1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

全人類が年間1人13食以上食べた計算…米国の刑務所で「たばこ」より盛んに取引される大阪ルーツの食品の名

プレジデントオンライン / 2024年11月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LeeYiuTung

なぜ関西の食品会社は存在感を示しているのか。日本総合研究所 調査部長でチーフエコノミストの石川智久さんは「大阪ルーツの会社によって、地球上に住む全員が1人13食以上食べたとされる食品が開発されている。後にこの食品は、かつて米国の刑務所で盛んに取引されていた『たばこ』に代わって取引されるようになった。関西が世界を変えた象徴といえる」という――。

※本稿は、石川智久『大阪 人づくりの逆襲』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■「子どもたちの仕事は食べることと、遊ぶこと」グリコの精神

大阪といえば「食い倒れ」を背景に食品関係の会社もたくさんあります。「京都の着倒れ、大阪の食い倒れ」と古くからいわれていますが、京都は着物に、大阪は飲み食いに、贅沢をして財産を失うという意味です。いっぱい食べて体が倒れるのではなく、食べ物にお金を惜しまないという意味です。

食品関係で有名なのは、江崎グリコ、ハウス食品です。江崎グリコ創業者の江崎利一(えざきりいち)は、それまで捨てられていた牡蠣の煮汁に栄養素のグリコーゲンが大量に含まれていることを知り、子どもたちの健康増進のために牡蠣のエキスを食品に使うことを考えました。

その際、栄養剤ではなく、お菓子に入れることを思いつき、苦心の末、栄養菓子グリコの商品化に成功します。そして栄養価の高いグリコを、より多くの人々にアピールするため、目を引きつける色のパッケージ、ハート型ダンス、万歳でゴールするランナー、1粒300メートルのキャッチコピーなど、マーケティング的に斬新なアイディアを次々折り込み、他の菓子との差別化と商品イメージの確立を図りました。

また「子どもたちの仕事は食べることと遊ぶこと」との考えから、栄養菓子グリコと豆玩具を1つの箱に入れて売り出すといった工夫をしています。つまりグリコのおまけです。

さらに、試供品の配布、自動販売機の設置などにも取り組みました。まさに食の世界のイノベーターといえる存在です。

■カレーは大人の食べるものという固定観念を破る

ハウス食品は1913年、大阪松屋町筋で薬種化学原料店浦上商店を創業したことから始まります。そして、洋食が普及し、カレー粉に含まれる香辛料の多くが漢方と共通することに創業者の浦上靖介(うらかみせいすけ)が注目して、日本人の味覚に合ったカレー作りに取り組みました。

ハウス食品の独創的なところは、食品業界で初めて街頭で女性販売員による実演販売試食を開始したことです。そしてカレーが軌道に乗るとハヤシライス、こしょう七味からしなど取扱商品を拡大していきました。

戦後は人々の生活が忙しくなり、食生活を合理化したいという動きが強くなるなか、即席ハウスカレーを開発しました。またカレーは大人の食べるものという固定観念を破り、リンゴと蜂蜜入りのバーモントカレーを発売。

カレーライスを食べる女児
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

子どもたちにも喜ばれるような食品を作っていきました。いまでも「食で健康」をグローバルに届けるために新たな手を打っています。一つがカレーチェーン国内最大手のカレーハウスCoCo壱番屋を展開する壱番屋の買収です。

これは業界の注目を集めたものでした。なぜならば、食品メーカーは小さい外食企業を買収したことはありますが、壱番屋のように、ある程度規模感のある外食企業を買収するというのはこれまであまりなかったからでした。

■売上約2000億円で年商440億円の壱番屋を買収したワケ

実際、ハウス食品の連結売上約2000億円に対して、年商440億円の壱番屋はかなり大きな買い物といえます。壱番屋は買収前、売上高経常利益率が10%を超えていて、外食企業としては優等生です。そのため、大手グループに入らなくても十分やっていける会社であったことも意外感に繋がりました。

一方で一部の業界関係者からは、当初から「納得」の声も多く存在しました。そもそも壱番屋にはすでにハウス食品からの資本が入っていたほか、さらにスパイスなどの食材で両社には取引があったためです。意外性と納得性のある合併であったといえます。

さて、日本国内におけるカレーショップの競争構造は独特です。リーダーであるCoCo壱番屋は約1000店舗を展開しているのに対して、2番手と目されるゴーゴーカレーは100店舗弱にとどまっています。

その意味で、ダントツの業界トップの壱番屋をグループに入れたハウス食品は、カレーのトップメーカーとしてさらに力を増しているといえます。また、スパイス専業のギャバン、食の専門商社である「ヴォークス・トレーディング」もグループに迎え入れています。

壱番屋が出てきましたので、同社を創業した宗次徳二(むねつぐとくじ)氏の人材活用の話が興味深いのでご紹介します。なお、宗次氏は石川県生まれで関西の方ではないのですが、一時期尼崎にいたので少し強引に関西経営者としています。

宗次氏は、生後間もなく兵庫県尼崎市の孤児院に預けられ、3歳の時に養父母へ引き取られましたが、養父のギャンブル癖のため、少年時代は各地を転々とする極貧生活を送ったそう。

