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もはや「ただのおもちゃ」ではない…闇バイトの実行犯が「ポケモンカード強盗」に駆り出される本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年11月18日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bloodlinewolf

ポケモンカードなどのトレーディングカードが強盗の標的になるケースがある。フリーライターの奥窪優木さんは「転売目的での買い占めだけでなく、最近では闇バイト強盗の標的になった。ポケモンカードは玩具の枠を超えて、貨幣に近い存在になってしまった」という――。

※本稿は、奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■金属探知機で仕分けし、0.001グラム単位で重さを記録

合計1200パック(6000枚)を2人がかりで仕分けし終えたのは、作業開始から1時間半後のことだった。若干のばらつきはあるが、金属探知機が反応したパックと、しなかったパックが1ボックスにつき、およそ半々という配分になった。若い男は反応しなかった方のパックの山を乱雑に元の箱の中にまとめると、次の作業に入る。

取り出したのはデジタルスケールだった。彼らは金属探知機が反応したパックを一袋ずつ乗せ、0.001グラム単位までその重さを記録していくのだ。

「金属探知機によるサーチは簡単ですが、わかることは“そのパックの中にレアカードが入っているか否か”だけ。これからの作業は、レアカードが入っていることがわかったパックを、さらにSR(スーパーレア)以上のカードが封入されているかどうか、可能性の高さごとにグループに分けていく」(転売集団のリーダー格・オガサワラ氏)

■未開封のままレアカード入りのパックを見分ける方法

オガサワラ氏によれば、R(レア)以上のランクのレアカードにはアルミコーティングが施されているぶん、非レアカードと比べて重くなる。さらに、ランクごとに重さも違うそうだ。逆に言えば、シリーズ内で同じランクのレアカードの重さは大体一緒。それぞれの実際の重量を彼らは把握しているのだという。

「つまり、パックの重さを測ることで、中のカードの組み合わせをおおむね推測することができるんです。仮にパックの中にレアカードが1枚だけ入っている場合は、その重さでどのランクのカードが入っているかはかなりの確率で判別できる。我々が狙うのは、転売市場で取引対象になるSR以上のランクのカードのみ。この方法でSR以上が入っていると見込まれるパックが、Aグループ。もちろん、レアカードが2枚入っていて、そのうち1枚がSR以上ということもありえるので、一筋縄には行かないけど、SR以上のカードが含まれるパックに他にもレアカードが入っていることは稀。だから重すぎるパックは、SR未満が複数枚入っている可能性が高いので、Cグループ。このどちらでもないのがBグループ」(オガサワラ氏)

■最後の工程は「企業秘密」

仰々しいようにも見えるマスクと医療用手袋をつけての作業は、汚れがついてパックの重さが変わることを防ぐためだったのだ。

金属探知機の工程を飛ばしてはじめから重量を測り、軽すぎるものに関しては「レアカード封入なし」に仕分けすればいいようにも思える。しかし、オガサワラ氏はこう話す。

「カードやパックのフィルムのわずかな裁断ムラで、レアカードが入っているのに重量が軽くなる場合もある。そうしたパックの取りこぼしを防ぐためにはまずは金属探知機を使うようにしている」

重量の計測によって、パックをさらに3つのグループに分けると、残る工程はあとひとつだ。

それは時間と手間がかかるものの、パック内のカードのランクだけではなく、具体的な種類までを判別することができる方法だという。

「特別な装置は使わないが、作業をする人のノウハウと経験にかかっている」

オガサワラ氏は、それ以上の具体的な方法については「企業秘密」として、口を閉ざした。

■入手したレアカードはメルカリで現金化

「Aグループから順番にサーチし、SR以上のランクのカードが出たら、そこでそのボックスのパックについては作業終了。まれにSR以上のカードが複数枚入っているボックスがあるけど、作業効率の面からその可能性については無視することにしている。

逆にSR以上のカードが入っている可能性が低いCグループまで全部サーチしてもSR以上が見つからなければ、第一弾のサーチで『レアカード封入なし』とみなしたパックを洗い直す。稀にレアカードが入っていても金属探知機が反応していない場合があるから。ただ、やはりまれにSR以上の封入がないボックスもあるのである程度のところで諦めるようにしている」

こうして入手したレアカードは、主にメルカリで現金化しているという。

「これまで3000ボックス以上を開封してきたが、何十万という値がつくようなカードにはお目にかかったことはない。最高のものでもせいぜい7、8万円くらい。数カ月から1年ほど寝かしてから売れば、価値が3~4倍になったカードもあったが、逆に無価値になるカードもある。どのカードが値上がりするかは誰にもわからないので、我々はできるだけ早く売却している。ただ、1つのボックスからは、平均して6000円から7000円ほどの値がつくカードが出てくる。1ボックスの仕入れ値は3000円前後で、サーチ済みのパックを売却すると2000円ほどは返ってくる。ということは、1ボックスにつき平均5000円は利益が出る計算になる」(オガサワラ氏)

ポケモンカード転売は、意外にも手堅い実入りがあるようだ。

■ポケモンカードで「マネーロンダリング」

一方で、前述のような数百万を超える価格で取引されるような超高額カードも、確かに存在している。そうした一部のポケモンカードの高額化の背景に「裏社会の需要」を指摘する声もある。

