"山川の日本史"をひたすら要約した…発達障害の息子が麻布中学に合格した「たった2つの試験対策」
プレジデントオンライン / 2024年11月13日 17時15分
※本稿は、赤平大『たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■残り2カ月で初の中学受験、さてどうするか
息子の“麻布宣言”を聞いた夜、私は焦りました。
「時間が少ない中で、結果を出さなければならない」
「これから塾に通ったりする時間もないし、そもそも息子は発達障害の影響で塾で勉強できないから自宅学習をしてきたわけだし……」
“いわゆる中学受験”をまったく考えていなかったので、試験まで2カ月で何を準備すればいいのか、その手掛かりがありませんでした。
「やるからには、勝てる道筋を必ず見つける」
「今ある戦力と限られた時間で、合格まで持っていくにはどうすれば……」
その時、頭に浮かんだのがMBAを学んだ時の恩師で、元ボストン・コンサルティング・グループ日本代表の内田和成教授(当時)の著書『仮説思考』。著書の中で内田教授は「仮説思考は限られた情報、少ない時間でベストな解を出す方法」と書かれていたことを思い出しました。
・少ない時間=麻布受験まで残り2カ月。
まさに私たちの状況にピッタリと当てはまっています。このタイミングこそ、仮説思考を使うべきだと判断しました。まずはネットの情報やSNS、動画などから麻布のことを調べてみると、2つのことが気になりました。
■息子が苦手な記述解答の割合が非常に高い
1つ目は、麻布の試験問題は「思考力が問われる出題が多い」ということ。
息子は定期的に発達検査・WISCを受けてきました。その結果から、思考力が特に高いことはわかっています。
思考力が問われる麻布の問題に合っていそうですが、一方で息子は、「情報を処理する能力」が相対的に低いという結果も出ています。その影響で記述が極端に苦手な特徴がありました。
「数学検定」を1級まで取らずに途中で断念したのも、記述式の解答が書けなかったからでした。「全国統一小学生テスト」とは別に受けていた直近の日能研の模試でも、記述式の解答はほとんど書けていません。麻布の入試問題は「記述解答の割合が非常に高い」という特徴があります。
記述が壁となって、麻布の問題との相性は最悪だろうと思いました。
■答えはわかるけど記述そのものが書けない?
2つ目に気になったことは、6年生になってからの「全国統一小学生テスト(四谷大塚の模試)」と日能研の模試では、日能研の偏差値のほうがおよそ5~10ポイント低くなっていたことでした。日能研での偏差値が50代半ば前後のところ、「全国統一小学生テスト」の偏差値は50台後半~60台、最後の模試に限って言えば、その差は20ポイント近くもありました。
「この差は、どうして生まれるんだろう?」
受験者の学力レベルに、そこまで大きな差があるとは考えにくい。両者の違いは「全国統一小学生テスト」は、記述の無いマークシート式の解答方式で、日能研は記述のある一般的な解答方式ということです。
それまでの私は、「息子は記述が苦手だから、記述のある日能研が低くてもしょうがない」と短絡的に考え、思考停止していたのですが、ここでもう一度、内田先生の仮説思考を思い返してみました。
マークシート式なら回答できるということは、「答えがわからないから記述が書けない」のではなく「答えはわかるけど記述そのものが書けない」のではないか?
