「闇バイト」を検索するだけなら大丈夫と思っていた…「虫も殺せない青年」が強盗犯になり人生を棒に振るまで
プレジデントオンライン / 2024年10月30日 16時15分
■闇バイトで逮捕された少年「無我夢中で殴った」
筆者は、法務省更生保護就労支援事業所長や保護司に加えて、ノンフィクション作家の立場で、複数の闇バイト従事経験者と面談してきた。
闇バイトで逮捕された人に「捕まると思わなかったのか」と問うと、「捕まるかどうかは五分五分と思ったが、(闇バイトを)途中で辞められなかった」という趣旨の回答が多く、一度入ったら辞められない闇バイトの怖さを痛感している。
中でも、実際に「タタキ(=強盗)」に従事した少年(犯行当時17歳)に聞いた話は、筆者に少なからず動揺を与えた。それは、犯罪現場で求められる刹那の判断をリアルに語ってくれたからだ。以下、その少年との会話を紹介する。
――どんな仕事を請け負ったのか。
【少年】俺らはタタキをやらされました。ターゲットの店の社長が、夜間に売上金を持って帰るから、それを奪えという指示を与えられました
――暴力も辞さずに奪取しろということか?
【少年】はい。俺はタタく役割じゃなかったんですけど、タタく(役割の)奴が、現場でブルっちゃって(怖くなって)タタけなくなった。すると、指示役と繋がっている電話で、「代わりにお前がやれ」と言われて……。そこからは、無我夢中で殴りました。
■奪った金は全部持ち逃げした
――相手は何歳くらいの人?
【少年】そうですね……。60代か70歳くらいじゃないですか。
――殴ったらどうなった?
【少年】一発で倒れました。すると、運悪く通行人が居て、近づいてきました。そこで、とっさに(被害者を介抱している体(てい)を装い)、「大丈夫ですか」と声かけしながら、バッグを奪いました。人が集まりだしたので、混乱に紛れて逃げました。
――金は指示役に届けたのか?
【少年】いえ。事前にカネは500万円あると言われていたのですが、150万円ほどしか入っていなかった。これじゃあ、分け前も少なくなる。リスク犯したのは俺なんで、全額持ち逃げしました。
――捕まると思わなかったのか。
【少年】半々ですね。でも、指示役の(電話の)プレッシャーが半端ないんで、現場に行ったら無我夢中ですよ。
身長は170センチほど。やせ型で筋肉質ではなく、犯罪をしそうには見えない容貌の少年は、防犯カメラの映像で特定され、後日逮捕された。犯行時少年だったこともあり、保護処分を受け少年院に送致された。
■普通の青少年が重大事犯者になる
現代社会では、SNSの普及により犯罪誘発の機会が無数に存在する。
という機会選択から、重大な犯罪に簡単につながる。
そんな意図を持たない普通の青少年でも、指示役の言葉に騙され時に脅され、気づいたら重大犯罪の加害者になってしまう可能性がある。これが闇バイトの怖さだ。
このことは、ルフィ事件の実行犯だった青年(犯行当時21歳)による生々しい証言からもよくわかる。
起訴状によると、青年は「ほかの数人と共謀して広島市西区にある時計等買い取り専門店の店舗兼住宅に押し入り、住人男性を殴るなど親子3人にけがをさせ、現金や腕時計などあわせて約2700万円相当を奪ったとされた」事件を起こした。
以下、RCC中国放送が報じた記事〔「守らなければならない優先順位を間違っていた」闇バイトで加担した“ルフィ事件”実行役の青年(22)が語ったこと〕の一部を紹介したい。
青年は、最初から闇バイトを選択したわけではないという。借金苦から追い詰められて闇バイトという機会を選択しなくてはならないと思い込むようになっていったと話す。
■「人を殴れない」と語った青年だが
きっかけは友人への借金だった。アルバイトがクビになると生活は一気に苦しくなった。彼らへの返済期日が近づく中、新規のアルバイトも見つからず、闇金融に行くも取り立てが厳しく返済には至らない。臓器を売ることもよぎったが現実的ではない。
友人からのプレッシャーもあり心理的に追い込まれていき、「どんどん“闇バイト”の方に行ってしまったのだと思います。初めて“闇バイト”を検索しました。検索するだけなら……とそういうこと(怖いものだと)は思いませんでした」(実行役の青年)
