なぜトランプは共和党を乗っ取れたのか…「陰謀論を撒き散らす大統領候補」にアメリカ国民が熱狂する理由
プレジデントオンライン / 2024年11月4日 7時15分
2024年10月30日、ウィスコンシン州グリーンベイのグリーンベイ・オースチン・ストローベル国際空港で、ゴミ収集車の中から記者会見する共和党大統領候補ドナルド・トランプ前大統領 - 写真=AFP/時事通信フォト
■トランプを支えるQアノン信者の正体
アメリカでは、大接戦が予想される11月5日の大統領選を前に、陰謀論が後を絶たない。そして、陰謀論と切っても切り離せないのが、トランプ前大統領とQアノンだ。トランプ氏が負けた場合、Qアノン信者らを含むトランプ支持者による連邦議会襲撃事件が再び起こるのではないか――。そう案ずる声も日増しに大きくなっている。
ロサンゼルス在住若手ジャーナリストで陰謀論の専門家でもあるマイク・ロスチャイルド氏は、著書『陰謀論はなぜ生まれるのか Qアノンとソーシャルメディア』(烏谷昌幸・昇亜美子/訳、慶應義塾大学出版会)の中で、トランプ政権時代に匿名掲示板への投稿を皮切りに急成長したQアノンを次のように定義している。
Qアノンの世界観を一部でも受け入れている人々は、今や世界で数百万人を超えるという。そして、「Qアノン以上にトランプ政権時代の狂気を物語る陰謀論は存在しない」(同上)。
マイク・ロスチャイルド氏はユダヤ系だが、同氏によれば、「Qアノンには根深い反ユダヤ主義がみられる」(第4章)。彼は著名な銀行家のロスチャイルド一家とは無関係だが、ロスチャイルド一家は、Qアノンの世界では「極悪人」(同)として描かれるという。
陰謀論者とは? Qアノンとは? トランプ前大統領と陰謀論の関係とは? 陰謀論におけるユダヤ系の存在とはどのようなものか? ロスチャイルド氏に話を聞いた。
■そもそも「陰謀」「陰謀論」とは何か
――そもそも、陰謀論者とはどのような人々なのでしょうか。
まず、陰謀論とは何かを知ることが非常に重要だ。陰謀論と実際の「陰謀」とは違う。陰謀とは、複数の個人が協力して、ひそかに何かを行い、それが公になることだ。例えば、複数のたばこ会社が、たばこの有害な影響を隠蔽すべく共謀したり、大手航空会社の幹部らが組立ラインの問題を隠蔽すべく共謀したり、といった具合だ。つまり、「陰謀」とは現実に起こったことを意味する。
一方、陰謀論とは、陰謀や策略を「理論化」したものだ。通常、実際には存在しないか、正しく解釈されていない証拠に基づいている。「ケネディ大統領の暗殺は複数の人物や機関による共謀だ」という説のように、最も人気のある陰謀論の数々はまったく証明されておらず、「理論」の域を出ない。
何かの事件が公になると、多くの場合、「まず、陰謀論ありきで、陰謀論が現実になった」と考える人がいる。例えば、アメリカの中央情報局(CIA)が行ったとされるマインドコントロール実験「MKウルトラ」(注)が好例だ。
(注)1950年代~60年代に、CIAが軍人や精神疾患患者などを被験者に薬物を投与したりや電気ショックを与えたりして洗脳しようとした人体実験。
人々は「ほら、陰謀論が現実のものとなった」と言うが、そうではない。同件は機密扱いだったため、それが明るみに出るまで誰も知らなかったのだから。陰謀論とは、そういうものだ。
■Qアノンはもれなく陰謀論者だった
――Qアノン信者と陰謀論者は同一ですか。
Qアノン信者は陰謀論を「リアル」だとみなす人々のことだ。つまり、本当のことだと考えている。彼らのほとんどは、Qアノン以外の陰謀論からQアノンにたどり着いた。
Qアノン信者の共通点は何か、特定の層から成っているのか、主に保守的な人々なのか、男性が大勢を占めているのか、といった質問をよく受ける。保守派が多いのは確かだが、全員がアメリカの中西部に住んでいるわけではなく、大都市居住者も多い。
それでは、Qアノン信者の共通項は何か? (信者になる前から)すでに陰謀論者だったという点だ。
■「陰謀論者」はあなたのすぐ近くにもいる
――Qアノンは、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件後も活発なムーブメント(運動)を続けているのでしょうか。
