ネット検索は「ヤフー→グーグル→オープンAI」の時代に…巨大IT企業の「絶好調決算」が示すAIの異常な成長速度
プレジデントオンライン / 2024年11月11日 9時15分
■GAFAMとインテル、サムスンの業績に明暗
11月1日までに、グーグル、アップル、メタ(旧フェイスブック)、マイクロソフト(GAFAM)、米インテル、韓国サムスン電子など、世界の主要IT先端企業の7~9月期決算が出そろった。それによると、各社ともAI=人工知能分野で成長を目指す戦略が鮮明化する一方、ビジネスモデルによる業績の格差が明確になった。
今回の決算を見ると、大手ITプラットフォーマーは、設備投資の増加ペースに収益率の伸びが追いつかず業績は期待されたほど伸びていない。半導体分野では、一部の企業でAIの学習に必要な最先端チップ供給が遅れていることがわかる。
特に、米インテルや韓国サムスン電子は、開発から製造までを行う垂直統合型のビジネスモデルをとっていることもあり、思ったほど収益性が上がっていない。それに対して、“ファウンドリー=受託製造”の水平分業型のビジネスモデルのTSMC(台湾積体電路製造)などの業績は極めて好調だ。
■王者の座はインテルからエヌビディアへ
今後もAIの成長ストーリーは続くと考えられる。高い成長を実現するため、垂直統合ではなく、AIの開発、チップ設計などソフトウェアの機能ごとに特定分野に特化し、分業や提携を重視する企業は増えるだろう。米国株式市場では、チップの設計開発に取り組むエヌビディアが、自前で設計から生産、販売を行うインテルに代わってニューヨークダウ工業株30種平均株価の構成銘柄になったのは、そうした変化の象徴だろう。
今年7~9月期、主要IT企業であるGAFAMの中では、アップル以外が増収増益を実現した。ただ、データセンター建設などAI関連分野での設備投資額は増加傾向にある。マイクロソフトは200億ドル(3兆円)のAI関連設備投資を実施した。
アマゾン、メタ、グーグルの3社合計で設備投資額は約650億ドル(約10兆円)、前年同期から7割増だ。いずれの企業も商機を逃すまいと投資を積み増している。
■マイクロソフト、メタは株価が下落
2024年度、わが国ではトヨタ自動車の設備投資が2兆1500億円に達する見込みだ。それに比べ、米国の有力IT企業の設備投資規模は圧倒的といえる。株式アナリストの一部では、2024年通期、4社の設備投資は前年比42%増の2090億ドル(約31兆円)、うち8割はデータセンター向けとの予想もある。
重要なポイントは、今後、設備投資が収益の増加につながるか否かだ。10月30日の決算発表で、マイクロソフトは、10~12月期に“アジュール”ブランドのクラウドビジネスの増収率が低下する見通しを示した。それに伴い、決算発表後に株価は下落した。同日、決算を発表したメタも、投資負担の増加懸念から発表後に株価は下落した。
一方、10月31日に決算を発表したアマゾンは、売上高が前年同期比11%増の1588億7700万ドル(約24兆円)、営業利益は同56%増の174億1100万ドル(約2.6兆円)だった。AI利用の増加でクラウド事業の収益が伸びた。ネット通販や広告事業の収益も増え、発表後、株価は上昇した。グーグル親会社のアルファベットも、クラウド事業の成長を支えに決算内容は投資家の予想を上回った。
■“無料サービス”がAI収益化の足枷に
マイクロソフトとメタの場合、過去10年間の平均的な設備投資の増加率を上回るペースでデータセンターなどを増やしている。アマゾンとグーグルの設備投資の増加ペースは相対的に穏やかだ。
主要4社いずれも増収増益ではあったが、AI分野での設備投資の増加ペースの差が、決算発表後の株価の動きを分けた。主要投資家は、米IT先端企業の設備投資が着実にキャッシュフローの伸びにつながるか注目している。
マイクロソフトなどのキャッシュフローのミスマッチには、いくつかの要因が影響した。まず、ビジネスモデルのポイントだ。マイクロソフトなどは個人(B2C)、企業(B2B)の両分野でAIの利用体制を目指している。特に個人向けの分野で問題となるのが、“フリー”のサービス提供だ。
