やっぱり快速を減らして各駅停車を増やすのはおかしい…JR東日本による京葉線ダイヤ改正を徹底検証した答え
プレジデントオンライン / 2024年11月11日 14時15分
■京葉線は「ダイヤ改正」なのか「ダイヤ改悪」なのか
全国の鉄道路線でこの1年に最も話題となったものの一つはJR東日本の京葉線であろう。
京葉線は東京駅と蘇我駅との間の43.0キロメートルを結ぶ。さらに、途中の市川塩浜駅から西船橋駅までの5.9キロメートル、それから西船橋駅から途中の南船橋駅までの5.4キロメートルの支線があり、合わせて54.3キロメートルで営業を実施する首都圏有数の通勤路線である。
その京葉線では2024(令和6)年3月16日のダイヤ改正から快速や通勤快速が減少または廃止となると発表され、同時に利用者や沿線の関係者から戸惑いの声が上がった。その後、沿線の自治体からはJR東日本に対して改善を申し入れる事態にまで発展したのだ。
いったいどの程度の変化が生じたのか。平日の東京駅に到着する列車を例に説明しよう。対象となるのは運賃だけで乗車可能な列車で、特急列車は除いている。
■10本に1本は快速だった
ダイヤ改正前まで、つまり2024年3月15日までは各駅停車、快速、通勤快速と合わせて1日194本の列車が運転されていた。
これらのうち、快速は東京駅~蘇我駅間で途中16駅あるうち9駅、具体的には次項の図表1のとおり八丁堀、新木場、舞浜、新浦安、南船橋、海浜幕張、検見川浜、稲毛海岸、千葉みなとの各駅に停車する。本数は23本、全体に占める割合は11.9パーセント。
途中新木場駅だけに停車する通勤快速は2本、1.0パーセントだ。残る169本、87.1パーセントは各駅に停車する。
快速、通勤快速は東京駅~蘇我間を通して運転される一方、各駅停車の一部は途中駅で折り返しとなるものも多い。
まとまったグループとして挙げられるのは武蔵野線から西船橋駅、市川塩浜駅を経由して乗り入れる各駅停車で57本、全体に占める割合として29.4パーセントが存在する。
■住民からの反対の声で変更
ところが、2024年3月16日以降、快速は10本減らされて13本、全体に対する割合は6.8パーセントとなり、通勤快速は姿を消す。
列車の総数も3本少ない191本となったものの、快速や通勤快速が減った関係で各駅停車は9本多い178本、全体に対する割合は93.7パーセントに増えた。
各駅停車のうち、武蔵野線直通のものは57本と変わらず、割合は29.8パーセントだ。
JR東日本もさすがに利用者や沿線の関係者の声を無視できず、2024年9月1日にダイヤの一部見直しを実施している。
この結果、快速は3本増えて16本、全体に対する割合は8.4パーセントとなったが、通勤快速は復活していない。
各駅停車は175本と3本減らされ、全体に対する割合は91.6パーセントとなったものの、武蔵野線直通分は57本と同じで、割合は29.8パーセントだ。
■快速の設定はおおむね妥当
図表2には東京駅~蘇我駅間各駅の1日平均の乗降者数の推移も記した。
2023(令和5)年度のデータを見ると、JR東日本が設定した快速の停車駅はおおむね妥当だと言える。
快速停車がとまる駅の中で最も乗降者数が少なかったのは検見川浜駅の2万8938人、一方で各駅停車のみがとまる停車駅の中で最も乗降者数が多かったのは潮見駅の2万9668人だ。
各駅停車のみの停車駅のほうが乗降者数が多くなる逆転現象は確かに起きている。だが、図表2にも記した2019年度の実績では検見川浜駅の乗降者数が潮見駅のものを上回っていた。
それから潮見駅には武蔵野線直通の各駅停車も停車するので、利用者への影響はそう大きくはないと思われる。もちろん、今後も乗降者数が増え続けるようであれば快速の停車を考慮する必要があるだろう。
■最新の利用約数は約2億2700万人
京葉線全体の利用者数を紹介したい。『2021(令和3)年度版 都市・地域交通年報』(運輸総合研究所、2024年7月。以下『都市・地域交通年報』)によると、2019(令和元)年度の利用者数は2億5643万9000人、1日平均70万0653人であった。
『都市・地域交通年報』をもとに京葉線と同程度の利用者数となる首都圏の通勤路線を探してみた。
同じJR東日本では埼京線の一部として池袋駅と赤羽駅との間の5.5キロメートルを結ぶ赤羽線が2億9964万3000人で、1日平均81万8696人。
大手私鉄では京成上野駅と成田空港駅との間の69.3キロメートルを結ぶ京成電鉄本線が2億3671万9000人で、1日平均64万6773人。
