「こんがり焼けたトーストは体に悪い」は本当か…老化を進める"糖化"を無理せず避ける画期的な方法
プレジデントオンライン / 2024年10月31日 15時15分
■「終末糖化産物(AGEs)」とは
最近、健康関連のニュースで「糖化」という単語をよく目にするようになりました。正確には「終末糖化産物(Advanced Glycation End Products:以下AGEs)」といい、私たちの体の老化を進めるとされている物質です。
血管の内側で発生すれば動脈硬化の原因に、皮膚や軟骨のコラーゲンが糖化されると弾性を失ってシワやたるみ、関節痛、骨粗鬆症などの原因になると推測されていて、さまざまな老化の原因物質として注目されています。
AGEsは体内で生成されるだけでなく、食品にも含まれているもの。たんぱく質のアミノ酸と糖(ブドウ糖や果糖など)による化学反応(メイラード反応)によって作り出されます。メイラード反応は熱を加えることで反応が強くなり、さらに時間の経過により増加するため、たんぱく質と糖を含む食品を加熱調理したり長期間保存したりすると、さまざまなAGEsが作り出されるのです。こう聞くと摂取しないよう気をつけたいという気持ちになりますが、食品中のAGEsは本当に危険なものなのでしょうか。
■危険なAGEs「アクリルアミド」
食品に含まれる有害なAGEsの代表格は、アクリルアミドです。2000年代初めに発がん性が指摘され、話題になりました。しかも、遺伝毒性を持つ事が明らかになり、少量であっても無毒とはいえないため、食品には含まれていないことが望ましい化合物に分類されます。
ところがアクリルアミドは、アミノ酸である「アスパラギン」と「糖類」からできるAGEsであり、もともとは含まれていない食品でも加熱調理や長期保存により増加します。アクリルアミドは食品中の水分が少ない場合や高温を加えた場合により多く発生するため、同じ加熱調理でも「揚げる」「焼く」といった調理法に比べて、「茹でる」「蒸す」という水を利用した調理法のほうが低減できることがわかっています。
なお、以下のような食品には、アクリルアミドが特に多く含まれています。
【アクリルアミドの多い食品例】
・フライドポテト、ポテトチップスなどのじゃがいもを揚げた料理やお菓子
・天ぷら、唐揚げなどの揚げ物
・クッキーやビスケット、シリアル、マドレーヌなどの穀類を原材料とする食品
・コーヒーやほうじ茶、炒り豆などの焙煎した飲食物
・せんべい、おかき、黒糖、かりんとうなどのお菓子
■平均的な食生活なら問題なし
ただ、アクリルアミドは、日常の食事から完全に除去することはできない成分です。加熱調理をしなくても長期保存することで少しずつ発生するため、生の食品だけを食べる生活を送ったとしても摂取量をゼロにすることはできません。
そのため、さまざまな食品メーカーが、アクリルアミドの発生を抑える調理法や加工法を開発し、低減するための取り組みを行っています。現在では、すでに市販食品のアクリルアミド量の低減が進んでいるといえるでしょう。家庭でも、アクリルアミドの多い食品を控えたり、揚げ物や焼き物、炒め物の頻度を少なめにする、ナッツや乾燥果実は早めに食べきるなどの対応で摂取量を減らすことが可能です。
また、アクリルアミド自体は有害な化合物ですが、日本人の平均的な食生活では健康に大きな影響を及ぼすことはなさそうだと考えられています。「アクリルアミドの摂取量が明らかに多い食生活の人は要注意」くらいに思っていただくといいでしょう。
■食べ物に含まれるAGEsは有害か
さて、食品に含まれるAGEsは、アクリルアミドだけではありません。ほかのAGEsは、アクリルアミド同様に危険なものなのでしょうか?
