「ブロック遊び=図形に強くなる」とは限らない…中学受験の算数に強い子が幼児期にやっている"意外な遊び"
プレジデントオンライン / 2024年11月15日 7時15分
■「あなたは本当に算数が苦手ね」その一言が算数嫌いにする
中学受験は算数が得意だと有利、とよく言われる。確かに、算数は他の教科よりも1問に対する配点が高いし、「受験算数」という小学校の授業で習う算数よりも高度な内容を扱うため、点差が広がりやすく、算数が得意であった方が有利に働くのは事実だ。しかし、この言葉が一人歩きしてしまい、「中学受験をさせるのなら、幼児期の頃から算数を鍛えておいた方がいい」と、小学校に上がる前から大量のドリル学習をやらせる家庭が増えているように感じる。しかし、私はこの早期からの「勉強のやらせすぎ」には断固反対だ。なぜなら、必ず親の余計なひと言が付いてくるからだ。
「ほら、ここ間違っているよ」
「何でいつも同じことを言わせるの? 何度言ったら分かるの?」
「またできていない。あなたは本当に算数が苦手ね」
親からすると、「ちょっと言ってしまっただけ」程度なのかもしれない。しかし、こうした言葉を言われ続けた子どもは、「勉強ってつらいな」「ちっとも楽しくないな」と勉強=イヤなもの、と思うようになったり、「僕は算数ができない子なんだな……」と苦手意識を持ってしまったりするようになる。つまり、わざわざ算数嫌いな子にさせてしまうのだ。そんなことになるくらいなら、早い時期からドリルなんてやらないほうがずっといい。
■「音」「文字」「実物」のトライアングルで数を理解する
もし、幼いときから算数的な力を伸ばしていきたいと考えるのなら、計算ドリルや知育玩具といったモノを与えるのではなく、普段の親子の会話の中で、「数」を入れることを意識してみてほしい。例えば、カゴの中にあるミカンを取ってほしいと言うとき、ただ「ミカンを取って」と言うのではなく、「ミカンを2つ取ってくれる?」といったように、数をしっかり伝えるのだ。
数というものは、「一つ、二つ、三つ」といった音声による音情報と、数字の「1」「2」「3」といった文字による文字情報と、実際にある「実物」の3つが、トライアングルのような三角形の関係になっていて、この3つを理解できて初めて「数」が理解できるようになる。
■日常会話を通じて「数の理解」を深めていく
私たち大人は、2個のミカンを差し出すとき、ごく当たり前のように2という「数字」と、「に」という「読み方」と、2個に見合う「量」という3つの概念を頭の中で同時に認識することができる。だから、「ミカンを2個取って」と言われたら、何も考えずに2つのミカンを差し出すことができるが、数の理解ができていない幼児には、まだその感覚がつかめていない。幼児期に大事なのは、日常会話を通じて、こうした数の理解を深めていくことだ。
それを十分にしないまま、早くから計算ドリルをやらせても、「ただ計算という作業をしているだけ」で、まったく意味がない。むしろ、それをすることによって親の小言が増えるのであれば、百害あって一利なしだ。
私たちの身のまわりは、様々な数であふれている。しかし、家族間の会話は、目の前にモノがあると「あれ取って」「これがほしい」と、指示語で済んでしまいがちだ。それでも、言葉は通じるし、その方がラクだからだ。だが、子どもに算数的な力を付けたいと望むのであれば、これらの数字を言葉にして伝えることを意識してみてほしい。ここでひと言数字を加えるかどうかが、その後の未来を変えていく。
■「絵本の読み聞かせ」の経験が中学受験で生きてくる
中学受験の算数入試には文章題がたくさん出題される。しかし、計算は得意だけれど、文章題は苦手という子は少なくない。これに対して読解力の不足が指摘されるが、私はそれ以前に想像力の不足が原因だと考えている。例えば、速さの問題で、「Aくんは時速何kmで歩きましたか?」と聞いているのに、平気で「時速40km」なんて答えを書く子がいる。それも一人や二人じゃない。結構な数の子が、なんの疑いもなくそう書いているのだ。これこそまさに、想像力の欠陥だ。
では、想像力はどのようにして養っていけばいいか――?
