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高市早苗氏でも、小泉進次郎氏でもない…「余命は長くて6カ月」石破政権の次を狙う"自民党のキーマン"

プレジデントオンライン / 2024年11月7日 9時15分

閣議に臨む石破茂首相(中央)ら=2024年10月29日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

衆院選で過半数割れに追い込まれた石破政権は、これからどうなるのか。ジャーナリストの鮫島浩さんは「石破政権のままでは来夏の参院選は戦えず、政権の寿命はあと半年ほどになるだろう。石破氏の次を狙う動きはすでに始まっている」という――。

■反主流派は「動くに動けない」状況

総選挙で惨敗し、自民党内には石破茂首相への怒りが充満している。石破首相が自ら掲げた「自公与党で過半数」を勝敗ラインを割り込みながら、平然と続投を宣言したことが憤怒を増幅させている。

けれどもただちに「石破おろし」の狼煙があがる気配はない。石破首相を忌み嫌う安倍派は裏金議員が大量落選し、党内抗争を仕掛ける力を失った。何よりも自公過半数割れのなかで石破首相に退陣を迫れば、自民党が分裂して政界再編を誘発し野党に転落しかねない。反主流派は動くに動けないのが実情である。

9月の総裁選の決選投票で逆転負けした高市早苗氏は、石破首相から提示された自民党総務会長のポストを固辞し、「党内野党」を宣言した。総選挙公示後は12日間の選挙期間のうち11日を地元・奈良2区を離れて全国を駆け巡った。石破首相や森山裕幹事長ら自民党執行部が非公認とした安倍派5人衆の萩生田光一氏の応援にも駆けつけた。

総選挙後に「石破おろし」を仕掛けて再び総裁選に挑戦するには、9月の総裁選で高市氏を支持した安倍派中心の「同志」がひとりでも多く国会に戻ることが絶対に必要だ。裏金事件で猛烈な逆風を浴びた安倍派の面々にとって、今回の総選挙の心の支えは、高市氏と安倍晋三元首相の昭恵夫人だった。

■20年以上続いた「清和会時代」の終焉

ところが、結果は散々だった。安倍派は候補者50人のうち当選したのは22人だけ。裏金議員46人は18勝28敗だった。高市氏が応援に入った約40人のうち、実に6割が落選したのである。裏金問題に対する世論の批判は痛烈だった。最大派閥だった安倍派(清和会)は壊滅的な打撃を受け、自民党内に20年以上にわたって君臨した「清和会時代」は終焉した。

安倍派の壊滅は、高市氏の支持基盤消失を意味する。高市氏は10月31日にXへの投稿で自民党執行部への恨み節を展開した。自ら「役職もない自民党のヒラ政治家」と名乗り、「12日間の選挙期間のうち、11日間は(自分の)選挙区外で過ごした」のに「党本部からガソリン代や高速道路の通行料金が支給されるわけでもない」と愚痴り、「選挙後も、特に党役員から慰労の御言葉を頂いたわけでもない」と不満を露骨に示したのだ。

読売新聞の世論調査によると、石破内閣支持率は衆院解散前の51%から34%に急落し、自民党内では「来夏の参院選は石破首相では戦えない」との空気が広がっている。

石破首相に今すぐ退陣を迫れば政局が混乱するため、来春の予算成立までは石破政権で少数与党の厳しい国会を耐え、予算成立後に退陣させて緊急総裁選を実施して新しい首相に差し替え、イメージを刷新して参院選を乗り切るという相場観が出来上がりつつある。

■安倍派衰退で遠退いた「高市政権」

けれども、来春に「石破退陣→緊急総裁選」の展開になったとしても、高市氏の勝ち目は薄い。少なくとも9月の総裁選よりも苦戦を強いられる状況なのだ。

2024年7月10日、G7サミットでの高市早苗氏
2024年7月10日、G7サミットでの高市早苗氏(写真=Department for Science, Innovation and Technology/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

9月の総裁選は岸田文雄前首相の任期満了に伴うもので、党員票と国会議員票が半々だった。高市氏は無派閥で党内基盤が極めて弱く、推薦人20人を確保するのも苦労し、一時は泡沫扱いされた。

ところが、党員投票で躍進するとの見方がマスコミ調査で広がり、小泉進次郎氏、石破氏と並ぶ三つ巴の戦いに。菅義偉元首相に近い小泉氏や石破氏を警戒する麻生太郎氏が土壇場で高市氏に乗り、決戦投票へ進出したのだった。

だが、緊急総裁選は高市氏を押し上げた党員投票が行われず、国会議員投票だけで決する。ただでさえ、高市氏には不利だ。しかも、高市氏を支持した安倍派の多くが落選し、国会議員票が目減りするのは避けられない。形勢不利になれば、麻生氏が支持してくれるとは限らない。

