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「経営は成功するようにできている」松下幸之助が一貫して説き続けた誰にでも実践できる成功の秘訣

プレジデントオンライン / 2024年11月9日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ooyoo

貧困、小学校中退、病弱など不遇な生い立ちでありながら、経営者として数々の危機を乗り越え、透徹した見方・考え方で成功を収めた松下幸之助。PHP理念経営研究センター首席研究員の川上恒雄さんは「雨が降れば傘をさすように、当たり前のことを当たり前にする『自然の理法』こそ、経営を成功させる秘訣だと松下幸之助は説いていた」という――。

※本稿は、川上恒雄『松下幸之助の死生観 成功の根源を探る』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■成功の秘訣は「雨が降れば傘をさすこと」

経営は人間の営みである。しかし幸之助は、人知のみに頼る経営は、仮に短期的に成功しても、長期的には衰退する可能性が高いと考えた。「自然の理法」の前では、人知ははかないものであるとみていたからだ。だから経営は「自然の理法」に即すべきだというのだが、理法についてそれ自体が何か、幸之助自身は詳細な説明を与えていない。

1960年頃、新聞記者に成功の秘訣を尋ねられた際、次のように答えたという。

「『おまえはどうして今日そう成功したのか』という質問を最近、各方面でされるんであります。(中略)つい先ほども、新聞記者諸君から同じような質問を受けたんであります。『松下さん、あんたは非常に成功したと思うが、あんたの成功はどういうところにあったんか、ひとつ話してくれ』ということでありました。私はそれに対しまして、こういう答えをしたんであります。

『ぼくの経営方針というものは、まあ天地自然の法によるんだ』。すると、『天地自然の法によるというような、きみ、むずかしいこと言うな。具体的に言うとどういうことか』と、こういう質問でありますので、『具体的に言うと、雨が降れば傘をさすことだ』と、こういう話をしたんであります。それはどうも、人をおちょくるような話ではないかということであったんでありますが、自分はそういうことを天地自然の法という表現を使ったのであります」

■損失が膨らんだり黒字倒産する理由は何か

幸之助はよほどこのエピソードが気に入っているのか、4年後の1964年の講演でも次のような話をしている。

「先般も新聞社の方々が見えまして、私に、『あなたの会社は急速に発展した。どういうわけでそうなったのか、その秘訣があればひとつ語ってくれないか』という質問がございました。そこで、『秘訣というとむずかしいが、皆さんも何か記事になさるんであれば、まあ話しましょう』と言うて、私の経営はひと言にしていうと、天地自然の法にもとづくということを言ったのです。

すると、『天地自然の法にもとづくというだけでは記事にならん。それはもっと具体的にいえばどういうことか』ということでしたので、『具体的にいうと、雨が降れば傘をさすということです』という話をしたんであります」

「雨が降れば傘をさす」とは、外で雨に降られたら濡れないように傘をさすのが一般的であるように、当然のことを当然のこととして行なうことを表現している。さらに幸之助によれば、こうした行為は当然なすべきことなのだから、頭を使うようなむずかしいものではないという。

ところがなぜか経営や商売になると、むずかしく事を考え、当たり前のことを当たり前にやらないケースがみられると指摘する。たとえば、商品の販売価格を原価や仕入値よりも高く設定する、販売した代金を回収する――といったことを商売ではごく自然に行なうはずなのに、商品を売れば売るほど損失が膨らんだり、黒字倒産をしたりする会社が珍しくないというのだ。

■商売や経営は成功するようにできている

幸之助は、「経営はきわめてやさしいともいえる。というのは、それは本来成功するようにできていると考えられるからである」「商売なり経営というものは、もともと成功するようになっている」と断言する。

つまり、雨が降れば傘をさすごとく、当然のことを当然として行なう、基本中の基本を徹底する、ひいては原理原則に従うことに忠実であれば、経営はおのずと成功するというのだ。

夜景とビジネスマンの影、成長を示す矢印
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

幸之助が経営者として「自然の理法」を特に強調したのは、高度経済成長期のことである。好況期は順調に見えた企業が、「昭和40年不況」に直面し、経営が大きく傾くことも珍しくなかった。

銀行借り入れに依存して債務が膨らんだり、まだ一企業体として小さいのにアメリカの大企業に倣って多角化したり、過当競争による無理な価格引き下げで利益を確保できなかったりする企業が目立ったからだ。

一方、松下電器の業績も一時的には大きく悪化したが、幸之助によれば、資金に余裕を持つ「ダム経営」や、重電分野に手を出さず弱電(家電)専業の方針を貫くなど、無理なことをせず、経営を維持できたという。「自然の理法」からはずれた経営は長続きしないことを戒めたのだ。

