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東京の停電時間は「年間7分」、ニューヨークは「167分」…エネルギー貧国の日本が「世界一停電が短い」理由

プレジデントオンライン / 2024年11月1日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yaophotograph

日本はエネルギー資源が乏しく、ほとんどを輸入に頼っている。しかし、大きな災害を除けば停電することはほとんどない。どうやって電力を安定供給しているのか。エネルギー・エバンジェリストの関口美奈さんの新著『13歳からのエネルギーを知る旅』(KADOKAWA)より、一部を紹介する――。

■朝目覚めたら、部屋の電気がつかない

「ふぁ~」

モコは大きく伸びをしながら目を覚ました。辺りは真っ暗だ。

「う~ん、今何時?」

いつもならバックライトで時刻を示しているはずのデジタル時計が、今日はなんの表示もない。

「おかしいな」

充電器に差してあるスマホの画面にタッチしてみたが、こちらも反応がない。

「ありゃりゃ? 何?」

慌てて、電気をつけようとスイッチをパチッと入れたが、部屋中の電気がつかない。

「えっ? どういうこと?」

真っ暗な部屋の中でパニックになりかけたところで、階下からママの声がした。

「モコ~。起きなさ~い!」
「う、う~ん」

目をこすりながら体を起こして周りを見回した。あ、時計、動いてる。スマホも。

「今日は朝練なんでしょ! さっさと支度して、ご飯食べて、学校行かないと!」
「……夢、か」

モコは、ホッと胸をなでおろしてベッドから離れた。急いで身支度を整えて階段を駆け下り、トーストと目玉焼きと牛乳でエネルギーチャージすると、学校に向かって猛ダッシュした。走りながら、モコは考えていた。私たちは、毎日毎日、電気やガスを使っているけど、それって本当に当たり前のことなのかな?

■世界中の「夜」はこんなにも明るい

翌日、3人はエナジーとのオンラインミーティングを知らせるルーティンのメールを受け取った。今回はいつもとは、ちょっと違っていた。メールの一番下に、どこかのサイトにつながるリンクが貼ってあり、「これ見て!」とエナジーのメッセージがついている。

4日後、約束の時間に3人がそれぞれの部屋からオンライン接続すると、エナジーの画面には、先日リンクで送られてきたのと同じ画像が映し出されていた。

「どう、きれいでしょ。これ、夜の地球よ」

もちろん、地球全体が同時に夜になるはずはない。その写真は、NASA(アメリカ航空宇宙局)等から提供された数百枚の衛星写真をつなぎ合わせたものだという。

「うん、とてもきれい! 初めて見た時、感動した」

3人は声をそろえて言った。

「いろんな夜の地球の画像がネットに掲載されているわ。動画もあるから、検索ワードに『夜の地球 衛星データ』って入れて探してごらん。これを見るとね、地球上のいろんな国や地域の経済活動がどれくらい活発か一目瞭然なの」

■眠っている間もたくさん電気が使われている

「ほら、日本を見て。夜なのに、すごく明るいでしょ。アメリカは西海岸に少し光が見えるけど、ほとんどが東海岸ね。西ヨーロッパは全般的に明るいけど、特に明るいのはイギリスのロンドン辺りと、そこから大陸側に渡ったところ。これはオランダかしら。

そして、北イタリア辺りが随分明るいわね。少し明かりが灯っているのは、ロシアの首都モスクワ辺りね。中国はやはり海側の上海辺りが一番明るい。みんなが眠っている間にも、世界中でこんなにたくさんの電気が使われているってことね」

宇宙から見た地球
写真=iStock.com/NicoElNino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NicoElNino

「私ね、この前、変な夢を見たんだ。朝起きたら、部屋中の電気がつかなくて、デジタル時計もスマホも画面が真っ暗。パニックになりかけたところで目が覚めたの。そんなこと、今まで経験したことがなかったから、夢って分かった今でも、ずっと頭の中に真っ暗な部屋のイメージが残ってる。ねぇ、災害じゃない時でも、そんなこと、本当にあったりする?」

モコが不安そうな声で聞いた。それに答えたのは、カイトだ。

■日本が停電するのは年間で「10分」だけ

「最近は特に、集中的な豪雨や台風が来ると停電になったりすることが多い。だけど僕、日本は国際的にみても停電の時間がすごく少ないって聞いたことがあるんだ。1年のうちの停電時間は、フランスで51分、イギリスで40分とかだったかな。アメリカは結構よく停電があって、ニューヨーク州で167分、カリフォルニア州で355分以上。でも、それに比べて、日本は全国平均で10分、東京や関東辺りだけに限定すると、たったの7分ぐらいらしいんだ(※1)

※1:停電時間の国際比較/数表でみる東京電力/東京電力ホールディングス株式会社(tepco.co.jp)

「ええ、すごい! じゃ、日本では災害時でなければ停電の心配はしなくてもいいのかな。

でもさ、おかしくない? 地図を見ながらエネルギー資源がある国をマークした時、日本は真っ白のままだったでしょ。つまり、日本にはエネルギー資源がないってことだよね。それなのに、どうして日本の停電時間は、どこの国よりも短いの?」