SNSを介し指示役と思しき人物と繋がった。その人物に「掲示板から来ました」と伝えると、「グレーな仕事です」と返信が来たという。怖くなり、一度は連絡を絶った。しかし、借金苦から再び闇バイトを検索した。
前回とは別の闇バイトを選択。指示役に対して、青年は「犯罪にならないのならやりたい」と回答。指示役から言われたのは「家族がグルになっていて、家の中で手引きしてくれて、簡単に家に入れる強盗」だったという。
「(指示役から「ターゲットを殴ったり蹴ったりできるか」と言われたことに対し)今までそんなことをしたことは一度もないし、普通に考えてできないと思っていました。考えがまとまりませんでした。逃げたいけれど、人のことも殴れないし、どうしようと。どうしようと思っていたら現場に着いてしまいました」(同)
青年の容姿は、どこにでもいそうな、ごくごく普通の青年だ。「人を殴れないと思った」と言うように、借金さえなければ人を殴ることはおろか、虫をも殺さぬ男なのだろう。しかし、その青年について、検察側は「被害者に暴行を加え積極的に行動した」と、論告求刑時に述べている。
この青年の話は、記事冒頭の少年が語った「現場に行ったら無我夢中ですよ」という主張と重なるものがある。SNS上で犯罪を「選択」した青年の末路は悲惨としか言いようがない。
裁判では「暴行を加えて被害者を制圧する強盗の計画を分かっていたのに報酬のために実行に加わったことは強く非難されるべき」などとし、懲役14年の判決が言い渡されており、安易な「選択」の代償はあまりに大きいものだった。
■なぜ詐欺ではなく強盗なのか
警察庁の犯罪統計資料「刑法犯 罪種別 認知・検挙件数・検挙人員」によれば、2023年の強盗事件の認知件数は1361件(前年比18.6%増)で、検挙件数は1232件(前年比16.2%増)、検挙された人員数は1601人(前年比21.1%増)と、いずれも増加している。
特筆すべきは少年の検挙人員数で、その数は329人(前年比40.0%増)と極めて深刻な増加率となっている。
ちなみに、2023年の特殊詐欺発生状況は、認知件数1万9033件、被害額441.2億円と昨年に続き増加(それぞれ前年比で8.3%、19.0%の増加)となり、こちらも深刻な情勢が続いていることがわかる(警察庁「令和5年の犯罪情勢」令和6年2月)。
闇バイトは、「ルフィ事件」以降、犯罪色が濃くなっているようにみえる。2023年11月、台東区上野の宝飾店に3人組で押し入ったのは、18歳の少年と16歳の男子高校生だった。翌12月、埼玉県久喜市の住宅強盗では、16歳から18歳の男子高校生4人が、住人の女性を包丁やバールで脅して現金を奪っている。
強盗は、特殊詐欺と異なり、実行犯のトレーニングの時間が不要であり、今日募集して明日にも犯罪遂行が可能な犯罪ですから、犯罪の首謀者にとっては都合がいい。
少年の犯罪対策は、待ったなしだ。「うちの子に限って」「大都市圏だから事件が起きるんでしょ」などという無関心が犯罪を増幅させる。無知無関心は犯罪の温床となる。逮捕された時に、「闇バイトが犯罪とは知りませんでした」という言い訳は通用しない。
■行きつく先は「社会的廃人」
昨今、闇バイト従事者が逮捕されると、初犯者でも一般予防の観点から実刑は免れず、多くの場合刑事施設に収容されている。少年でも18歳以上(特定少年)は、刑事事件として裁かれる。
元検察官は、闇バイト、すなわち、末端従事者の厳罰理由につき、次のように述べている。「受け子・出し子・掛け子は末端の利用される存在であるとはいえ、他方、特殊詐欺組織の中では受け子・出し子・掛け子があるからこそ犯罪が敢行されるから、役割の重要性は否定できず、厳罰の必要性は末端でも変わらない」と。
安易な闇バイト応募は、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の一員となってしまう。そして、その先にあるのは、逮捕され、少年院送致や刑務所への収監。さらに、成人の場合は、釈放後も反社履歴(反社会的集団加入履歴)が付くので、半グレや準暴力団(トクリュウ)でなかったとしても、社会的制裁は変わらない。
