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「お前は1年間死んでいたのか」と元秘書を叱った…伝説の経営者・稲盛和夫が絶対に許さなかった"部下の行動"

プレジデントオンライン / 2024年11月13日 8時15分

インタビューに答える京セラ名誉会長の稲盛和夫氏=京都市伏見区の京セラ本社 - 写真=共同通信社

“経営の神様”と呼ばれる稲盛和夫氏はどんな経営者だったのか。約30年間、側近を務めた大田嘉仁さんは「褒めると同時に“常に日進月歩が大切だ”と説いていた。人は褒められた瞬間に思考停止になってしまうことをよく分かっていたからだ」という――。(第3回)

※本稿は、大田嘉仁『運命をひらく生き方ノート』(致知出版社)の一部を再編集したものです。

■同じことを毎日繰り返してはならない

稲盛さんは、「人間だけでなく、この世のあらゆるものが一瞬として同じではなく、進歩進化を続けている。それは宇宙の意志でもある」と説かれていました。

確かに、私たちの生活を見ても、ここ十年ほどでも、デジタル化が急速に進み、誰もがスマホを使いこなせるようになりました。テレビも大型化し、EV(電気自動車)も増えています。

数年前のコロナ禍の際、コロナウイルスが日々変異を遂げていることを知り、驚いた人も多いのではないでしょうか。このようにすべてのものが日々進化を遂げている中で、自分だけが昨日と変わらない仕事をしているようであれば、それは後退を意味します。

稲盛さんは「俺は一瞬たりとも止まっていない」と言い、「同じことを同じように毎日繰り返してはならない」「昨日より今日、今日より明日と創意工夫を重ね進歩発展していくべきだ」と教えていました。

このことは当たり前のように思えますが、どうしても私たちは、何も変えないほうがいい、前例を踏襲すればいいと思いがちです。特に、一度褒められた仕事であれば、そこで満足して思考停止になることもあるように思います。

私自身、稲盛さんに「よくやってくれた」と褒められ、翌年も同じようにしたところ、「去年と同じことをしていて、生きているかいがあるか」と問われ、「お前は一年間死んでいたのか」「お前の生きている証はないのか」と詰問されて目が醒めるような思いをしたことを覚えています。

■人は褒められた瞬間に思考停止する

考えてみれば分かることですが、いつも同じことをするのであれば、誰でもできます。私の価値は、すべての仕事を日々進化させることでしか生まれないのです。

しかし、単純な思考の私は、一度「よくやった」と褒めてもらうと、そこで思考が停止し、同じようにすることがベストだと勝手に思い込んでしまっていたのです。

現場においては、稲盛さんは「同じことを一年以上続けてはならない。日進月歩、そのためには現場の人を大切にすることだ」と力説していました。

稲盛さんと一緒に、ある工場の新しい生産ラインを視察した際、稲盛さんは「素晴らしい生産ラインだ。ありがとう」と褒めたあとで、「来年来たときに同じことをやっていたら許さんぞ」と釘を刺し、「これまでにできたものに安住すると進歩は止まるぞ」と注意をしていました。

人は褒められた瞬間に思考停止になってしまうことを稲盛さんはよく分かっていたので、褒めると同時にその先の進化を促す言葉を忘れない、これが稲盛さんの指導法なのです。

■常に見直し、改良改善をする

また、研究開発の人に対しては、「今の技術に意固地になっていないか? それは技術者のエゴ、独善だ」と指摘し、「一つの技術から夢をどれだけ広げられるかが大事なんだ」と技術を進化させる必要性を強調していました。

間接部門の人間に対しても、日々改良改善することを常に指摘していました。たとえば、経理の人に「なぜ昔と同じ伝票を使っているのか? どのような伝票がいいのか考えたことがあるのか、それは科学だ」と助言していたこともあります。

何も考えずにいつもと同じやり方で仕事を進め、それが当たり前だと思っていることでも、常に見直し、改良改善をすることが大切だと教えていたのです。

稲盛さんは、「私たち日本人は農耕民族であったため、毎年、同じ時期に同じことをしていれば、それでうまくいくと思い込んでいるところがある。

一方、狩猟民族であった欧米の人々は、同じことをしていては獲物は捕れないことを知っていて、常に変えること、進化させることが習い性になっている。

これからは欧米の国々と厳しい競争をしなければならないので、日本人は『これでいいのか、これでいいのか』と常にクリエイティブに考える習慣が大事だ」と語っていました。その姿勢が現在の日本には間違いなく問われていると思うのです。

■全く新しいことに挑戦し続けてきた

1990年初頭、日本経済が絶好調の頃、アメリカで出版され、ベストセラーになった『ネクスト・センチュリー』という本があります。

この本の著者で、ピュリッツアー賞を受賞した世界的なジャーナリスト、デイビッド・ハルバースタム氏は、当時、世界第2位の経済大国にまで成長した日本を代表する企業の一つとして京セラを取り上げました。

ハルバースタム氏は稲盛さんを取材し、その感想などを同書で十数ページにわたってまとめています。その中で、ハルバースタム氏は稲盛さんを次のように紹介しています。

「卓越することへのあくなき努力、そしてその背景にある献身的な義務感に思いを馳せるとき、わたしにはきまって稲盛和夫のことが頭に浮かんでくる。稲盛は日本で目覚ましい成功を遂げた京セラの会長である。

(中略)彼は自らの会社を技術の最先端に導いた。いったん成功を収めたことがらには二度と関心を示すことはない。『次にやりたいことは、わたしたちには決してできないと人から言われたものだ』と語る」

