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「老害政治家」が好き放題してもお咎めなし…日本に「すぐキレる高齢者」が蔓延する根本原因

プレジデントオンライン / 2024年11月7日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koumaru

「老害」とはどんな人なのか。脳内科医の加藤俊徳さんは「脳の働きから考えると、一方的に怒鳴りつけるタイプは『左脳老害』であり、それを見て見ぬふりするタイプは『右脳老害』と言える。左脳老害の被害に遭っている人は、自分自身が加害者になる前に何とかしなければならない」という――。

※本稿は、加藤俊徳『老害脳』(ディスカヴァー携書)の一部を再編集したものです。

■「見て見ぬふり」と「押しつけ」

最初に、「老害」は社会の中でいかにして生み出されるのか、右脳と左脳の視点を通じて、そのメカニズムについて考えていきましょう。

まず、脳は一般に、環境脳と言える、環境からの情報処理を得意とする右脳と、自分脳と言える、自分自身の状況を言語で認識する左脳に分けられます。

従って「老害脳」も大きく2種類に分けることができます。社会や環境から影響を受ける「右脳老害」と、自分自身の状況認識が発端になる「左脳老害」です。

「右脳老害」は、環境や社会からの影響を受けやすく、周囲に同調することで生じる行動を指します。たとえば、組織内での悪しき慣習を無批判に受け入れる行為がこれに当たります。

一方、「左脳老害」は、自己中心的な視点から生じる行動で、自分の価値観や意見を他者に押しつける傾向があります。たとえば、過去の成功体験に固執し、新しいアイデアを拒絶したり、一方的に怒鳴りつけたりする姿勢がこれに該当します。

要するに、「右脳老害」の特徴は「見て見ぬふり」、「左脳老害」の特徴は「頑固・押しつけ」です。

■「老害」がまん延した組織の末路

組織内で「老害」がまん延すると、その文化に同調する人々は、まず、知らず知らずのうちに「右脳老害」化してしまいます。そしてそのまま組織に居続け、地位が上がり権限が大きくなるにつれて、やがて自分自身への認識も固定化していき「左脳老害」にもなってしまいます。

そんな組織に、まさか「それは『老害』ですよ」とか、「最近脳が衰えてきているのでは?」などと指摘してくれる人がいるはずもありません。もしそんな人がいたとしても、すでにその組織に見切りをつけているでしょう。

そうなると、その組織にはもう、波風を立てずに「老害」をうまくかわして生き延びようとする人しか残っていません。そんな人がまさか「老害」に片足を突っ込んでいる人を救い出してくれるはずもありません。そうすると、もはや健全なコミュニケーションは成立しにくくなります。

このような「老害」がまん延する環境に身を置いていると、自己を客観的に見つめる機会が得られず、思考の柔軟性が失われていきます。最終的には、脳の活動が全体的にマンネリ化していき、完全に衰えてしまうのです。

■「優しすぎる人」は被害を受けやすい

「老害」の被害者から見た場合、「老害」を恒常的に受けていると、まず感情の働きが鈍くなり、次第に理解力や聴く力、見る力にも影響が出てきます。

具体的には「だからお前は……」「キミの発言なんて聞いていない!」などと、常日頃から自分の存在や発言を抑圧されるようなことを言われ続けている人は、やがて何を見ても、何を聞いても情報が頭に入ってこなくなり、思考力が著しく衰えてしまいます。

受け身的に聞かされる話ばかりで、自発的に理解することを抑制されるのですから、理解しようとしても、話そうとしても無駄です。最終的には口数も減ってしまいます。

しかもそこに至る過程を本人もあまり自覚できていません。このような状態は、典型的なうつ状態と同じです。今まで医師としてさまざまな患者を診てきましたが、こうした症状は一度治っても繰り返されることが多いのが実情です。

そして残念ながら、人には「老害」の被害を受けやすいタイプが存在します。

これはかつて『「優しすぎて損ばかり」がなくなる感情脳の鍛え方』(すばる舎)という本で詳しく解説したことがあるのですが、他人の感情に影響を受けやすく、自分自身の感情をもともと持ちにくいタイプの人がそうです。このタイプが「老害」に遭遇すると、まさしく一方的に攻撃されやすく、打たれ続けているのに打たれているという自覚を持ちにくいのです。

■加害者と被害者の不思議な共存関係

また、特に「老害」側は、相手を支配したり、抑圧したりすることに対する快感や達成感のようなものを持っているため、いくら「老害」を及ぼしても相手からの反応が鈍い場合、勝手にエスカレートしかねない危険性を持っています。

それは見方を変えると、そこまで深刻な被害が起こっていない場合は、「適度な老害」と「被害を受けている意識の低い被害者」が、不思議な共存関係を維持する状況も起こり得ます。特に「老害」側には「ありがたい」存在でしょう。ただ、何事にも限界、限度はあります。

