だから関東人より関西人のほうが幸福で元気いっぱい…幸せをよぶ関西独特のコミュニケーション
プレジデントオンライン / 2024年11月7日 15時15分
※本稿は、石川智久『大阪 人づくりの逆襲』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■関東人より、関西人のほうが幸福で元気
本稿では、関西と関東の違いを考える意味で、広告会社の博報堂DYグループが実施した調査結果をもとに考えてみたいと思います。
これは、幸福感や元気感の質について比較するために、2022年8月に関東と関西エリアの働いている人を対象にアンケートを取ったものです。
興味深いのは、幸福感、元気感ともに関西が関東を上回るということです。
具体的には「日ごろから、あなたは幸せに暮らしていると思いますか?」という質問に対して、関西は82.5%がその通りと答えた一方で、関東は76.0%であり、関西の方が関東に比べて6.5%高いということになりました。
また、「日ごろから、あなたは明るく元気に過ごしていると思いますか?」という質問に対して関西は77.6%、関東は71.2%になっており、こちらも関西のほうが関東に比べて6.4%高いという結果になっています。
詳細に見ると様々なことがわかります。まず性別で見ると、幸福感については、全般的に女性の方が男性よりも高い傾向がありますが、とりわけ関西の女性の幸福感が高いという結果が出ています。
また年齢別に見ると関西の20代、30代のほうが、幸福感が顕著に高くなっています。関西女性が元気で幸福と聞くと、「関西のおばちゃん」の元気なイメージという印象があるかもしれませんが、むしろ若い世代のほうが元気で幸福感が高いのです。
■関西らしい「人と人との距離感」3つのポイント
さて、関西の働き手のほうが幸福感が高いということはどのような背景があるのでしょうか。調査分析チームでは、幸福感の背景として関西らしい「人と人との距離感」に着目し、3つの仮説を立てて分析をしています。
1つは「本音で話せているか」です。
既存の常識や世の中の空気や論調に対し、忖度(そんたく)なく、自由で解放された気持ちで向き合えているかというもの。激しい競争や成果主義を求められる環境下での重苦しさとは対照的に、自由闊達(かったつ)に可能性を求めてチャレンジしたり、成果に意欲的な態度が現れると考えているようです。
2つ目が「共鳴できているか」です。つまり、自分の考えや感情を閉じることなく表出して、相手とかけあい、話を展開させているかどうかというものです。理知的に理解することにとどめることなく、相手の言葉に自分も呼応できているかを示しています。
ビジネスの環境で考えると、相手の話を受け入れる、あるいは、命令を受け入れるという感覚とは対照的に、素直に共感して、自分の反応を返して話を膨らませていく、展開させていく様子が目に浮かびます。
3点目が「共有できているか」です。心が動いた共鳴の感覚を第三者の他人にも積極的に拡散し、また逆に他の人から受け取ることがあるかというものです。
関西人には最近のおもしろい話を共有する、それをまた別の人に話していくというような話法があるように思っています。ビジネス上でも、自分が気づいたおもしろい視点をぶっちゃけながら表現豊かに語っていくことが会議上でも許されているように思います。
目的主義的になりすぎず、議題の余白をどんどん広げることを協力しながら楽しんでいるようにもみえます。
■他の人となにげないことを楽しく話せる
さて、その3つのコミュニケーション話法をスコアで見ますと、確かにすべての項目で関西が関東を上回る結果となっています。
まず「本音項目」を見ると、自由に本音で話し合ったほうが楽しく思えたり、自分に本音で話してくれる友人がいる、肩書やしがらみに忖度しないといった項目で関西が目立って高くなっています。
また、「共鳴項目」についても、他の人の話をうまく拾って広げたり、その体験談を自分が話したり、逆に人から聞くといったところが指摘されています。また「シェア項目」についても、仲間と一緒に楽しむことが好きといった項目が関西では特に高くなっています。
関西人のコミュニケーションや対人関係の作り方がよくあらわれているのだと思います。関西人のイメージにあるお笑い芸人のようにおもしろいことをいっているのではなく、他の人となにげないことを楽しく話せる信頼関係がありそうです。さらに興味深いのは、この3つの特性をもっているのは関西の人のほうがやはり多いということです。
私はこれらの指標をみたときに、関西人の「おもしろがり体質」だなと感じました。どんな話題でも喜んでくれたり、話を展開したり、なにせとても反応がいい。アーティストのライブでも関西では反応がビビッドであると聞きます。
■人の意見に巻き込まれることも大事にしている
さて、本音・共鳴・シェアといったすべての項目で関西が関東を上回るという結果を受け、反応の重なりを見て関西と関東の違いを分析しています。
そうすると関西の方が関東以上に本音・共鳴・シェアという特性を併せ持っている、つまり、一体化している人が多いということがわかりました。
ただ、単に本音で喋るだけではなく、それについて互いに共鳴して、そして行動までシェアすることが大事と感じている人が関西の方には多いといえると思います。
このようにみますと、関西のコミュニケーションというのは、開放的で自分の思っていることをいい、それに人を巻き込むことでコミュニケーションをより大きくしていると考えることができます。
また自分が人の意見を巻き込むだけでなく、人の意見に巻き込まれることも大事にしているというのは面白い結果だと思います。「おもしろがり体質」というのは互いのコミュニケーション力を加速させて、心を開いた関係性を作り出しているのだと思います。
■“厳しい状況でもどうにかなるさ”と思えるか
さて、幸福感というのは自分だけでは達成できません。
欧米の調査では主体的な幸福感、つまり個人の幸福感を中心に語られることが多いですが、今日本で注目されているのは周辺環境を含めた幸福感の概念です。
