「石破首相」を選んでも地獄、「野田首相」を選んでも地獄…国民民主・玉木代表がこれからたどる"いばらの道"
プレジデントオンライン / 2024年10月30日 11時45分
■国民民主党、日本維新の会の「危機的局面」
「自公過半数割れ、立憲躍進」となった今回の衆院選(10月27日投開票)。連立与党、野党第1党のいずれも衆院の過半数の議席を獲得できず、選挙後の多数派工作に焦点が集まるなか、国民民主党や日本維新の会など、いわゆる「第三極」勢力がにわかに注目されている。
政局のキーマンになったつもりなのか、両党周辺にはどこか浮かれた空気さえ感じられるが、実のところ両党こそ、非常に難しい危機的局面を迎えていると筆者は思う。衆院に小選挙区制が導入されて以降の約30年、こうした「第三極」政党のほとんどは、両党のはざまにもまれて衰退するか、消えてなくなっているからだ。
そもそも彼らは今、本当にキャスティングボートを握っているのだろうか。
■維新・馬場代表の見当違いな「モテ期」発言
開票作業が進む27日夜、筆者はニコニコ生放送の開票特番に出演していた。番組の途中、スタジオと各党幹部を中継で結んで話す場面があったが、維新の馬場伸幸代表のこの一言が印象に残った。
「しばらく『モテ期』が来ると思いますが……」
過半数割れした自民党と、過半数に届かなかった立憲が、ともに我が党にすり寄り、連携を打診するに違いない、ということだろう。野党第2党を維持したとはいえ、前回衆院選(2021年)の獲得議席を下回る38議席にとどまり、野党第1党を争った立憲とは100議席を超す差がついた維新だが、馬場氏は「モテ期」と言った途端、引き締めていた顔をほころばせた。
野党第3党・国民民主党の玉木雄一郎代表も同様だ。玉木氏の「自民寄り」姿勢も遠因となり党の分裂を招いた国民民主だが、今回は前回の11議席から28議席へと伸長。玉木氏は28日のBS日テレの番組で、自民党から打診があれば石破茂首相(党総裁)とも「会う用意がいつでもある」と前のめりに語った。
裏金問題で国民の大きな批判を受け、歴史的な議席減となった自民党と比べてさえ、はるかに支持を得られていない両党の「大政党を振り回す」ような態度には、正直首をかしげる。しかし、それを差し置いても、筆者は両党に問いたい。「そんなことより自らの足元は大丈夫なのか」と。
■93年細川政権で生まれた「第三極政党の幻想」
今回の選挙結果は31年前の1993(平成5)年、中選挙区制時代の衆院選で起きた選挙結果に近い。今回同様「政治とカネ」問題で大きな批判を受けた自民党は、比較第1党となったものの、衆院で過半数を割った。一方の「非自民」勢力も過半数を制することができず、選挙後の多数派工作の結果、「非自民」側が第5党だった日本新党の細川護熙代表を首相に担ぐことに成功。自民党は結党後初めて野党に転落した。
細川政権の樹立自体は、55年体制という「昭和の政治」を終わらせ、日本の政治を大きく前に進める歴史的な出来事だったが、選挙後の永田町政局で政権の帰趨が決まったことは、必ずしも望ましいことではなかった。
また、第5党から首相が出たことは、その後「大政党を率いなくてもキャスティングボートを握り、楽に影響力を持てる」という幻想を政界に与え、その後「第三極」政党が断続的に誕生しては消える政治を生んだ。
■「比例代表並立制」の弊害
衆院への小選挙区制導入は、選挙後の政局ではなく、与党と野党第1党が選挙で政権の座を争い、民意を得て勝った党が政権を担う形を目指した。しかし「比例代表並立制」となったことで、衆院に「第三極」政党が存続する余地が残った。
比例代表並立制自体は、選挙区で1人しか当選せず死票が非常に多くなる小選挙区制の弱点を補う効果もあり、否定すべきものではない。だが、1993年衆院選のように「与党と野党第1党がともに過半数を得られず、第三極政党がキャスティングボートを握る」ことを排除できない、という制度上の欠点を残すことにもなった。
そして今回の衆院選で、それが現実になったのだ。
しかし、それが「第三極」政党にとって必ずしも好ましいことだとは言えない。冒頭に述べたように、これらの「第三極」政党は結局、与党と野党のどちらかを選択することを迫られ、やがて分裂したり自民党に吸収されたりして衰退していったからだ。自由党、保守党、保守新党、みんなの党……。こうした例は枚挙にいとまがない。
■「第三極」政党の生き残る道
「第三極」と呼ばれた政党でまともに生き残ったのは、1996年衆院選で野党第2党としてスタートした民主党くらいのものだ。結党翌年の97年、当時の野党第1党・新進党が突然解党し、同党議員の多くが民主党に合流したため、民主党は「棚ぼた」で野党第1党となり、後に政権交代を実現した。
このような「棚ぼた」でもない限り、「第三極」政党が大きく浮上することは、まずない。「第三極」の生きる道は、2大政党のどちらかにくみして、その政党に協力しつつ何らかの圧力をかけて政策を実現することだと言える。
この観点から維新と国民民主の現状を考えたい。ポイントは①首相指名選挙、②党内の路線対立――の2点である。
メディアの報道では、石破政権と維新や国民民主について「連立入りか、閣外協力か」という憶測が楽しげに飛び交っている。しかし、それは石破政権が継続した場合のこと。そのためには石破首相は、まず特別国会での首相指名選挙に勝ち、再び首相に選ばれなければならない。衆院選の結果、自公両党は自力でそれを実現させることができなくなったため、今維新や国民民主の両党に秋波を送ろうとしているのだ。