しかも緊急総裁選は、自公過半数割れを受けて、どうやって野党の協力を得ていくのか、さらにはどうやって過半数を回復させるのかが、最大の争点となる。

高市氏は野党とのパイプは強くない。とりわけ、野党第一党の立憲民主党は高市氏の右寄りの政治姿勢を強く警戒している。少数与党の高市政権が誕生すれば、国会は与野党激突で混乱し、ますます混迷を深めるだろう。

■軽傷で済んだ麻生派と茂木派

石破政権は総選挙で躍進した国民民主党を与党陣営に引き込むことに躍起だ。国民は自公連立入りを否定し、個別政策ごとに是々非々で対応する「パーシャル連合」で向き合う。まずは政治資金規正法の再改正を求め、年末の予算編成・税制改正で「103万円の壁」撤廃やガソリン税減税を受け入れさせる戦略だ。

国民民主党は岸田政権下でもガソリン税減税を進めるために補正予算案に賛成した。この時、自民党側の交渉窓口になったのは、副総裁の麻生氏や幹事長の茂木氏だった。国会のキャスティングボートを握った国民と太いパイプを持つのは、麻生氏と茂木氏なのだ。ふたりは国民の支持基盤である連合とも密接な関係を築いている。

2024年1月23日、首相官邸での茂木敏充氏
2024年1月23日、首相官邸での茂木敏充氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

茂木氏は石破政権で無役に転じ、麻生氏と歩調をあわせて非主流派の立場を鮮明にしている。来春に石破首相が退陣すれば、緊急総裁選に再び名乗りを上げる公算が高い。9月の総裁選は党員票が伸び悩んで惨敗したが、緊急総裁選は国会議員票だけで決まる。

茂木派は今回の総選挙で候補者33人のうち27人が当選し、自民惨敗のなかで踏みとどまった。麻生派も候補者40人のうち31人が当選し、安倍派壊滅のなかで相対的には勢力を増したといえる。麻生氏が高市氏よりも茂木氏を擁立したほうが緊急総裁選で勝てると判断する可能性は十分にある。国民民主党との密接な関係も決め手になるかもしれない。

■維新は交渉相手にならず

日本維新の会は総選挙敗北で馬場伸幸代表の進退問題が浮上して党内が混乱し、自公との協議どころではない。国民民主党と競い合って自公に接近するのか、対決姿勢を鮮明にするのか、新体制が固まるまでは見通せず、当面は主要プレーヤーから離脱しそうだ。

自民党ではこれまで橋下徹氏や松井一郎氏と親密な菅氏が維新との窓口役を担ってきた。菅氏は9月の総裁選で担いだ小泉氏の惨敗で影響力が低下しており、維新の新体制との交渉を誰が主導するのかは不透明である。

いずれにせよ、自公過半数割れを受けて野党との協議が不可欠となる国会情勢のなかで、高市待望論が高まる気配は今のところない。

少数与党政権は極めて脆弱だ。国民民主党に反旗を翻された時点で、いつでも内閣不信任案が可決されてしまう。石破首相には解散総選挙で対抗する力はなく、内閣総辞職に追い込まれるだろう。予算案も法律案も自公与党だけで成立させることはできない。国民との協議が整わず、立憲や維新を引き込むこともできなければ、石破政権はたちまち立ち往生する。

石破政権は萩生田氏ら非公認議員や無所属議員の6人を自民党会派に入れたものの、過半数にはなお12議席届かない。今後も野党議員の一本釣りを画策するだろうが、それだけで過半数を回復するのは難しそうだ。

曇り空の国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■打開策は「自公国連立」「衆参ダブル選挙」だけ…

抜本的な過半数回復策はふたつしかない。ひとつは連立政権の枠組みを拡大させること。当面のターゲットは国民民主党で、自公国連立を誕生させれば政権基盤は安定する。次のターゲットは日本維新の会だ。さらには立憲民主党との大連立も視野に入れていることだろう。

けれども連立に加わった政党は「自公の補完勢力」と批判を浴び、来夏の参院選で惨敗必至だ。だからこそ、国民民主党も連立入りを否定し、パーシャル連合の立場をとった。他の野党も事情は同じである。参院選前に連立拡大によって政権基盤を安定させることは相当に難しい。

もうひとつの選択肢は、来夏の参院選にあわせて衆院解散を断行して過半数回復を目指す道である。衆参ダブル選挙だ。

国民に不人気の石破首相では、衆参ダブル選挙は到底無理だ。やはり来春に石破首相を退陣させ、国民人気のある新しい首相に差し替えることが、衆参ダブル選挙を仕掛ける大前提となる。小泉進次郎氏は9月の総裁選で「不人気」をさらけ出した。

