食道がんのリスクを"ほぼ確実"に低下させる…最新研究で分かった"長生きするために必要な食べ物"の真実
プレジデントオンライン / 2024年11月3日 9時15分
※本稿は、林芙美(監修)『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■野菜と果物を食べるとがん予防が期待できる
2023年、日本人の死因の第1位はがんでした。日本人の2人に1人は、一生のうちで一度はがんになるというデータもあります。がんをいかに予防するかということは、多くの人にとって重大な関心事です。
国立がん研究センターをはじめとする研究グループは、日本人を対象とした研究結果に基づき、科学的根拠に根ざしたがん予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法(5+1)」を提唱しています。同ガイドラインで提唱されている予防法は次の通りです。
②節酒する
③食生活を見直す
④身体を動かす
⑤適正体重を維持する
⑥感染症の検査を受ける
③の「食生活を見直す」については、「減塩する」「野菜と果物をとる」「熱い飲み物や食べ物は冷ましてから」の3項目が推奨されています。野菜と果物の摂取はがんの予防にも効果が期待できるのです。
がんの原因となりうる物質を発がん物質といいます。野菜や果物に含まれるカロテン、葉酸などのビタミンやその他の機能性成分には、発がん物質のはたらきを弱める酵素の活性を高めたり、がんの一因とされる活性酸素を消去したりする作用があると考えられています。実際、野菜・果物を摂取すると、いくつかのがんの発症リスクが低くなることが報告されています。
■食道がんのリスクを「ほぼ確実」に低下させる
そのひとつが胃がんです。
胃がんは日本人に多いがんのひとつです。これは、ピロリ菌による感染が多いことと、食塩摂取量が多いことが関係しています。かつては日本人に最も多いがんでしたが、診断方法と治療方法の向上で2022年は罹患率・死亡率ともに男女合わせて3位です。
野菜・果物の摂取により、胃がんの発症リスクが下がる可能性があります。国内で行われた4つの前向きコホート研究データを統合して、胃がんと野菜・果物の摂取について調べた研究(*1)ではをもとに胃がんと野菜・果物の摂取について調べた研究では、野菜を摂取すると胃がんの発症リスクが低下することがわかりました。特に男性では、下部胃がんの発症リスクが低下しています。
食道がんも同様です。野菜・果物摂取と食道がんとの関係について調べた国内の研究(*2)では、野菜・果物の合計摂取量が1日あたり100g増加すると、食道がんの発症リスクが約10%低下することが明らかになっています。
国立がん研究センターのまとめでは、野菜・果物を摂取することは胃がんの発症リスクを抑制する「可能性がある」、そして食道がんについては「ほぼ確実」にリスクを低下させるとしています。
(注)
(*1)Shimazu T, Wakai K, Tamakoshi A, Tsuji I, Tanaka K, Matsuo K, Nagata C, Mizoue T, Inoue M, Tsugane S, Sasazuki S; Research Group for the Development and Evaluation of Cancer Prevention Strategies in Japan. (2014) Association of vegetable and fruit intake with gastric cancer risk among Japanese: a pooled analysis of four cohort studies. Ann Oncol, 25(6) , 1228-33.
(*2)Yamaji T, Inoue M, Sasazuki S, Iwasaki M, Kurahashi N, Shimazu T, Tsugane S; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. (2008) Fruit and vegetable consumption and squamous cell carcinoma of the esophagus in Japan: the JPHC study. Int J Cancer, 123(8), 1935-40.
■果物・アブラナ科の野菜は、肺がんのリスクを下げる
日本人でがんの死亡率が最も高いのは、肺がんです(2022年)。肺がんの最大の危険因子は喫煙です。喫煙率は男女とも減少傾向にありますが、いまだに男性は24.8%と4人に1人は喫煙しています(令和4年)。女性の喫煙率はあまり高くありませんが、非喫煙者でも肺がんになる可能性はあります。
野菜・果物の摂取と肺がんとの関係では、特に果物について、国立がん研究センターのリスク評価で肺がんの予防効果が「可能性あり」という結果になっています。野菜では、特にアブラナ科の野菜が肺がんのリスクを下げる可能性があると報告されています。
アブラナ科の野菜の摂取と肺がんについて調べた国内の研究(*3)では、一度も喫煙したことのない男性は、アブラナ科野菜の摂取が多いと肺がんリスクが51%も低くなることがわかりました。過去に喫煙していた人も、肺がんリスクが41%低くなっていました。
残念ながら、喫煙する男性については、アブラナ科野菜の摂取と肺がんのリスクに関連は見られませんでした。また、女性については、喫煙習慣の有無にかかわらず、アブラナ科野菜の摂取と肺がんリスクに関連は見られません。
(注)
(*3)Mori N, Shimazu T, Sasazuki S, Nozue M, Mutoh M, Sawada N, Iwasaki M, Yamaji T, Inoue M, Takachi R, Sunami A, Ishihara J, Sobue T, Tsugane S. (2017) Cruciferous Vegetable Intake Is Inversely Associated with Lung Cancer Risk among Current Nonsmoking Men in the Japan Public Health Center (JPHC) Study. J Nutr, 147(5), 841-849.