「振り込め詐欺をやってる連中は、蓄えたカネでせっせとポケモンカードを買い漁っているよ」

某指定暴力団の二次団体元幹部から、そんな話を聞いた。

「どう入手したか説明のできないカネは銀行に預けるわけにもいかず、タンス預金するしかなかった。しかし数千万単位になると、現金もなかなか邪魔になる。同業者や半グレからタタキ(強盗)に入られるリスクもあるし。でも100万円のポケモンカード数十枚に変えてしまえば、コンパクトに隠せるだろ」(元幹部)

さらに、ポケモンカードを利用したマネーロンダリングも横行しているようだ。

「たとえば犯罪収益で100万円の価値があるレアカードをコレクターなどから相対取引(売り手と買い手が直接価格などを決める取引のこと)で買う。そしてそれをしばらくして同額で転売する。もともと100万円で買ったという事実を伏せたうえで、『偶然引き当てたレアカードの価値が上昇しそれを売却した』と見せかければ、合法的な資金とすることができる。実際には、さらに複雑な取引を繰り返すことで、当局による追跡は不可能になる」(同)

犯罪資金の海外への持ち出しも、ポケモンカードを媒介することで容易になるという。

「以前は、現金を美術品や骨董品、仮想通貨などに変えて国境を超える方法が取られていたが、最近はどれも国際的に対策されている。数千万円くらいまでの資金であれば、ポケモンカードに変えて現地で現金化するのが一番手っ取り早い」(同)

マネー・ロンダリングのイメージ
写真=iStock.com/AlexSava
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexSava

■犯罪集団がポケモンカードに目を付けるワケ

事実、海外では、犯罪組織の拠点からポケモンカードが押収されるケースが頻発している。

2023年6月23日付けの英紙『デイリー・ミラー』によると、違法薬物の売人として逮捕された男女が住むイングランドのノッティンガム近郊の民家から、大量のポケモンカードが見つかった。その総額は1万ポンド(約183万円)にも達していると見られており、警察は犯罪収益によって取得された疑いがあるとして、それらを押収したという。

また、カナダのオンラインメディア「グローバルニュース」によると、同国アルバータ州のエドモントン警察は、2023年4月、2軒の家宅捜索で末端価格にして40万カナダドル以上の違法薬物と、総額3万4000カナダドル(約370万円)にものぼるポケモンカードをはじめとする6万枚近いトレーディングカードを発見したという。

■ポケモンカードはもはや「貨幣」

日本でも、裏社会のポケモンカードへの関心を証明するような事件が起きている。

2022年8月、東京・秋葉原の店舗で、販売総額約1300万円相当のポケモンカード約650枚と現金約480万円が盗まれる事件が発生。これまでに指示役と実行犯あわせて4人の男が逮捕されている。

報道によると指示役の男は2022年8月4日午前3時半頃、実行役3人と共謀し、東京都千代田区のJR秋葉原駅近くのカードショップに侵入。現金約480万円とポケモンカード約650枚(約1300万円相当)を盗んだ疑いだ。

指示役の男はSNSで実行犯を募集しており、いわゆる闇バイト案件だったことも判明している。この指示役の男は区内の別店舗で約2660万円相当のポケモンカードなどが盗まれた事件にも関与したと見られている。

さらに2024年4月にも、埼玉県内の会社事務所からポケモンカード25枚を中心に、計約25万2000円(時価)を盗んだとして住吉会系の暴力団員の男ら2人が警視庁に逮捕されている。

カードを開発・販売している株式会社ポケモンは、2023年6月に新作カードが発売されるタイミングで「転売等の営利を目的とした商品購入を固くお断りしております」と呼びかけるなどしている。しかし、もはやポケモンカードは、ただの玩具の枠を超えて、有価証券あるいは貨幣に近い存在になってしまったのだ。

■「転売ヤー死ね」は転売ヤーにとって魔法の言葉

2024年7月現在、これまで数千万円を超える価格で取引されていた超レアカード24の値下がりが相次いで報告され、ポケモンカードバブル崩壊を指摘する声もある。しかし前出のオガサワラ氏は、そんな懸念を「どこ吹く風」とばかりにこう話す。

奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)
奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)

「超高額カードのなかにはここ1年で大幅に値下がりしたものもある。たしかに半値ほどになったものもあるが、われわれがサーチで狙う数千円~数万円程度の中堅レアカードの相場は堅調。むしろ投機熱が和らいで相場が安定した今の方が、商売はしやすい」

一方で彼は、ポケモンカード以外の玩具の転売にも、新たに手を出しているようだった。

「最近は、ガンプラ(機動戦士ガンダムのプラモデル)やトミカ(タカラトミーが販売するミニカー)なんかも転売しています。月20万程度の儲けにしかならないからスモールビジネスですけどね」

謙遜するようなそぶりを見せながらも、自身のビジネスセンスを鼻にかけたような物言いに、筆者は「へぇ~っ」と大袈裟に感心してみせた。すると、得意になったオガサワラ氏はこう続けた。

「転売市場で今熱い商材を見つける魔法の言葉があるんですよ。『転売ヤー死ね』ってX(旧Twitter)とかで検索すれば、転売ヤーが今何に群がっているかわかる。うちはいちおう玩具卸なので、転売ヤーの購入価格より安く仕入れられる。それを転売市場で売るだけで、いくらかの利鞘は取れます」

愛好家の嘆きから商機を感じ取るというオガサワラ氏。転売ヤーに目をつけられないためには、愚痴を言う事さえ控えたほうがよさそうだ。

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奥窪 優木(おくくぼ・ゆうき)
フリーライター
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。ツイッターアカウントは@coronasagi

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(フリーライター 奥窪 優木)

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