(コミュニティとしての)動き自体はもうあまり活発ではないとも言えるが、Qアノンというムーブメントは今も陰謀論の主流を占めている。彼らは、政府の指導者やメディア、企業が結託して自分たちを抑圧し、トランプ前大統領の収監を目論んでいる、といったことを唱えている。そうした説の多くはQアノン以前からあったが、Qアノンが陰謀論をメジャーにしたことで、人気が出た。
そして今や、Qアノン風の考え方は現代保守政治の根幹を成していると言ってもいい。たとえ、そうした考え方を拡散している人々がQアノンについて何も知らなかったとしても、だ。
――アメリカ人の半数が何らかの陰謀論を信じているそうですね。
そうだ。今や誰もが、コロナ禍をめぐる陰謀論にハマった人を1人くらい知っているだろう。パンデミック(世界的大流行)は人為的に引き起こされたものであり、新型コロナウイルスのワクチンは私たちを殺すようにできている、といった陰謀論だ。
「ディープステート(影の国家)」という謎の巨大権力組織がトランプ前大統領の復権を阻もうとしている、という説もある。こうした陰謀論にのめり込んでいる人々が誰の周りにも何人かいるのではないか。
■トランプが利用した支持者の「本能」
――Qアノン信者らは「沈黙し、嫌われ、忘れられていた多数派」であるがゆえに、自分たちを代弁し、自分たちの手に権力を取り戻してくれると信じるトランプ氏を「英雄と仰いだ」と書いていますね(第3章)。そして、Qアノン信者と共和党主流派は「切っても切れない関係」になったと。
トランプ前大統領は、いろいろな意味で、保守主義のあり方を逆転させたと言える。保守主義は、「国民への不干渉や小さな政府、個人が自分で問題を解決する」という主張が特徴的だった。だが、トランプ氏は「すべてを解決できるのは自分だけだ」とアピールし、2016年に大統領の座をつかんだ。こうした考え方は「救世主」を彷彿させる。これはまさに、1980年代から90年代にかけて保守派が反対していた概念だ。
しかし、保守派の多くは、トランプ氏が資金や支持者を呼び込める存在であることに気づいた。彼こそが共和党に権力をもたらすことができる人物だ、と。トランプ氏が共和党を掌握するようになったのは、そのためだ。今や共和党員が政界で活躍するには、トランプ氏や彼の支持者らの恩寵を受けなければならない。
彼が今回も敗北を喫すればトランプ熱は収まり、支持者離れが起こるだろうが、勝てば、まったく別の展開になる。
いずれにせよ、目下のところ、彼は共和党を完全に牛耳っている。トランプ氏は支持者らの「本能」を利用し、党を掌握した。つまり、支持者らが口に出すのをためらっていた、非常に人種差別的な言葉や奇妙なことを自ら率先して言うことで、「最悪の自分をさらけ出してもいいのだ」という許可を人々に与えたのだ。
■極左と極右の類似点を利用して団結力を高める
――「典型的なQの支持者は、白人の保守的なアメリカ人」だそうですね(第6章)。自分たちを「リベラルなエリートに迫害された」存在だと考えており、トランプ氏を「英雄視」してきたと。
おそらく今でも、そうした層が最も主要なQアノン信者だろう。もちろん、数字の裏付けはないが、大半がアメリカの地方に住む保守的な人々で、所得が高い層ではないと思われる。とはいえ、そうしたカテゴリーに当てはまらないQアノン信者も多い。保守的ですらなく、非常に進歩的な思想の持主もいる。彼らの多くと話したが、サンダース上院議員(バーモント州選出、無所属)の熱烈な支持者だった。
彼らは、2016年大統領選・民主党指名候補争いでヒラリー・クリントン氏がどのようにしてサンダース氏を打ちのめしたのか、持論を展開してくれた。「クリントン氏は邪悪な存在だ。何か悪いことが起こってほしい」と。Qアノン信者は必ずしもトランプ派ではないかもしれないが、多くのトランプ派と同様にクリントン氏の失脚を望んでいる。
つまり、Qアノンのようなグループは、「極左と極右の類似点」を見いだして利用し、グループの団結力を高める。
■「トランプ敗北」なら暴力は繰り返される
――仮にトランプ氏が負けた場合、連邦議会襲撃の再来など、新たな暴力的事件が起こるのでしょうか。
2021年とまったく同じ事件が繰り返されるとは思わない。タイミングをはじめ、そっくりそのまま再現されるとは考えにくい。だが、何かしら起こる可能性は高い。支持者らはネット上で計画を公表し、準備を進めるため、事前に察知することができる。