高市氏は党員人気は高いものの、国民人気はそこまで高まらず、総裁選の決選投票では「高市政権では無党派層が右寄り政策を警戒して逃げ、小選挙区では勝ちきれない」との危機感が自民党内で強まり、石破氏に逆転を許した。

茂木氏や林芳正官房長官は国民人気が決して高くはない。この先、国民人気の高い「新しいスター」が登場しない限り、衆参ダブル選挙はハイリスクの賭けとなる。

■萩生田氏の「反撃宣言」

自公与党は八方塞がりの状況だ。そのなかで弱小の石破政権が来春の予算成立までは国民民主党の主張を次々に受け入れながら、かろうじて政権運営を担うことになろう。

予算成立後は一気に参院選モードに突入し、与野党対決が強まる。国民民主党も「103万円の壁」撤廃やガソリン税減税を盛り込んだ予算が成立したのを機に反自公に転じるかもしれない。いざとなれば自公が受け入れ難い「消費税減税」を迫り、自公が拒否したことを理由に協調路線から離脱して、参院選で再び躍進を狙う可能性もある。

萩生田光一氏
萩生田光一氏(写真=経済産業省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

自民党の反主流派が「石破おろし」に動くのも予算成立のタイミングだ。予算案が衆院を通過し、年度内の自然成立が確実となる2月末に「石破おろし」の狼煙があがるだろう。最初に声を上げるのは、総裁選出馬をめざす高市氏や茂木氏ではなく、石破首相に恨み骨髄の萩生田氏ら安倍派5人衆ではないか。

萩生田氏は東京24区に無所属で出馬し、接戦を制して勝ち上がった。

総選挙後にネット番組に出演し、裏金問題で政治倫理審査会に出席しなかったことを理由に公認を外されたことについて「反論もせず(総選挙を)戦ったが、非公認にするにはそれなりの根拠が必要だ」「(政倫審に出席しなかったのは)党の判断。それを持って説明責任を果たしていないと言われたことは腑に落ちない」と露骨に不満を示した。

「いろいろな意味で吹っ切れた。少しずうずうしく前面に出てやれることをやりたい」「『俺は後ろの方で守っているから、みんな前に出ろよ』というわけにはいかない」とも述べ、反撃宣言したのである。

石破首相については「就任して1カ月。支持率が低いからどんどん変えたら政権が不安定化する」として当面は静観する姿勢を示したが、来春に照準をあわせているのは間違いない。

■来夏の参院選は石破氏以外で

裏金問題で離党に追い込まれ、森山幹事長と親しい二階俊博元幹事長の三男を和歌山2区で圧倒して勝ち上がった世耕弘成氏も手ぐすねを引いている。森山氏は世耕氏の復党を認めない姿勢だが、世耕氏は参院幹事長を務め、参院への影響力は今なお強い。

安倍派は総選挙で壊滅的打撃を受けたものの、世耕氏が束ねてきた参院勢力は残存している。来春の総裁選になれば、無所属であっても世耕氏の影響力は無視できない。世耕氏が推す候補が総裁レースで勝ち上がれば、復党はただちに実現するだろう。

石破首相は「党内野党」として正論を吐き続け、世論の人気を得て、9月の総裁選に勝利した。ところが首相就任後はブレまくり、総選挙では裏金議員の大半を公認し、国民の期待は一気に萎んだ。

2024年10月4日、第214回国会で所信表明演説を行う石破茂首相
2024年10月4日、第214回国会で所信表明演説を行う石破茂首相(写真=内閣官房内閣広報室/Hidden categori/Wikimedia Commons)

総選挙で自ら掲げた勝敗ラインを割り込んだものの首相に居座り、内閣支持率は急落。党内基盤は弱く、少数与党の国会運営は混迷を深めていくだろう。来夏の参院選は石破政権では戦えそうになく、来春の予算成立を機に首相を再び差し替えるのが自民党の既定路線となりつつある。石破政権の余命はおそらくあと半年だ。

■麻生派、安倍派、主流派の抗争は続く

反主流派はどんな戦略を描くのか。麻生氏は茂木氏と連携してキングメーカー復活を狙う。高市氏は総裁選への再挑戦へ基盤を固め直す必要がある。萩生田氏や世耕氏ら安倍派の面々は石破首相への恨み骨髄だ。

岸田文雄前首相や森山幹事長ら主流派はポスト石破に岸田派ナンバー2の林官房長官を担ぐ可能性が高い。林氏は麻生氏とソリが合わない一方、財務省に近く、立憲民主党との関係も良好だ。国民民主党を含め野党の出方も政局を大きく左右する。

来春の予算成立が大政局への号砲となる。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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