1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

スーパーの商品より6倍高い高級焼き芋が飛ぶように売れる…ウーバーでも食べられる"最高糖度78度"秘密公開

プレジデントオンライン / 2024年11月3日 10時15分

手塩にかけたさつまいもを90日かけ熟成させ、2度焼きすることで糖度を最大に引き上げる。内側に含まれる“蜜”がしみ出て、バケツにたまる。干し芋も人気だ。 - 写真提供=SAZANKA

「焼き芋」がおいしい季節がやってきた。さつまいもの品種が多様化する中、“自然本来の甘さ”を極限まで引き出し、最高糖度78度の商品を製造・販売する宮崎県の会社が話題だ。年商はたちまち3億円超に達し、今後はNYなど海外での販路拡大予定だという。ライターの水野さちえさんがイベント「さつまいも博」も仕掛けた40歳の代表を取材した――。

■焼き芋の内側が出てきた天然の“蜜”…甘さが異次元

ふつうの焼き芋は表面がカサカサだが、それは蜜でピカピカ。つまむと見かけによらず、ずっしり重い。とろりとしたたっぷりの蜜もろともがぶりと口に入れると、想像のはるか上をいく異次元の甘さにすべての人が驚いてしまう。

「自信作の“極蜜熟成やきいも”です。上にかかっているのはハチミツですか、と聞かれることが多いですが、これは焼き芋の内側が出てきた天然の“蜜”です。皮まで全て甘いですよ。砂糖、添加物、保存料は一切不使用です」

そう話すのは、宮崎市田野町でさつまいもの生産と加工を手がける、SAZANKAグループの菅生健二さん(40)。主力商品のひとつ「極蜜熟成やきいも」は1㎏で3990円。1本約300gとすると、1300円以上と決して安くはないが、飛ぶように売れるのだ。

#SAZANKAグループの菅生健二さん
撮影=水野さちえ
#SAZANKAグループの菅生健二さん - 撮影=水野さちえ

菅生さんの焼き芋事業歴は約7年。当初は地方で小さい規模で細々と始めた零細ローカルビジネスだが、今や、地元宮崎や九州だけでなく、全国区に名乗りをあげ、世界進出するなど急成長中だ。有名なユーチューバーも関わったその躍進ぶりを報告する前に、菅生さんがなぜ、焼き芋を作るようになったかを紹介しよう。

■「ラーメン叔父さん」の成功を見て育つ

高校卒業まで宮崎で育った菅生さん。地元のラーメン店のフランチャイズを手がけて成功した叔父を見て、「自分も飲食業で成功したい」と夢を抱いた。大学を卒業後に上京し、IT企業勤務を経て2009年、恵比寿に焼き鳥店を開いた。

「東京で知り合った焼き鳥職人と、地元の同級生の3人で開業しました。私自身はアルバイトで接客の経験はあるものの、経営は独学でしたね。かたっぱしから本を読んで勉強しました」

宮崎の食材を用いた焼き鳥店は評判を呼び、代官山や二子玉川といったエリアで次々に系列店を増やしたが、早々に撤退を余儀なくされる苦い経験もした。

転機は2017年だった。前出・叔父が、「(宮崎市の)田野町にすごくおいしい焼き芋があるんだけど。食べてみて」と焼き芋を送ってきたのだ。

■日本初 ウーバーイーツで焼き芋を売った男

それは田野町で生産された、「紅はるか」。その甘さとおいしさに驚嘆し、自分でも焼いてみたくなった。焼き鳥店の仕事の合間に、焼き時間と温度を測定してデータを集めながら焼き続けるうちに、「焼き芋は科学だ」と思うようになる。徐々に、甘みが強くおいしい焼き芋を焼けるようになった。

タイミングよく登場したのが、ウーバーイーツだった。2016年に日本でサービスを開始したウーバーの初期の配達エリアは渋谷と恵比寿。同じエリア内に店があったため、さっそくウーバーイーツで売り出すと、「菅生の焼き芋はおいしい」とたちまち飲食店の経営者仲間に評判が広がり、注文が舞い込むように。

#ウーバーイーツで配達される焼き芋が評判に
写真提供=SAZANKA
#ウーバーイーツで配達される焼き芋が評判に。 - 写真提供=SAZANKA

■限界突破はさつまいも作りから

焼き芋の販売は飛躍的に伸びた。だが、一方で新たな壁に直面していた。焼き芋の品質が安定しないのだ。

「宮崎で熟成させて東京に輸送したさつまいもを、うまく焼ける日と焼けない日がありました。焼く温度や時間といった条件を同じにしても、焼き上がりにばらつきが生じてしまうのです。いくら焼く技術を磨いても、さつまいもそのものの品質が安定しないと、商品としての焼き芋の品質を高めるのには限界がある。その限界を突破するために、2つの行動を起こす必要があると考えました」

それは、生産地でさつまいもを焼き、栽培する土壌をよりよくすることの2点だ。

■最高のタイミングで焼くために

叔父は自身のラーメンチェーンをやめて、さつまいもビジネス一本にしぼり、地元で生産者グループを立ち上げていた。菅生さんは、生産者や叔父らと2018年、さつまいもの生産と販売をワンストップで手がける「SAZANKAグループ」を設立。さつまいもの糖度を、熟成段階でいかに高められるかを追求していった。

「おいしい焼き芋づくりの最重要ポイントは『いつ焼くか』、つまりタイミングにあることがわかってきました。さつまいもに含まれるβアミラーゼという酵素が、加熱によって糊化するさつまいものでんぷんを分解し、麦芽糖に変えていきます。この麦芽糖が、糖度に直結するわけです。保管庫でゆっくりと温度を上げながら、90日ほどかけてさつまいもを熟成させ、これ以上熟成させたら腐敗が進むというギリギリのタイミングを見きわめて、すぐに焼く体制を構築しました」

