アベノミクスで日本は復活するか【3】みずほ総研副理事長 杉浦哲郎氏
プレジデントオンライン / 2013年3月6日 10時45分
12年12月に新首相に就任した安倍晋三氏が、日本経済の再生プランとして提示したのが「アベノミクス」と呼ばれる経済政策だ。日本再生は国民が期待するところだが、アベノミクスで可能なのか、識者に聞いてみた。
【杉浦哲郎】経済再生を最重要課題に掲げた安倍政権の経済政策が、幸先のいいスタートをきったように見える。公共事業、金融緩和、成長戦略を推進していくという、いわゆる“3本の矢”への政財界からの評価は、おしなべて高いようだ。
このうち、まず取り組むのは、安倍晋三首相が衆院選前から声高に訴えていた金融緩和と公共事業だ。が、はたしてその実効性は額面どおりなのか。私は、いくつかの点で懐疑的である。
金融緩和については、これまでより強い姿勢で一段の緩和を日銀に要求。インフレ目標2%を共有して、デフレ脱却をめざすという。しかし、日銀の名目GDPに対する資産残高は、FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)と比べても遜色はない。
それでも市中に資金が回らないのは、企業が危機に備えて手元流動性を確保するために、設備投資等を抑制してきたからである。アベノミクスで経営者の景気回復に対する期待感に働きかけるといっても、資金需要がなければ、日銀は国債を購入するしかない。だが、過剰な国債の発行はデフレ脱却ができなければ、一転して財政赤字を招いてしまう。
一方、公共投資の目玉は鳴り物入りで登場した「国土強靭化計画」である。それによれば、向こう10年間で合計200兆円を注ぎ込む。民主党政権時の政策とは逆の“人からコンクリートへ”と揶揄される所以だが、実際、かつての自民党時代のバラマキを思い出す。
まず手始めに行われるのが、緊急の経済対策である。事業規模は20.2兆円で、国費ベースで5.2兆円が公共事業に分配された。これで復興・防災対策を行い、景気を早期に押し上げる効果を狙う。だが、東日本大震災からの復興や老朽化した高速道路のトンネル補修のような投資では、周辺への波及効果は薄いうえ、即効性はあるが持続性に欠ける。
■経済を底上げしない成長戦略
今後10年間、公共事業が続いていくにしても、ゼネコンによる建設用重機などへの設備投資や作業員の雇用が劇的に増えるとは考えにくい。また、凍結していたダム建設や整備新幹線も現場は地方である。それが国全体の景気を十二分に刺激できるかは疑問だ。
ところで、成長戦略だが、これも過去10年ほどの経緯を見ていくと、そう簡単ではないことがわかってくる。というのも、2001年以降の小泉内閣から野田内閣までに7つもの“成長戦略”が策定され、推進されてきた。
確かにITや医療といった成長分野は伸びたかもしれない。けれども残念ながら、日本の経済全体の底上げはできなかった。なぜなら、他の産業が景気後退の中で地盤沈下したからだ。
結局、官に依存した補助金や保護政策下での成長産業育成ではだめなのである。やはり、国内産業が成長力を取り戻すためにはイノベーションしかない。幸い日本には中小企業を含めて、技術と人材がある。
ただ、それらが生かされていない。それを成長に結びつけ、付加価値を生み出すモデルが必要である。そして、それはモノづくり+αといっていい。それを成し遂げるのは人しかいないと考えるべきだろう。そうすれば雇用も創出される。
このように、一時的なカンフル剤ではなく、日本の強みを引き出し、それを原動力にしていく成長戦略が不可欠なのだ。それができなければ、いわゆるアベノミクスへの期待が失望に変わったとき、そこに残されるのは世界から置き去りにされた日本の姿でしかない。
※すべて雑誌掲載当時
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1954年生まれ。富士銀行(現みずほFG)入行。富士総研経済調査部長、みずほ総研チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『病名:【日本病】』など。
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(みずほ総研副理事長 杉浦 哲郎 岡村繁雄=構成 小倉和徳=撮影)
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