策、財政政策が中心だが、10.3兆円の追加経済対策の中身は公共投資は少し多めの実質約5兆円で、景気を押し上げる。成長戦略では、いいアイデアが盛り込まれている。例えば民主党政権では雇用を増やせば減税する策だったが、今回はそれに加え、労働者に対する分配を増やした企業、つまり賃金を上げたときも減税するという、踏み込んだ形で雇用増の政策を取り入れた。さらに、研究開発や投資に対する支援など、企業が拡大均衡型で成長していける対策が盛り込まれている。また、祖父母が孫に対して教育資金をまとめてあげた場合の贈与税の免除という、世代間の所得移転を進める対策も入っている。
今のところ良好なスタートダッシュといっていい。が、参院選後の今後の課題としては、中長期的に経済成長力を高めるために、農業、医療など規制緩和やTPP参加などの構造改革、そして財政規律をどれだけ維持することができるかだろう。
※すべて雑誌掲載当時
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1966年生まれ。日本興業銀行調査部などを経て大和総研入社。テレビ東京「WBS」コメンテーター。近著に『消費税が日本を救う』がある。
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(大和総研執行役員 調査本部副本部長(経済調査、金融調査担当)、チーフエコノミスト 熊谷 亮丸 吉田茂人=構成 小川聡=撮影)
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