部課長にはなれない人材をどうするか…辞められると困る中堅社員の離職を止める上司の"ねぎらいフレーズ"
プレジデントオンライン / 2024年11月11日 9時15分
※本稿は、藤田耕司『離職防止の教科書 いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
■離職の動機は年齢や仕事への意欲によって異なる
会社に対するニーズが満たされなくなったときに離職の動機が生まれます。そのため、部下のニーズを把握し、それに対応することが重要です。
そのニーズは年齢や仕事への意欲・能力の高さによって異なり、そこには一定の傾向があります。
そのため、経営心理士講座では、年代を20代の新人若手、30~40代の中間世代、50代以上の年長世代の3つに分け、それぞれの年代を意欲・能力の高さでさらに上位、中位、下位に分け、図表1の9つのカテゴリーに分類し、ネーミングしています。
今回は30~40代の中間世代の上位【エリート】と中位【現場牽引者】のニーズの傾向について説明し、それを踏まえて離職の要因と対応についてお伝えしていきます。
■中間世代・上位【エリート】の離職の要因と対応
中間世代・上位の【エリート】カテゴリーの人は、十分な経験を積み、仕事に対する意欲や能力が高く、現場でトップクラスの成果を上げる30代、40代の人です。
このカテゴリーの人は自分の市場価値の高さに自信があり、今より条件が良い転職先も探せば見つかると思っている人が多く、また、独立をしやすい業界では独立の意向が強い人もいます。
このカテゴリーの人への対応としてとりわけ注意すべきなのが、「仕事の任せ方」「期待の伝達」「体調への配慮」です。
このカテゴリーの人は実績も自信もあるため、自分の思うようにやりたいという気持ちが強く、自分のやり方にいちいち口を挟まれるとモチベーションが下がります。
そのため、十分な裁量権を与えて、大事なところは手綱を引きながらも細かいことには口を挟まない関わり方が重要になります。
ただ、それが「放置」と感じられると上司との関係が疎遠になり、関係欲求が満たされなくなります。そうならないよう折を見て声をかけ、良い点は褒め、「口は挟まれないけれども見守ってくれている」と感じてもらえる状態を維持することです。
そして、優れている点をフィードバックしたうえで、会社からの期待を伝えておきます。その際、伝達する期待が本人の意向に沿わないものだと逆効果になるので、あらかじめ本人の意向を把握しておくことも必要です。
その内容に合わせてどういった成長の機会を提供できるかを伝えられると、なお良いでしょう。
■仕事が集中しやすいため、体調への配慮は重要
また、このカテゴリーの人は能力が高く、責任感も強く、安心して仕事を任せられるうえに本人の意欲も高いため、仕事が集中しやすくなります。
それによって過労やストレスで体調を崩したり、デスクワークの場合は首や肩の凝り、腰痛、眼精疲労、頭痛などに悩まされたりすることも少なくありません。
そうなると業務への意欲が減退し、その状況でなお仕事が集中すると極度のストレスと心身の危険を感じ、離職に至ることがあります。
そのため健康状態と業務量にはくれぐれも注意を払うようにしてください。
■独立した人との関係を継続する
このカテゴリーの人は強い自信と行動力があるため、離職を防ぎきれないこともあります。特に独立志向の人の独立を思い止まらせることは、なかなか難しいです。
とはいえ、現場でトップクラスの成果を上げている人に辞められることは大きなダメージとなるため、ダメージを最小限に食い止める対応をとることも重要です。
その対応の1つが、独立する人には業務委託先として関与してもらうことです。
独立直後は顧客も少なく、売上が安定しない場合も多いものです。その場合、業務委託先として仕事を依頼することは、相手にとってもありがたいことです。
業務委託先として引き続き業務を担当してもらえば、業務を継続してもらえます。
転職する人でも転職先が副業可能なら、業務委託先となってもらうことは可能です。
あるいは独立後、業務提携先として協力体制を築き、仕事を紹介し合う、共同受注して利益をシェアするといったことも可能です。また、オフィスを間借りさせてあげて賃料を入れてもらうなどのコストをシェアする方法もあります。
こういう状況を実現するには、何といっても喧嘩別れをしないことが大切です。