例えば、こんがりと焼けた美味しそうなトーストやコーヒーの黒色はメイラード反応で発生した「メラノイジン」という色素によるものですが、これもAGEsの仲間です。褐色色素であるメラノイジンは、強い抗酸化作用を持つことが知られており、油脂の酸化を抑制し、食品の保存性も高めている有用な成分です。つまり、危険なものとはいえないでしょう。
そのほかにも食品に含まれるAGEsには、「CML」「MG-H1」などのいくつもの種類がありますが、体の中でどのように働くかはまだ十分にわかっていないのが実情です。多量に摂取するとインスリン抵抗性を高めるという悪い報告もありますが、食物繊維と同じように腸内細菌に利用されるなどの有用な面もあり、よい悪いで分類できるほど単純ではなさそうです。
なお、味噌などの日本の伝統的な保存食品にはAGEsが高いものも多いですが、それを理由とした健康被害は報告されていません。AGEsの量が多いからといって避ける必要はないでしょう。
■体内で作られるAGEsこそ要注意
メイラード反応は、食品だけでなく、私たちの体内でも発生します。その代表的なものの一つが、糖尿病の指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)です。
これは酸素を運ぶたんぱく質であるヘモグロビンが、血液中のブドウ糖(血糖)と反応して糖化したもの(糖化ヘモグロビン)です。糖の量が多いと糖化反応は起こりやすいため、ヘモグロビンに占めるHbA1cの割合が高いほど、高血糖状態が長く続いていることを意味します。糖尿病によって高血糖状態が続くと、血管の糖化により、動脈硬化が進行すると考えられるのです。そのほか体内の糖化の原因には、ストレスや喫煙、睡眠不足などがあり、AGEsを増大させる要因だと考えられています。
糖尿病の予防には、食事中のAGEsを気にするよりも、運動とバランスのよい食事による過体重の予防、飲み物や間食での糖質の過剰摂取を控えることが大事です。またストレスをためないためにも、十分な睡眠と休養もこころがける必要があります。
■食事は「量」と「バランス」が大事
確かにAGEsは、体内において老化の原因物質の一つとして問題になります。でも、食品に含まれているAGEsが同じような悪さをするとは限りません。体にとって必要な成分でも、とり過ぎれば「肥満」や「糖尿病」の原因となって健康を害すこともありますし、有害な成分であっても量が少なければ問題にならないことも多くあります。
つまり、大事なのは食事の「量」や「バランス」なのです。
そもそも、私たちが日常的に口にしている食品のほとんどには、「体によい成分」も「体に悪い成分」もどちらも含まれています。食品に含まれる成分の健康への影響は「量」に依存します。さまざまな食品をバランスよく食べることが健康によいとされるのは、有害な成分の摂取量が多くならないようにするという、じつはリスクマネジメント策でもあるのです。
ですから、あまりAGEsのことを心配しなくても大丈夫。揚げ物や焼き菓子などの摂取量が多くなりすぎないよう気をつけながら、バランスのよい食生活を送るようにしましょう。
〈参考文献・資料〉
R.C., Borrelli. V., Fogliano. Bread crust melanoidins as potential prebiotic ingredients. Mol Nutr Food Res. 2005 Jul;49(7):673-8.
Monien, B.H., et al.acrylamide (hemoglobin adducts, urinary mercapturic acids) and new insights on its endogenous formation. Arch Toxicol 98, 2889–2905 (2024).
食品安全委員会「食品安全委員会の20年を振り返る 第5回 アクリルアミドともやし炒め〜リスク評価のその後は?」
農林水産省「食品中のアクリルアミドの含有実態調査」
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管理栄養士、健康科学修士
管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。主にインターネット上で「食と健康」に関する啓蒙活動を行っている。猫派。著書に『新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK』(内外出版社)、共著書に、『薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)、『謎解き超科学』(彩図社)、監修書に『子どもと野菜をなかよしにする図鑑 すごいぞ! やさいーズ』(オレンジページ)がある。
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(管理栄養士、健康科学修士 成田 崇信)
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