「長寿の国」なのに幸福度はダントツの世界51位…消化試合のように人生を生きる「不幸な日本人」が失ったもの
プレジデントオンライン / 2024年11月13日 17時15分
※本稿は、石村友見『Life is Wellness 「健康な生き方」の科学』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■アメリカは23位、イタリアは41位、日本は…
「世界幸福度ランキング」において、フィンランドは2018年~2024年の7年連続1位に輝いた。このランキングの幸福度の評価は、各国・地域の人びとに、
「自分にとって最高の人生を10」
「自分にとって最悪の人生を0」
として、0から10までの11段階で自分の人生を評価してもらった結果だ。言い換えると、「どれだけ自分の人生に満足しているか」の指標になるものだ。
気になる日本の2024年のランキングは51位。前年から4ランク下がっている。ちなみに先進国で見ていくと、イギリスが20位、アメリカが23位、ドイツが24位、フランスが27位、イタリアが41位となっており、日本がいかに低いランクかわかる。
「人生に満足しているかどうか」は、その国の政治、文化、教育、GDPなど様々な要因が関係しているが、私は「つながりの少なさ」が日本人の幸福度を下げている大きな原因だと考えている。
以前、OECD(経済協力開発機構)が「社会的孤立」に関する国際調査をしたことがある。それによると家族以外の友人や知人との交流が「まったくない」、または「ほとんどない」と答えた日本人は15.3%に達している。これはOECDの加盟国で最も高い数字だった。日本人は「孤独」なのだ。
■孤独で死亡率が2倍になる
人の寿命を何が決定するかは様々な因子があるが、なかでも「つながり」が大きな要因だという説がある。その説を世界的に有名にしたのが、ハーバード大学のリサ・バークマン博士とレオナード・サイム博士が行った「アラメダ研究」だ。
1965年、カリフォルニア州アラメダ郡で、30歳から69歳までの男女6928人を対象に行われたこの研究では、結婚の有無、親族や友人との付き合い、宗教活動、ボランティア活動などの有無をヒアリングし、9年後に追跡調査を行った。
その結果、社会的に「孤立」している人は、そうでない人に比べて男性で2.3倍、女性で2.8倍も死亡リスクが高いことがわかった。
また、のちにバークマン博士は、「お見舞いに来てくれる人の数」で死亡率が変わるという研究も行った。急性心筋梗塞の患者を対象に、お見舞いに来てくれる人の数と6カ月以内の死亡率の関係を調べたところ、お見舞いに来てくれる人が2人以上いる患者は死亡率が26%だったのに対して、誰もお見舞いに来てくれない患者はなんと約70%が亡くなったのだ。
これは病院の医師や看護師の間では周知の事実だが、もちろんそれが患者に告げられることはない。
■頼れる同僚がいないことのリスク
ここで、もうひとつ研究データをご紹介しておこう。
テルアビブ大学のアリ・シローム教授が率いた研究は、長期にわたる追跡調査によって、職場環境と死亡率の関係について明らかにした。
研究チームは1988年に成人820名に対して標準的な健康診断を行い、その後20年にわたって彼らを追跡調査した。この間、被験者たちに対して「職場の状況」について聞き取り調査を実施。あなたに対する上司の態度はどうか? 同僚たちは友好的か? といった内容だった。
同時に、血圧や禁煙習慣、抑うつ状態の有無など、健康状態についても詳しくチェックした。
その結果、上司の友好度と死亡率にはほとんど影響がなかった。一方、同僚との友好度が低い被験者ほど高い死亡率を示すことが明らかになった。職場で「仲間からの社会的サポート」をまったく受けていない、またはほとんど受けていないと感じていた人は、受けていると感じた人に比べてなんと2.4倍も死亡率が高かったのだ。
仕事をしている人なら、誰でもなんらかのストレスを抱えるものだ。そんなときに「仲間」からのサポートを得られているか、得られていないかはとても重要になる。同僚たちから支援されていると感じた人たちは、「つながり」による力強さと安心を得られ、それが寿命にも影響したということだろう。
■100歳地域「ブルーゾーン」の秘密
世界中の研究者が「つながり」と「長寿」の関係について調べてきて、両者は密接に関係しているという報告が多数ある。
さらに、「つながり」は長寿をもたらすだけではない。
そこには「生きがい」が生まれるのだ。
イタリアのサルデーニャ島、日本の沖縄、アメリカ・カリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカのニコジャ半島、ギリシャのイカリア島。この5地域は100歳以上の長寿者が多く、「ブルーゾーン」と呼ばれている。
ブルーゾーンという言葉は、ベルギーの人口学者ミシェル・プーランとイタリア人医師ジャンニ・ペスが、長寿者の多い地域に「青色マーカー」で印をつけたことに由来する。