■「自民とも立憲とも組まない」のいいとこどりはできない
維新も国民民主も現時点で「自民と立憲のどちらとも組まない」姿勢を強調している。しかし、両党がその姿勢を貫いた状態で首相指名選挙を迎えたらどうなるか。誰も過半数の票を得られず、石破首相と立憲の野田佳彦代表との決選投票になる可能性が高い。維新も国民民主も、決選投票で石破氏と野田氏のどちらの名前を書くかを迫られる。「自民党と立憲民主党のどちらの側に立つのか」を決めなければならないのだ。
その選択を迫られたくないのだろう。玉木氏は28日のTBS番組などで、決選投票でも「玉木雄一郎と書く」と言い放った。そんなことをすれば、それはただの無効票だ。衆院選で有権者の1票1票を大切に積み重ねてきた国会議員が、最も大事な仕事の一つである「首相を選ぶ選挙」で無効票を投じることを奨励するなら、政党トップとしても国会議員としても不適格だ。玉木氏は発言を撤回したほうがいい。
いずれにせよ維新も国民民主も「自民側」か「立憲側」に色分けされる可能性が高い。両党がその後、連立を組もうが「是々非々」で対応しようが関係ない。そして、一度「自民側」とされれば、影響は来年の参院選まで確実に続く。首相指名選挙とはそういうものだ。
首相指名選挙で与党側につき、政権党のうまみを堪能しつつ、参院選直前に何らかの理由をつけて与党とたもとを分かち、参院選は野党として戦う手もあるかもしれない。だが、こうしたやり方は確実に、党を大きく傷つける。
自民党の小渕政権と連立を組んでいた自由党がそうだ。同党は2000年に政権離脱を決めるが、その際に小沢一郎氏(現立憲民主党)ら連立離脱派と、二階俊博氏ら連立残留派に分裂。残留派は「保守党」を結党し、連立に残った。保守党はその後さらに分裂し、今は影も形もない(二階氏だけは今回の衆院選で引退するまで、自民党で隠然とした力を保ち続けた)。
■維新「大阪組」「非大阪組」の考え方の違い
それだけではない。両党とも党首は「自民党からの秋波」に浮き足立っているかもしれないが、実のところどちらの党内にも「与党寄り」「野党寄り」の考えが混在している。
まず維新である。同党は主に大阪組と非大阪組の間で、議員の認識に差がある。大阪組は、地元で大阪府と大阪市の行政を握る与党であり、大阪万博事業などを通じて「国とのパイプ」も重視する。
一方の非大阪組は、立憲民主党の党勢が低迷していた頃、自民党への対抗勢力の立場を期待されて当選した議員も多い。立憲と政策の開きはあっても、自民党に対峙する意識は強かったりする。今回の衆院選の前には、若手議員から「立憲と選挙区調整すべきだ」「自民党(候補)を落選させるためなら(立憲に選挙区を譲るため自分が)立候補を辞退してもいい」という声さえ出ていた。
大阪組の吉村洋文共同代表(大阪府知事)も、立憲の野田氏が「裏金議員の出馬する小選挙区での野党候補一本化」を提唱すると「筋が通っている」と理解を示した。吉村氏は衆院選後、維新の選挙結果について「野党の中で1人負け」と評し、代表選の実施を訴えた。あからさまな退陣要求ではないが、馬場氏に今後も党のかじ取りを任せるべきかをもう一度考えよう、と主張しているのだ。
馬場氏は29日のBSフジの番組で、
また、衆院選直前に維新入りした前原誠司氏は、確固たる「非自民・非共産」路線の政治家だ。維新が自民党との連携路線を取った場合、果たして党に残れるのだろうか。
■国民、維新こそ自民、立憲以上に正念場に立たされている
国民民主党の場合はさらに、支持基盤の連合という大きな問題がある。
同党にはもともと①自民寄りの玉木氏ら、②「非自民」志向の前原氏ら、③連合の組織内議員ら――の三つの系統があり、②の前原氏は①の玉木氏らとの路線対立の末に党を去った。そして③に大きな影響を与えている連合は、立憲民主、国民民主の両党が連携して、自公に代わる政権勢力となることを望んでいる。芳野友子会長は国民民主党と自民党の連携について「玉木代表が明確に否定している。連合はその言葉を信じていく」と釘を刺した。
これまで自民党の「1強」体制のなかで、維新や国民のような「第三極」政党は「是々非々」と称して与党と野党の「いいとこ取り」をしながら政界を遊泳できた。しかし「自公過半数割れ」という事態によって、こういうモラトリアム的な態度は、もはや許されなくなっている。
両党が明確な態度を示せなければ、自民党も立憲民主党も、やがて政党全体への働きかけから、党内の個々の議員への「一本釣り」に戦略を変えるかもしれない。場合によっては党分裂の危機だ。
本当に正念場に立たされているのは、自民党や立憲民主党以上に、彼ら「第三極」政党なのだと思う。
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ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)、『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)。
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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)
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