これに気付かなければ今の成功はなかった…稲盛和夫が断言する「生まれ持った能力」よりも大事な2つのこと
プレジデントオンライン / 2024年11月15日 11時15分
■人生が能力で決まるなら「普通くらい」で終わっていた
先生方の指導もあり、みなさんはたいへんよく勉強しておられますし、また、スポーツの世界でも一流選手を輩出しているとお聞きしました。
頭のよい生徒さんもいれば、運動が上手だという生徒さんもいらっしゃるわけですが、人はいろんな能力を持ってこの世に生を享けるのです。あまり物覚えがよくない子もいれば、すぐに何でも覚える子もいる。いろんな子どもが生を享け、育っていくわけです。
それぞれに違う能力を持った子どもたちが現世に生を享けるのですが、その子たちが成長をして一生を終えていく。その中で、生まれ持った能力だけがその人の人生を決めていくのであれば、能力にはもともと差がありますから、それでは人生を生きていく意味がありません。
神さまは能力だけで人生が決まっていくようなことをしていないのです。
先ほども言いましたように、私は田舎育ちのどこにでもいそうな少年でした。ですから、もし能力だけで人生が決まっていくのだとすれば、たぶん普通くらいの人生しか送れなかったでしょう。
■人生は3つのファクターのかけ合わせ
「人生というものはどういうふうになっているのだろうか」ということを、私は若い頃からずっと考えてきました。そして、一生懸命に考えた末に、人生は次のような方程式で決まるのだろうということに気がつきました。若い頃にこのことに気づき、それを守ってきたために、私は京セラやKDDIといった、すばらしい会社をつくることができたのだと思っています。
若い頃、私が気がついた人生の方程式とは「人生の結果=考え方×熱意×能力」というものです。考え方、熱意、能力という三つのファクターをかけたものが人生の結果をつくっていくのだということに、私は気づいたのです。
田舎者であった私が、そんなに優れた能力を持っているわけではない。ですから、せめて熱意だけは人一倍持とうと思いました。人が遊んでいるときでも努力をしよう、オレにはそのくらいしか能がないと思い、人一倍努力だけはしよう、熱意を強く持とうと思ったわけです。
■「熱意」があれば逆転できる
「能力」と「熱意」だけを考えれば、例えばたいへん頭がよくて、立派な高校に進み、果ては立派な大学に行くという生徒さんもいらっしゃると思います。その生徒さんの能力が80点だとしましょうか。
もう一人、頭はさほどよくないけれども、落第をするほどではない。普通くらいの成績で、能力は60点だという生徒さんもいらっしゃると思います。80点の子と60点の子とでは、能力には相当な差があります。
80点の能力を持った子はその後、立派な高校へ行き、立派な大学を卒業した。大学でも相当頭がよい、優秀だといわれていた。そのために、社会へ出てから「オレは頭がよいのだ」と自慢し、その子は一生懸命生真面目にがんばることをしなくなってしまった。
「頭の悪い子は朝から晩まで働かなければならないが、オレは頭がよくて優秀なんだ。バカみたいに働かなくてもよいだろう」と熱意がない。
その子の熱意の点数が30点だったとすれば、80点(能力)×30点(熱意)となり、点数は2400点となります。
一方、60点の能力の子は、中学時代も高校時代もあまり頭がよくなくて、大学もあまりよいところへは行けなかった。しかし社会へ出てから、自分はあまり能力がないから人一倍がんばろう、努力をしようという熱意を持った。
この子が80点の熱意で人生を歩き始めたとすれば、60点(能力)×80点(熱意)となり、4800点の点数になります。
頭のよかった子の2400点に比べて、それだけで倍ほど違う4800点です。
■「マイナス」で終わってしまう人の特徴
能力と熱意だけではありません。さらに「考え方」がそこにかかってきます。
この方程式を考えたときに、私は「考え方」にはマイナス100点からプラス100点まであると思いました。
例えば、「世の中はバカバカしい、一生懸命に働くなんてアホらしい」と悪いことを思う。悪さをして人生を生きていこう、泥棒でもしようと考える、これはマイナスの考え方です。
この方程式はかけ算です。わずか1点でもマイナスがかかれば、答えはすべてマイナスになってしまいます。
人生がマイナスで終わってしまう人はたくさんいます。
罪を犯し、たいへんな人生を生きていくことになってしまった人はたくさんいますが、それは方程式にある「考え方」がマイナスだったからなのです。少しくらい悪い考え方をしてもいいだろう、誰も見ていないし、いいだろうと思っても、それが人生のすべてを台無しにしてしまうわけです。
■「考え方」で結果は何十倍もすばらしくなる
マイナスとまではいかないけれども、点数としてはあまりよくない考え方をしていたとします。
もし、先ほどの頭のよい子が10点の考え方をしていたとすれば、80点(能力)×30点(熱意)×10点(考え方)となり、人生の点数は2万4000点となります。ですが、すばらしい考え方をしていて、その点数が80点だとすれば、もう何十倍と結果は変わってきます。
学校の成績はあまりパッとしなかったけれども、大人になり、年をとるにつれて、すばらしく立派になったという人を、みなさんも知っていると思います。
みなさんの近所の人たち、お年寄り、親戚の人の中に、そういう人がいるかもしれません。
逆に、高校、大学と頭がよくて、「あの家の子はたいへん頭がよいそうだ」と近所で評判にもなっていたのに、決して立派とはいえない大人になっているというケースもあります。
人生において「熱意」と「考え方」が違っているのです。中でも「考え方」です。考え方は人生の結果に大きな影響を及ぼします。みなさん、ぜひすばらしい考え方を身につけてください。
■「よい考え方」=「思いやりのある考え方」
私がみなさんに話している「考え方」とはどういうものなのかといえば、思想、哲学と言い換えてもよいかもしれません。どういう思想を持つのか、どういう哲学を持つのかによって人生は決まっていくのです。