反対に、「老害」を受けにくいのは、自分の意見を持っているだけでなく、はっきり主張することに長けているタイプです。反論されると、「老害」側はくみしにくいと考え、自己肯定感が削られるリスクを考えるからです。

私自身の個人的な記憶にも、今考えれば「老害」丸出しの言われなき攻撃を受けながら、言い返すこともできず受ける一方となった苦いシーンが残っています。医学の世界も、ある時代、ある段階までは徒弟制とでも言うべき雰囲気が濃かったのです。そんな私が、むしろ今の若い方たちから「老害」と思われていたら……やはりたまりません。

■リーダーの高齢化が日本社会に及ぼす影響

日本社会には「老害脳」を生み出しやすい素地があるのではないかと考えられます。それを何よりも如実に表しているのは、各界の指導者やトップ層に高齢者が多いこと、さらに、彼らが仮に「老害」的な振る舞いを見せても、周囲に抵抗する人があまり見られないことです。

何も、高齢になったら無条件に引退せよ、などと言いたいのではありません。高齢化社会なのですから、高齢者の意見を代表する政治家が存在することは大切な要素でもあります。

だからといって、「老害脳」化した人が、高齢であることを味方につけて、そのままリーダーの地位に居続け、その上「老害」的な振る舞いによってライバルを退け、自分の考えを押し通そうとしているのなら、どうでしょうか?

この問題の核は、「老害」を受ける側が総体としてそうしたリーダーを排除できず、新陳代謝も世代交代も進まないことにあります。

■批判されると逆切れする政治家たち

高齢者の後に続く人々もまた「老害脳」化され、日本社会の活性化は、おのずと政治の世界で起こりにくいわけです。

きっと何人か、具体的な顔が思い浮かぶのではないでしょうか。派閥間やメンツの争い、権力闘争には長けているけれど、解決策を提案したり、リーダーシップを発揮したり、人々のモチベーションを引き出したりはしない人たち……その典型例は、普段目立った動きを見せない大物政治家です。

そして、何かの矢面に立ちマスコミから質問されると、すぐに怒り、議論をさえぎろうとさえし始めます。さらにいえば、彼らは聞かれている質問の内容をしっかり理解して答えているのか、判断や論理的思考力が機能しているのか、不安になるときがあります。端的に、挙動や反応が鈍く見えることさえあります。

記者会見するVIP
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

80代にもなれば、当然脳の老化によってそうしたケースは増えてきます。しかし国民の代表として、選良として権力を持とうとするのであれば、少なくとも自分の脳の老化と戦い、打ち勝った上で重責を担ってほしいと思ってしまいます。

■「老害」をそのままにしてはいけない

そして何度も述べる通り、日本では、「老害」を隠そうともしないリーダーを前にして、被害者側が、どちらかといえば騒ぎ立てず、黙っていることを美徳とする傾向があります。これ自体「見て見ぬふり」の「右脳老害」と変わりありません。

「老害」がそのままになっているということは、問題があると認識はしているのに、正しいソリューションを考え、実行したりはしないことと同じです。尖ったものを、丸く収める方向への力が強く働いているということです。

ただ、「老害」を受ける側は、仮に「右脳老害」化されていても、まだ「左脳老害」化はしていない分、論理的な思考や、情報の受容、解釈が正しくできる余地は残されています。

したがって「老害」の被害によって何か問題が起きている際、原因やポイントを把握し、解決策を見いだすことは、可能なのです。むしろ、自分自身が、「左脳老害」化される前に何とかしなければなりません。

■無関心が招く「老害ハザード」

それでも、自分には実行力が欠けていることを悲観視し、「老害」のターゲットにされないようにするあまり、結局何もしようとしない人が多いのです。それでは、せっかくのソリューションを生かせません。

加藤俊徳『老害脳』(ディスカヴァー携書)
加藤俊徳『老害脳』(ディスカヴァー携書)

そして、「老害」によって起きている問題が、誰の目にも明らかな失態や悪事として広く認識され始めてから、「実は以前から考えてはいたのですが……」「何度か指摘はしたのですが……」などと言い始めることが多いのです。

被害者側がこういう状況に甘んじていると、やがて自分で考える力を失ってしまいます。考えても無駄だと思えば、深く考えずに適当に対処して生きていく方が楽だからです。また、相手にはっきりと迷惑であることを伝えるのには、どうしても勇気が必要だったりします。

こうして、先にも述べた通り、「右脳老害」の中で生きていると自分も容易に「右脳老害」化して、ついには「左脳老害」化していく、というゲームのバイオハザードの法則、すなわち「老害ハザード」が成り立つのです。

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加藤 俊徳(かとう・としのり)
脳内科医
昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。

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(脳内科医 加藤 俊徳)

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