■次々と新たな開発や投資をおこなっていく必要がある

ただ、幸之助が実践した「自然の理法」に対する順応の仕方が、時代や場所を超えて普遍的に適用されるかといえば、必ずしもそうではない。業種や企業の規模によっても異なるはずだ。

幸之助はそもそも、宇宙の万物は常に変化流転するとみなし、生成発展は「自然の理法」であると考えていた。順応の具体的方法は、長期的には変化しないほうがおかしいのだ。

「成長、発展のテンポというものには、その時々で違いはあろうけれども、この人間の共同生活は限りなく生成発展していくものだということになれば、それに応じた物資なりサービスなりの供給も時とともに増加させていくことが求められてくる。そうでなくては生成発展にならない。だから企業経営としても、原則としては次々と新たな開発、新たな投資を行なっていくことが必要になってくるわけである」

■経営者に必要なのは「素直な心」

幸之助は1972年5月に発表した「新しい人間観の提唱」の冒頭で、「宇宙に存在するすべてのものは、つねに生成し、絶えず発展する。万物は日に新たであり、生成発展は自然の理法である」と述べている。

なお、1951年9月に発表した「人間宣言」の冒頭部分も、「日に新た」の個所が「日々に新た」と表現されている以外は基本的に同じである。「生成発展は自然の理法である」という認識を、幸之助が一貫して持ち続けていたことを示している。

ただ、変化が必要であるとはいっても、小さな人知にとらわれて奇策に走るのではなく、人知を超えた「自然の理法」にあくまで従うという謙虚な姿勢が求められている。幸之助は、そのためには「素直な心」であることに努め、思い込みや私利私欲にとらわれず、視野を広げ、物事の本質を見極めるべきだとした。

「経営というのは、天地自然の理に従い、世間、大衆の声を聞き、社内の衆知を集めて、なすべきことを行なっていけば、必ず成功するものである。その意味では必ずしもむずかしいことではない。しかし、そういうことができるためには、経営者に素直な心がなくてはならない。

■素直な心になれば、物事の実相が見えてくる

天地自然の理に従うとは、『雨が降れば傘をさす』ようなものだと述べた。雨が降れば、ごく自然に傘をさす、それが素直な心なのである。それを意地を張って傘をささないということは、心が何かにとらわれているからである。それでは雨にぬれてしまう。経営はうまくいかない。

世間、大衆の声に、また部下の言葉に謙虚に耳を傾ける。それができるのが素直な心である。それを自分が正しいのだ、自分のほうが偉いのだということにとらわれると、人の言葉が耳に入らない。衆知が集まらない。いきおい自分一人の小さな知恵だけで経営を行うようになってしまう。これまた失敗に結びつきやすい。

素直な心になれば、物事の実相が見える。それにもとづいて、何をなすべきか、何をなさざるべきかということも分かってくる。なすべきを行い、なすべからざるを行わない真の勇気もそこから湧いてくる」

ここで「素直な心になれば、物事の実相が見える」とは、「自然の理法」も認識できるということである。

■松下幸之助も簡単にはなれなかった「素直な心」

川上恒雄『松下幸之助の死生観 成功の根源を探る』(PHP研究所)
川上恒雄『松下幸之助の死生観 成功の根源を探る』(PHP研究所)

「天地自然の理法はどこにあるかということは、各人各人のしみ出るような体験からつかめるともいえますが、それだけでなく素直な心を培養するという心がけでものを見ていけば、天地自然の理法というものも分かってきて、その人の動くところすべて理に適した動き方をするようになると思います。学問にとらわれず、知識にとらわれず、権力にとらわれず、地位を利用するような動きもしなくなる。すべて自然の理のままに、正しい行いがだんだん高まっていくということになると思います」

経営は「本来」成功するようにできているのに、「現実」にそうならないのは、結局のところ人間が「素直な心」を持っていないからだというのが、幸之助の見方だ。経営の基本は「人知」を過信することではなく、「素直な心」で「自然の理法」に従うことだという幸之助の考え方から理解できよう。

しかし、人間誰しも「素直な心」にはなかなかなれないものだ。幸之助自身もそうだった。それゆえ幸之助は、「素直な心」の大切さを、晩年まで熱心に説き続けたのである。

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川上 恒雄(かわかみ・つねお)
PHP理念経営研究センター首席研究員
1991年一橋大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。1997年同社退社後、南山大学宗教文化研究所研究員、京都大学経営管理大学院京セラ経営哲学寄附講座非常勤助教などを経て、2008年PHP研究所入社。2019年より同社PHP理念経営研究センター首席研究員。著書に『「ビジネス書」と日本人』(PHP研究所)。ランカスター大学宗教学博士(Ph.D.)。エセックス大学社会学修士(M.A.)。

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(PHP理念経営研究センター首席研究員 川上 恒雄)

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