脂肪ゼロなのに塩分は2倍…栄養学の専門家が指摘する「生野菜×ノンオイルドレッシング」の意外な落とし穴
プレジデントオンライン / 2024年11月6日 9時15分
※本稿は、林芙美(監修)『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■脂質と一緒に食べたほうが良い野菜もある
野菜をとると聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは、生野菜サラダを食べることではないでしょうか。健康と美容のために、生野菜サラダにノンオイルドレッシングをかけて食べるのを習慣にしている人もいるかもしれません。
野菜を食べるよう心がけ、そのうえドレッシングによる脂質のとりすぎにも気を配っているのは、とてもすばらしいことです。ただ、生野菜サラダにノンオイルドレッシングの組み合わせには、意外な落とし穴があります。
まず、緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンは脂溶性で、脂質と一緒にとることで吸収率がアップするという性質があります。つまり、生野菜サラダ×ノンオイルドレッシングという組み合わせだと、β-カロテンを効率よく吸収できない可能性があるのです。栄養素の摂取効率という観点では、パーフェクトな組み合わせとはいえません。
もう一つ、ノンオイルタイプのドレッシングを使うときに気をつけてほしいのが食塩のとりすぎです。通常の分離液状タイプとノンオイルタイプの和風ドレッシングの大さじ1杯当たりのエネルギー、脂質、食塩相当量は次の通りです。
・和風ドレッシング 分離液状タイプ(大さじ1)
エネルギー 27kcal 脂質 2.2g 食塩相当量 0.5g
・和風ドレッシング ノンオイルタイプ(大さじ1)
エネルギー 12kcal 脂質 0g 食塩相当量1.1g
通常の分離液状タイプのドレッシングに比べると、ノンオイルタイプはエネルギーと脂質はたしかに少ないのですが、その分食塩相当量が多くなっています。
■食塩摂取量の約7割は調味料から摂っている
厚生労働省の「国民健康・栄養調査(令和元年)」によると、私たちは1日に摂取する食塩のうち、約67%をドレッシングをはじめとする調味料からとっています。食塩の過剰摂取は生活習慣病のもとです。野菜をおいしく、たくさん食べて健康維持をしようとしていても、食塩をとりすぎてからだを悪くしては元も子もありません。
なるべく脂質をとりたくないという気持ちは理解できますが、ノンオイルタイプのドレッシングが必ずしも健康にベストな選択とはいえないことに注意してください。
もちろん、ノンオイルドレッシングを使うことが悪いわけではなく、他の調味料と同様、かけすぎに注意すれば問題ありません。
■生野菜を食べるときはよく噛んだほうがいい
生野菜サラダでいうと、もう一つ注意してほしいことがあります。
食べ物に含まれる栄養素は、食べ物を構成する細胞のなかに閉じ込められています。肉や魚といった動物の細胞は、細胞膜に包まれています。
一方、野菜の細胞は細胞膜の外側にさらに細胞壁があります。しかも、この細胞壁は非常に強固で、生で食べた場合は細胞壁の一部しか破壊できず、中の栄養素を効率よく摂取できません。生野菜サラダばかりで野菜をとっていると、意外に栄養素がとれていない可能性もあるのです。
野菜の細胞壁を壊す方法は大きく二つあります。
一つは加熱です。野菜を加熱すると細胞壁がやわらかくなって壊れやすくなります。また、かさが減って量もたくさん食べることができます。
もう一つは破砕です。細かく刻んだりミキサーなどにかけたり、すりおろしたりすることで細胞壁を壊せます。生で食べる場合も、キャベツの千切りや玉ねぎのスライスのように細かく刻んで食べるようにすれば、野菜の栄養素をより効率よく摂取できます。食材を細かくきざんだチョップドサラダにすることもおすすめです。すりおろした人参やたまねぎなどでドレッシングを手づくりしてもいいでしょう。
そして、野菜を食べるときはよくかむことが大切です。よくかむと細胞壁の一部が壊れて栄養素を摂取しやすくなります。なにより、よくかむことでお腹がいっぱいになりやすく、食べすぎ防止にもつながります。