やはり周りとの関係がとても重要になると思います。そこでこの調査では、心理的互助性・自己肯定感という2つの視点から検証を行っています。
心理的互助性というのは、コミュニティの中で相互の信頼関係や助けてくれる存在があるかを指しています。“厳しい状況でもどうにかなるさ”という気分のようなものですね。
具体的には「日ごろから辛いことがあっても何とかなると思いますか」「あなたは困ったときに頼れる人の顔が思い浮かびますか」「失敗しても何度でもやり直しが効くと考える」「困っている人を助けるのはお互い様だと考える」という質問項目のすべてにイエスと回答したものを心理的互助性のスコアとみなしています。
心理的互助性のスコアをみていると、本音・共鳴・シェアが一体化している人ほど、この心理的互助性が高いことがわかりました。
日々のコミュニケーションで信頼と連携ができているということでしょうか。会話を通じたフラットな関係性によってお互いを助け合う関係を作れているように思います。
■お互いが助け合い、認め合っている関係
また、自己肯定感とは、コミュニティの中で自分が必要とされているという意識があるかという考え方。
調査では具体的に「日ごろからあなたは見栄を張らず、自分らしく生きていると思いますか」「日々の暮らしの中で誰かに愛されていると感じる」「自分を仲間だと認めてくれる人がいる」「周囲に自分を頼ってくれる人がいる」といった質問についてすべてにイエスと回答した人をスコアにしています。
そして、やはりここでも本音・共鳴・シェアが一体化しているほど、自己肯定感が高いという結果が出ました。心理的互助性にも現れていますが、お互いが助け合い、認め合っている関係が自己肯定感を作り出しているといえそうです。
日本では当たり前のように見える現象かもしれませんが、関西人が本音のコミュニケーションを通じて信頼を高め、お互いの力を引き出しあったり、助け合ったりしてビジネスをまわしている姿が目に浮かびます。
無意識にこうした個性を生かしたり、互助関係を作れていることが、チャレンジを促す風土につながっているようにも思えます。
■なんでも「おもしろがり体質」が幸福感につながる
このように見てくると、関西の人の幸福感というのは、やはり本音で語る文化、そしてそれが共鳴し拡散することで幸福感をも共有できるといったサイクルが生まれていることに起因していると考えられます。
こうした「おもしろがり体質」というのは、幸福感にもつながっているのです。
最近ウェルビーイングという言葉が注目されています。ウェルビーイングという言葉は、様々なものを含むので、一言ではいいにくいところではある概念ですが、ある意味、関西人のウェルビーイングというのは、こうした気持ちの共有というところがあると考えられます。
博報堂DYグループのプロジェクトチームではこれを「omoroi-being」と表現をしています。確かに“おもろい”という言葉はただ単に“面白おかしい”という意味ではなく、互いの気持ちが共鳴できたときに出てくる言葉のように思います。こうした「おもしろがり体質」に着目すると、関西版ウェルビーイングとはまさに「omoroi-being」であると考えられます。
ただし、こうした風土は、関東の企業でももっていたものだと思います。企業の成果を個人成果に分解しながらマネジメントする欧米型の経営メソッドの普及によって弱まっている側面もあるのかもしれません。
また、個々人の主体性よりもヒエラルキーに準じた成果管理によって本音で話せる空気が弱まることもあると思います。個人のがんばりだけでは幸福にもなりにくい世の中ですし、本音で語り合う空気の根底にある“おもしろがる資質”なるものが集団での幸福感を生みだす力となり、日本の企業を元気にするヒントがあるように思います。
■個性を消さず、うまく生かそうとするマネジメント
この「おもしろがり体質」をもっと作り出すことはできないのでしょうか。博報堂DYグループのプロジェクトチームではこのomoroi-beingが企業経営にどう影響を与えているのかの研究を進めているそうです。本音に根差したチームは忖度で仕事を進めることなく、課題を見据えて改善意識や提案意識が高まるという効果があるようです。
心理的互助性や自己肯定感の高い組織は多様性の高いチームを生み出し、共鳴によって生産性の高さにも影響を与えているという構造を明らかにしています。こうした本音・共鳴・共有という、「おもしろがり体質」を根底に置いた組織文化は、関西的ダイナミズムを会社に生み出す可能性があります。
そうした風土を生み出していく人材をつくっていく人材育成プログラムも作り出されることが期待されます。
ここまでみてきた関西企業の強さの根底には、こうした人を見つめる目のやさしさや個人から発露される本音という個性を消さず、むしろうまく生かしていこうとするマネジメントがあるのかもしれません。
そうした人材の育成や組織の風土を意識的に作り出していくことも今後の関西企業独自の強さにつながっていくと思います。
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日本総合研究所調査部 調査部長/チーフエコノミスト/主席研究員
北九州市生まれ。東京大学経済学部卒業。三井住友銀行、内閣府政策企画調査官等を経て、現職。2019年度神戸経済同友会 提言特別委員会アドバイザー、2020年度関西経済同友会 経済政策委員会委員長代行を務めたほか、大阪府「万博のインパクトを活かした大阪の将来に向けたビジョン」有識者ワーキンググループメンバー、兵庫県資金管理委員会委員などを歴任。関西経済分析の第一人者として、メディアにも多数寄稿・出演。著書に『大阪の逆襲』(青春出版社・共著)、『大阪が日本を救う』(日経BP)など。
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(日本総合研究所調査部 調査部長/チーフエコノミスト/主席研究員 石川 智久)
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