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中絶に収入依存した医師が女性器の美容整形に流れる…赤裸々な"施術メニュー"に見る女性の悩みと倫理問題

プレジデントオンライン / 2024年10月31日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SabdiZ

中絶手術などを主な診療内容にしている医師の一部が今、女性器形成施術を新規に始めるケースが増えているという。ジャーナリストの此花わかさんは「経口中絶薬の薬事認可をきっかけに一部で増え始めているようだ。医師が女性器形成施術を始めるのは、医療施設とスタッフの雇用を維持する目的もあるが、女性器形成をめぐってはさまざまな問題がある」という――。

■中絶に収入依存の一部医師が女性器の美容整形へ

日本で経口中絶薬「メフィーゴパック」がついに認可されたのは、2023年4月のこと。これは女性にとって中絶方法の選択肢が広がる意味で画期的だったが、医師にも大きな影響を与えている。

手術や検査など中絶に関わる診療が自身のクリニックの売上や収入の軸だった医師の一部が、仕事内容をシフトする動きが見られているという。

都内で産婦人科クリニックを経営するある医師はこう語る。

「中絶手術に収入を頼ってきた医師の一部が女性器形成へ流れています。特にクリニックを経営している医師数人から、中絶薬認可をきっかけに、医療施設とスタッフの雇用を維持するために女性器形成施術を新規に始める準備をしている・始めたと聞きました」

その背景を調べると、日本社会に潜む4つの問題が浮かび上がってきた。

■第一の問題:経口中絶薬の利点が発揮できる運用がされていない

第一に、日本では経口中絶薬の利点を発揮できる運用ができていない。そもそも経口中絶薬の導入は中国やフランスよりも35年遅れて認可された。経口中絶薬は、多くの先進国で1980年代以降に順次承認されてきた。最も早い承認国は中国とフランスで1988年。イギリスでは1991年、アメリカでは2000年に承認された。

経口中絶薬は現在96カ国以上で安全だと薬事承認されており、WHOの必須医薬品リストに入っている。しかも、医師の面前での服用や入院を条件としておらず、患者は自宅で服用できるとされている。女性にとって経口中絶薬の大きな利点は自宅で服用できることだが、日本では指定医の面前での服用と入院が必須で、最終的には中絶手術と同じぐらいの費用がかかる。日本の経口中絶薬の運用は、他国と大きく異なるのだ。

ただし、国内で日本型運用が続けば、経口中絶薬は他の国ほど普及しないだろう。それならば中絶手術に収入を依存していた産婦人科医は美容整形まで診療を広げなくてもよいのではないか。

その点について前出の産婦人科医に聞くと、「将来的に中絶薬が安価になる可能性があり、中絶件数は毎年減っている。だから、女性器形成へ走る医師がいるのではないか」という。実は、日本の中絶件数は2018年以降毎年減少している。2022年の人工妊娠中絶件数は12万件ほどで前年比2.7%減少した。加えて人口減少や性教育の向上を踏まえると、中絶の需要が減っていくと考えられるだろう。

■第二の問題:「直美(ちょくび)」問題

経口中絶の薬事承認をきっかけに、今後の中絶需要や人口減少なども視野において一部の人が女性器整形へ舵を切ったとのだろう。特に、近年急速に需要が拡大し、高収入を得られる分野として医師たちを引きつけているのが美容整形であり、そのパーツのひとつの女性器も含まれる。

現在、国内では才能ある医師の人材流出と医師育成コストの損失が問題化している。日本でひとりの医師を育成するための費用は1億円を超えるとも言われているが、医師免許を取得し2年の研修を終えた直後に都市部の美容外科に就職する医師が増加しているという。医師が不足しているのは地方であり、内科、外科、小児科、救急救命といった命に関わる診療科である。

筒井冨美医師が執筆した過去記事「『ヒヨッコ医師でも年収2000万円超』美容外科クリニックに腕利き外科医や有望新人が年200人流出の国家的危機」(プレジデントオンライン、2024年9月12日配信)によると、医師国家試験合格者は2年間の研修を受けた後、専攻の診療科に進むのが通例だが、美容外科クリニックに直接就職するケースが年200人出ているそうだ。この現象は「直美(ちょくび)」と呼ばれ、深刻な問題になりつつある。なぜなら、日本における医師の人材不足を加速させるだけでなく、医師を育てる国の支援の無駄遣いにもなっているからだ。

俯く女性
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

なぜ、流出するのか。筒井医師は、原因は一般病院の医師の待遇や労働環境が悪く、一生懸命治療しても患者や家族から感謝されず、医師たちがやりがいを失っていることだと説明している。前出とは別の筆者の知人も「直美医師」として美容皮膚科クリニックに長年勤務し、「レーザー施術しかできない私は自分を医師と呼べるのだろうか。しかし今さらやり直しも難しいし……」と心情を吐露した。

「直美」に走る医師を批判するのではなく、医師の労働環境を改善し、やりがいを感じられるような働き方やキャリアの再構築ができるような仕組みを作らなければいけないのではないだろうか。

■第三の問題:女性器に対する非現実的な期待と思い込み

女性器形成の施術メニューを見てみると、次のような言葉が続く。「びらびら切除(小陰唇切除)」「名器形成(膣にヒアルロン酸注射・膣脂肪注入・膣を縫う・ハイフ照射などをして膣を小さくする)」「黒ずみ解消(レーザー照射や美白剤)「たるみ切除」「左右対称」「ふっくら若々しい大陰唇(ヒアルロン酸や脂肪を注射で注入してふっくらとさせる)」「クリトリス包茎手術(クリトリスの皮を切除する)」……。

女性器に期待される美の基準はあまりにも非現実的なものだ。シワ、たるみ、ひだや黒ずみもない女性器など存在しない。そもそも「名器」「若々しい」「びらびら」「たるみ」「黒ずみ」という言葉は、いったい“誰目線”のものなのか。また、膣に異物を混入してまで膣を小さくする必要があるのだろうか。社会の非現実的な期待や思い込みに沿った施術のように見える。

もちろん、なかには女性器の形のせいで健康被害が起こっている女性もいるだろう。そういった女性に対する女性器形成は決して否定されてはいけない。けれども現在、多くの国際的な医師団体が「美容を目的」とした女性器形成について警笛を鳴らしているのだ。

黒づくめの女性に、子宮のイラスト
写真=iStock.com/mi-viri
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mi-viri

例えば、2022年に筆者が取材したスウェーデンの性科学者マーリン・ドレヴスタムさんは、「健康被害がない限り女性器の美容整形手術をする必要はない。すべての女性器はノーマル」と主張する。ドレヴスタムさんはスウェーデンの朝のTV番組に産婦人科医と一緒に出演し、さまざまな女性器のイラストを見せて“女性器に画一的な美しさはない”という点を強調したという。

また、1954年に設立された世界中の130カ国以上の産科・婦人科学会を会員にもつ国際産婦人科連合(FIGO:International Federation of Gynecology and Obstetrics)は女性器の美容整形手術(Female Genital Cosmetic Surgery:FGCS)は社会的・文化的な圧力や、身体に対する不健全な美意識に基づいて行われる場合が多いことを問題視し、「産婦人科医が美容的外性器手術を提案、推奨、実施、または紹介することは倫理的に許されない」と主張する。FIGOの「産婦人科医の倫理とプロフェッショナリズムのガイドライン」によると、WHOやユニセフなど国連機関も女性器美容整形(FGCS)に関してはFIGOと同調しているという。

さらに2013年には、英国王立産婦人科医会が「女性器美容整形(FGCS)を問題のないライフスタイルの選択肢として提示することは望ましくない」と指摘し、医学的適応がない限り、FGCSは行うべきではないと述べている。

とはいえ、女性器美容整形手術にはすべての医療従事者が反対しているわけではない。2021年6月にトルコ産婦人科医学会ジャーナル(2021;18(2):131-138)で発表された研究によると623人の医学部学生、産婦人科医や専門家を対象に行った調査では、半数の医学生や医師は女性器の美容整形施術は患者の希望があった場合のみ実施が可能で、自尊心、生活の質や性的機能の改善につながると述べている。つまり、医師や医療従事者の間でも賛否両論に分かれているというわけだ。

■第四の問題:女性器美容整形の長期的リスク

ただし、女性器形成施術(FGCS)の長期的リスクはまだデータが不足していることは事実だ。2020年1月、米国産婦人科医会(ACOG)は、性器美容外科手術の有効性を裏付けるデータが不足していること、およびその潜在的な合併症について女性に伝えることを推奨している。

また、オーストラリア・ニュージーランド産婦人科医協会(Royal Australian and New Zealand College of Obstetricians and Gynaecologists)も、手術による不必要な被害を避けるために、医学的必要のない女性器美容整形手術(レーザー膣若返り、処女膜形成術、Gスポット増大術など)を行わないよう勧告している。

現時点で医学的に必要のない女性器美容整形手術について、長期的な満足度、安全性、合併症率を評価した研究はほとんどない。だからこそ、オーストラリア・ニュージーランド産婦人科医協会は女性器美容整形に関して次のリスクを注意喚起している。

● 離開(傷の感染/または破壊)
● 組織の除去過多による異痛症(痛みの刺激に対する組織の感度上昇)
● 神経損傷による性器感覚の低下
● 永続的な色調変化(炎症後色素沈着または色素減少)
● 潤滑の低下
● 性交疼痛症(性交時の痛み)
● 癒着および瘢痕
● 外陰部に影響を及ぼす皮膚疾患
● 大陰唇の傷跡と変形
● 尿失禁を含む尿路症状
● 骨盤底機能障害
● 腫れ、あざ、出血、痛み

●分娩時の合併症、経膣分娩時の瘢痕組織の裂傷など

●患者本人またはパートナーの期待に沿わない美容上の結果

●心理的な苦痛

■女性器形成はグローバルトレンド

ところが、以上のような日本の状況は他の先進国と比べると決して特異なものとは言えない。

国際性器美容外科・性科学会(International Society of Aesthetic Genital Surgery and Sexology)によると、アメリカでは、2012年から2017年の5年間に陰唇形成術(5年以内)が2倍以上増加しているという。また、アメリカ美容外科学会(ASAPS)の調査では美容整形医の26%が女性器の形成も行っており、需要は年々膨らんでいると推測されている。

国際美容外科学会(ISAPS)が2017年に発表した調査では、106カ国合計で小陰唇縮小術の施術件数は45%増加したという。そのトップ10はブラジル、アメリカ、ロシア、スペイン、ドイツ、トルコ、コロンビア、フランス、メキシコとインド。まさに宗教や文化を超えたグローバルなトレンドなのだ。

一部の医師が女性器形成に転向する背景には、経済的な事情や中絶件数の減少など複雑な要因が絡んでいる。彼らが診療の継続やスタッフの雇用を守るために美容整形へ舵を切るのは、現実的な選択肢として理解できる側面もある。

しかし、女性器に押し付けられる非現実的な美の基準や、その結果として広がる美容目的の施術には倫理的な問題が多く含まれている。

こうした状況が生まれる背景には、医師たちのキャリア形成を支える制度や、医療をめぐる環境が十分整っていないことも大きい。行政には、経済的負担や規制の見直しを含む医療制度改革を進め、医師が安心して医療の本質に集中できる環境を整える責任がある。女性の健康と権利を守るためにも、医療と美意識にまつわる社会全体の意識改革が急務だ。

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此花 わか(このはな・わか)
ジャーナリスト
社会・文化を取材し、日本語と英語で発信するジャーナリスト。ライアン・ゴズリングやヒュー・ジャックマンなどのハリウッドスターから、宇宙飛行士や芥川賞作家まで様々なジャンルの人々へのインタビューも手掛ける。

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(ジャーナリスト 此花 わか)

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