辞める部下を「裏切者」ととらえる上司もいます。こうなると退社後も関係を継続することは難しくなります。
辞めた後も業務委託先や提携先として関与してもらうという発想を持ち、具体的な提案内容も整理できていれば、感情的にならずにそういった提案がしやすくなります。
また、「独立してうまくいかなかったら、いつでも戻って来いよ」と伝えておくのもありでしょう。独立にしろ転職にしろ、出戻りするケースは意外とあるものです。
■子会社を作って社長を任せる
また、社長として経営をしてみたいという理由で独立するのであれば、子会社を作って社長をやってもらう方法があります。
独立はリスクが高く、まとまった資金も必要です。この点、会社から業務を切り出す形で子会社化すれば、独立直後から一定の売上を確保でき、資金も得られるため、独立のリスクを軽減して「代表取締役」の肩書で経営ができます。
■中間世代・中位【現場牽引者】の離職の要因と対応
中間世代・中位の【現場牽引者】カテゴリーの人は、プレイヤーあるいは管理職として現場を牽引する、30代、40代の人です。
会社に対する不満や将来への不安を理由とする離職、あるいは給料、労働条件の向上を目的とした離職が多い傾向にあります。
結婚して子どもが生まれると、これまで以上にお金が必要になり、プライベートの時間も確保したくなります。その場合、生活に十分な給料が得られなかったり、残業や休日出勤が多かったりすると、離職の動機が高まります。
これはこの世代の上位、下位のカテゴリーの人にもあてはまります。
また、この世代の人は業務がマンネリ化すると業務に飽き始め、違う道を歩むなら今のうちだと考える人も少なくありません。
ただ、同世代の上位の人は実力に自信があるため動くときは動きますが、このカテゴリーの人はそこまでの自信はなく、心が揺れています。だからこそ気持ちをグリップできるかどうかが重要になります。
この世代はプレイヤーとして中核業務を任され、それに加えて管理職としてマネージャー業務も担当することで、業務量と責任が格段に増えます。
同世代の上位の人たちは意欲と能力の高さでこういった状況を乗り切るものの、このカテゴリーの人はそれがなかなか難しく、ストレスが臨界点に達すると離職します。
そういった離職を防ぐには、まず面談などで悩みを聞く機会を設けることです。
そして、出てきた悩みに対応することで不満が臨界点に達するのを防ぎます。
■中間世代も認めてもらいたい
また、部下がこの世代くらいになると、上司も「今さらそういうこと言わなくてもいいでしょ」と思って、労をねぎらう、褒める、感謝を伝えるといった関係欲求を満たすコミュニケーションが疎かになっていきます。
しかし、若手も中間世代も年長世代も、認めてもらいたい気持ちは同じです。
プレイヤーとして中核業務を任され、管理職として慣れないマネージャー業務も担当させられ、業務量と責任が格段に増えた中でも何とか頑張っているのに、上司は労をねぎらうこともなく、褒めもしないし、感謝も伝えない。
加えて、このカテゴリーの人は同世代の上位ほど優れた成果を収められておらず、認められる機会も多くないため、自分はどう思われているのかがより気になります。
「仕事の量がずいぶん増えたから大変だと思う。でも本当によく頑張ってる」
そんな一言があれば、業務量と責任が増え、ストレスフルな状態だったとしても、不満をぐっとこらえて頑張れたりするものです。
そのため、労をねぎらう、褒める、感謝を伝えるといった関係欲求を満たすコミュニケーションは、中間世代の部下であっても疎かにしないことです。
■さまざまな切り口から感謝を伝える
また、認められる機会が多くはないからこそ、上司の関わり方によっては、「自分は本当に必要とされているのかな」「一歯車としていいように使われているだけなのかも」と感じることがあります。
そうならないよう「うちの会社にとってあなたは大切な存在なんだ」という旨のメッセージを伝えることが重要です。これは同世代の下位の人にも当てはまります。
例えば、「あなたが現場を明るくしてくれてるから、みんなが働きやすいんだよ」「こまやかな気配りをしてくれて、会社としても本当に助かっている」「みんなお前と飲みに行くのが好きなんだよ」など、さまざまな切り口から伝えることは可能です。
そして、「この会社の人は、自分のことを特別に思ってくれている」と感じてもらえると、それが離職を思い止まらせる力となります。
