「防災バッグ」には何を入れればいいのか…全国の被災地で活躍する「防災のプロ」が常に持ち歩いている物
プレジデントオンライン / 2024年11月4日 18時15分
■家に置いてある防災バッグ、いつ使う?
「防災バッグっていつ必要になるかわかりますか? みなさんよく勘違いするのですが、地震で揺れている最中に防災バッグを持って避難所に逃げるわけではありません。揺れが収まるまで外出先や自宅で待つ。自宅が倒壊の危険があると判断し、指定の避難場所へ避難するときに、はじめて防災バッグを持ち出すんです。自宅避難できると判断したら、家の備蓄品で生活すればいいんです」
地震直後、自分がどのような状況に置かれるかわからない。自宅が倒壊して避難するかもしれないし、自宅に残って生活できるかもしれない。あらゆる状況を想定して、自宅用、避難所持ち出し用、さらに外出用の3つに分けて防災品を用意するのが、辻さんが実践する方法だ。
この3種の防災品は、実際に被災地で「命を守る」ライフセーバーとして役立った。辻さんが2018年の大阪府北部地震で被災した際も、第1回で紹介した家の防災対策と自宅用防災品のおかげで、自宅で普段と変わらない快適な暮らしを送ることができた、と辻さんは話す。
■外出時の備えはバッグとポーチの2段構え
「外出先でいつ地震が起きるかわからない。どこで被災しても『これだけあれば何とかなる』を想定して、普段使いの防災バッグ(画像1)に、さらに厳選したグッズを収納した防災ポーチを入れてダブルで携行している」という。
普段から使用している「命を守る役立つ物」を入れ、近所までちょっと買い物という時も、万が一に備えて持ち歩いているそうだ。
以下、辻さんへの取材と著書『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(扶桑社)を基に具体的に紹介する。
■被災時に大活躍する日本手ぬぐい
まず紹介してくれたのは「防災4種の神器」だ。辻さんはカラビナに付けていつもどこでも携行している。マルチツール以外の3点は100円ショップでも売っている。
・防災笛(中に氏名・連絡先・血液型を書いたメモ入り)
・小型ソーラーライト
・小型コンパス(建物が倒壊して目印がなくなっても、方位が分かれば避難可能)
・マルチツール(ハサミ、マイナスドライバー、ナイフ、ピンセット、爪やすりの機能装備)
防災グッズの中で辻さんのイチオシは日本手ぬぐい。自衛隊も使用しているという日本手ぬぐいは、手を拭くだけでなく、包帯やマスクの代わりにも使えて、乾きやすいという利点もある。
■まずは自分に必要な物から準備してみる
辻さんが日常的に持ち歩いている防災グッズを図表1・2にまとめた。星マークを付けたのが、防災ポーチに入れている「厳選グッズ」だ。
■「防災のプロ」は救助・医療グッズも必須
これらは災害が発生した時に救助を専門に活動する国際災害レスキューナースだからこその持ち物であり、私たち一般人が全てを持ち歩くのは難しいかもしれない。まずは、自分にとって必要だと思った物から揃えて、持ち歩くことを習慣にしてみてはいかがだろうか。
辻さんによると、避難所へ持ち出す防災バッグの中身を決めるポイントは、災害時の生活の質(QOL)を支える3大欲求の「睡眠欲」「食欲」「清潔欲」の中で、自分にとって快適な生活を送るうえで最も重要なものは何かを自問すること。そして、それに必要な物を判断することだ。
「自分にとって一番なくてはならない物は何か、人によって違います。例えば、私の場合は睡眠や食欲に対してこだわりは持っていない。どこでも眠れるし、1週間毎日同じ物を食べても飽きないけれども、お風呂に入っていない人や自分の臭いが苦手で、清潔欲求が高い。自分が一番必要とする欲求を満たすように、工夫して備えるといいんです」
■「睡眠・食事・清潔」どれが一番重要か
睡眠が自分にとって最も重要ならば、睡眠しやすい環境づくりのために何が必要かを考えて、防災バッグに用意しておく。例えば、気持ちを落ち着かせてゆっくり休むのに、香りが欠かせないのであれば、アロマスプレーやアロマ精油を用意する。騒音で眠れなくなるのであれば、自分に合った耳栓を用意するという具合だ。
避難所では身体を洗うことができないので、清潔が重要という人は大勢の人の体臭でストレスになることも十分想定できる。マスクや、少しでも臭いを軽減する効果のあるアロマオイルやスプレーを用意するなど工夫が必要になる。
アロマの香りは、被災後にストレスが増大したときに、気持ちを落ち着かせる効果もある、と被災地で実践してきた辻さんは勧める。
■防災バッグはすぐに持ち出せる場所に保管を