当時は電報やツイッター(現X)、チャットを使って計画が進められた。支持者らが連邦議会を目指して集結することは1カ月前からわかっていたのだ。当時、ワシントンD.C.の市長は、予測される抗議集会への警告を発していたが、連邦議会議事堂警察では真剣に受け止めない人が多かった。ネット民の話にすぎないと考え、重要ではないとみなしたからだ。
今回も、暴力や騒乱行為の可能性は間違いなくあると思う。
――大統領選で最大のリスクは何だと思いますか。
最大のリスクは(議会襲撃事件のような)暴動ではなく、組織的で暴力的な事柄がソーシャルメディア上で進み、拡散されることかもしれない。もちろん、フェイクニュースやデマも含めてだ。自分たちの主張を正当化すべく偽情報を流すことには甚大なリスクが伴う。
■「ユダヤ系が世界を仕切ってきた」という偏見
――Qアノン信者らは、自分たちのことを党派も人種的偏見もない、「肌の色の違いを超えた愛国主義」の信奉者だと考えているが、実際には「根深い反ユダヤ主義」がみられると書いていますね(第4章)。陰謀論にも反ユダヤ主義が影を落としているのでしょうか。
反ユダヤ主義は陰謀論に大きな役割を果たしている。『陰謀論はなぜ生まれるのか』の次に書いた最新刊『Jewish Space Lasers: The Rothschilds and 200 Years of Conspiracy Theories』(未邦訳、仮題『ユダヤ人の宇宙レーザー ロスチャイルド家と200年にわたる陰謀論』の中で、陰謀論カルチャーにおける反ユダヤ主義の甚大な役割について書いた。
数々の陰謀論をたどっていくと、ほぼすべてがユダヤ人の陰謀団やユダヤ人の金融業者、ユダヤ人の中央銀行、ユダヤ人の権力といった考えに行き着く。どれもこれも、ひと握りのユダヤ人が世界を動かしているという考えに由来している。陰謀論を信じることは、(ユダヤ人に関する)上記のような概念に抵抗することと同じだ。陰謀論の根っこにあるのは、そうした姿勢だ。
私は銀行家のロスチャイルド家とは無関係だ。しかし、ロスチャイルド家がなぜ、これほど頻繁に陰謀論に登場するのか、疑問に思っていた。そこで背景を探っていくと、ユダヤ人が何世紀にもわたって世界を仕切ってきたという考えに行き着き、なかでも、最も有名なユダヤ系の一家がロスチャイルド家だったというわけだ。前述の最新刊『Jewish Space Lasers』では、そうしたことについても書いている。
(後編へ続く)
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ニューヨーク在住ジャーナリスト
東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、単身渡米。米メディア系企業などに勤務後、独立。米経済や大統領選を取材。ジョセフ・E・スティグリッ ツなどのノーベル賞受賞経済学者、ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェル、マイケル・ルイス、元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ジョン・ボルトン、ビリオネアIT起業家のトーマス・M・シーベル、「破壊的イノベーション」のクレイトン・M・クリステンセン、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長など、欧米識者への取材多数。元『ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』コラムニスト。プレジデントオンライン、月刊誌『フォーブスジャパン』、ダイヤモンド・オンライン、東洋経済オンラインなど、経済系媒体を中心に取材・執筆。『ニューズウィーク日本版』オンラインコラムニスト。
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(ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田 美佐子)
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