ブルーゾーンの5地域を見ていくと共通するのは、植物性の食事を中心にしていること、日常の中に立ったり、座ったり、登ったりといった運動が習慣になっていることなどが挙げられるが、そこに「つながり」という重要なファクターが見てとれた。
■200年以上続く「模合」の文化とは
沖縄の例を見てみる。
沖縄県は、世界屈指の長寿地域として知られており、100歳以上の長命高齢者が多数暮らしている。以前、アメリカのニュース誌『TIME』で、「100歳まで健康で長生きしたければ沖縄のライフスタイルに学べ!」という特集が組まれたほどだ。
沖縄には「模合(もあい)」という文化がある。これは複数の個人がグループを組織して、毎月集まって一定のお金を出し合い、必要な人から順に集まったお金を使っていくという助け合いのシステム。遡(さかのぼ)れば200年前の琉球王国時代から伝わる、「人と人とのつながり」の文化だ。
私の知人の80代の女性も模合に参加している。夫を数年前に亡くして以来、ひとり暮らしをしているが、模合のメンバーがしょっちゅう自宅に様子を見にきたり、遊びにきたりしてくれるので寂しくないという。
彼女は数年前に心筋梗塞で入院したとき、模合で集められたお金を入院費に充てている。素晴らしいのは、彼女にそのお金を使う罪悪感がないことであり、参加メンバーたちも当然だと思っていることだ。
困ったときに助け合うのが、当たり前なのだ。
■積み立て以上に大切なのは「会う」こと
彼女はいつも笑っているし、模合のメンバーのことを必要としているし、自分が必要とされていることも知っている。その模合に参加している60代の女性は、まだ小さな孫の面倒を、彼女に見てもらったりしている。
模合で積み立てられたお金は、病気のときにだけ使われるわけではない。たとえば学校の同級生たちが作った模合では、メンバーの子供が入学式を迎えるときに制服代として使われることもある。その際、子供が成長していく様子をお互いに報告したり、悩みがあれば相談したりもする。
沖縄の人たちにとって当たり前のこの文化が「つながり」を生み、維持され、そこに付き合いと生きがいが醸成されていく。
じつは日本の他の地域にも「たのもし講」などと呼ばれるお金を出し合う文化があったが、第二次大戦後に急速に減少していった。それらと沖縄の模合の決定的な違いは、単にお金を積み立てるのか、皆が集まって「親睦」を行うかだ。
親睦を定期的に行っている沖縄の模合は今もしっかり文化として根付き、お金を集めることに重きを置いていた他地域のシステムは銀行に取って代わられた。
大切なのは「会う」ということだったのだ。
■「つながり」は寿命さえも左右する
模合の素晴らしいところは、性別や世代を超えて様々な人たちが集まってくるところ。そして、その文化を継承しながら、コミュニティの中で生きがいを見つけて、人生を潤していることだ。
ブルーゾーンには、社会的つながりが根付いている。沖縄の人たちに模合があるように、イタリアのサルデーニャの人たちは、地元のバーで友達と語り合って1日を終えるし、毎年行うブドウの収穫や村祭りにはコミュニティの人々がこぞって参加する。人々は毎年それを楽しみに待つし、そのイベントを自分たちが作っているという思いもあるだろう。
人は「誰かに必要とされている」と感じたときに心の鐘を鳴らす。喜びと使命感を覚え、それによって自分が救われていくのだ。家族、学校、会社、地域、社会、国――あらゆるシーンで「つながり」の有無が個人に大きな影響を与え、それは寿命さえも左右するということだ。
拙著の第6章の冒頭で、病気を意味する「Illness」の先頭の文字は「I」――私、「Wellness」の先頭の文字は「We」――私たちだと書いた。
人は「I」だけでは孤独だ。
「We」になってはじめてウェルネスを感じ、幸福になれるのだ。
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Life is Wellness代表/ヨガ講師
ハーバード大学医学部「Health and Wellness講義」講義修了。劇団四季で『ライオンキング』に出演後、単身ニューヨークに渡り、ブロードウェイ・ミュージカル『ミス・サイゴン』に出演。その後ヨガスタジオを設立し、レッスンからヨガ講師の育成まで尽力。2018年に発表した著書『ゼロトレ』はシリーズ120万部の記録的ヒットとなり、『金スマ』『世界一受けたい授業』など多くのテレビ番組に出演。その後、ハーバード大学医学部「Health and Wellness」講義にて、ウェルネスの観点から世界最先端の栄養学をはじめ運動、コミュニケーションについて学ぶ。企業研修や企業とのコラボ、商品開発プロデュースなど多数。現在は、ニューヨークと東京を行き来する生活。1児の母。
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(Life is Wellness代表/ヨガ講師 石村 友見)
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