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野菜ジュースをグビグビ飲んでも"野菜不足"は解消できない…「健康によさそうな食べ物」の意外なリスク

プレジデントオンライン / 2024年11月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kardd

健康を維持するためにはどんなことに注意すべきか。女子栄養大学の林芙美准教授は「野菜ジュースやスムージーの飲みすぎには注意したほうがいい。野菜不足を補うためにこれらの飲料に頼る人もいるが、加工する過程でビタミンや食物繊維が失われてしまうため、野菜の代わりにはならない。糖や食塩が多いものもあるため、飲みすぎるとむしろ不健康になってしまうおそれがある」という――。(第3回)

※本稿は、林芙美(監修)『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■野菜は砕くと栄養素を吸収しやすくなる

野菜の栄養素は細胞壁に守られているのですが、細胞壁を壊すとどれだけ吸収率が高まるのでしょうか。リコピンとβ-カロテンについて調べた海外の研究があります。

リコピンは、トマトに多く含まれる赤・オレンジ色の色素成分です。活性酸素を消去する作用があり、血中のLDL(悪玉)コレステロールを低下させる機能が報告されています。

ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学の研究(*1)によると、新鮮な生のトマトとトマトペーストを15gのコーン油と一緒に摂取した場合、トマトペーストのほうがリコピンの吸収率が3.8倍も高いことがわかりました。

また、β-カロテンは植物がもっているオレンジ色の色素成分です。抗酸化作用があり、体内ではビタミンAに変換されて目や皮膚、粘膜の健康に役立ちます。

にんじんにはこのβ-カロテンが多く含まれます。こちらも別の海外の研究(*2)から、ピューレにしたにんじんは、生のにんじんよりβ-カロテンの吸収率が1.5倍高いことが判明しています。トマトやにんじんを食べる際は、油と一緒に摂取したりミキサーなどで粉砕して細胞壁をあらかじめ壊しておいたりすれば、リコピンやβ-カロテンを効率よく摂取できます。

そうはいっても、トマトやにんじんを食べるたびにジュースやソースにするのはちょっと面倒かもしれません。そのような方は、トマトジュースやトマトの水煮缶など、市販の野菜加工品を活用するのも一案です。

ただし、市販の野菜ジュースは製造の過程で一部の栄養素が失われている可能性があります。また、トマトケチャップなどの調味料は食塩や砂糖などが添加されているものも多く、食塩や糖のとりすぎにつながるおそれもあります。

市販の野菜加工品は調理のひと手間が省けるというメリットがありますが、頼りすぎず、バランスよく使うようにしましょう。トマトなどは一度冷凍してから自然解凍して調理に使うと細胞壁が壊れてうま味も出やすくなり、調理の手間も省けます。

(注)
(*1)Gärtner C, Stahl W, Sies H. (1997) Lycopene is more bioavailable from tomato paste than from fresh tomatoes. Am J Clin Nutr, 166(1), 116-22.
(*2)Livny O, Reifen R, Levy I, Madar Z, Faulks R, Southon S, Schwartz B. (2003) Beta-carotene bioavailability from differently processed carrot meals in human ileostomy volunteers. Eur J Nutr, 42(6), 338-345

■スムージーには食物繊維がほとんど含まれていない

野菜不足を少しでも解消しようと、市販の野菜ジュースやスムージーを日常的に飲んでいる人も多いのではないでしょうか。そこで質問。野菜ジュースやスムージーは、野菜の代わりになると思いますか?

たしかに、野菜ジュースやスムージーは野菜を粉砕してつくられるものなので、日ごろ野菜がとれていないと感じている人が思わず手にとるのもわかります。

ただし、市販の野菜ジュースの製造工程では、口あたりをよくする目的で食物繊維が取り除かれます。また、濃縮還元された野菜汁や果汁などを使うことが多いので、その過程で食物繊維やビタミンなどが損失しています。

様々な野菜や果物と、コップに入った野菜ジュース
写真=iStock.com/masa44
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masa44

これまでお話ししてきたように、野菜は血糖値の急上昇を抑えます。その効果が作用するのは食物繊維のおかげです。また、食物繊維が豊富な野菜はよくかむ必要があるため、早食いをせずにすみ、満腹感を得られやすくなります。こうした食物繊維がもたらす健康効果は、野菜ジュースやスムージーにはあまり期待できません。

■血糖値が急激に上昇するおそれがある

野菜がもつビタミンやミネラルにも、製造および保存の過程で損失がおきていると考えられます。冷蔵庫で保存した野菜のビタミンが、4日後には約70%も減少していることも研究(*3)で分かっています。

加えて、野菜ジュースやスムージーは砂糖や濃縮還元果汁、食塩などで味が整えられたものもあります。また、糖質は液体でとると血糖値が上がりやすいため、食物繊維が取り除かれた野菜ジュースやスムージーを飲むと、血糖値が急激に上がる可能性があります。つまり、先ほどの質問の答えは、「野菜ジュースやスムージーは、野菜の代わりにはならない」となります。

だからといって、野菜ジュースやスムージーを完全に否定することはできません。製造過程で食材の細胞が破壊されている野菜ジュースやスムージーは、栄養素を吸収しやすくなっているというメリットがあります。また、β-カロテンなど製造過程での損失が少ない栄養素もあります。そのため、抗酸化作用や機能性成分の供給源としても期待できます。大切なのは目的に合わせて上手に取り入れることです。