地下鉄では目黒駅と西高島平駅との間の26.5kmを結ぶ都営地下鉄三田線が2億4833万人で、1日平均67万8497人がそれぞれ近い。
実は京葉線の利用者数は2019年度が最新のもので、2023年度分はまだ公表されていない。ただし、JR東日本は「平均通過人員」を15万8945人/日と発表している。
仮に『都市・地域交通年報』に掲載されている京葉線の2019年度の利用者1人平均の乗車距離13.9キロメートルが2023年度も同じであったと考えると、利用者数は1日平均62万0915人(※)、年間2億2663万3844人と推測される。
【※計算式 15万8945人/日×54.3キロメートル(営業距離)÷13.9キロメートル(利用者1人平均の乗車距離)】
■JR「外房線・内房線→京葉線に直通する人が減った」
さて、なぜ京葉線の快速、通勤快速は減らされたり、廃止となったのか。
筆者がJR東日本に直接聞いた回答、さらには筆者に対してこの件でコメントを求めた複数の新聞社が同社から得た回答をまとめると、次の3つとなる。
1 通勤快速の利用者が減っているから
2 快速と各駅停車との乗車率の不均衡を解消するため
3 京葉線の利用者数は減少傾向にあり、列車を間引く必要がある。しかし、快速の本数を維持したまま列車を間引くと、快速通過駅では列車の運転間隔が広がりすぎて不便となるから
1番から検証してみよう。
通勤快速は停車駅が八丁堀駅、新木場駅、蘇我駅と限定されすぎていることから、通勤快速の利用者が少ないのは当然だと言える。図表2のように乗車降車数が1日平均10万人を超える舞浜、新浦安、海浜幕張といった輸送需要の高い駅からの乗降を期待できないからだ。
通勤快速は蘇我駅で接続する外房線や内房線に直通し、東京都心部と外房線、内房線沿線とを直結させる役割を担っていた。
2024年3月16日のダイヤ改正まで東京駅に到着していた2本の通勤快速は1本が外房線勝浦駅発・東金線成東駅発とを大網駅で一緒にしたもの、もう1本は内房線上総湊駅発だ。
JR東日本の説明から判断すると、外房線や内房線から京葉線に直通する人が減ってきたらしい。一方で『都市・地域交通年報』には蘇我駅での乗り換え状況が記されているので検証してみよう。
■むしろ利用者が増えている
外房線、内房線から京葉線に乗り換える人たちは年を追うごとに減ってきたのであろうか。何年分も紹介すると読むのも大変なので2010年度と2019年度の1日平均の利用者数を挙げる。
まず外房線勝浦駅方面から蘇我駅に到着する利用者数について。
図表3にあるように、2010年度と2019年度とを比較すると、蘇我駅に到着する外房線の列車の利用者数は6万3944人から6万2113人へと減ったものの、京葉線に乗り換える人は1万4271人から1万4812人へと541人増えていることがわかる。
続いて、内房線上総湊駅方面からでは蘇我駅に到着する利用者数について。
図表4にあるように、2010年度と2019年度との比較では、内房線全体の利用者数は5万8562人から5万7756人へ、京葉線に乗り換えた人の数は1万2193人から1万1848人へと、ともに減っている。
通勤快速は停車駅が限られていたので廃止はやむを得ない。それはそうとして、京葉線と外房線との直通は利用者数が増えているようだし、京葉線と内房線との直通もそう大きく数を減らしているのではないので、京葉線内では停車駅を増やした快速としてこれまでどおり走らせていてもよいだろう。
■快速の乗車率が各駅停車を上回るのは当然
続いて2の「快速と各駅停車との乗車率の不均衡を解消するため」に進もう。
実を言うと、快速と各駅停車とでどちらのほうが乗車率が高いのかはわからない。筆者がJR東日本に問い合わせてもいまひとつはっきりとした回答が得られなかったのだ。
仮に快速の乗車率が高かったとしよう。図表2のとおり、快速は乗降者数の多い駅を選んで停車しており、快速の利用者もまた乗降者数の多い駅を目指すケースが多いと思われるから、快速の乗車率が各駅停車を上回るのは当然だと言える。この場合、快速を減らすのではなく、むしろ快速を増やさなくてはならない。
東海道新幹線では、筆者の計算で平日に毎日運転される新大阪駅方面、東京駅方面の列車が314本存在する。うち、途中品川、新横浜、名古屋、京都の各駅に停車する「のぞみ」が164本、全体に占める割合は52.2パーセントと過半数を占める。主要駅停車の「ひかり」が65本、20.7パーセントで、各駅停車の「こだま」は85本、27.1パーセントに過ぎない。
