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ついに「経済大国ドイツ」の空中分解がはじまった…EVシフトで大失敗「大失業時代」を招いたショルツ政権の誤算

プレジデントオンライン / 2024年11月5日 7時15分

2024年10月22日、ドイツ経営者団体連合会(BDA)の2024年ドイツ経営者会議で演説するオラフ・ショルツ連邦首相(SPD) - 写真=dpa/時事通信フォト

■2035年までに14万人が自動車工業で失職の恐れ

ドイツ最大の労働組合である金属産業労組IGメタルが10月28日に明らかにしたところによると、同国を代表する世界的な完成車メーカーであるフォルクスワーゲン社(VW)は、今後、国内の工場を少なくとも3つ閉鎖すると、IGメタル側に説明したようだ。その結果、少なくとも数万人規模の雇用が整理される見通しだという。

VWの不振は主に2つの理由による。まず、電気自動車(EV)の需要の落ち込みだ。欧州連合(EU)は2035年までに新車の100%をEVに代表されるゼロエミッション車(ZEV)にする方針を掲げているが、EVの需要は盛り上がっていない。VWもEVの生産を強化しているが、EVの販売が不振であるため、業績の重荷となっている。

とはいえ、これはVWに限った話ではない。VWの不振は、それまでのキャッシュカウであった中国市場で競争力が低下したことによっても促されており、これが第二の理由となる。EVを中心に民族系メーカーが競争力を高めたことで、VWの中国市場での立ち位置が揺らいでいるわけだ。一方で、VWは新たな利益の源泉を生み出せていない。

こうしたことから、VWはドイツ国内の工場の閉鎖を余儀なくされている。VWは関連企業を多く抱えることから、そのリストラはドイツの製造業のみならず、ドイツ社会に多大な影響を与える可能性がある。IGメタルは10月29日より賃上げストを開始しているが、リストラに反発するVWの従業員もまた、このストに合流したようだ。

リストラは何もVWに限った話ばかりではない。ドイツ自動車工業会(VDA)が10月29日に発表した見通しによると、そもそものドイツの自動車工業の不振やEVシフトに伴う生産体制の見直しなどで、EUが新車の100%をZEVにすると定めた2035年までに、ドイツの自動車工業で14万人もの雇用が整理される可能性があるという。

■昇給ばかりを要求する労働界

自動車工業とともにドイツ経済の両翼を成す化学工業は、先行して業績の不振を経験している。2022年2月に生じたロシアショックに伴うガス価格の高騰で生産コストが急増し、競争力を失ったためだ。ドイツ最大の化学メーカーであるBASFは今年8月に、本社を置く都市ルートウィヒスハーフェンにある3つの施設を閉鎖するなどしている。

ウォルフスブルクのフォルクスワーゲン工場
ウォルフスブルクのフォルクスワーゲン工場(写真=AndreasPraefcke/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

このように、ドイツ経済の両翼を成す工業が不振に喘いでいるにもかかわらず、先に述べたIGメタルが賃上げストを行うことが物語るように、労働界のスタンスは強気である。またIGメタルは、現状の企業業績だとその実現のハードルはかなり高いにもかかわらず、賃金を据え置くかたちでの週休三日制の導入にも野心的であることで知られる。

ない袖は振れない経済界は賃上げに対して慎重な姿勢を強めているが、労働界はストという実力行使に打って出る。本来なら、労使間の対立が激化した場合、その調整を務めるべきは政治である。しかしその政治も、労使間の対立の解消に向けて積極的な役割を果たそうとはしていない。そのため、労使間の対立は解消の見込みが立たない状況だ。

ではなぜ、政治は労使間の対立を仲介しようとしないのか。最大の理由は、オラフ・ショルツ首相を擁する与党の中道左派・社会民主党(SPD)にとって、最大のサポーターがIGメタルに代表される労働界であるからだと考えられる。来年9月28日に総選挙を控えているため、SPDは労働界の肩を持たざるを得なくなっているのである。

対して、SPDを連立の第2パートナーとして支える自由民主党(FDP)は、そもそも経済界寄りの政党であるため、SPDと真逆で経済界のフォローに努めている。加えて、第1パートナーである同盟90/緑の党(B90/Grünen)は、党是である環境政策に引き続き邁進している。これでは、政治による労使間の対立の仲介など望めない。

■連立政権はすでに内部崩壊

SPDのショルツ首相とFDPのクリスティアン・リントナー財務相、B90/Grünenのロベルト・ハーベック副首相兼経済相の信頼関係は既に崩壊している。ショルツ政権は年内に来年度予算を成立させなければならないが、現状ではその内容を巡っても三党は対立状態にあるため、このままでは暫定予算の執行を余儀なくされる可能性がある。

基本的に、ドイツは来年度も緊縮型の予算の執行を余儀なくされる。これはドイツの憲法が債務の拡大に歯止めをかけているためだが、その運営が厳し過ぎるとして、国際通貨基金(IMF)からも柔軟な運用に向けた見直しが提言されている。しかしそのためには上下両院で3分の2以上の賛成が必要となるため、今のショルツ政権では困難だ。

ショルツ政権は、いわゆるレームダック化が進んでおり、次期総選挙での敗北は必至である。そのため、SPDもB90/GrünenもFDPも、各自の支持者層に対するアピールに専念しているのが現状である。どの政党も議席を減らすことが確実な情勢を受けて、どれだけその傷を浅くすることができるかという観点から、勝手な主張を展開する。

来年秋に行われる総選挙では、かなりの確率で、中道右派のキリスト教民主同盟及び同社会同盟(CDU/CSU)が首班となる政権ができる見通しである。とはいえ単独過半数には満たないため、組閣協議は難航が予想される。政権が軌道に乗るのは再来年となる可能性が高いため、少なくとも2026年まで、ドイツの財政運営は厳しい状態が続く。

ドイツのベルリンにある国会議事堂
写真=iStock.com/MarioGuti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarioGuti

■これから迎える大失業時代

メルケル前政権以来、ドイツは脱原発と脱炭素の二兎を追う経済戦略を追求してきた。後任のショルツ政権はそれを引き継いだが、新たにロシアショックが生じたことで、それに脱ロシアを含めた三兎を追う経済戦略を推進することになった。その結果、ドイツの国際競争力は、コロナショック前に比べて著しく低下することになってしまった。

確かにVWの場合、経営戦略のミスという要因は看過できない。とはいえ別の見方をすれば、VWの問題は、それまで中国の高成長を、ドイツが間接的に享受できた時代が既に終わったということを端的に物語る出来事だといえよう。いずれにせよ、経済の実情に鑑みれば、VWのみならずドイツ全体で、多くの雇用が失われる事態になるだろう。

あるいは、雇用そのものを維持したいのなら、日本が経験したように、賃金を引き下げることを通じた調整を行う必要がある。しかしこれも受け入れられないとなると、それこそドイツ経済は競争力を改善することができない。果たして、ドイツは今後、どのようなかたちで痛みを負うことになるのだろうか。注視したいところである。

この話は日本も通じるところがある。先般の衆院選では与野党ともに最低賃金の引き上げばかりをアピールしていたが、そうした賃上げの取り組みは同時に雇用調整の弾力化とセットで考えなければならない問題である。具体的には、解雇規制の緩和を通じて、人材のミスマッチを解消しなければならない。これは本来、日本が避けて通れない道だ。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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