野菜ジュースやスムージーを上手に取り入れるポイントは二つあります。

まず重要なのは、飲みすぎないようにすることです。調理も咀しゃくも必要なく、味も調整されている野菜ジュースやスムージーは、飲みすぎると前述の通りエネルギーや糖質をとりすぎてしまうおそれがあります。健康のために飲んでいるのに、飲みすぎて健康を損なってしまえば本末転倒です。野菜ジュースやスムージーは、野菜不足がどうしても避けられないときの非常用と考えてください。

そして、野菜ジュースやスムージーを購入する際は、食塩や果汁、砂糖などがなるべく添加されていない、野菜のみのものを選ぶことをおすすめします。

(注)
(*3)畑江敬子, 酒井光子, 島田淳子 (1990) サラダ菜の品質に及ぼす貯蔵温度および湿度の影響. 日本家政学会誌 41(12), 1143-1149

■スーパーのお惣菜は「超加工食品」

スーパーやコンビニでは多種多様なお惣菜が販売されています。野菜不足が気になるときは、おひたしやごま和えなどの野菜を使ったお惣菜をうまく利用するのも“あり”です。ただし、お惣菜に頼りきりになるのはおすすめしません。お惣菜は超加工食品に分類され、近年、健康リスクが指摘されているからです。

超加工食品(Ultra-processed foods:UPF)とはブラジルの研究者が提唱した概念で、食品を加工の程度によって4段階に分類します。卵や生鮮食品、生鮮食品を冷凍した食品は「無」加工食品、卵白や調理油や砂糖、無添加ヨーグルト、精製粉でつくられたパスタなどは「低」加工食品、甘味料や香料を添加した果物ジュース・野菜ジュース・ヨーグルト、そのまま食べられるシリアルなどは「中」加工食品です。

「超」加工食品は加工の度合いがもっとも高く、ソーセージ、菓子パン、ポテトチップスなどのスナック類、アイスクリーム、清涼飲料水などが該当します。スーパーやコンビニで売られているお惣菜などの調理済み食品のように、家庭外で調理された料理も超加工食品に分類されます。

一見、家庭で手作りした料理と変わらなくても、業務用にあらかじめ加工された材料を使っていたり、たれやドレッシングなどの複合調味料を使って味つけされているため、野菜のお惣菜でも「超」加工食品に分類されるのです。

■肥満や生活習慣病のリスクが高まるおそれがある

東京大学の研究グループによると(*4)、1日の総エネルギー摂取量に対して超加工食品が占める割合は、超加工食品をより多く見積もった場合(すべて超加工食品と分類する場合)では42.4%、超加工食品をより少なく見積もった場合(料理に含まれる各食材を加工レベル別に分類する場合)は27.9%でした。アメリカやイギリス、カナダに比べると低い数字ですが、日本の食生活にも超加工食品がしっかり根づいているようです。

林芙美(監修)『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社)
林芙美(監修)『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社)

一方、女子栄養大学の研究によると(*5)、超加工食品が食事を占める割合が高い人は低い人に比べて総エネルギー摂取量が多く、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、マグネシウムなどの栄養素は不足するリスクが高いことも報告されています。さらに、摂取割合が最も高い人では、低い人に比べて肥満になるリスクが4.5倍高いことが示されています。

超加工食品には、調理をしなくても空腹を満たせる、生鮮食品に比べて安定的に供給される、栄養成分表示で栄養成分を確認できるなどのメリットがあります。一方で、脂質や食塩が多いのに対してたんぱく質や食物繊維、ビタミン、ミネラルが少ない傾向があり、心疾患、脳卒中、がん、肥満、糖尿病などとの関連が示唆されています。

超加工食品はそのメリットとデメリットを天びんにかけながら、上手に利用することをおすすめします。

(注)
(*4)Shinozaki N, Murakami K, Masayasu S, Sasaki S. (2023) Highly Processed Food Consumption and Its Association with Anthropometric, Sociodemographic, and Behavioral Characteristics in a Nationwide Sample of 2742 Japanese Adults: An Analysis Based on 8-Day Weighed Dietary Records. Nutrients, 15(5), 1295.
(*5)小岩井馨, 武見ゆかり, 林芙美, 緒方裕光, 坂口景子, 赤岩友紀, 嶋田雅子, 川畑輝子, 中村正和 (2021) 市町村国保の特定健診受診者におけるultra-processed foodsの利用と栄養素等摂取状況および肥満度との関連. 日本公衆衛生雑誌, 68(2), 105-117.

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林 芙美(はやし・ふみ)
女子栄養大学栄養学部 准教授
健全な食生活は、私たちの健康寿命を延ばすだけでなく、生活の満足感や幸福感を高め、さらには社会・環境面にも良い影響をもたらすという信念のもと、栄養面に加え、環境にも配慮した食生活のあり方について研究している。研究代表者として『人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド』を作成し、科学的・実証的な食に関する知識を広め、健康で持続可能な食生活の実現に貢献している。『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社)を監修。

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(女子栄養大学栄養学部 准教授 林 芙美)

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