■「売り上げが落ちたのなら、掃除をしなさい」

こうした苦労を経て、強い自立心が培われ、全くのゼロから東証一部へ上場するほどの一大チェーンをつくり上げました。「経営が趣味」と公言する宗次氏は、ゴルフや飲み会にも一切顔を出さず、ひたすら本業に身をささげてきたというストイックな経営姿勢が多くの人々から尊敬されています。

宗次氏によると、「売り上げが落ちたのなら、掃除をしなさい」といって、オーナーさんたちを鼓舞していたとのことです。

要は、自分の経営姿勢をどう示すかが重要であり、掃除でも、笑顔でも、感謝の言葉でもいいので、経営者の真心をきちんと伝えれば、必ず売り上げは回復すると発言しています。だからこそ、「よそ見している暇なんてない」とのことです。

経営には心が大事であることを示しています。そのうえで、安易に値下げをしたり、おまけをつけるような経営を諫めています。私の解釈ではきちんと心を込めて経営して、お客様が喜んで対価を払うようにしなさいと指摘しているように思います。

さて、ここで掃除という話がありますが、どうやら掃除には経営を良くする効果があるようです。

というのも私が聞いた話ですが、あるマンションオーナーさんが毎日そのマンションの入り口を掃除していると、入り口がきれいになったことで、新しいテナントさんが入るほか、テナントさんからのニーズを聞き出すことができてそれに合わせて改修などをした結果、人気マンションになったとのことです。またある建設会社の人に話を聞いたところ、現場が綺麗なところは作り上げる建築物もかなり出来が良いとのことです。

「値下げをするのではなく、掃除」というのは、奥深い真理かもしれません。

■年間1000億食べられるインスタントラーメン

「やってみなはれ」という言葉を生み出したサントリーも、大阪に縁があります。

関西経済同友会で代表幹事を務め、その後も大阪商工会議所会頭を務めている鳥井信吾(とりいしんご)氏はサントリーホールディングス代表取締役副会長です。関西への地域貢献にも熱心な会社として有名です。

また、「ジムビーム」を持つ米ビームの買収で、スピリッツ(蒸留酒)世界10位から3位へと飛躍しました。ビーム買収に投じた資金は実に160億ドル(当時のレートで約1兆6500億円)とまさに金融史に残る巨額買収でした。

世界で最も売れているバーボンウイスキー「ジムビーム」のほか「メーカーズマーク」「ラフロイグ」などのブランドを手に入れ、社名をビームサントリーに改めています。

この合併を機にリージェントという新商品を開発、これはサントリーHDが2014年5月に買収した米蒸留酒大手、ビーム(現ビームサントリー)との共同開発品です。

それまでもジンやウオッカの開発で協力してきましたが、ウイスキーは原酒を樽で十分に熟成する必要があり、日米で製法が異なります。技術の融合が難しいとされた分野で合作品を仕上げたことは、ビームとの統合作業が進んでいると各方面で受け取られました。

NHKのドラマでも有名になった日清食品も、大阪にルーツがある会社です。日清食品の創業者である安藤百福(あんどうももふく)さんはカップヌードルを開発して、世界的な食品にしました。

石川智久『大阪 人づくりの逆襲』(青春出版社)
石川智久『大阪 人づくりの逆襲』(青春出版社)

雑談ですが、1年間で全世界で食べられるインスタントラーメンは1000億食といわれ、地球上に住む全員が1人13食以上食べたと試算できます。

また、インスタントラーメン発祥の日本では、国内最大の発明品を決める選挙で、特急列車やノートパソコン、カラオケを破り、インスタントラーメンが何度も選ばれています。

かつて米国の刑務所では盛んに取引される商品といえば「たばこ」でしたが、いまは「インスタントラーメン」であるそうです。関西が世界を変えた象徴といってよいでしょう。

回転寿司のスシローも大阪発祥の会社です。スシローといえば、ドバイ万博に出店して、世界に日本の回転すしを宣伝して知名度をあげました。機械化を徹底することで、極力人手を介する部分を減らした結果、清潔な空間で寿司を提供することに成功しています。

コロナ禍の際には、こうした清潔な商品提供が評価されて、多くの消費者がスシローにつめかけることとなりました。機械化が進んでいますので、人手不足への対応という観点からも注目されている企業です。

----------

石川 智久(いしかわ・ともひさ)
日本総合研究所調査部 調査部長/チーフエコノミスト/主席研究員
北九州市生まれ。東京大学経済学部卒業。三井住友銀行、内閣府政策企画調査官等を経て、現職。2019年度神戸経済同友会 提言特別委員会アドバイザー、2020年度関西経済同友会 経済政策委員会委員長代行を務めたほか、大阪府「万博のインパクトを活かした大阪の将来に向けたビジョン」有識者ワーキンググループメンバー、兵庫県資金管理委員会委員などを歴任。関西経済分析の第一人者として、メディアにも多数寄稿・出演。著書に『大阪の逆襲』(青春出版社・共著)、『大阪が日本を救う』(日経BP)など。

----------

(日本総合研究所調査部 調査部長/チーフエコノミスト/主席研究員 石川 智久)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください