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「ゴロ寝でドラマの見逃し視聴」がTV局のドル箱…フジテレビが足向けて寝られない"古くて新しい芸能事務所"

プレジデントオンライン / 2024年11月1日 10時15分

フジテレビ「わたしの宝物」オフィシャルサイトより

テレビ局のドル箱のひとつドラマ番組の収益構造が大きく変化している。制作者はCM収入を左右する視聴率だけでなく、ネット広告費など2次収入につながる「SNS投稿(バズ)」や「見逃し再生」の数にも神経を配っている。次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「今年の夏と秋のドラマの中ではフジテレビの作品がSNS上で大きな話題となり、再生数も断トツに多い」という――。

秋ドラマが出そろった。

初回の世帯視聴率では、「相棒23」(テレビ朝日系・水曜21時)、「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日系・木曜21時)、「海に眠るダイヤモンド」(TBS系・日曜21時)と人気シリーズや話題となっている3作が2桁スタートと好調だ。

だが、ドラマ制作者はこの視聴率さえ稼げば万々歳という時代は今や昔。彼らが世帯視聴率のほかに重視しているのはこの3点だ。

① 広告主が重視する「若年層の視聴率」
② ネット広告費など2次収入につながる「SNS投稿(バズ)」
③ ネットでの2次収入になる「見逃し再生」

秋ドラマで、②SNS投稿(バズ)と③見逃し再生で他を圧倒したのは、前出3作ではなく、松本若菜主演「わたしの宝物」(フジテレビ系、木曜22時)だった。

実は夏クールでも、「視聴率が高いドラマ=バズや見逃し再生でも好調」とは言えない現象が起きていた。とりわけSTARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ事務所)のSnow Manの目黒蓮主演「海のはじまり」(フジテレビ系・月曜21時)が初回から、両指数で断トツだったのである。

バズと見逃し再生がテレビ局にもたらす「新たな収益源」の現状と、秋クールの展望を、「海のはじまり」などの夏クールの豊富なデータ結果から分析してみよう。

■視聴率・バズ・見逃し再生の関係

まずバズの可能性を、夏クールのGP帯(19~23時放送)ドラマで振り返る。

【図表】X投稿数・再生数・視聴率の関係
出典=ビデオリサーチ「Buzzビューーン!」、筆者作成

グラフの丸の大きさは全話の平均個人視聴率の大小を示す。

首位は、医療ものの二宮和也主演「ブラックペアン2」(TBS系、日曜21時)の6.8%だった。ただし、バズ総数も見逃し再生数も3位。この2項目に関しては視聴率4.4%の目黒蓮「海のはじまり」に大きく水をあけられた格好だ。

また視聴率が「ブラックペアン2」の半分ほどにとどまった松本若菜主演「西園寺さんは家事をしない」(TBS系、火曜22時)と比べても、再生数で肩を並べられ、バズでは逆転されてしまった。どうやら視聴率の大小は、バズや見逃し再生に直結しないようだ。

学園ものの山田涼介主演「ビリオン×スクール」(フジテレビ系、金曜21時)も、それを裏付ける。視聴率はGP帯で最低ランクだったが、バズで5位に躍進し、再生数も中位と大健闘した。逆に視聴率で同率3位だった松下奈緒主演「スカイキャッスル」(テレビ朝日系、木曜21時)は、バズで最低ランクだったためか、再生数でも順位を大きく落とした。

こうしてみると視聴率はリンクしないが、バズと再生数との間には相関関係がありそうだ。

特に顕著だったのが「海のはじまり」。バズで2位の1.6倍でトップになった結果、スマホなどで視聴した見逃し再生は2倍以上と極端に数字を伸ばした。放送後にSNSで評判を知り、見逃しサービスで見る人がかなりいると思われる。

■バズから再生へのメカニズム

では、前出の3作品「海のはじまり」「ブラックペアン2」「スカイキャッスル」で、バズと再生数の関係を分析してみよう。

まず再生数は「海のはじまり」を1とすると、他2作品は順に2.4倍と3.1倍。そしてバズでは、1.6倍と15倍だった。数字に大きなばらつきがあり、明確な因果関係は見出だせない。

【図表】夏クール3ドラマのX投稿数推移
出典=ビデオリサーチ「Buzzビューーン!」、筆者作成

そこで初回から最終回までのバズを追ってみよう。

初回でのバズでは、「海のはじまり」が「ブラックペアン2」の2倍強、「スカイキャッスル」比では7倍となった。そして「ブラックペアン2」は終盤盛り上がったものの、3~5話が低迷した。

「ブラックペアン2」は医師としての腕こそ天才的だが、ダークヒーローという設定。しかもシーズン1との関係性など考察の余地も多く、多くの人が次の展開がどうなるのか気になったはずだ。ただしリアリティにやや疑問があり、人間関係や物語の展開など、情報過多で個々の登場人物の「心情」を推し量るのも容易ではなかった。そのあたりに、中盤のバズが盛り上がらなかった原因がありそうだ。