#独自レシピによりオーブンで焼かれるSAZANKAのさつまいも
写真提供=SAZANKA
#独自レシピによりオーブンで焼かれるSAZANKAのさつまいも - 写真提供=SAZANKA

さらに、焼くのは独自レシピで2段階。焼くうちに蜜が皮からにじみ出るSAZANKAの焼き芋は、研究者の知見も取り入れながら試行錯誤を重ねた結果、2020年に最高糖度78度を記録した。スーパーで販売される焼き芋の糖度が40~50度とすると、別次元の甘さである。

■土が強ければ芋も強い

栽培時の土壌づくりにはどんな工夫をしたのか。

「畑に、畜産で発生する畜ふんを利用した地元発祥の有機JAS認証堆肥“さざん華”をふんだんにまくと、味がよくなることが実証されました。さらに地元にしかない土着菌を活用した農法にチャレンジ中です。その土地が持つ力を借りることで、病気に強く、生命力の高いさつまいもが育つというわけです」

#サザンカファームの生産者たち
写真提供=SAZANKA
#サザンカファームの生産者たち - 写真提供=SAZANKA

残留農薬がないため、SAZANKAの焼き芋は皮ごと安心して食べられる。さらに、全国的に発生が見られる「さつまいも基腐(もとぐされ)病」の発生も抑えられているという。

■タイ人に大ウケ! 100店舗以上の飲食店へ納入

このように焼き方と土壌づくりを極め、最高糖度78度を記録したSAZANKAグループの焼き芋は、焼き芋ブームの波にも乗り、販売を伸ばしていった。

2020年からは「さつまいも博」の発起人の一人となり、全国の作り手と売り手と買い手の三者が出会い、さつまいもを通じて楽しめるような、三方よしのイベントを始めた。その中で「さつまいもの品評会」や「日本さつまいもサミット」、さらには焼き芋日本一を決める「全国やきいもグランプリ」を開催して好評を博した。(SAZANKAは2023年に、さつまいも・オブ・ザ・イヤー 紅はるか部門 日本一を獲得)

多くの飲食業が苦戦したコロナ禍では、人気ユーチューバーのヒカキンが、自身のチャンネルで「ウーバーイーツで高級焼き芋食べたら美味すぎて気絶☆」と紹介。すごい勢いで売れ、知名度もぐんと高まった。

■自分たちだけが得をするのは「なんか違う」

そうしてビジネスが軌道に乗った2022年、菅生さんは経営する焼き鳥などの飲食店事業を全て売却し、「焼き芋一本で勝負する」と決めたのだ。ただ、自分だけ儲ければいいという発想はない。

#2023年のさつまいも博で表彰された、サザンカファームの生産者たち
写真提供=SAZANKA
#2023年のさつまいも博で表彰された、サザンカファームの生産者たち - 写真提供=SAZANKA

「切磋琢磨し合える仲間とのコミュニティを作ることで、焼き芋の魅力をもっと多くの人に届けていきたいです。昨年は、各地の生産・販売仲間を宮崎に呼んで、焼き芋ツアーを実施しました。SAZANKAグループの農場と工場も見学してもらいました。私たち作り手や売り手が、創意工夫や学びを続けることが大切だと考えています」

現在の経営状況はどうなっているのか。

「2023年度のさつまいもの収穫量は250トン、グループ全体の売り上げは約3億円です。工場は、第3工場まで増えました。おかげさまで、生産すると完売するので、生産量を上げるほどに売り上げが伸びる状態ですね。販売は、自社のオンラインサイトや催事でのBtoCだけでなく、大手外食チェーンやレストラン、TSUTAYA(一部)にも焼き芋スイーツとして販売しています」

さらに菅生さんは飲食店経営のキャリアを生かし、焼き芋を用いたメニュー開発などのコンサルティングにも積極的だ。原価計算からメニューの提案までトータルで行えるのが強みだという。このスタイルが奏功したのが、海外輸出だ。

「知り合いの紹介で、2021年からタイ向けに焼き芋を輸出しています。もともとタイ人の多くは甘いモノが大好きな上に、日本食が広く普及しています。デザートはもちろん、天ぷらや串揚げ、ドリンクといったメニュー提案を行うことで、取引する飲食店は100を超えました」

#バンコクの高級寿司店「Sushi Yorokobu」で提供されるSAZANKAの焼き芋スイーツ
写真提供=SAZANKA
#バンコクの高級寿司店「Sushi Yorokobu」で提供されるSAZANKAの焼き芋スイーツ - 写真提供=SAZANKA

菅生さんは、欧米の日本食レストランにも大きな商機があると話す。

「多くの日本食レストランでは、料理に対してデザートのバリエーションが、驚くほど少ないと感じます。評判のレストランでも、なぜかデザートは出来合いの餅菓子やアイスクリームといったケースが見られます。有機栽培で皮まで安心して食べられるだけでなく、圧倒的に甘いうちの焼き芋をデザートに使うことで、メニューの価値をワンランク上げていただければと思います」

近い将来の売上目標は現在の2倍の6億円。「焼き芋を通じて、日本の農産物の魅力を世界に届け、日本の農産物に競争力があることを示したいんです」と力を込める。

江戸時代に爆発的に普及し、日本が誇る伝統のスイーツと言える焼き芋。菅生さんにとって、その伸びしろは令和の今も無限大だ。

----------

水野 さちえ(みずの・さちえ)
ライター
日系製造業での海外営業・商品企画職および大学での研究補佐(商学分野)を経て、2018年からライター活動開始。ビジネス、異文化、食文化、ブックレビューを中心に執筆活動中。

----------

(ライター 水野 さちえ)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください