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ついに関西で「維新離れ」が始まった…大阪で全勝した日本維新の会が、大阪以外で全く通用しなかったワケ

プレジデントオンライン / 2024年11月1日 16時15分

日本維新の会の開票センターで、記者会見する馬場伸幸代表(右)と吉村洋文共同代表(大阪府知事)=2024年10月27日午後、大阪市北区 - 写真=時事通信フォト

衆院選で日本維新の会は44議席から6議席減らした。ノンフィクションライターの石戸諭さんは「大阪府内19の小選挙区で初めて全勝したが、比例の近畿ブロックでは前回選挙から100万票以上減った。第三極として注目を集めているが、足元はあやうい」という――。

■関西でも大敗していた日本維新の会

今回の選挙で飛び交っている疑問の一つに大阪における維新の強さがある。

日本維新の会は2024年衆院選で38議席と現有を6議席も減らしながら、大阪の19小選挙区をすべて制したからだ。「在阪メディアが維新寄りの報道をするから、大阪府民は支持するのだ」といった類いの極論は何度も目にしたが、この手の主張に直感以上の根拠はない。

私は大阪で社会部記者としてキャリアを積み、今も在阪メディアで仕事をしている。人間には敵対的メディア認知、つまりメディアが自分と反対の一派の主張ばかり取り上げていると感じ取るバイアスがある。もし、在阪メディアが極論を唱える人々の言う通りならば維新の退潮はないはずだ。

一つの現実を示しておけば維新は比例の近畿ブロックであっても2021年に獲得した約318万票、10議席獲得から、約207万票、7議席と大きく減らしている。強いはずの関西であっても100万票以上も票を逃したのは大敗としか言いようがない。

選挙結果を受けた大阪府知事の吉村洋文氏も「大阪以外は完敗の状態。非常に厳しい結果。立憲や国民は躍進する中、維新は野党の中では一人負け。与党が過半数割れ選挙の中で議席を減らして、厳しい結果だと思う」と語っているが、妥当なところだろう。

在阪メディアの報道は関西全域に及ぶ。維新が推した兵庫県知事をめぐる問題があったにせよ、もし効果があったのならば21年以降も2022年参院選、新型コロナ、万博と維新の露出はあっただけに大きく伸長しているはずだ。

とかく維新をめぐる話題は人々を熱狂させやすい。維新の議席を左右してきたのは見えにくいボリュームゾーンの存在だ。彼らの声は維新への賛否渦巻くSNS上でも現れることはなく、しかし議席を左右する。それは一体なにか。

■有権者からは「中道政党」だと見られていた

私が取材を重ねた維新の分析レポート(11月18日発売『「嫌われ者」の正体』所収)に一部重なるのだが、その取材結果から問いの答えが見えてくる。

石戸 諭『「嫌われ者」の正体』(新潮新書)
石戸 諭『「嫌われ者」の正体』(新潮新書)

2年前の参院選で政治学者、秦正樹(政治心理学)に取材をした。彼の実証分析によれば、大阪に限らない全国規模の維新支持層や評価を分析するとそこに明確な特徴を大きく2つ観察することができる。1つ目は維新という政党がどう見られているかだ。秦らの研究グループは有権者への調査でこんな質問をした。

主要政党のイデオロギーについて、0を最も左派、10を最も右派、真ん中を5としたとき、主要政党と回答者自身をどこに位置付けるか。最も右派と評価されたのは自民、左派は共産と社民、立憲も左派寄りと見られていたが維新は中道に位置し、有権者の立ち位置ともっとも近かった。

実は有権者の意識と最も近い政党が維新と見なされていることがここからわかる。また有権者が野党に望んでいるのも、政権に対して原則対抗ではなく、是々非々の姿勢で臨むというものだった。

こうした調査について、維新に批判的な層はこう考えるはずだ。維新はともすれば安保政策で自民より右派的、維新など中道とも言えないのではないか。だが政治家の発言と、有権者の評価は往々にしてずれる。調査から分かるのは、維新の支持層は外交政策を重視していないということだ。外交政策を重視する人は自民に投票している。維新への期待は政治改革や財政再建に集まっており、外交や、維新が強調してきた教育改革もあまり顧みられていない。外交への期待度が低いのは立憲も同様である。

■自民はより右に、野党はより左にポジションを移した

もう1つの特徴は、政権担当能力への評価だ。

国政選挙の前後で秦らが調査したところ、2021年衆院選の結果になるが、60%前後の有権者が自民に政権担当能力があると評価していた。これは与党としては当然である。維新への評価は選挙前の25.6%から選挙後は33%まで跳ね上がった。

これは立憲を大きく引き離し、野党で最も高い結果になった。大阪で与党として選挙での支持を調達しながら自治体のトップ、議会で多数派を形成して運営してきたことがプラスに出た可能性がある。

総じて言えるのは維新の支持は中道への支持でもあるということだ。自民は安倍政権以降、議員レベルでは右派が増え、右にポジションを取るようになった。逆に立憲は共産と組んだことで有権者から左派と見られるようになった。立憲の政策への評価は決して悪くはないが、旧民主党の顔とも言える政治家たちが出てくることに対しては有権者の拒否反応があり、さらに無党派層の野党共闘路線への支持は薄い。

自由民主党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

秦がいみじくも語っていたが「主要政党が真ん中から離れたため、維新は相対的に有権者一般の感覚と近い政党となり、かつ政権に対して是々非々の立場で票を伸ばしやすい状況になった」だけだ。