その点「海のはじまり」は、「心情」で視聴者を強烈に引き込んだ。

別れから7年、元恋人の水季(古川琴音)が亡くなって初めて彼氏である夏(目黒蓮)は、娘・海(泉谷星奈)の存在を知る。設定はかなり突拍子もないが、驚きや戸惑い、そして父になっていく夏の心の変化は、静かだがドラマチックだった。

さらに父娘を取り巻く人々の感情や想いにも刺さる部分が多かった。それが若い世代を中心に大量のバズと見逃し再生につながったのだろう。

■リメイクと既視感

一方、「スカイキャッスル」にはハンディがあった。

そもそも初回のバズが、他2作に比べ極端に少ない。

「海のはじまり」は、2022年のヒットドラマで、バズも見逃し再生もばく大なものとなった「silent」(フジテレビ系)と同じチームが集結し、主演・川口春奈の相手役だった目黒蓮が今回は主演と話題性抜群だった。

「ブラックペアン2」も大ヒットした前作の続編で、物語の展開が注目を集めた。さらに二宮和也はじめ竹内涼真、小泉孝太郎、内野聖陽などキャスティングも豪華だった。

これら2作と比べると、「スカイキャッスル」は見劣り感が否めなかった。

それが初回のバズ数にもろに表れた。さらに韓国ドラマのリメイクであり、上流階級の人々の熾烈な競争と複雑な人間関係という設定にも既視感があった。2話以降ずっとバズが1万に届かず、視聴率も見逃し再生も伸び悩んだが、SNSでの「視聴後の考察」が今ひとつ盛り上がらなかった。

■見逃し再生の可能性

ここ数年、視聴率の下落が続いている。

並行してテレビ広告費の減少も顕著だが、逆に見逃し視聴に伴うネット広告費は伸びている。2021年度を基準にすると、統計を公表している日テレ・TBS・フジ3局の合計は、22年度に約1.2倍、23年度は約1.7倍と順調に伸びている。

中でも、「海のはじまり」などを手がけたフジは好調だ。

22年度1.3倍、23年度2.1倍と伸びは3局の中で最も大きい。見逃し配信は通常放送後1週間行われる。ところが同局は初回から3話までを、4話放送まで視聴可能としている。バズが起こりやすい内容や演出に加え、ネット配信に注力した戦略が功を奏している。

ネット広告費はまだまだ伸びる余地がある。

ネット配信なので視聴者は自分の都合にあわせて見られる。中には週末や寝る前に、スマホやタブレットでゆったり見る人も少なくない。リビングの大型テレビで、家族と一緒に楽しむケースもある。いずれにしても、放送の時より内容への集中度が高くなっている。

これが広告費を押し上げる可能性につながる。

ネット経由なので、どんな人がどんな状況で見ているかが把握しやすく、結果としてドラマの内容や視聴者の気分に合わせたCMを配信でき、広告単価を押し上げる可能性も残す。

しかも見逃しで配信されるCMの数はまだ限られているが、今後は数も増えていくだろう。各局はテレビでの週1放送で制作費を回収し、ネット配信で利益を積み上げるところも出てきている。

■「わたしの宝物」に可能性

秋クールでも、フジが気を吐いている。

初回をみる限り、「わたしの宝物」のバズは他と比べて断トツで、夏クールの「海のはじまり」をも上回っている。

要因は、内容とキャスティングにある。

「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」(2014年・上戸彩主演)、「あなたがしてくれなくても」(23年・奈緒)を担当したプロデューサーの3作目。不倫、セックスレスに続いて“托卵”をテーマとした。

托卵とは、鳥類や魚類などの動物の習性のひとつで、自分の卵への世話を他の動物に托すこと。ドラマでは、夫以外の男性との子供を、夫との子と偽って産んで育てるストーリーになっている。“大切な宝物”を守るために悪女になると決意した女性、その夫、そして彼女が愛した彼の3人のもつれあう感情を、SNSで投稿しながら見逃し再生でじっくり見る人が続出となるだろう。

心憎いのは、主人公の相手役に深澤辰哉を配していることだ。

「海のはじまり」の目黒蓮と同じSnow Manのメンバーで、初回のバズを見る限り“推し勢”が激しく反応しているようだ。結果として見逃し視聴も、333万回と他を大きくリードした。

以上のようにドラマは新たな“勝利の方程式”ができつつある。

深夜ドラマは不倫や復讐など、極端にドロドロした物語に走り勝ちだが、GP帯ドラマ(19~21時放送)は、目を引く設定と同時に登場人物の「心情」が鍵を握る。若い視聴者の心を揺さぶる演出になっているのだ。

これが大量のバズを生み、見逃し再生につながって、テレビ局はネット広告費を稼いでいく。制作側の緻密な計算と演出。視聴率というマスをとる従来の競争や収益構造から、特定層に深く刺さる勝負へとテレビドラマは新たな扉を開け始めた。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。

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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)

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