2人のやり取りをじっくり聞いていたエナジーは、待ってました!とばかりに言った。

「それでは、今日の対話のテーマを発表します。“エネルギー資源のない日本のエネルギー格闘ヒストリー”よ! 島国日本は、どのようにして“電気はあって当たり前、停電がほとんどない国”になったのでしょう⁉」

■エネルギー自給率はたったの11%

「さっきモコが言った通り、日本には、エネルギー資源がとっても少ない。じゃあ、私たちが使っている電気や動力の元は、一体どうしているのだと思う?」

「日本は、エネルギー資源を他の国からの輸入に頼っているっていうことですね」

「そう、その通り! 輸入に頼らないで、日本国内で賄うことができるエネルギーの割合を“エネルギー自給率”っていうんだけど、日本の場合、エネルギー自給率はたったの11%。言い換えれば、エネルギー資源の実に89%を海外の国々に依存しているの。それがどういうことか、分かるかな?」

「うーんと、エネルギー資源を買わなくちゃいけないから、お金をたくさん海外に支払わないといけないんだと思う」

ラミが答えた。

「そうね。必要とするものを海外から輸入する時には、お金を払わなくちゃいけないわね。じゃあ、もう1つ質問。お金さえ払えば、海外の国は必ずエネルギー資源を売ってくれるのかしら?」

「それって、意地悪されて売ってもらえないかもしれないってこと?」とモコ。

「うーん、意地悪っていうか、そのエネルギー資源を欲しいのが日本だけじゃないとしたら、量が足りなくなるってこともあるんじゃないかしら? それに、エネルギー資源がある国も、安い値段では売りたくないっていう場合もあるかもしれないわね」

■もし、エネルギー資源を輸入できなくなったら…

モコは思わず、4日前、夢で見た真っ暗な自分の部屋を思い出して不安げに言った。

「いつか日本がエネルギー資源を十分輸入できなくなって、ある朝突然、電気がつかなくなったりしちゃうのかな?」
「安心して。日本は今まで、エネルギー資源が不足したから電気がつかなくなったということはありません!」
「なーんだぁ。ビビったぁ~」

3人は胸をなでおろした。

「ここで、みんなに知っておいてほしいことがあるの」

エナジーが大きな画用紙を画面に映し出した。画用紙の一番上には、太いマジックペンで「S+3E」と書いてあった。

【図表1】日本のエネルギー政策の原則
出典=『13歳からのエネルギーを知る旅』

その画用紙を、グーッとカメラに近づけながら説明した。

■安定供給、安全輸送、そして低価格

「これは、家や学校、会社、工場、そして、電車、駅、病院などの公共の場も含めてエネルギーを毎日問題なく使うことができるようにするために大事な4つのことを表しているの。それぞれの頭文字をとって、S+3Eよ。

まず、最初がSafety(セーフティー)ね。石油やガスの採掘、生産、輸送の時には、安全に対する配慮が必要なの。取り扱いを間違えれば、タンカーから石油が漏れて海を汚染して、魚が死んで生態系を崩してしまうし、引火などしようものなら大事故になるわ。エネルギーを使って発電を行う発電所も同様ね。発電所は、さまざまな高度な技術を使うものが多いの」

エナジーは、さらに続けた。

「2つ目、Energy(エナジー)Security(セキュリティー)は社会生活や経済活動が停滞しないように、安定して資源国からエネルギーを輸入し、国内に供給すること。エネルギー安全保障とも言うわ。3つ目のEconomic(エコノミック) Efficiency(エフィシェンシー)は、みんなが電気代として払える価格でエネルギーを提供すること。

例えば、電気代が高くなりすぎて払えなくなったとしたらどうなるかしら?」

「え? 電気、止められちゃうの? 明かりもつかないし、ごはんも炊けないし、テレビだってもちろん見られなくなっちゃうよ」

部屋の照明
写真=iStock.com/Artit_Wongpradu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Artit_Wongpradu

■一つ一つは当たり前のことだが…

「それ以外にも、凍えるほど寒くたって暖房は使えないし、暑くて熱中症になりそうでも冷房も使えない。冷蔵庫だって使えないから食べ物の保存ができない。そんなことになったら便利か不便かってレベルの話じゃなくて、人の生死にかかわるわよね。だから、エネルギーや電力は、なるべく価格を抑えておく必要があるのよ。

最後はEnvironment(エンバイロンメント)。もともとは、環境に優しいとか、環境に配慮したっていう程度の意味合いだったけど、今では、気候変動を止めるために、脱炭素とか二酸化炭素を排出しないエネルギーの方が望ましい、という意味合いの方が強くなってきたわね」

「この4つのことが大事だっていうのはよく分かりました。でも当然といえば当然のことのような気もするんです。なぜここで、あえてこの4つが大事だってことを強調するんでしょうか?」