■ドレッシングは「かける」ではなく「あえる」くらいで
サラダを食べ終わったとき、お皿の底にドレッシングがたっぷり残っていることがありませんか? そんなときは、ドレッシングをムダに使っているだけでなく、エネルギーや脂質、食塩をとりすぎている可能性もあるので注意しましょう。
ここで、ドレッシング15g(約大さじ1)のエネルギー、脂質、食塩相当量をチェックしてみます。
エネルギー 49kcal 脂質4.7g 食塩相当量0.9g
・サウザンドレッシング
エネルギー 59kcal 脂質5.9g 食塩相当量0.5g
・和風ドレッシング
エネルギー 27kcal 脂質2.2g 食塩相当量0.5g
・ごまドレッシング
エネルギー 60kcal 脂質5.7g 食塩相当量0.7g
エネルギー、脂質、食塩相当量が案外多いことに驚いた人もいるのではないでしょうか。サラダの量にもよりますが、ドレッシングの1回の使用量は大さじ1を目安にしましょう。市販のサラダに添付されている小袋入りのドレッシングは、大さじ1より多いものもあるので注意してください。
またドレッシングをサラダにかけるとドレッシングが全体にいきわたらず、つい多く使いがちです。でも、あからじめドレッシングを野菜とあえておくことでドレッシングが全体にいきわたり、使いすぎを防げるうえに少ない量でも風味を感じやすくなります。あえるというひと手間は増えますが、ぜひ実践してみてください。
■余分な脂を落とし、おいしさを保てる「蒸し料理」
水蒸気によって食品を加熱する蒸し料理は東アジアで発達しました。今から6000~7000年前の新石器時代の中国では、すでに蒸すという調理法が行われていたといわれます。日本でも3世紀ごろには蒸し料理があったようです。
このように長い歴史をもつ蒸し料理にはさまざまなメリットがあり、特に野菜の調理にぴったりです。
まず、蒸し料理は安定した温度(約100℃)で食材を外側から均一に加熱するため、野菜の形を崩さず、なおかつ、みずみずしさとおいしさを保てます。調理法によってキャベツ、かぶの甘みの感じ方がどのように変わるのかを調べた国内の研究では、キャベツとかぶは、蒸すと甘みを強く感じる傾向があることがわかっています。野菜が苦手な人や子どもでも、蒸し野菜ならおいしく食べられるかもしれません。
油を使わずに調理できるのも蒸し料理のメリット。また、肉などは余分な脂を落とすことで脂質を抑えられるので、脂質や体重のコントロールが必要な人には特におすすめです。水がなくならない限りこげないので、調理中つきっきりで見ている必要もありません。
ただし、蒸し料理は蒸し器などが必要で、水が沸騰して蒸し上がるまでに時間がかかるのが難点です。そこでおすすめしたいのが、電子レンジを使った蒸し料理です。
■簡単で便利な「電子レンジ×蒸し調理」
最近では、シリコン製スチーマーやジッパー付きバッグなどの電子レンジ用の調理器具が販売されていますが、こうした特別な調理器具がなくても大丈夫。耐熱皿に食材をのせ、水大さじ1程度をふりかけてふんわりとラップをして数分~数十分レンチンすれば、蒸し料理の完成です(水の分量と加熱時間は食材によって異なります)。
レンチンすることで、ビタミンの損失も防げます。じゃがいもを使って素材に含まれるビタミンCの残存率を調べた研究(*1)では、ゆでた場合のビタミンCは減少したいっぽうで、電子レンジで加熱した場合は生との差はありませんでした。電子レンジは素材に含まれている水分のみを利用し加熱するため、ビタミンCの流出が抑えられたと考えられます。
また、基本的に蒸し器を使った蒸し料理は加熱中に味つけができませんが、電子レンジを使った「蒸し煮」や「蒸し焼き」などは、食材に味をしみこませることもできます。
いずれにしても、「蒸す」という調理法は、野菜ととても相性がよいといえます。じっくり時間をかけて外側から加熱し、食材の持つ本来の味を引き出すと蒸し器での蒸し料理に、レンチンでの手軽な蒸し料理。好みに合わせて使い分けてください。
(注)
(*1)荒井勝己, 泉澤有美, 北條勇平 (2018) じゃがいもの産地・品種および加熱法によるビタミンC含量の比較. 桐生大学紀要, 29, 111-113.