結論からいえば、よい考え方、すばらしい考え方とは、美しくて思いやりのある考え方です。美しくて、優しくて、思いやりに満ちた心を持っているということが、よい考え方となるわけです。
悪い考え方とは、自分だけよければいいというエゴ丸出しの心です。他人への親切心、他人への感謝、そういうものが欠片もなくて、自分だけよければいいというエゴイスティックな考え方です。
よき考え方を持つようにしてください。
■「思いやりの心」のつくり方
仏教に「足るを知る」という教えがあります。足るを知るとは、そんなに欲張らなくてもいいではないか、そんなに腹を立てなくてもいいではないか、そんなにブツブツと不平を鳴らさなくてもいいではないか、ほどほどに、ええ加減にしなさいよということです。本能からしょっちゅう出てくる汚い心を少し抑えなさいというのが、「足るを知る」という教えなのです。
本能、煩悩をほどほどに抑えれば、そこには優しい思いやりの心が自然に湧き出てくるようになっています。自分は今幸せだと感謝しながら生きていけば、他人さまが喜んでくれるようなことをしてあげたいという、優しい思いやりの心が出てくるようになっているわけです。
また賢い人は、自分の良心と理性で、自分の心の中に思いやりの心が出てくるようにしています。
自分自身の心に対して、「オレがオレがと、そんなに欲張ったことを考えるのではない。そんなふうに考えるのではなくて、少しは他人さまのことも考えてあげたらどうだ。お父さんのこともお母さんのことも、妹のことも弟のことも考えたらどうだ。いや、友達のことも考えたらどうだ」と言い聞かせていく。
理性と良心で自分の心に語りかけ、自分の心が美しいものになるよう仕向けていくということを、本当は毎日しなければならないのです。
■人間の心は庭のようなもの
20世紀の初め、イギリスにジェームズ・アレンという哲学者がいました。その人が書いた本(編集注 『「原因」と「結果」の法則』サンマーク出版)に、次のような意味の一節が出てきます。
人間の心は庭のようなものです。もしあなたが自分の心の庭を手入れしなかったならば、そこにはいつの間にか雑草の種が舞い落ち、雑草が生い茂る庭となってしまうでしょう。もしあなたが自分の心の庭にすばらしい花、美しい花を咲かせたいと思うならば、あなたが思う草花の種を植え、それを育て、あなたが望むすばらしい花々が咲く庭にさせるべきです。
あなたの心は庭のようなもので、手入れをしなければ、雑草が生い茂ってしまう。もしあなたが自分の心の庭に美しい花々を咲かせようと思うならば、雑草を抜いて耕し、自分が希望する草花の種を植え、手入れをしていかなければならないということです。
人間の心には本能、煩悩があり、放っておけば、欲と怒り、不平不満と愚痴で満ちあふれた心になってしまいます。これは私も含めて、どの人もみな同じですが、そういうものが雑草です。手入れをしなければ雑草だけが生い茂ってしまい、やがては手に負えないまでに雑草が生い茂る心になってしまうのです。
■性格はトレーニングで変えることができる
ジェームズ・アレンの言葉を借りれば、「自分の心の庭を見てごらんなさい。本能に満ちあふれ、自分だけよければいいという欲望、怒り、嫉妬、愚痴、不平不満で荒れ放題になってはいませんか。なぜ、手入れをしないのでしょうか。本能で満ちあふれて汚れた心を手入れし、そこに優しい思いやりに満ちた草花の種を、感謝の心という種を植え、育てていくべきですよ」ということです。
みなさんもぜひ、毎日のようにそれを実行してみてください。そうして立派な心にしてください。立派な心になっていくに従って、人柄がよくなっていきます。人柄がよくなっていくだけではなくて、性格がよくなっていきます。「あの人は若い頃に比べて、すばらしい人に変わっていったな」と言われるようになる。
性格というものは、日常からそういうトレーニングをしていくうちに変わっていき、次第に人柄がよくなっていくのです。性格が変わり、人格が変わっていくわけです。
■大会社をつくることが「成功」ではない
毎日毎日、自分で反省をするようにしてください。例えば夜、寝る前に少し目をつむり、今日1日のことを静かに考えてみる。
欲望、怒り、不平不満、愚痴に満ちあふれた1日であったことを反省し、これではいけない、もっと優しい人間になろう、もっと明るい人間になろうと自分に言い聞かせていく。それが心の庭の手入れになるのです。
心の庭の手入れを毎日のように繰り返し、努力をしていけば、人間性はだんだん変わってきます。人柄が変わっていきます。親が見ても、先生が見ても、周囲の人たちが見ても、「あの人は変わったな。どうしてあんなふうなすばらしい人になったんだろう」と思うくらいに心が変わっていきます。
立派な心、優しい思いやりの心を持つということが、実は人生における一番の成功なのです。人生の目的とは、大会社をつくることでも、立派な研究をすることでもありません。立派な人間性、立派な人柄に変わっていくことが人生の目的であり、それが一番の手柄となるわけです。
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京セラ名誉会長
京セラ名誉会長、KDDI最高顧問、日本航空名誉顧問。1932年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。 84年に第二電電(現KDDI)を設立し、会長に就任。2001年より最高顧問。10年には日本航空会長に就任。代表取締役会長、名誉会長を経て、15年より名誉顧問。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。2022年8月逝去。
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(京セラ名誉会長 稲盛 和夫)
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