もしも東海道新幹線の「のぞみ」の乗車率が「ひかり」「こだま」よりも高くなったらJR東海はどうするであろうか。言うまでもなく、「のぞみ」の増発である。ましてや「のぞみ」を削減したり、廃止してすべてを「こだま」とする策を採るはずがない。
■普通に考えれば快速を増やすべきでは…
続いては各駅停車のほうが乗車率が高かった場合だ。図表2からも示されるとおり、京葉線の大多数の駅における2023年度の乗降者数は2019年度と比べて減っていて、減少率が大きかったのは18.7パーセントの海浜幕張駅を筆頭に15.5パーセントの新木場駅、13.7パーセントの八丁堀駅と快速の停車駅が目立つ。
各駅停車だけが停車する各駅の乗降者数は減少率12.8パーセントの新習志野駅を除けばそう大きく減ってはいないので、相対的に各駅停車の比重が高まっている点はうなずける。
だが、そうは言っても2023年度の実績でも快速の停車駅と各駅停車のみ停車の駅との乗降者数の差はいまも大きい。
となると乗降者数の多い駅どうしを移動する快速の利用者が依然として多いと思われる。東京駅に停車する列車の大多数が各駅停車という状況で、快速の乗車率が著しく低いという状況を筆者は想像しづらい。
2番の回答について筆者は答えを出せなかったことをお許しいただきたい。
■ダイヤ改正で起きた不可思議な現象
3番の「京葉線の利用者数は減少傾向にあり、列車を間引く必要がある。しかし、快速の本数を維持したまま列車を間引くと、快速通過駅では列車の運転間隔が広がりすぎて不便となるから」は確かにそうであろう。
しかし、限度はある。乗降者数の少ない駅に配慮しすぎて全体の利便性を損ねては意味がないからだ。
京葉線の各駅で最も乗降者数の少ない二俣新町駅では2024年3月16日のダイヤ改正まで、日中の11時台から15時台までにおける東京駅方面の列車の運転間隔が最長22分となっているケースが見られた。
二俣新町駅にはこれらの時間帯に1時間当たり4本の各駅停車が停車しているので、本来であれば運転間隔は等間隔の15分間隔が望ましい。運転間隔が延びているのはその間に快速が運転されているからというのはわかるのだが、それではダイヤ改正でどうなったのか見てみよう。
2024年3月16日のダイヤ改正では多少改善されて最長19分間隔となり、2024年9月1日のダイヤ見直しでは1分延びて20分間隔となっている。
不思議なことにこれらの時間帯では快速の本数は一貫して1時間当たり2本であり、各駅停車の本数は4本とこちらも変化はない。JR東日本がなぜこれらの時間帯に快速の本数を減らさなかったのかの理由は不明だが、やはり快速の利用者が多いからに違いない。
■JR東日本は何を目指しているのか
さて、JR東日本は京葉線の快速、通勤快速の減少や廃止で最終的に何を目指しているであろうか。実はこの点について聞いても答えてもらえなかった。
近年の同社はコロナ禍で低下した収支の改善を急いでおり、鉄道事業の効率化を図るとともに異業種である金融業や不動産業に本格的に進出している。京葉線の収支改善を目的として快速、通勤快速の見直しを実施したのかもしれない。
JR東日本によると、京葉線が2019年度に得た旅客運輸収入は371億6000万円であった。費用や営業損益は明らかにされていないので、国土交通省の「鉄道統計年報」をもとに試算してみたい。
鉄道事業における直接経費となる運送費はJR東日本の場合、2019年度は1兆0726億0717万円であった。
このうち、いくらが京葉線の運送費であったかを推測する一つの方法として旅客人キロ(※)の割合で求めることを考えた。
「鉄道統計年報」によると京葉線の2019年度の旅客人キロは35億7303万7000人キロ、JR東日本全体では1353億8590万6000人キロであったから、全体に対する京葉線分の割合は2.6パーセントで、運送費は283億0771万円、営業利益は88億5229万円だと推測される。
※編集註 旅客人キロとは、輸送した各々の旅客(人)にそれぞれの旅客が乗車した距離を乗じたものの累積で、計算式は、輸送人員(人)×乗車距離(キロメートル)
■年間240億円超の支払い
鉄道業界では営業係数と言って100円の収入を得るために必要な費用で営業収支を示す。先に挙げた推測値から営業係数を求めると76だ。
旅客運輸収入と運送費とを用いてJR東日本の2019年度の営業係数を求めると60であった。
したがって、京葉線は利用者数が多く、黒字の路線ではあるものの、JR東日本にとってはたいそう儲かる路線には見えないのかもしれない。
京葉線の収支についてはもう一つJR東日本の頭を悩ます事実が存在する。この路線は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、鉄道・運輸機構)から借りていて、2023年度は年間244億4600万円もの貸付料を支払っていたのだ。