辻さんの避難所持ち出し用の防災バッグの中身は画像4の通り。持ち出し防災バッグはかなり重くなるので、いざという時のために、バッグを背負って自宅から避難所まで歩き慣れておくといいそうだ。辻さんの場合、「防災のプロ」として多めに用意しているので重量は20キロほどになる。
クローゼットや押し入れの奥に防災バッグをしまっている人も多いかもしれないが、辻さんは避難する場合を想定して、持ち出しやすい玄関のくつ箱に置いている。
また、中身を収納して放置するのではなく、普段から必要な物を取り出して使っているそうだ。この「ローリングストック」をすることで、何が足りないか、消費期限は大丈夫か、常に防災品の確認・見直しができると、辻さんは話す。
■「自分仕様」にカスタマイズするのが重要
図表3・4は、持ち出し用防災バッグに入れておきたいもの一覧だ。
家族でも好みや大切な物は違うので、各自でマイ防災バッグを用意する。すでに一式セットされた防災バッグを用意している人も要領は同じで、自分仕様にカスタマイズするのが重要だ。
たとえば、服薬中あるいは持病のある人は薬。眼鏡の人は予備の眼鏡やコンタクトレンズ。眠りに問題のある人は耳栓やアイマスク、アロマオイル。ストレス軽減にコーヒー、チョコレートなど嗜好品、推しの写真や本などもいいそうだ。ここに挙げたものは一例として、各自で判断してプラスしてほしい。
■被災時、スマホの充電切れは死活問題
現代人にとって必需品なのはスマホであり、被災時も連絡や情報収集のために欠かせない。そのため、充電切れ対策として大容量のモバイル充電器を準備しておくと安心だ。
被災後、見ず知らずの他人と生活する避難所生活より、住み慣れた自宅で生活できたほうがもちろんいい。「自宅避難」をするために必要なことは第1回で紹介した通りだが、自宅用の備えは何が必要なのか。
■「ローリングストック」しながら暮らす
「被災すると普段とは違う環境に身を置くことになるので、心身にストレスがかかる。そのため自宅での生活は、日常使用しているものをそのまま利用して普段の生活に近いようにすると、ストレスが軽減できますよ」と辻さんは話す。
辻さんが普段から実践しているのは水と食料を10日分程度多めにストックし、使いながら補充する、ローリングストックによる暮らしだ。
生命維持に必要な水は、取り出せない場合を想定して、リビングルーム、寝室、玄関と分散して保管している。防災品や防災食を買って備えるという発想だと、使ったことや食べたことのない物を我慢して使うことになる。「家が備蓄庫」、特に食に関しては「冷蔵庫が備蓄庫」と考えて備えているという。
■初めての防災対策はゆるくていい
自宅用の防災品で欠かせないのが水だ。辻さんによると、10日間で1人当たり30リットルを目安とし、多めに40リットルの保管を勧める。この水は日常生活でも消費するが、使ったら必ず補充するのが鉄則という。
食料は2週間分を目安に準備し、食材、カトラリー、カセットコンロ、カセットボンベ一式をセットで用意すると、すぐに取り出して使えて便利だ。
トイレ対策として第2回で紹介した簡易トイレに使うペットシーツ、ゴミ袋、新聞紙は大量にストックしておくことをおすすめする。
辻さんは停電した時に備えて、単3電池と単1電池、ソーラーライトやランタンのほかモバイルバッテリーや電池式ラジオも準備している。
全国各地で防災の講演活動もしている辻さんによると、地震大国・日本であっても備えをしている人は1割程度しかいないという。
「私の話を聞いた人はみなさん、スイッチが入って、“絶対やります”って言うんですよね。滑り止めシートとか買ったりするようですけど、買った時のまま丸まった状態になっていたりする(笑)。一度にやると、しんどくなるから防災対策は雑でいいんですよ。ゆるいやる気で一つずつやっていきましょう」
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国際災害レスキューナース
一般社団法人育母塾代表理事。吹田市民病院勤務時代に阪神・淡路大震災で被災、実家が全壊する。その後赴任した聖路加国際病院救命救急部で地下鉄サリン事件の救命活動にあたり、本格的に災害医療活動を始める。東日本大震災や西日本豪雨などで救助を行う。現在はフリーランスのナースとして国内での講演、病院や企業や行政にむけて防災教育をメインに活動中。全面監修した防災リュックも販売している。著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』(扶桑社)など。
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(国際災害レスキューナース 辻 直美 文・構成=ライター・中沢弘子)
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