稲盛さんは、ハルバースタム氏がこの本で述べているように、「決してできないと人から言われたもの」、つまり全く新しいこと、不可能とも思えることに挑戦し続けてきました。

その開発手法を稲盛さんは「アスファルトの道ではなく、あえてあぜ道を歩く」とたとえています。

■「あぜ道」を選ぶ勇気を失ってはならない

アスファルトの道とは、既に皆が知っている安全で迷うことのない道です。多くの人がアスファルトの道を選び、自動車のような便利な乗り物を使い、決められた道路標識に従って進みます。しかし、それでは新しいものが開発できるはずはありません。

一方、あぜ道とは、田んぼの中の道とも言えない道です。方向を示す目印も何一つなく、ヘビやヒルなどの危険が常に待ち受けています。ぬかるみに足をとられて先に進むことも容易ではありません。

しかし、稲盛さんは、「決してできないと人から言われたこと」に挑戦するためには、あえてこのような「あぜ道」を選ばなくてはならないと指摘しているのです。

ハルバースタム氏は同書の中で、豊かになった日本には、稲盛さんのようにあえて「あぜ道」を選び、「決してできないと人から言われていること」に挑戦する経営者がいなくなり、日本経済は衰退する可能性があると警鐘を鳴らしていました。残念ながら、現在の日本経済はその通りになりつつあります。

稲盛さんもハルバースタム氏と同様に、近年、日本では誰もが舗装された「アスファルトの道」を歩きたいと願い、その結果、新しいものが生まれなくなっているのではないかと危機感を募らせて、「不可能と思えるようなことに挑戦する気概を、また、あえて『あぜ道』を選ぶ勇気を失わないでほしい」と繰り返し語っていました。

■“実現したい思い”がすべての原動力になる

その「あぜ道」をあえて選ぶ際の心構えとして、稲盛さんは「人生はもっと価値があるはずだ。チャレンジは怖くない。うまくいかなくても謙虚に耳を澄ませば、正しいやり方が聞こえてくる。

そうして成功するまで頑張ればいい。そこには限界はない。そのような心境に達することが重要」と研究者たちを励ましていました。

また、「クリエイティブなことを成功させようとしても、どうすれば成功できるかを前もって検証できるわけではない。そこで不安感を払拭し、ぎりぎりの集中力で努力を続ける。苦しみもがくことによって、神の啓示とも言えるひらめきが得られる。

しかし、ひらめきだけでは創造的なことはできない。万全の準備が必要となる」ともアドバイスしています。

この「ひらめき」については、別の場面でも、「ひらめきを得る人は多いが、それを実践できる人は少ない」とも指摘し、アイデアを思いついただけでは意味がなく、それを結実させるためには「万全の準備が必要となる」とも指摘しています。

同じような趣旨で、「できるからやるんじゃない、可能性があるからやるんじゃない。どうしてもやりたいからやるんだ」とも話しています。心の底から、それをどうしても実現したいという“思い”こそがすべての原動力になるというのです。

そのとき必要なものが自由な精神・発想だと語り、「真のイノベーションを起こそうと思えば、何にも頼らない無頼性が不可欠になる」「頼らないということが、心を自由にする」とも教えています。それを私たち日本人は失いつつあるように、私は感じています。

ビル街を走る2人のビジネスパーソン
写真=iStock.com/chachamal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

■「どうしてもやりたい」なら真正面から取り組むべき

この「どうしてもやりたいからやるんだ」という強烈な思いが大切になるのは、技術開発や新規事業だけではありません。充実した日々を歩んでいこうとすれば、そのような強烈な思いが不可欠になるのです。

たとえば、多くの高校球児たちが「どうしても甲子園に行きたい」と炎天下で練習に明け暮れています。また、自分の夢をどうしても実現したいと、幾多の困難があるのを承知のうえで大企業を離れ、ベンチャー企業を創業する若者も多数います。

私自身も高校生のときに、大学進学後は「どうしても世界一周をし、世界を知りたい」と強く思い、自分なりに周到な準備をして実現させることができました。

大田嘉仁『運命をひらく生き方ノート』(致知出版社)
大田嘉仁『運命をひらく生き方ノート』(致知出版社)

京セラに入社し、10年近くたったとき、どうしてももっと経営について学びたいと願い、準備をし、社費で米国の経営大学院に留学させてもらい、幸運にも首席で卒業することもできました。

その過程は、外から見ると、苦労の連続のように見えるかもしれませんが、本人からすれば、最も充実した日々なのです。

そのような「どうしてもやりたい」ことを見つけることが大切だという人もいますが、それは探すものではなく、心の中から湧き出てくるものでしょう。

「どうしてもやりたい」という思いが心の中に生まれてきたときに、それに真正面から取り組むことが必要なのであり、稲盛さんの多くの言葉もそれを示唆しているように思います。

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大田 嘉仁(おおた・よしひと)
MTG相談役、元日本航空会長補佐
昭和29年鹿児島県生まれ。53年立命館大学卒業後、京セラ入社。平成2年米国ジョージ・ワシントン大学ビジネススクール修了(MBA取得)。秘書室長、取締役執行役員常務などを経て、22年日本航空会長補佐専務執行役員に就任(25年退任)。27年京セラコミュニケーションシステム代表取締役会長に就任。令和元年MTG取締役会長就任。現職は、MTG相談役、立命館大学評議員、鴻池運輸社外取締役、新日本科学顧問、日本産業推進機構特別顧問など。著書に『JALの奇跡』(致知出版社)、『稲盛和夫 明日からすぐ役立つ15の言葉』(三笠書房)などがある。

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(MTG相談役、元日本航空会長補佐 大田 嘉仁)

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