■「維新=ポピュリズム」という理解は間違っている

もう一つ、政治学の知見を参照にしておこう。大阪の有権者の政治心理を分析した『維新支持の分析 ポピュリズムか、有権者の合理性か』(有斐閣)の著者である関西学院大教授・善教(ぜんきょう)将大によれば、維新が大阪で与党になった理由を「ポピュリズム政治の帰結」とみなす主張には、実証的な根拠がほとんどない。

橋下がポピュリスト的な手法を使い、それに倣(なら)うかのように維新の政治家が同じような方法を使うことはあるが、それだけで支持を得られるならば、都構想は容易に実現できた。だが、実証的な視点から見れば橋下の支持率は彼がメディアをひんぱんに賑わせたわりには、さほど高くはなかった。端的に言えば、政治家のメディア露出と支持率はまったく連動しない。

逆に実証的なデータから見えるのは、以下のような実態だ。これだけ長く大阪の与党でありながら、維新を強く支持する層は全体のわずか5%~10%程度に収まり、逆に強い不支持層は30%前後存在している。残りの約6割には「ゆるい支持層」と、ほぼ同じ割合の「維新を拒否はしないが支持もしない層」が入り交じっている。この6割のゆるい支持、ゆるい不支持は、時々の状況で入れ替わる。

要するに維新支持層は決して強固ではなく、むしろ岩盤とも言える反対層を抱えている。メディアの影響によって強い支持者が作り出されているわけでもないということだ。

■「大阪のための政治」が支持されている

では、なぜ議会や首長選で勝利を収めてきたのか。それは維新が府市の一体性を強調することで「大阪」という都市の利益を代表する政党とみなされてきたからだ、というのが善教の分析から導き出せる視座である。

大阪の歴史を振り返ってみよう。自民党をみると、同じ政党でありながら、大阪府議団と大阪市議団では、まったく別の政党のように振る舞うことが多々あった。かつて代表を務めた松井一郎、参院議員の浅田圴といった維新のオリジナルメンバーは2010年前後、自民党の大阪府議団反主流派だったことはよく知られている事実だ。

彼らが反発したのは、重大な政策でも府市の利害調整がないと進まないということにあった。府と政令市で協調が必要な場面でも、別々の利害に基づく意思決定が繰り返されてきた。それを「地方自治」の一つの在り方として許容するか、「大阪という都市の利益」を損なう政党の行動と見なすか。それはまさに見方による。

夜の大阪・道頓堀
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

大阪の自民や反維新を掲げる勢力は前者を選択し、維新は後者に重きを置いた。そして有権者は両者を比較した上で「大阪の利益代表」として、府市一体を主張する維新を今のところ支持しているようだが、決して無条件に賛同しているわけではない。

二度にわたって住民投票までこぎつけた大阪都構想が否決され、直近では箕面市長選でも現職2期目という現職が圧倒的優位な選挙であっても落とした。説得的ではないのなら、大阪の有権者は容易に維新にNOを突きつける証左だ。

■裏金問題で「革新」イメージを示せなかった

これらの知見から見えてくることは明確である。維新が大阪で強いのは大阪という都市の利害を代表する政党だとみなされているからであり、これまでの伸長は中道をとってきたことにあった。

だが、今回は石破茂率いる自民も、野田佳彦率いる立憲も従来よりも中道にポジションを取り、維新以上に現役世代をターゲットにした国民民主が伸長した結果、緩い支持基盤が動いた。結果、せいぜい残ったのは大阪の利益代表というポジションだけになった。その大阪の利益代表というポジションも他党の出方次第で変わっていく可能性がある。

今の維新は過度の恐れる存在でもなければ、過大な評価も不要な大阪を拠点とする一政党にすぎない。

加えて言えば、これは今回の衆院選後に秦も指摘していたが馬場伸幸代表のガバナンスは大きな問題だ。そもそも党首としての存在感を示すこともできず、「改革」を旗印にする維新にあって、自民と政治資金規正法で安易な妥協から混乱を招いたことは大きな過失になっている。

曇天の国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■“モテ期”どころか票離れのリスクすらある

「これからしばらくモテ期がやってくる」――。馬場代表は衆院選直後、ニコニコ動画の選挙特番でそう語った。私と一緒に特番に出演した政治ジャーナリスト、尾中香尚里がすでに言及しているので繰り返さないが、維新のトップに現実は見えていないのだと思わせるに十分な一言だった。

トップを刷新した上で、ガバナンスを取り戻すことができれば全国で議席を獲得する政党への可能性は残るが、交代に失敗すればしばらくは大阪の地域政党+αしか見込めない。それはモテ期どころか、さらなる票離れがやってくることを意味する。

代表の交代があるか否かが他党以上に大きな意味を持つ。これだけは間違いない。

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石戸 諭(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター
1984年、東京都生まれ。立命館大学卒業後、毎日新聞社に入社。2016年、BuzzFeed Japanに移籍。2018年に独立し、フリーランスのノンフィクションライターとして雑誌・ウェブ媒体に寄稿。2020年、「ニューズウィーク日本版」の特集「百田尚樹現象」にて第26回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した。2021年、「『自粛警察』の正体」(「文藝春秋」)で、第1回PEP ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)『ニュースの未来』(光文社)『視えない線を歩く』(講談社)がある。

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(記者/ノンフィクションライター 石戸 諭)

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