■みそ汁やスープで野菜の栄養を丸ごといただく
水溶性ビタミンであるビタミンCを含む野菜をゆでたり煮たりすると、ビタミンCは煮汁に溶け出してしまいます。野菜のビタミンCの損失について調べた国内の研究(*2)によると、ゆでた水菜のビタミンC残存率は54%、キャベツは29%でした。なんとももったいないですね。
前項の蒸し料理以外にも、この“もったいない”を最小限にする方法があります。それは、ゆで汁も食べてしまうこと。研究によれば、ゆでた食材とゆで汁を合計したビタミンCの残存率は水菜で86%、キャベツで80%でした。汁ごと食べれば、ビタミンCの損失を大きく抑えられるわけです。
葉酸などのビタミンB群も水溶性ビタミンです。ビタミンB群とビタミンCが豊富なほうれんそうなどの緑の葉野菜やあさつきなどのネギ、キャベツなどのその他の野菜は、汁ごと食べられるみそ汁やスープで摂取するのが賢い食べ方だといえるでしょう。
(注)
(*2)宮川久邇子, 西伸子 (1971) 電子レンジの調理科学的研究 : 蔬菜類のビタミンCの損失について. 大阪市立大学家政学部紀要, 18, 15-18.
■美味しく食べられて、栄養素を吸収しやすい
一度にたくさんの野菜をとれるのも、みそ汁やスープのメリットです。みそ汁やスープは、入れる野菜の種類が増えるほど深みと味わいが増します。肉や魚、卵を加えれば、たんぱく質もいっしょに摂取でき、コクやうま味が増します。
具だくさんにして汁の量を減らすと、その分使用するみその量が減って、減塩にもなります。さまざまな食材からのうま味の相乗効果によって、薄味でもおいしくいただけるでしょう。
また、野菜に含まれる栄養素は細胞壁という固い壁に守られているため、生のままではからだに吸収されにくいことがあります。でも、みそ汁やスープであれば煮込む過程で細胞壁がやわらかくなって栄養素を吸収しやすくなります。細胞壁は細かくきざんだりミキサーでつぶしたりしても壊せますが、煮込むほうが簡単です。
休みの日や時間があるときは、みそ汁やスープをぜひつくり置きしてみてください。忙しいときでも野菜不足を解消できて、重宝することうけあいです。みそ汁なら薬味を、スープならチーズやトマトをプラスすれば簡単に味変ができて、食べ飽きる心配もありません。ごはんやパスタを入れて、リゾットやスープパスタにリメイクするのもおすすめです。
汁ごと食べられるという点では、ポタージュやシチュー、鍋物もおすすめです。ただし、市販の鍋用スープは食塩が多いので注意しましょう。素材から出るうま味を生かして鍋のスープを手づくりすれば、スープも安心して飲めて栄養素を余すことなく摂取できます。
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女子栄養大学栄養学部 准教授
健全な食生活は、私たちの健康寿命を延ばすだけでなく、生活の満足感や幸福感を高め、さらには社会・環境面にも良い影響をもたらすという信念のもと、栄養面に加え、環境にも配慮した食生活のあり方について研究している。研究代表者として『人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド』を作成し、科学的・実証的な食に関する知識を広め、健康で持続可能な食生活の実現に貢献している。『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社)を監修。
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(女子栄養大学栄養学部 准教授 林 芙美)
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