■将来の不安が見えてくる世代
また、長く勤めることで業界の動向や社内事情に詳しくなり、業界や会社の将来に不安を覚えると、まだ転職できる年齢のうちに転職しようという動機が強まります。
今は市場の変化が速いため、業界の動向に敏感な人も多いことから、その動向を踏まえたうえで、自社はどういう戦略を進めていくのかというビジョンや事業計画を定期的に示すことも重要です。
また、同世代の上位のように順調に昇進できず、職位が上がらない状況が長く続いたり、キャリアの頭打ち感が出てきたりした場合も離職の動機は高まります。
この点、部長、課長、マネージャーなどの公式の職位には限りがあるため、多くの人に望むキャリアを提供することは難しいと思います。
そこで例えば、部長代理、副部長、サブマネージャーといった職位を設けて職位の数を増やし、より多くの人が職位が上がる状況を確保するのも有効な方法です。
■離職の抑止力となる部下との絆、上司との絆
この世代の人は、部下との絆が理由で離職を思い止まることがあります。
新人の頃から面倒を見てきた部下が、一人前に成長し、自分を慕って一生懸命に付いてきてくれている。そんな部下を置いて会社を去るのはしのびない。
このように部下との絆が離職の抑止力となるのです。
そのためには、本人が優れた上司となることが必要であり、そのためにマネージャー目標を設定し、マネージャーとしての成長を支援することです。
そして、マネージャーとしての成長が見られたら、しっかり褒めることです。
また、部下の成長を心から喜ぶ上司の存在も、離職の抑止力となります。
嬉しいことがあったときに我がことのように一緒に喜んでくれ、悲しいことがあったときは我がことのように一緒に悲しんでくれる。そうやって、深く感情を共にしてくれる上司には恩と絆を感じます。
そういった関わりも離職の強い抑止力となります。
■部下の家族と信頼関係を構築する
また、離職を考える際、まず相談するのが家族です。
この世代になると結婚して、家庭を持っている人も多く、その場合、家族の同意なしに離職することは難しいものです。そして、家族の一言が離職の抑止力になることも少なくありません。
そのため、部下の家族と信頼関係を構築することも重要になります。
ある不動産会社では、社長が社員の家族に手紙を送っています。
その内容は、社員の活躍ぶりと、その社員を日頃から支えてくれている家族の方への感謝の言葉です。それを社長が一通一通、直筆で心を込めて書いています。
結果としてそれは社員本人との関係を深めることにもなっています。
それによって、離職者がずいぶん減ったと話されます。
また、ある建設会社では、社員の家族も呼ぶ、社員の慰労会を行っています。そこで支店長が社員のご家族に対して、日頃のお礼と感謝を伝えて回っています。
このように部下の家族とも信頼関係を構築することは、部下の離職を防ぐうえでも、とても大切な関わりです。
「将来の不安が見えてくる世代」「離職の抑止力となる部下との絆、上司との絆」「家族の理解も離職の抑止力となる」の項目でお伝えした内容は、すべての中間世代、年長世代にあてはまることですが、とりわけこのカテゴリーの人に当てはまる要素が強いので、ここでお伝えしました。
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経営心理士、公認会計士
1978年徳島県生まれ。早稲田大学商学部卒業。2004年、有限責任監査法人トーマツに入社。2011年に同社を退社。2012年、藤田公認会計士税理士事務所(現FSG税理士事務所)を創設。2013年、経営と心理と会計のコンサルティングを行うFSGマネジメント株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年、一般社団法人日本経営心理士協会を設立し、代表理事に就任。著書に『リーダーのための経営心理学』(日本経済新聞出版社)、『経営参謀としての士業戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
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(経営心理士、公認会計士 藤田 耕司)
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