一番の方法は、自分で実際に体験してみることだ。ただ、すべてを体験させるのは難しいので、疑似体験をさせてみよう。おすすめは絵本の読み聞かせだ。絵本というのは、絵と少量の文字で場面が説明され、それが変わることで物語が展開していく。この「場面の変化」が、子どもの想像力を高めていく。
絵本に親しんだ子は、こういう話のときは、こういう展開になりやすい。こういう出来事が起こると、次はこんなことが起きるといったように、情景を想像したり、思い浮かべられたりできるようになってくる。この「情景が思い浮かべられるか」が算数の文章題ではとても重要で、この部分が欠如してしまうと、正しい答えを導くことができない。「算数なのに、絵本?」と驚いた人もいるかもしれないが、絵本こそ、算数にもっとも有効な知育玩具だと感じている。
■指折りで数える習慣で「10の補数」の感覚を身につける
算数は、大きく「数」と「図形」に分類される。幼少期に特に鍛えておきたいのは、「数」だ。そういうと、早くから計算ドリルに走ってしまう家庭が多いが、先にも言ったように、幼児期にやってほしいのはそれではない。「数が数えられるようになる」「10の補数がすぐ出る」、この2つさえ押さえておけば十分だ。数は、日常会話の中で意識的に取り入れることで、身に付いていく。また、お風呂で数を数えたり、散歩で歩数を数えたりして、遊びながら大きな数を覚えていくのもおすすめだ。
10の補数の理解は、指折りで数える習慣を付けることだ。幼児にとって数は、1、2、3……くらいまではイメージができるが、それ以上になるとすべて「たくさん」になりやすい。しかし、実際は7と8は違う。こうした違いをつかむのに、「7は残りの指が3本立っている」「8は残りの指が2本立っている」という10の補数の感覚があるかどうかが、非常に重要になってくる。幼少期にこの10の補数の感覚を身に付けておくと、その後の「計算」でもつまずきにくくなる。
■パズルをすれば図形センスが育つとは限らない
「図形」的センスを鍛えるのに、パズルやブロック遊びがいい、とよく言われる。確かにこれらをやっていた方が、図形に親しみやすくなるというのは事実だ。しかし、同じように幼少期に遊んでいたにもかかわらず、さほど効果が表れない子もいる。その違いは何かというと、それ以前の「行動範囲」が大きく影響している。
これはどういうことかというと、「一度行ったところに、もう一度一人で行けるかどうか」。つまり、空間認識を鍛える訓練をしてきたかどうかが大きい。幼い子どもと一緒に出かけるとき、多くの親は子どもの手をつないで、目的地まで「連れて行く」。しかし、このように親が引っ張ってしまうと、子どもは自分が今どこにいて、次にどこに行こうとしているのか、この道は本当に正しいのか、間違っていないか考える機会を奪うことになる。
すると、子どもはただ「付いていく」だけで、まわりを注意深く見たり、道幅がどのくらいあるかといった周辺情報をキャッチしたりするといった力を伸ばしていくことができない。つまり、空間認識を鍛えることができないのだ。
■「自分で考えて歩く」試行錯誤で空間認識が育つ
わが子を図形が得意な子にしたければ、親は子どもの手を引いて歩いてはいけない。「はじめてのおつかい」のように、子ども一人で目的地まで歩かせてみる経験をたくさんさせてみる。親は、後ろから付いて、見守ってあげればいい。もし道に迷いそうになっても、すぐに出てきてはいけない。「いま、こっちを右に曲がったのだから、次は左に行かなければいけなかったんだな」と子ども自身に気づかせることが大事だ。そうやって、失敗をくり返しながら、人は空間認識を身に付けていく。
空間認識というと、持って生まれたセンスと思っている人は少なくないが、実は失敗や、数々の試行錯誤を経験した上で、身に付いていくものなのだ。幼い頃にこうした経験をたっぷりさせてあげると、パズルやブロックといった遊びがより効果をもたらす。「パズルやブロックをやれば図形が得意になる」のではなく、まずその前段階で身体を使った体験をさせることが大事なのだ。
■幼児期に特別なことをやらせる必要はない
こうして見ていくと、算数的な力を伸ばすために、幼児期に何か特別なことをやらせる必要はまったくないということが分かるはずだ。数を声に出して数えるのも、指で数えるのも、空間認識力を鍛えるのも、日常の暮らしや遊びの中で無理なくできることばかり。親はちょっと意識をする必要はあるが、子どもはただ親子で楽しい時間を過ごしているだけ。これが勉強だなんてこれっぽっちも思わないだろう。
幼児の過ごし方で大切なのは、これから始まる勉強の「下地」を作っておくこと。これに尽きる。そして、早くから勉強っぽいことをさせて、子どもを勉強嫌いにさせないことだ。「わが子の将来のために」と、どうか間違った手段に走らないようにしてほしい。
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中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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