IT先端業界は、消費者に無料で検索や動画視聴サービスを提供し、利用者を獲得した。IT先端企業は検索、ネット通販、SNSなどと広告機能を結合し、収益を増やした。フリーで集客するビジネスモデルが根底にあるため、IT先端企業が生成AI関連事業で収益を増やすのに時間がかかっている。
■インテルは3四半期連続の赤字に
2つ目は、演算を行う画像処理半導体(GPU)、高速のデータ転送を行う広帯域幅メモリー(HBM)など、AIチップの供給が需要に追いついていないことだ。GPU分野ではエヌビディア、HBMはSKハイニックス、受託生産でTSMCのシェアは拡大傾向にある。
7~9月期、スマホ、半導体の受託製造(ファウンドリー)、半導体製造を手掛けるサムスン電子は、HBM供給の遅延などで半導体事業の営業利益が前期を下回った。米国では、パソコンなどに使う中央演算装置(CPU)大手、インテルが3四半期連続で赤字だった。
米AMDのリサ・スー最高経営責任者(CEO)は、AIチップの供給は2025年以降厳しくなるとの見通しを示した。マイクロソフトなどが自社で設計したチップ、エヌビディアのGPUなどの製造委託増加で、TSMCの先端製造ラインはフル稼働状態にあるようだ。10月下旬、TSMCの米アリゾナ第1工場の歩留まり向上に関する報道もあったが、先端チップの供給増加は一朝一夕にいかない。
■オープンAIエンジニアの年収は1億4000万円
3つ目は、深刻な人材不足だ。米紙によると、オープンAIの採用対象エンジニアの給与の中央値は、株式とボーナスを含め年間92万5000ドル(約1億4000万円)に達する。メタで働くAIの専門家の場合、年間の報酬は40万ドル程度だという。
業界内で、AIの学習やハルシネーション(幻覚)対策の専門家をチームごと引き抜く一方、引き抜きに対抗し給料倍増を提示するケースも増えたと聞く。チップに加え、人材の不足もAIビジネスの収益の伸びを阻害している一因だ。
今後、世界のAI関連分野を中心に、垂直統合型から水平分業型へビジネスモデルの変革は加速するかもしれない。マイクロソフトなどのように、対個人、対企業、対政府など広範なセグメントを対象にするより、特定分野で事業を行うケースは増えると予想される。
水平分業型では、企業は比較優位性を持つ分野に集中する。他の分野では、外注や業務・資本提携を締結する。競争力の向上、キャッシュフローのミスマッチを防ぐために重要な方策といえる。AI分野の中長期的な成長と、世界経済の構造変化に対応するために重厚長大な組織より、特定の機能などに特化したほうが機動性を高めやすい。半導体の設計、開発、受託生産で加速する国際分業体制をとる企業は増える可能性は高い。
■ヤフー→グーグル→オープンAIに?
分業体制の加速を象徴する変化も起きた。10月末、オープンAIは、AIが人の意図を理解して情報を探す検索サービスを開始した。同社の営利組織への事業方針の転換、生成AI関連の半導体開発などで、ヤフーからグーグルにシフトした検索シェアが、今後はAIスタートアップ企業に移りつつある兆しにも見える。
AIという文明の利器は、組織の在り方、常識を根底から覆す可能性を秘める。研究やプロジェクトごとに専門家がチームを結成する。チームはソフトウェアの研究開発を進め、その中から営利企業を目指す組織が増える。化学と製薬などの新興企業が提携を交わして新薬やワクチンを開発し、世界的なイノベーションも増えるだろう。
見方を変えれば、特定の機能を果たすハードウェアよりも、研究、分析、シミュレーションなどを可能にするソフトウェアの重要性は高まりこそすれ、低下することは考えづらい。素材、工作機械、自動車などの分野で、受託製造業へ事業運営体制の転換を目指す企業が増えることも考えられる。
当面、マイクロソフトなどは設備投資を積み増し、AI分野で成長を目指す。一方、分業体制を敷きAI分野の先行者利得を手に入れようとする新興企業も増えるはずだ。どちらがAIビジネスの収益向上を実現し、世界的なシェアを手に入れるか、注目は増えるだろう。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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