JR東日本の在来線は大多数が国鉄から無償で譲渡されたが、それは国鉄自体で建設費を負担した路線に限られる。京葉線は鉄道・運輸機構の前身の日本鉄道建設公団が建設を担当し、国鉄時代から貸付料を支払っていた。そのような経緯があり、JR東日本に引き継がれたいまも貸付料を負担しなければならないのだ。
貸付料は毎年変動はあるものの基本的な水準は同じで、2029年度まで続く。貸付期間が終わっても京葉線がそのままJR東日本の所有物とはならない。鉄道・運輸機構の前身の日本鉄道建設公団が負担した建設費の残りを清算した後、ようやくJR東日本に譲渡される。
■「すべて各駅=運送費の削減」にはならない
先に試算したように、仮に京葉線の営業利益が88億5229万円だったとしよう。2019年度にJR東日本が支払った京葉線の貸付料は246億3600万円であったから、仮に京葉線の営業利益だけでまかなおうとすると157億8371万円が不足する。
JR東日本に聞いたところ、この貸付料は京葉線の営業収支とは関係なく、同社全体で負担するらしいとのことであった。それでもJR東日本が京葉線の経営状態を判別する際に考慮すべき金額である点は間違いない。貸付料の存在は仕方がないとしても、京葉線の営業利益を可能な限り増やそうと考えるのは自然なことだと言える。
京葉線の抱えた財政事情がこの路線から快速や通勤快速を減らしたり廃止にしようとする動機となるのかは筆者はわからない。仮にすべての列車を各駅停車にしたとして、列車の種類が単純化されて運送費がいくぶんか節減できるかというとそうでもないと筆者は考える。
逆に余分な加速、減速が増えるために運転費が増加する可能性もあるだろう。
それに、東京駅~蘇我駅間で快速では標準で41分で到達できるところ、各駅停車では49分が標準となるので、8分延びた分の人件費を考慮すると運送費の削減にはつながらないかもしれない。ともあれ、今回の京葉線での出来事を収支の面から説明することは筆者には困難だ。
■類似路線を比較してわかること
最後となるが、今回の問題が報じられた際、「京葉線には快速は不要だ」とか「快速の減少に文句を言うのぜいたくだ」との心ない意見が聞かれた。という次第で首都圏の他の通勤路線と比較してみよう。京葉線沿線の利用者や関係者の言い分は間違っているのかどうかがわかる。
次項の図表4に挙げたのは同じ線路上を異なる種類の列車が走っている路線で、京葉線東京駅~蘇我駅間43.0キロメートルに近い区間を取り上げた。
各線とも停車駅の少ない列車はいろいろとあるなか、1日1本という具合に極端に少ないものではない限り、基本的には最も停車駅の少ない列車を対象としている。
■鉄道は結局のところ数字で動いている
結果はご覧のとおりだ。
今回対象としたJR東日本6路線、大手私鉄7路線の計13路線を走る停車駅の少ない列車のうち、京葉線の快速の4.3キロメートルよりも駅間の平均距離が長いまたは同じである路線はJR東日本4路線、大手私鉄1路線の計5路線であった。
残るJR東日本2路線、大手私鉄6路線の停車駅の少ない列車の駅間の平均距離を見ると、京浜東北線を除いてすべて京葉線全駅の駅間の平均距離2.5キロメートルを上回っている。
しかも、京浜東北線の場合、もっと速く行きたければ並行して走っている東北線や上野東京ライン、東海道線といった列車に乗ればよいので問題は少ない。
以上をまとめよう。東京駅~蘇我駅間43.0キロメートルある京葉線の列車をすべて各駅停車にするような愚は同じJR東日本の通勤路線でさえ行われていないという事実が図表5から示されているのだ。
今回の本稿では数字がとにかく多数登場して閉口した方も多いに違いない。けれども鉄道は結局のところ数字で動いているものだとも言える。
快速や通勤快速の削減や廃止に対して感情的でなく理論的に反論するには数字を用いるしかない。その一端を理解していただければ幸いだ。
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鉄道ジャーナリスト
三井銀行(現三井住友銀行)に入行後、雑誌編集の道に転じ、「鉄道ファン」編集部などで活躍。2000年からフリーに。
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(鉄道ジャーナリスト 梅原 淳)
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