たいがい、大事なことというのは当たり前のことが多い。カイトの発言は素朴な疑問だった。

「いいポイントに気がついたわね。そうなの。それぞれ単独で見てみれば、大事なことなのは一目瞭然。でもね、この4つが同時に成り立つようにすることを考えてみたらどうかしら? それは、そんなに簡単なことじゃないのよね」
「それはどういうことですか?」

■日本はこの4つを何とか成立させている

「例えば、Economic Efficiencyというのがあるよね。誰にでも払える電気代で提供することが大事ってこと。それだけを考えたら、多分一番安い発電の方法は、石炭を燃料に使う石炭火力発電なのね。石炭は結構いろんな国にあって、安価で入手しやすいエネルギー資源だったよね。でも、石炭を使うと二酸化炭素がとてもたくさん排出されて、Environment、つまり環境に配慮した、とか脱炭素っていうのが成り立たなくなる」

「じゃあ、再生可能エネルギーをたくさん使えばいいんじゃない?」とモコ。「そうね。でも、今はまだ、日本には再生可能エネルギーは、みんなに必要な電力を賄えるほど十分にはないから、Energy Security、つまり安定的に電力を届けるってことが成り立っていない。それに、石炭と比べると再生可能エネルギーでつくる電力は、今の時点ではまだ値段が高いの。

おまけに、お日様任せ、風任せで、電気をつくる量がうまくコントロールできないから、必要な時に電力が足りなくなったり、必要のない時にたくさん電気ができたりっていうことが起こるの」

「安定供給できないってことですね」

■“夢のエネルギー”だった原子力も議論が再燃

「そう。2011年、福島の原子力発電所の事故が起こるまで、原子力でつくる電力は二酸化炭素も出さないし、発電コストも安いし、燃料も将来的にはリサイクルして使えるから、日本のように資源のない国にとってはとても望ましい方法だと考えられていたの。

関口美奈『13歳からのエネルギーを知る旅』(KADOKAWA)
関口美奈『13歳からのエネルギーを知る旅』(KADOKAWA)

“夢のエネルギー”なんて呼ばれていたわ。だけど、大きな事故が起こって、人々は原子力発電のSafety、安全性への不安を募らせるようになってしまった。原子力発電については、とても大事な話だから別の対話で旅をしたいと思っているわ」

エナジーは一呼吸おいて、こう締めくくった。

「つまり、この4つの大事なことは、このうちの2つ以上の条件を同時に成立させることがそんなに簡単じゃないっていう特徴があるの。今、地球上の国のほとんどが同じ問題を抱えている。そして、この4つの大事なことを共有し、それぞれの国が持っている資源をやり取りしたり、共同で技術開発することを通じて、難しい課題に協力して挑戦しようとしているのよ」

まとめ

・日本のエネルギー自給率はたったの11%。エネルギー資源の実に89%を海外の国々に依存している。にもかかわらず、日本の停電時間は世界一短い。

・エネルギー供給を切らさないための、政治や外交、国内供給システム向上のための努力を、エネルギー安全保障という。

・エネルギーを毎日問題なく使うための、大事な4つの要素は、『S+3E』。Safety(安全)、Energy Security(安定供給)、Economic Efficiency(手頃な価格)、Environment(環境に優しい)。これら4つの要素を同時に成立させることは容易ではない。

・1970年代の石油ショックを経て、エネルギーの安定供給が、国の経済や将来に影響を与える最重要課題だということを国民全体が認識し、この後、石油依存から脱却するために、液化天然ガスや原子力の比率を増やし、エネルギー源の多様化に取り組んだ。

・パイプラインを使って輸送されていた天然ガス(Natural Gas)は、日本が完成させたプロセスによって、LNG(Liquefied Natural Gas 液化天然ガス)という新しい形態になった。液化することによって、ガスの体積は600分の1になり、長い海路を船で効率よく輸送できるようになった。

・2011年の福島の原子力発電所の事故を受けて、原子力発電が停止され、その後の発電に使うエネルギーは、LNGと石炭に大きく依存することになった。

・2015年頃から、地球温暖化の問題や気候変動リスクが世界的な課題として認識されるようになった。日本が再び化石燃料に大きく依存せざるを得ないタイミングで、世界から脱炭素化を突きつけられ、日本にとっては厳しいチャレンジとなった。

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関口 美奈(せきぐち・みな)
エネルギー・エバンジェリスト
大学卒業後、テキサス州立大学アーリントン校大学院でMBAを取得。1997年、現KPMGあずさ監査法人で、エネルギー・インフラストラクチャ‐セクター統括責任者、アジア・パシフィックのエネルギーセクター統括責任者を兼務。2022年、リゾナンシア合同会社設立。「エネルギーの脆弱な日本の現状を知ることで未来は変えられる」との考えから、複雑なエネルギーの仕組みを平易な言葉で伝える講演活動を、学校、企業、自治体などで展開する。

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(エネルギー・エバンジェリスト 関口 美奈)

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