■喫煙習慣がある人ほど、アブラナ科野菜を食べたほうが良い
アブラナ科の野菜には、ブロッコリーやキャベツ、からし菜などがあります。これらの野菜には辛味成分であるイソチオシアネートという物質が多く含まれており、このイソチオシアネートは発がん物質の排出を高める作用が報告されています。
アブラナ科の野菜を多く摂取している人ほど、動脈硬化や血管疾患が少ないという報告もあります。女性も喫煙習慣がある男性も、アブラナ科の野菜を意識して食べることには健康上のメリットが大きいといえるでしょう。
ただし、野菜や果物を食べれば、がんの発症リスクが確実に下がるというわけではありません。運動や禁煙など、がんの発症リスクを下げることがすでに分かっている予防法はいくつか存在しますが、野菜・果物の摂取量とがんの関係については、今後のさらなる研究が待たれます。
とはいえ、少なくとも現時点の研究結果から、胃がん、食道がん、肺がんの予防に効果が期待できそうだということは間違いありません。
■腎臓機能が低下している人は野菜の食べ過ぎに注意
これまでお伝えしてきた通り、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な野菜や果物は、健康の維持、増進に欠かせません。人生100年時代といわれる長寿化社会を自分らしく生きるためにも、野菜は1日350g、果物は1日200g程度食べるよう心がけたいものです。
ただし、次に該当する人は調理法を工夫して摂取するようにしてください。
腎臓の機能が低下している人
野菜や果物にはカリウムが多く含まれます。慢性腎臓病の人や腎機能が低下している人がカリウムをとりすぎると、高カリウム血症になるおそれがあります。
高カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が非常に高くなってしまう状態のことです。症状が重い場合は吐き気や脱力感、しびれ、不整脈などの症状が出ることもあります。
カリウムは水に溶けやすい性質があります。野菜はゆでる、水にさらす、水気をしっかり絞ることで、カリウム含有量を調理前の3分の1から3分の2に減らすことができます。
カリウムの摂取を控えたい人は、食べる前にひと工夫しましょう。
汁物や煮物などに使う場合は、別に野菜をゆでてから、汁物・煮物に加えます。炒める、レンチンという調理法ではカリウムは減りにくいので、鍋で下ゆでするか、レンチンしたあとに水にさらすとよいでしょう。果物は生食だとカリウムが多いので、野菜のように水にさらすか、缶詰などの加工品を上手に利用してください。
慢性腎臓病の人や腎機能の低下を指摘されている人は、野菜や果物の適正量について担当医に相談しましょう。
■食物繊維は摂れば摂るほど健康になるわけではない
高齢者
野菜の素材そのものは、ほかの食材に比べてエネルギーが低くなっています。そのため、野菜ばかりを食べて主食や主菜を食べる量が減ると、炭水化物や脂質、たんぱく質が不足して、からだのエネルギーが足りなくなってしまいます。
特に食が細くなっている高齢者は要注意。野菜だけで満腹にならないよう、主食やおかずもしっかりとるようにしましょう。エネルギー不足を補うには油を上手に使うようにします。煮物やお浸しなどのあっさりした調理だけでなく、一度素揚げしてからお浸しにする、マヨネーズなどオイルが入ったドレッシングを使うなど、油を使った調理法も試してみてください。揚げ物が面倒という場合、フライパンに少し多めに油を入れて、揚げ焼きにしてもいいでしょう。
胃腸が不調なとき
野菜や果物に多く含まれる食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。水溶性食物繊維には脂質や糖の吸収をゆるやかにする作用のほか、便をやわらかくしてくれるはたらきがあります。また、不溶性食物繊維は水分を吸収して膨らみ、便のかさを増やして便秘を改善してくれます。
このように、食物繊維は胃腸の健康維持に役立ちますが、下痢があるときに不溶性食物繊維を多量にとると、下痢の原因によっては症状を悪化させることもあるので注意してください。固く消化が悪い食品、油の多い料理、香辛料などの刺激物も避けましょう。
一方、水溶性食物繊維には整腸作用があるので、下痢と便秘の両方の改善に効果的です。ただし、胃腸が不調なときに野菜を食べるなら、煮物やスープなどで柔らかく調理してから食べるとよいでしょう。果物などを生で食べる場合には、細かく切る、すりおろす、よくかむなどして消化吸収しやすい状態にすると、胃腸の負担を減らせます。
■きのこは野菜ではないが、体には良い
きのこは、大型の子実体をつくる菌類の総称です。子実体とは、きのこの「傘」と「ひだ」の部分のこと。日本には、4000~5000種類のきのこが存在しているといわれ、国内で食用とされているのは100種類ほどです。スーパーなどでよく見るのはえのきたけ、しいたけ、ぶなしめじ、なめこ、エリンギ、マッシュルームあたりでしょうか。
「日本食品標準成分表」では、きのこは野菜類ではなく「きのこ類」となっています。厚労省が掲げる1日350gの野菜にも、きのこはカウントされません。
しかし、きのこはからだにうれしい機能をたくさんもっています。エネルギーが低くて食物繊維が豊富なことはよく知られていますが、野菜・果物全般に多いカリウムや、魚介類や卵黄に多いビタミンDも比較的豊富です。ビタミンDは骨の形成に欠かせない栄養素なので、不足すると骨粗しょう症などのリスクが高まります。血中のビタミンD濃度が高い人ほど、がんにかかりにくいという研究報告(*4)もあります。
ほかにも、リラックス効果があるとされる機能性成分のGABAも含まれ、きのこに含まれるβ-グルカンは免疫細胞のはたらきを活性化させる作用が期待されています。
(注)
(*4)Budhathoki S, Hidaka A, Yamaji T, Sawada N, Tanaka-Mizuno S, Kuchiba A, Charvat H, Goto A, Kojima S, Sudo N, Shimazu T, Sasazuki S, Inoue M, Tsugane S, Iwasaki M; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. (2018) Plasma 25-hydroxyvitamin D concentration and subsequent risk of total and site specific cancers in Japanese population: large case-cohort study within Japan Public Health Center-based Prospective Study cohort. BMJ, 360:k671.
■きのこはがん予防にも効果が期待できる
アメリカのペンシルベニア州立大学の研究(*5)によると、きのこの摂取量がもっとも多いグループは、もっとも少なく摂取したグループに比べてがん全体の発症リスクが34%も低かったそうです。また、がんの発生部位ごとに調べると、きのこの摂取量が多い女性は乳がんの発症リスクが35%低いことがわかりました。国立がん研究センターの研究では、肝臓がんや直腸がんの発症リスクとの関連が報告されています。
このようにさまざまな健康効果をもつきのこは野菜の一種と考え、積極的に食べたいものです。生の葉野菜にさっとソテーしたきのこを添えれば、デリ風のサラダになります。
また、きのこにはグアニル酸やグルタミン酸といったうまみ成分が含まれます。汁物や煮物にプラスすると、おいしいダシが出て味がワンランクアップします。
きのこは冷凍するとうま味が増すといわれています。お好みのきのこを保存袋に入れて冷凍しておくとさっと使えて便利です。ぜひ、積極的にご家庭の献立に加えてみましょう。
(注)
(*5)Ba DM, Ssentongo P, Beelman RB, Muscat J, Gao X, Richie JP. (2021) Higher Mushroom Consumption Is Associated with Lower Risk of Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. Adv Nutr, 12(5), 1691-1704.
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女子栄養大学栄養学部 准教授
健全な食生活は、私たちの健康寿命を延ばすだけでなく、生活の満足感や幸福感を高め、さらには社会・環境面にも良い影響をもたらすという信念のもと、栄養面に加え、環境にも配慮した食生活のあり方について研究している。研究代表者として『人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド』を作成し、科学的・実証的な食に関する知識を広め、健康で持続可能な食生活の実現に貢献している。『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社)を監修。
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(女子栄養大学栄養学部 准教授 林 芙美)
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