その仮説をもとに、解答できなかった日能研の記述問題を、“口頭で”答えさせてみると、かなり独特な言い回しで話は長いものの、正しい答えを話すことができたのです。息子の頭の中にある情報が多過ぎて整理できておらず、その情報を出す“蛇口”が詰まっているように感じました。
■自分とは違う「息子の世界観」に注目
以前、発達障害動画メディア『インクルボックス』でインタビュー取材をした、国内外で障害者就労や障害研究を行っている中尾文香さんは、「発達障害者には彼らの世界観があり、対話でお互いに知ることが当事者のパフォーマンスにとても重要」だと言います。
振り返ってみると、私は小学校6年間毎日、登下校と習い事に同行して息子とコミュニケーションを取るようにしていました。一般的な父と子の関係よりも、会話量は多かっただろうと思います。
「発達障害の息子には特有の世界観があって私にも私の世界観がある。同じではない」
中尾さんの言葉通り、やはり当時からそう何となく感じていました。そのような経緯から、息子が記述を書けない理由が、情報を処理する能力が相対的に低いことに加えて、固有の世界観から「独特な情報取得と思考のルートを辿っているためでは?」と感じていました。
■麻布入試で受験生に問われる3つの力
麻布の問題は、進学校や難関校と言われるほかの私立中学と比べても「特殊過ぎる」とよく言われます。「記述問題の中でも“思考”を問う問題が多い」ことに加え、「大学受験の入試問題よりも長い問題文」があることから、そう言われているのです。
つまり、麻布の入試では、この3点が問われていると感じました。
②深い思考力。
③考えたことを書く力。
保育園時代に先生から「大人の文章も読めている」と言われた息子の読むスピードは、6年生時点で私よりもずっと速くなっていましたから、①は問題ありません。思考力は息子の一番得意な部分です。②もクリアできる。つまり、「相性最悪」だと考えていた麻布は、③さえ克服できれば合格の可能性があるということです。
「受験まで残り時間が少ないなら、知識を増やすより、持っている知識をスムーズに書ける練習をした方がいいのではないか?」
「麻布は記述問題が多いのだから、記述力を高める以外に偏差値を急増させることはできないのではないか?」
“麻布宣言”があった日の深夜、仮説思考で問題が整理されて“極細”ですが合格への道筋が見えてきました。
■戦力を「強み」に集中させるMBA戦略
内田先生の仮説思考に加え、私はもう1つの戦略を麻布受験に使用しました。
それがMBAで教わる戦略の中で最も有名なものの1つ、競争戦略研究の第一人者であるアメリカの経営学者・マイケル・ポーターの「差別化集中戦略」です。
差別化集中戦略を端的に言うと、「攻めるフィールドを限定すること」「戦力を自分の強みのある部分に集中させること」です。そして、この戦略は「投下できる資源(資金)が少ない」時に効果を発揮します。
大手チェーンを押しのけて、北海道内での強さと人気を誇っているコンビニチェーン・セイコーマートや、他県からの買い物客がいるほどファン創造に成功した仙台のスーパー・主婦の店さいちも差別化集中戦略の成功事例です。また私の古巣であるテレビ東京の成功したいくつかの番組も、この戦略に則ったものでした。
■ギャンブルともいえる2つの試験対策
これを息子と私の状況に当てはめてみます。
・攻めるフィールドを限定する=記述問題の練習に絞る。
・自分の強みに戦力を集中する=息子の強みである思考力で勝負。
「受験まで残り2カ月、息子の置かれた状況は差別化集中戦略を使うしかない」
そう考えて、翌日、息子にこう提案しました。
「今のままだと、麻布には絶対に受からない。だから……」
「お父さんと、ギャンブルしてみない?」
仮説思考と差別化集中戦略から行き着いた、麻布試験対策はこの2つでした。
・ギャンブル② 記述の練習だけを、する。
国語、算数、理科、社会、全4教科の一般的な勉強――漢字読み書きや知識の暗記、計算など全部捨てて、「書くことだけを練習する」ということ。記述力アップだけに完全に振り切った作戦です。
■記述力アップのため“山川の日本史”を要約
記述力を上げるために2つの教材を使用しました。1つ目の教材が、山川出版社の教科書『詳説・日本史』です。
なぜ“山川の日本史”だったのか、というと入試までの時間がない中で、「たまたま家にあった」から。息子が小学1年生の頃、日本史や世界史の学習マンガを読んでいた時に、「もう少し内容が深くて読み応えがあるものも読むかな……?」と、私が買ってきたものです。
当時の息子は関心を持たず、“山川の日本史”はずっと本棚の奥にしまい込まれていたのですが、麻布受験の2カ月前にふと思い出して引っ張り出しました。
この“山川の日本史”を「ただひたすら要約する」という課題を徹底的に息子にやってもらいました。あらかじめ、要約する範囲と使うキーワード、文字数、制限時間を決めて、息子に伝えます。
「20ページから21ページまでの内容を、この3つの言葉を使って80字に要約してみて。制限時間は3分」
この要約作戦では、とにかく「頭の中にある情報を整理する」という作業を最優先しました。読む速度の速い息子は、情報を頭の中にたくさん入れることは得意です。
それを取り出す力をつけることが目的でした。同時に“山川の日本史”を要約していれば、自然と歴史の知識も頭に入っていくはずで効率的だと思いました。
■丸つけはせず、「書く」にとにかく集中
2つ目の教材が、中学受験の国語限定の過去問です。
通称“銀本”と言われるもので、大学受験の過去問集を“赤本”と言いますが、その中学受験版です。銀本には公立中高一貫校向けのものや私立中高一貫校共学校向けのもの、男子校向けのものなどがあります。
6年生の春頃に私がなんとなく購入した国語の銀本が、指一本も触れられることなく本棚に入っていたのを思い出し、使用することにしました。漢字読み書き問題や抜き書き問題、選択問題は全部飛ばして、息子には記述式の問題だけを解いていってもらいました。
そして、ここが少し大事なところですが、「山川の日本史の要約」も「国語の過去問の記述」も、解答は正解でも不正解でも、まとまっていなくてもOKにしました。丸つけもしませんでした。
とにかく、「制限時間内に、書かれている問題文を整理して文字数内に書く」その一点集中。答えがわからないなら、「答えを見ながら書いてもいいよ」というくらいまで、「書く」ことだけに集中させるようにして、書きっぱなしで次の問題、また次の問題、次の要約……と取り組んでいきました。
■過去の合格実績に基づく「1日2000字」
正誤にこだわって採点をしたり細かい確認作業をしてしまうと、私が採点する時間やそれを説明する時間で、5分、10分……と貴重な時間が失われてしまいます。
要約と記述問題、この2つを合わせて「1日2000字、書く」ことを目標に毎日続けました。残された時間がない中で“質より量”という選択しかなかったのです。
“2000字”という数には明確なデータによる裏付けはありませんでした。ただ、私の大学院受験時が、今回の麻布受験と似たような状況でした。試験日まで2週間しかないという中で受験を決意した私は、過去問など毎日2000字の記述トレーニングをして運良く合格しました。
筆記試験以外にレジュメや面接、経歴も影響するので私が筆記試験でいいスコアを取れたのかどうかは不明ですが、とにかく合格したという実績を出した2000字であることは確かです。麻布受験までに検証する時間もないので、「実績のあったものは何でも使おう」という背に腹は変えられない心境でした。
■白かった解答用紙が段々と埋まるように
ただ、麻布の合格平均得点がほかの“御三家”よりも低く、ボーダーラインは60%程度というデータがありました。記述問題が多いことから、何か書くことさえできるようになれば、満点は取れなくても部分点が取れるはず。100%、90%ではなく、60%、70%を取れば合格水準に達します。
「知識量を増やすより、記述力を上げて部分点狙いがいい」
「残り時間を考えたら、やはりそれしかない」
記述式解答の練習を始めた当初、息子は1文字も書けなかったり、書けても内容が滅茶苦茶だったりという状態でした。
ところが、ひたすら数をこなすうちに、段々と解答用紙のマス目を埋めることができるようになっていったのです。
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アナウンサー、ナレーター
1978年9月13日、岩手県出身。voice and peace代表取締役。2001年、テレビ東京入社。メインキャスターを務めた報道番組『速ホゥ!』をはじめとするニュース番組、バラエティー番組やスポーツ実況等を担当。2009年、退社しフリーアナウンサーに転身すると、ボクシングやフィギュアスケート、ラグビー等の実況や、番組ナレーション、経済番組キャスター、大学等で就職活動コンサルのほか、2015年から千代田区立麹町中学校の学校改革をサポート。2017年、早稲田大学大学院商学研究科を修了しMBAを取得。2022年から横浜創英中学・高等学校講師、2024年から代々木アニメーション学院で就活講師を務める。発達障害と高IQを持つ息子の子育てをきっかけに、発達障害学習支援シニアサポーターなどの資格を取得し、学校や企業向けの講演活動を開始。発達障害の知識を手軽にたくさん身につけるための動画メディア『インクルボックス』も運営。 note
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(アナウンサー、ナレーター 赤平 大)
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