反社履歴が付くとどうなるか。
口座が作れない、家が借りられない、携帯の契約が出来ない、就職もできないという状況に直面する可能性が高い。デジタルタトゥーが残れば、結婚すら難しくなる可能性が高くなる。だから筆者は、闇バイトの行きつく先は、「社会的廃人」になると警告し続けている。
闇バイトは、可能性に満ちた青少年の人生を台無しにする。簡単にお金は稼げない。犯罪は割に合わないという現実に気づいてほしいと思う。
■元非行少年だった私がどうしても伝えたいこと
不登校で不良だった筆者は、中学を卒業後、17歳でブランドショップのアルバイトに採用され、19歳の時にデザイナーとして就職した。同輩や先輩から「中卒は天然記念物」と馬鹿にされたことを契機に、23歳で一念発起し、通信制高校、大学、大学院と進学することで学び直しを試みた。
チャレンジを重ねることにより、筆者は不良の道から外れ、更生することができた。学び直しは、残念ながらひとりではできない。多くの先達が背中を押し、教導し続けてくれたからこそ、20代前半に自ら設定した指標を(10年以上かけて)達成できたのだ。
筆者はこの過程で気づいたことを、若いみなさんにのこしたいと思う。それは、「人間は裏切ることがあるけれども、学問は人間を裏切らない」、「手に職を付けたとしたら、泥棒だろうが権力者だろうが、誰もそれを奪うことは出来ない」ということ。
だから、筆者は、非行や犯罪に手を染めてしまった若者に対して、手に職を付けるか、勉強して学歴を得るかするために(通信制の高校や大学など、お金が無くても進学可能な進学先はある)、人生の内でほんの数年間だけでも一生懸命に何かに打ち込んでほしいとアドバイスしている。
■闇バイトの先に待つのは破滅だけ
若い皆さんに不可能はない。夢を大きく持ち、目標を見いだしてほしい。そして、目標を定めたら、その目標に至る道を自分で調べ、チャレンジしてほしい。たくさん失敗し、挫折を味わってほしい。若い時の失敗や挫折は、後年、必ず人生の糧となる。
若いうちに頑張って、泥棒からも権力者からも奪われない「あなただけのスキル」を身に付けるべきだ。そうすれば、闇バイトなどせずとも、お金は十分に得られるはずだ。
昨今の闇バイト募集は巧妙になっている。ネット求人などの一般求人に紛れているケースもある。もし、闇バイトに引っかかってしまったら、躊躇(ためら)わずに「#9110」に電話して警察に助けを求めてほしい。
全国の警察は「指示役などに脅されても必ず保護する」というメッセージを出し、実際に10月26日には、闇バイトを抜けた3人を保護している。
闇バイトの先に待つのは破滅だ。貰えるか分からない少額のお金のために、一生を棒に振らないでほしい。
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龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学)
博士(学術)。1970年福岡市生まれ。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了。専門は犯罪社会学。青少年の健全な社会化をサポートする家族社会や地域社会の整備が中心テーマ。現在、大学非常勤講師、日本キャリア開発協会のキャリアカウンセラーなどを務める傍ら、「人々の経験を書き残す者」として執筆活動を続けている。著書に『若者はなぜヤクザになったのか』(ハーベスト社)、『ヤクザになる理由』(新潮新書)、『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』(新潮文庫)『ヤクザと介護――暴力団離脱者たちの研究』(角川新書)など。
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(龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学) 廣末 登)
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